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マーガレット1

 わたくしの主で、いとこで、親友のアレクシアは、彼女が9才の時にご両親が暗殺されたことで、壊れてしまいました。


 将来の夢は、兄君で次期北領当主カール様の影武者になり、身代わりとなって殺されること。


 兄君至上主義で、ノーザンブリア至上主義です。



 いとこと言っても、わたくしは9才以前のアレクシアのことを殆ど知りません。


 アレクシアは、ご両親が存命の頃は、深窓の姫を遥かに超えた「無菌室の姫」と呼ばれるほどに人前に姿を見せませんでした。




 北領領主ご夫妻、つまりアレクシアのご両親は、嫡男カール様のお見合いの日に帝都で毒殺されました。

 カール様は瀕死の重傷で、意識不明。

 帝都から動かせる状態ではありませんでした。


 宗主国のテーラ帝室の宮殿でお留守番をしていたアレクシアは、そのまま帝室に留め置かれました。

 皇后のソフィア様と皇太子のルイス様は、泣きじゃくるアレクシアに付きっ切りでお世話してくださったそうです。



 領主代行のノルディック様は、頭を抱えました。


 ご両親のご遺体と共に北都ノーザスに戻ったアレクシアは、葬儀と埋葬の間、弔問とアレクシアのケアのために共に北都にお運び下さったソフィア様とルイス様から離れようとしなかったのです。


 亡くなった北領領主夫妻の娘なのに、帝室のお二人から引き離すと3才児かのようにお二人の名前を呼び泣き叫びました。

 しかも、ソフィア、ルーイと、呼び捨てと愛称で、呼ぶのです。

 不敬にもほどがあります。

 

 寛容な帝室のお二人は、それをお許しになり、葬儀、埋葬の間、ずっとアレクシアと手を繋いであげていました。

 右側にソフィア様、左側にルイス様と手を繋ぐのが定位置であるかのように振る舞いました。

 9才にもなって大人に手を繋いでもらう貴族令嬢なんていません。

 北領の恥です。

 本当にやめて欲しかった。



 そして驚くべきことに、アレクシアは、葬儀と埋葬の後、ソフィア様とルイス殿下と共にテーラ宮殿に戻ったのです。


 北領の姫なのに、帝都に戻すしか方法はなかったのです。


 アレクシアは、伯父にあたる領主代行であるノルディック様を大変怖がりました。

 ノルディック様の子息達、アレクシアにとっての父方の従弟ジェームス、ティモシーが近寄ると、ルイス殿下にしがみついて震えました。


 手を繋いでもらうだけでも幼稚なのに、胴に腕を絡めてしがみついたのです。

 しかも宗主国の皇太子殿下に!

 わたくしは気が遠くなるようでした。



「すまない。アレクシアに悪気はないんだ。余所の男の子を見るのが初めてなんだ。どうか許してあげてくれないか? アリー、ご挨拶、できるかな?」


「はい、ルーイ。北領ノーザンブリア家が長女、アレクシアにございます。お初にお目にかかります」


 この様子を見た北領貴族たちは耳を疑いました。


 アレクシア姫にとっては、ルイス様がウチで、ノルディック様の子息達がヨソなのです。

 ルイス様が「ルーイ」で、ノルディック様のご子息達は「お初にお目にかかります」なのです。



 アレクシア姫は、ルイス皇太子殿下の妃候補なのではないか?

 もしかするとテーラ宮殿で育てられているのではないか?

 だからこれまで北領で姫の姿を見た者が少なかったのではないか?


 誰もがそのように疑いました。



「北領にはアレクシア姫についての事情をご存じの方がいらっしゃらないのね? カール卿はテーラ宮殿の医療施設に移し、目を覚ますまで、アレクシア姫は帝室でお預かりします」


 誰もソフィア様の決定に反論できませんでした。


 ノルディック様が、新たな北領領主として帝室からの承認を受けることがなく、領主代行止まりになったのは、この時のアレクシアの扱いが原因で、帝室から不信を買ったためだと言われています。


 北領印も行方が分からず、北領のすべての事業計画は、帝室に送られ、再審査を経て帝室印で承認されるようになりました。


 アレクシアは、独立性と自治を北領から取り上げた「悪姫」と呼ばれるようになりました。



 3ヶ月後、カール様が北領にお戻りになれるほどに回復し、アレクシアを伴ってノーザス城に入られました。

 この時、わたくしはノルディック様から城に呼ばれ「姫のお話相手」に任命されたのです。


「北領貴族たちの中には、アレクシア姫が密かにテーラ宮殿に戻るのではないかと疑うものがいるのだ。『お話相手』は、姫がノーザス城にいることを確認する大事なお役目だ」


 姫が密かにテーラ宮殿に戻るのではないかと言うのは、疑うものがいるではなく、皆んな疑っているのです。

 わたくしはこの重要任務に心が高鳴りました。


 物申したいこともたくさんありましたから、この不出来な姫を叩きなおさなければと、鼻息荒く茶室に入りましたが、姫は一筋縄ではいかない人物でした。

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