【閑話】シスコン男カールと兄様至上主義なアデル
「これは明らかだから言っちゃいますけど、カール様は極度のシスコンです。現在、絶賛、姉様ロスで、悲しみの淵にいるのです」
「いや、ないない。ロスしてない。アデルは徹頭徹尾、兄様至上主義で、何事もカールを最優先するよ。私なんて二の次だよ?」
ん?
なんで顔をゆがめたの?
なんかおかしなことを言った?
「姉様自身も気付いていないかもしれませんが、兄様はカール様に圧勝してしまっているのです。カール様の前で兄様に寄りかかって寝てたでしょ?」
「アデルは昔からよく寝てるよ?」
「それです! 姉様は誰の前でも決して寝ないのです。寝てしまうとプカプカ浮いちゃうかもしれないから、起きていることは姉様の生命線なのです。他人の前では寝ないのです。絶対に!」
「え~。あれ、特別なの? なんか嬉しいな~」
喜びがぶわっと溢れて、身体がくねくねしちゃう。
「兄様、謙虚に! プカプカ浮いて寝ている状態の姉様は、不思議生物です。魔紋が近いカール様を自分の本体だと思って、寄っていって、くっつくのです。兄様以外!」
「ん?」
「兄様が抱っこしているときは、自分にプカプカ寄ってこなかったと相当凹んでいらっしゃいました。傷心のカール様を刺激しないでくださいね!」
「あ~。あの時かな? マチルダ姫に結婚を申し込みに行って、戻った時。なんか相当ビックリしていたよ。ピアスに妙にこだわってたし。でも、アデルを渡そうとしたら拒否したよ? 人に触れられないんじゃないの?」
「いいえ。ご両親や姉様など、家族は大丈夫なのです。でも、兄妹が一緒の部屋で寝るのには限界年齢があるでしょう? だから一人で眠れるように訓練したのです」
「やってることはハチャメチャなのに、どこか常識人だからね。ノーザンブリア家って」
「兄様から姉様を渡されそうになった時、これで兄様の元にプカプカ戻りたがったら立ち直れないと、怖くて受け取れなかったそうです」
え?
そんな重大事変だったの?
「カールのポーカーフェイス、凄いね。それに、ミッキー、そんな話をするまでに仲良くなっているってことは、やっぱり好かれていると思うよ?」
「そ、そうですね? ありがとうございます。なんか元気が出ました。でも、絶対に誰にも内緒ですよ。僕は口が堅いのがとりえなのですから!」
「いや、いいところは他にもいっぱいあるでしょ?」
それから夜更けまでミッキーの北領での生活について色々な話を聞いて、幸せな気分で眠りについた。
**
「ルーイ? どうしてここに!?」
翌日、ミッキーの代わりにアデルを出迎えたら、猛烈にビックリされた。
サプライズ、大成功だ。
「ソフィアに教えてもらったんだよ。君がミッキーの家に遊びに行くって」
「はい。兄様の為に開発した柑橘『カール18号』が実を結んだと聞いて、収穫に来ました」
ミッキー!?
サプライズプレゼントの制作じゃないじゃん?
通常運転の兄様至上主義じゃん?
「カール18号? 何号まであるの?」
「32号です。テーラ宮殿に植えさせてもらいました。研究地区にあるのは12号から20号までです」
え、何それ、嬉しい。
テーラ宮殿も自分ちの庭扱いしてくれるの?
もう、お嫁に来ちゃった?
「カールが柑橘好きなんて知らなかったよ。それにしても32号って、いくらなんでも凝りすぎじゃない? そんなに食べられないでしょ?」
「柑橘類は種類によって収穫時期が様々です。季節を感じながらいろいろな柑橘を楽しんで貰うには32号じゃ足りませんから、既存の柑橘もいろいろ取り揃えています」
「アデル、安定の兄様至上主義だね?」
それで週末はミカン狩りに付き合って、60キロものカール18号を帝都に持ち帰ることになった。
アデルは空の旅が好きらしく、帰路は柑橘の香りの爽やかな航空機の中でずっと窓に張り付いて景色を見ていた。
子供みたいでかわいかった。
**
「ルイス、君が自分で持ってきたのか? なんか所帯臭くなったな?」
翌週、箱入りのカール18号10キロをカールの教室に持って行ったら、ディスられた。
最近よく「人間臭くなった」と言われるんだけど、「所帯臭い」は初めてだ。
所帯って、私とアデルの所帯だよね?
んふ。
カール、ディスり方が、しゅき。
でも、皇太子をディスる北領公子に周りの生徒達は固まってたよ。
「それはないんじゃない? 君の好物『カール18号』だよ?」
「カール18号? 良い香り。この箱の紋章はマイクロフト公子ですわね?」
マチルダ姫が寄って来て、カール18号の表皮をこすって香りを楽しんでいた。
「凝り性の妹が開発した私専用の柑橘だよ。マイクロフトの家に植えられているんだ。マティも半分持って帰れるように後で分けてもらおう」
所帯じみたとは言わないが、自分だってすっかりこなれたカップルになっているじゃないか!
「マチルダ姫、一個食べてみてからがいいと思うよ。びっくりするほど酸っぱいから」
「カール様は甘いものが苦手ですものね?」
「私の恋人は甘党で、自分には酸っぱすぎるからマーマレードにするって言ってたよ?」
この一言で教室にどよめきが起きた。
やっぱり聞き耳を立てていたか……
「マーマレードのほろ苦さも好きなのです。レシピ、頂けないかしら?」
うむ。この反応は、マチルダ姫は「酸っぱい派」ではないってことかな?
「次の週末はソフィアとレイチェルとマーマレード作りだって言ってたよ。混ぜてもらえば?」
「まぁっ! よろしいのですか?」
目がキラキラと輝いてしまったマチルダ姫にカールも反対できず、「皇太子の秘密の恋人」が、皇妃、皇弟妃、お姫様の中のお姫様と一緒にマーマレード作りをするという噂が瞬く間に学園中に広がった。
偽のミレイユ姫とライラック姫?
もちろん参加したがったよ?
でも、アデルには会わせられないからね?
マチルダ姫についてきたカールを撒き沿いにして、庭園で応対したら酷い目にあった。
カールはクリスほど優しくないんだ。




