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【閑話】カールの権謀術数チャレンジ

「やあ、シオン。その格好、良く似合っているよ。元気そうで安心したよ。マティの従妹殿も、ごきげんよう」


 なにその、名前忘れちゃった設定。

 ライラック姫のこと、嫌いなの?


「カール様、お久しぶりです。なんとかやっています」


「カール様、食事会の時にはお世話になりました。ごきげんうるわしゅう」


「ルイス、お茶を貰ってもいいかな?」


「うん。じゃぁ、その先のガゼホで休憩しようか?」


 カールは、これまで見たこともないほど優雅な微笑みを浮かべて、クソイケメンになった。

 これは、マチルダ姫が羨ましがられるのが良くわかる。



 カールが久しぶりに会ったシオン公子と仲良く会話しながら歩いてしまったので、私がライラック姫のエスコートだ。

 こういうところは、私の横を歩いてくれるクリスの方が断然優しい。

 

 でも、今回のライラック姫は、私にも適切な距離だ。

 名前忘れちゃった設定で果てしなく深い谷を作ったカールにビビっているようだ。


 あれって、もしかして、社交技術の1つ?


 偽物のミレイユ姫に至っては、本物のミレイユ姫を保護しているカールが怖くて庭園には来なかった。


 名前だけでひとり追い払えるなんて、カールってしゅごい。



「今日はマチルダ姉様のエスコートでお運びになったと伺いましたが、アデル様にはお会いになれまして?」


「アデル様って、アデル・テーラのことかな? いや、会っていないよ。マティはソフィア妃に出迎えられて厨房へ直行したからね」


「「!?」」


 シオン公子とライラック姫が揃って絶句して固まっちゃったよ?


 単刀直入に斬り込んできたライラック姫を、即刻ぶった切り返したカールに私もギョッとした。


 カールよ。

 初手から高等技術を使わないでおくれ。



「カール様は、アデル様にお会いになったことがあるのですか?」


「ん? シオン、君はフレデリック様から養子に来ないかと打診された時に何も聞いていないのか?」


「!!!」


 私は再びギョッとした。

 そんな話、初めて聞いたぞ!?

 実の父、アデルとシオン公子を姉弟にしようとしたの?

 どういうこと?



「!!? フレデリック様は『重い魔力障害がある養女がいる』とおっしゃっていましたが、それがアデル様なのですか? カール様は何故それをご存知なのですか?」


「アデル・テーラは雷属性でフレデリック様やレイチェル様には魔術を教えることが出来ないからね。ノーザンブリア家で雷魔法の訓練を受けたんだよ」


「カール様はアデル様とお親しいのですか?」


「雷吸収スキル持ちの子供たちのスタンダードな遊び、知ってる?」


「雷の浴びせ合いっこだとアレクシアから聞いたことがあります」


「そう。お互いに打ち合ってビリビリさせて、ゲラゲラとお腹を抱えて笑いあった仲だ。いい子だよ」


 カールは優雅にシオン公子とライラック姫の質問を捌いている。

 


「そんな高位の雷使いならカール様の婚約者候補に上がらなかったのですか?」


「ここにいる全員が既に知っているだろうから、正直に言ってしまうなら、その頃はアレクサンドリアとルイスの間に婚約があったからね。私とアデル・テーラはないよ」


 カール、君、上手いじゃないか!

 嘘はない。


 でも、それって、ミッキーが既にノーザンブリア家に入ったから、私とアレクシア姫もなしになったと念押ししているように聞こえなくもない。


 上手すぎるんだが?



「アデル様はルイス様の()()()ということですね?」


「血のつながりはないけれどね?」


 あ、こっちに飛び火した。



「なるほど。中等部に現れたという『秘密の恋人』への額のキスは、()()()へのテーラ家のご挨拶だったのですね?」


「では、お姫様ごっこの『秘密の恋人』も?」


 ねぇ、ちょっと、やめて。

 その話、摺り合わせが甘くて、ボロが出そうだから。



「ごめんね。あれは両陛下の采配だから、私からは何も言えない」


 カールは楽しそうに聞いている。

 これで「秘密の恋人」は本当の恋人ではなく、両陛下が姪に頼んで仕掛けた芝居だった説が浮上するんだろうな……


 カールよ、そこは攪乱しなくていいんだよ?



