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【閑話】のぞき見か? 隠密活動か?

「覗き見なんて、やめなよ。趣味が悪いよ」


「ルーイ。これは覗き見ではありません。偵察です。隠密活動です」


 シオン公子の帝立学園の入学を控え、偽者のミレイユ姫とシオン公子が仲良く宮殿の庭園を散歩する姿が毎日見られるようになったそうだ。


 毎日だって?

 羨ましい。



「ルーイはどう思いますか? あの二人は甘い雰囲気ですか?」


「偽者のミレイユ姫はシオン公子のことが好きなように見えるよ。でも、シオン公子はどうだろうね?」


 学園から帰った偽者は、毎日シオン公子のいる迎賓館を訪ねて、一緒に夕食をとって、シオン公子が散歩がてら偽者の住む建物まで送る。


 特に何の変哲もない標準エスコートでの散歩だが、毎日となると、熱愛疑惑も起きるというもの。


 私にとってはライバルが減って好都合だが……



「ルーイ。あの方のお名前は『メラニー』と言うそうです。シオンがそのように呼んでいるのですって」


「へぇ~。で、偽者はシオン公子のことをなんと呼んでいるの?」


「シオン様、だそうです。だから名前の呼び方だけでみれば、シオンの方が甘いのです。しかも、今まで誰も知らなかったあの方のお名前をシオンだけが呼んでいるのです。特別ではありませんか?」


「特別なのは『関係』じゃなくて、『状況』だと思うよ。偽者と交渉して続投させ、敵方との調停役に使うなんて、普通ではないよ」


 二人の通り道がよく観察できる建物の出窓に身を低くして真剣に見ているアデルがかわいくて、いちゃいちゃしたくなった。


 堂々と出窓に座り、アデルを引き寄せて抱っこしたら、よく見えなくなったらしく、私の腕の位置を変えようともぞもぞしている。


 かわいい。



「はい。彼女と仲良くしようと考える者はおらず、誰も偽者の本名に興味がなかったのです。わたくしも『偽者』と呼んでいました。ところが、シオンはその『偽者』を名前で呼んで色々教えてあげているのです。優しい子です!」


「シオン公子のコードネームは『優しいの塊』かな?」


「シオンにはコードネームはありませんよ。二つ名をつける習性があるのはシオンですから」


 ん?

 どういう意味?

 誰にでも二つ名をつけているのはアデルじゃないの?


「シオン公子にはコードネームがないの?」


「市井の人々がつけた『南領の乙女』や『ウィーグの双子』という二つ名はありますが、それらはヴァイオレットとオードリーの二人を指します。そうですね。シオンは自分にコードネームがなくて寂しいと思っているかもしれません。兄様と考えてみます」


「私の案は『優しいの塊』ね。『塊シリーズ』に入れてあげよう」


「塊シリーズだなんて、ルーイはやっぱりテーラ家の子ですね。二つ名が大好きです」


 どうしてそうなる?


「テーラ家の子は関係ないでしょう?」


「あります。二つ名をつけまくっているのは、アルバート陛下とシオンなのです。陛下に育てられたわけではないのに同じ習性があるなんて、血筋しかありません」


 知らなかった。


「確かにアデルの『北領の隠密』やミッキーの『帝室の隠密』は、父上が付けたと聞いたけど、それは君が隠密ごっこが大好きだから合わせたんじゃないの?」


「ルーイ。少し整理しましょう。隠密ごっこが大好きなのはフレデリックです。アルバート陛下は、作戦名をつけると乗ってくるフレデリックの習性を利用して、懐柔し、フレデリックの娘であるわたくしを上手く動かしているのです。二つ名とは別の話です」


「え? じゃぁ、アデルは? アデル自身は何が好きなの?」


「怒りませんか?」


「怒りません」


「ホントに?」


「ホントに」


「ふふっ。ルーイをからかうことです。真実に気付いたときの反応がキュンです」


 ぐふっ。

 射抜かれた。

 

 シオン公子と偽者を観察を続けながらちょっと照れてるアデルに射抜かれた。


 思わずギュッとかき抱いて、頭の上にチュッチュした。

 猛烈にドキドキしているのがバレているだろう。


「アデルぅ~。しゅき」


「幸せですか?」


 私の腕の中でもぞもぞ動いて表情を確認しようと上を向いた上目遣いが、もうキュンキュンだ。


「幸せです」


 アデルは私に沢山隠し事をしているし、なかなか本当のことを教えてくれないけれど、それがこうやって私を喜ばせるためだと分かってしまってから、聞きたいことを聞き出せなくなってしまって困ってる。


 そういう作戦かなとも思うけど、幸せなやり方で騙してくれる部分は愛なんだろう。



「ルーイは? ルーイの趣味はなんですか?」

 

「チェス、かな?」


「うーん。でも、チェスは陛下の趣味に付き合ってる感じがします。ルーイが好きなことって、何ですか?」


「そうだね? これから趣味を探してみようかな」


 私、多分だけど、お子が生まれたら全身全霊でかわいがると思う。

 きっと、それが私の趣味になると思うんだよね。


 でも、まだまだ先の話だし、それって、ちょっと口に出し難いから、誤魔化してみた。


「隠密ごっこはおすすめですよ! わたくし、フレデリックに連れられて、帝国領と北領の城や離宮の隠し通路や隠し部屋を探検しまくったのです。ドキドキして楽しいです」



 私の実の父よ。それ、娘とやる遊びじゃないよ?

 それに、アデルも気に入っているんだったら、やっぱり「隠密ごっこ」はアデルの趣味でもあるんじゃないか?


「レイチェルは怒らないの?」


「レイチェルも一緒ですよ。『避難訓練は大事!』だと、教育的観点から許可している部分も大きいかもしれませんが、いつも楽しんでいるように見えますよ?」


 私の実の母よ。夫を尻に敷いているようで、上手くお膝に乗せられているだけなんじゃないの?


 とても勉強になります。

 はい。


 それに比べたら、ソフィアの「娘とショッピング」や「娘と園芸」は、まだ普通だ。


 買ってくるものが「城」とか「山」で、造園するものが「自然要塞」とかだったりするけど、まぁ、あれだよ。

 普通の範囲だと思う。


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