第七話 みたま祭りで盆踊り
乾杯のあとでみたま祭りの盆踊りが始まる。
神社の境内は徐々に通行が出来ない混雑になって来た。
参拝客の流れは往路と復路に分かれている。
昔のしきたりで神社の参道は左側通行になっていた。
中央は神さまの通り道で歩かないのが神道の習わしだ。
「正義さん、神社ってなんで左側通行なんですか」
「聞いた話では、武士の時代に遡るらしいですよ」
「それで」
「沙月さん、武士って大太刀を左側の腰に差しているでしょう」
「ええそうね」
「でね、参道で右側通行で、すれ違うとどうなります」
「うん、多分、腰の鞘がぶつかるかも知れませんね」
「沙月さん、左側通行ならどうなりますか?」
「多分、鞘は大丈夫よ」
「その頃の風習が現在の左側通行になっているとか・・・・・・」
姉の早乙女紗央莉が織畑正義の背中を突き、正義が振り返る。
「その話、私も聞いたことあるわ。
ーー ところであんた、沙月と山に行くんだって」
いつもの紗央莉の口調ではなかった。
「それは、成り行きですから悪意はありませんよ」
「まあ、そう言う事にして置こう」
「嫌だな、なんか、奥歯に物が挟まったような感じに聞こえますよ!
ーー 紗央莉さん」
「姉さんも、一緒に行きますか」
「沙月、私が昔からアウトドア派って知っているわよね」
「ええ、姉さんが登山していたのも知っているわよ」
正義は、二人の会話の隙を見て民踊連盟のテントから団扇を三枚貰って来て紗央莉と沙月に渡そうとした。
「正義さん、背中に団扇を差してもらえますか」
紗央莉の言葉を受けて正義は二人の帯と背中の間に団扇を入れ自分の背中にも差し込んだ。
神社の境内にある大きな門の屋根に夕陽が反射している。
「まだまだ明るいわね」
民踊連盟の会長がアナウンスを始め盆踊りに参加する人たちが踊りの輪を作る。
[最初は、東京音頭をお願いします]
盆踊りが始まろうとした時、地面が大きく揺れた。
[ブブーブブーブブー、緊急地震速報です!大きな揺れに備えてください・・・・・・]
「あっ地震」
「大きいね」
三人は腰を屈め身構える。
民踊連盟の会長がアナウンスをした。
[只今、地震がありました。安全を確認しますのでお待ちください]
近くの通りすがりの男女の声が聞こえた。
「緊急地震速報より揺れが早かったわね」
「あの音、心臓に悪いよ」
[安全確認が出来ました。最大震度は四と発表されました。盆踊りを再開します]
音楽が鳴り響き、踊り手が反時計回りに動き始めた。
東京音頭が終わり、炭坑節、八木節、大東京音頭の定番が流れた。
毎年、みたま祭りでは、同じ曲が流れている。
「正義さん、次は、なんですか?」
「沙月さんは、何と思う?」
「そうね、お江戸日本橋か千代田おどりじゃないですか」
[次は、お江戸日本橋をお願いします]
「この神社、毎年、九割は同じだから練習会に参加していれば問題ないわね」
「紗央莉さん、そうなんですか。知りませんでした」
「姉さん、さっきの話の続きだけど、山、どう」
紗央莉は正義を見た。
「あんた、何処に行くつもり」
「紗央莉さん、沙月さんとは、まだ相談していないんですが
ーー 多分、丹沢の大倉尾根でいいと思う」
「塔の岳か。夏の暑い尾根歩きはキツイね」
「姉さん、そうなんですか?」
「初心者の登竜門のようなルートね」
沙月は、正義を見た。
「安全なんですか」
「沙月さん、登山に絶対安全はないんですよ。
ーー 相手は大自然ですから」
「沙月、姉さんがいるから心配ないよ」
「正義さんは、美人姉妹のお相手ね」
「丹沢大倉尾根か、久しぶりでワクワクします」
「正義さん、いつにしますか?」
「次の土曜日でいいんじゃない」
「私がすることは何ですか」
「ストレッチで身体を柔らかくしてスクワットをしておくといいね」
みたま祭りが終わり、翌日、早乙女沙月は織畑正義のアドバイスに従い毎晩トレーニングをした。
隣では、紗央莉が付き合っている。
「沙月、もっとしよう。姉さんも久しぶりで身体が生っているから」
「紗央莉、筋肉付きそうね」
「大丈夫よ、女は、このぐらいの運動じゃマッチョにはならないから」
二人の笑い声がマンション響いている。
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三日月未来