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第二十五話 夏美と正義

 桜夏美は正義の部屋を希望した。恵子と京子が紗央莉の部屋を選ぶことで部屋割が決着した。


 アウエーでは勝負しない恵子と京子の二人がいた。意外にも用心深い極道の女たちだった。


 桜夏美は無頓着だから何も考えずに押し掛け女房をしている。正義の部屋に上がると恋人気分のように抱きつき関係をねだった。


 しばらくして、紗央莉と沙月が恵子と京子を正義の部屋に連れてきた。


 正義は石和田温泉のハーレムの続きを想像して股間が熱くなって思わずズボンを押さえた。


「正義、どこ押さえてる。まさか欲情か」

「紗央莉さん、ちょっと痛かっただけですよ」


「じゃあ、もっと痛くしてやらないとな」

 紗央莉が言うと沙月が正義の股間を手で確認した。


「姉さん、正義さんのあそこまだ元気だから今夜も朝まで大丈夫そうよ」


 沙月の言葉に恵子と京子の瞳が光った。


 魔性の女たちは正義を種付け専用の男としか見ていない。貪欲な女たちの煩悩の火はますます激しく燃え盛っていた。正義に休息日は無かった。あるのはサラブレッドと同じ遺伝子の引き継ぎだけが存在している。




 正義が心の中で抱いた“まさか”が目の前で起きている。恵子と京子は姉妹全員を東京東中野の正義のマンションに連れて来ていた。


 京子が正義の部屋の玄関を開けた。

恵子と京子の妹たち四人が部屋の中に入って来た。


「正義、お邪魔します」

と茜咲陽子と春子は言って上がった。

桜恵子の妹の桜梨恵と織恵が続いた。


 石和田の女七人が正義の部屋に集まり紗央莉と沙月もいる。

場所が石和田から東中野に変わっただけだと気付く。

 正義の選択肢は女たちを受け入れるだけだ。正義に拒否権はなかった。


 桜夏美と桜三人姉妹は、正義の部屋で寝泊まりをすることになった。茜咲三人姉妹は紗央莉と沙月の部屋に泊まる。




 翌日、紗央莉と沙月の部屋に茜咲姉妹たちの着替えと食料が石和田から宅配便で届く。更にその翌日、正義の部屋には桜姉妹と夏美の分が届いていた。


 着替えを入れる五段チェストを持った配達員が正義に言った。


「織畑正義さんですか。ここにサインをお願いします」

「ここですね」


「ありがとうございました」


 正義は届けられた荷物の量の多さに女たちの計画に気付く。

夜の特訓が数夜続いたあと、正義に旅行計画が紗央莉から知らされた。


「正義、喜べ、週末はみんなで種付けツアーだ」

紗央莉が告げた。


 次の週末、恵子の提案でホテル見返り桜熱海店に三泊四日の旅行に行くことになった。


 翌朝の早い時刻、小さな観光バスが東中野のマンション前に停車していた。正義は桜夏美に手を引かれバスに乗車する。




 正義と女たちを乗せたバスは高速道路を経由して熱海に到着する。部屋は石和田温泉と同じ名前の天狗の間が最上階にあった。


 正義たちは吸精鬼の仲居が案内に案内されながら廊下を進み檜の階段を上がる。階段の踊り場の小窓から日差しが射し込み、仲居の黄色の着物の腰のラインから下着のクロッチ部分が透けて艶めかしく見えている。


「正義、お前も好きだな、懲りもせずにまた見てんのか。

ーー ここにも吸精鬼いるぞ」


「紗央莉さん、吸精鬼ってなんですか?」

「正義、お前、もう忘れたのか。

ーー 石和田でお前を襲った仲居いたろ。

ーー あれ吸血鬼の末裔でな。

ーー 今は血の代用に男のカルピスを栄養分にしている鬼だよ」


「姉さん、正義さんをあまり脅かさないで」

 沙月は紗央莉の手を握りながら正義を見て言った。




 女九人と男一人が天狗の間に上がると、中には湯女姿になった吸精鬼の仲居が十人待機している。


 大きな内湯と外湯が見えている。正義は湯女に着替えさせられ浴衣姿になる。


 紗央莉と沙月、桜姉妹と夏美、茜咲姉妹も白い湯浴み着を纏った。


 湯船も部屋の広さも石和田のホテルあかね柘榴の天狗の間と変わらない。


 紗央莉と沙月は普段と変わらない様子だった。正義も姉妹たちとの深い関係が日常化して慣れていて違和感すら感じていない。


 石和田の時とは比較にならないくらい正義は堂々としていた。吸精鬼の仲居十人は姉妹の隙を窺って正義を監視している。


「あの男、いいかもね」

「まあ、気付かれないように注意して」


 仲居たちの囁き声が正義の耳に届くことは無かった。




 紗央莉と沙月のスケジュールが予定通りに消化され、正義の熱海ハーレムツアーから二カ月が過ぎた。

 

 東中野の正義の部屋では、桜従姉妹の夏美が大声を上げて叫んだ。


「月経がないわ。生理が止まっているわ。どうしよう・・・・・・ 」


 夏美が正義に身を寄せて言った。

「きっと正義さんの赤ちゃんが出来たのよ」


 夏美が笑っている。


 同じ日の夕方、紗央莉の部屋で恵子と京子が正義に報告した。




 翌日、正義は気を利かせ、恵子、京子、夏美を連れて総合病院の産婦人科を訪問した。地下鉄大江戸線の河田町駅の改札を出て直ぐの場所に病院があった。


 正義は複雑な表情を浮かべながら女たちと随伴して受け付けを済ませた。


 エスカレーターで外来棟の最上階に上がり、フロア受付を済ませ待合室に残った。恵子、京子、夏美が順に呼ばれ正義は外来棟のレストランで待つことにした。


  夏美のあとに桜恵子、茜咲京子が順に正義の前に現れた。


「正義さん、三か月よ」


「夏美、私も同じ」


「あら、私もよ」


 正義は何かの冗談を三人から聞かされている気分だった。


 病院から戻った四人は、他の妹たちの妊娠をも知ることになる。

 正義の口から紗央莉と沙月に、このことを伝えることは無かった。


 紗央莉と沙月からも正義に知らされることはなく時間だけが無駄に過ぎて行く。


 桜と茜咲の姉妹たちは妊娠後、石和田の実家に戻って行った。

 夏美だけが正義の部屋に残り押し掛け女房をしている。


 夏美の外見は普段と変わらず妊婦の姿には程遠い。

 それでも正義は日々変わる夏美の体臭の変化に気付いていた。




 この二カ月、正義の部屋で起きたことは正義しか知らない。

正義は種付けの役目を果たしただけだと自分に言い聞かせ苦悶している。


 女たちが正義の元をひとり去り、また去り夏美だけになった。

正義が悪夢と思っていたのは悦楽天国だったと後で知る。


「正義さん、二人だけになったわね」


「夏美の中にいる双子と合わせたら四人じゃないか」


 夏美は正義に甘えて頬に接吻の跡を残した。

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三日月未来(みかづきみらい)

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