「ルイス。アデル・テーラはテーラ家の基準では姫なのか? アデル姫と呼んだ方がいいか? レイチェル様からテーラ家の姫教育を受けたのだろう?」


 再びぎょっとした。

 姫教育の話、ホントに知らない。



「いや、どうだろう? 確認しておくよ。テーラ家の姫として誇らしいぐらいの淑女だけれど、私はそういうの詳しくないんだ」


 カール?

 もしかして私のアデル理解度をテストしはじめた?



「ルイスとアデルは一緒に育ったと聞いたぞ?」


 更にぎょっとした。

 カール!

 この会話、難易度が高すぎるんだが!?



「そんな記憶はないよ?」


 こういう時は本当のことを言うのが一番だ。


「そうか。アデルはテーラ家の家宝の一つ『魔封じの腕輪』をつけなければ、食事が取れないほど魔力障害が酷い状態だったと父が言っていた。それでフレデリック様とレイチェル様が養女に貰って宮殿で育てることになったんじゃなかったかな?」


「私は伯父上と暮らした記憶もないから、かなり幼いころの話だろうね?」


「ああ、確かに、幼すぎて覚えていないぐらいの年齢だったんだろうな。実は私もアデル・テーラと初めて会った時の記憶はない。それに、5才まで西領で育ったんが、その頃の記憶もあやふやになってきた。そんなものかもしれないな……」


「はい。私も東領で育った頃の記憶は僅かになっています。そんなものなのでしょう」


 お、まったりなってきた。



「ところでシオン。君はどうしてそんなにアデル・テーラに興味があるんだ?」


「いえ。興味があるわけではありません。ルイス殿下の『秘密の恋人』ということであれば、ある程度の情報を知っておいた方が良いかと思ったまでです」


 本人の前で言うことじゃないけどね、そう言うの。



「そう。それなら、彼女のことはそっとしておいてあげてくれないか? フレデリック様が北領の執政顧問で大変お世話になっていることは知っているね? 恩人が大事に育てている令嬢なんだ。秘密を暴くようなことはしたくない」


「はい。もちろんです。申し訳ありません、不躾でした」


「マイクロフトの医療研究特区でも魔力障害については重点的に研究を進めてもらうが、成人まで生きられない子が多い中で、アデル・テーラの状態が安定したのであれば、それは奇跡とも呼べる慶事だ。逆に、幼い頃のように宮殿に滞在して『魔封じの腕輪』で抑えなければならないほど不安定になっている可能性もあるからね」


「そう、ですね……」


 えっと、私、何か言うべき?

 分かんないから、微笑を張り付けて黙って聞いていたよ。


 カールよ、わけがわからないが、見事だよ。


 ライラック姫の不幸自慢の遥かに上を行く、死にかけ()()()()()()可哀想な姫が出来上がったよ。



「ところで、カール様、アレクシアはどうしていますか?」


 カールは、物憂げな表情を作って、小さくため息をついた後、力なく答えた。


「ふぅ。あの子は私の手には負えない。マティはかわいいんだ。マーマレードを手作りすると言って目を輝かせる。あの子は『陛下からの隠密ミッションは壮大でスペクタキュラーです!』と目を輝かせるんだ。あの子がどうしているかは、陛下にしかわからないよ」


 芝居だろうか?

 カールにしては感情が籠っている。


 しかも、さらりとのろけてる。


「また隠密ごっこですか……」


 シオン公子も、目をつぶって首を振っている。


「よく会いに来るが楽しそうだから心配はいらない。だが、西領のお姫様教育を受けさせてもらえれば、マティのようになるだろうか? マティのいとこ殿、君が受けたお姫様教育について聞かせてもらえるかい?」


 そうやってカールは見事に目的を果たした後、話題を変えて、聞きに徹していた。


 あまりにスリリングなやり取りにヘロヘロになって、居室に戻った後、アデルに話を聞いてもらいながら、ナデナデをおねだりした。


 アデルによると、ライラック姫は、私が「本命」で、シオン公子を「キープ」扱いしているそうで、カールとアデルは、「私達の大切なシオンをキープだと!?」と怒って、ライラック姫を毛嫌いしているらしい。


 愛の重いアデルはまだ「ヤキモチ」という概念を覚えていないようだ。


 アデルは「流石、兄様♪」とひたすら爆笑していたが、その間も私をふんわりと抱きしめて、頭にいくつもキスを落としてくれた。


 うーん。

 幸せ。


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