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第二十四話 俺そんな仕事聞いていませんから

 檜造(ひのきづく)りの湯船から上がった十九人の女と男一人は艶会の座卓を囲んで座っている。

 

 二日目の正義の種付けは恵子と京子の予定通りに順調に進んでいた。紗央莉と沙月は涼しげに夜空に浮かぶ皓月(こうげつ)を眺めながら地酒を手酌している。


 織畑正義は仲居から与えられた精力剤で体力を回復しつつあったのだが・・・・・・。




 湯から上がると恵子の従姉妹(いとこ)の桜夏美が正義から離れようとしない。


「夏美、そんな男のどこがいい。

ーー 同情なら相手のためにならないわよ」


 恵子のドスの効いた忠告に夏美の血の気が引いた。


 桜恵子は元々堅気(かたぎ)ではない。言わずと知れた()()()()()()()()だった。恵子の姉妹も京子の姉妹も堅気ではなかった。


 ()()()()に居合わせた女たちに()()()()()()()()()()()()()()()()も同じだ。


 正義だけがーー 蟻地獄に迷い込んでしまっている。紗央莉と沙月はと言うと、京子と共犯関係にある。双子姉妹に正義への同情心は微塵も湧いていなかった。


 正義の不運は茜咲京子と桜恵子が紗央莉と沙月に絡んだことから始まっている。絶対絶命の艶会(えんかい)の中で夏美だけが救世主に見えた正義だったが・・・・・・。


 桜夏美が泣きながら恵子に正義の解放を懇願(こんがん)した。

「恵子姉さんーー 今夜はもう、勘弁して上げてお願い! 」


 恵子の素足が夏美の身体(からだ)を突き飛ばす。夏美は仰向けに倒れ大の字のまま気絶した。浴衣がはだけて何も着けていない股間が露わになって見られた姿ではない。


「ーー 夏美、又をおっ広げてんだ! 」

 恵子の罵声が夏美に飛ぶが夏美は目を閉じたまま動かない。動けなかったのである。


 正義は夏美の開いた足を閉じさせ浴衣の裾を直して夏美の身体を起こした。

「正義、誰が起こせと言ったか」


 恵子は正義の股間に足を()じ込み微笑(ほほえ)んでいる。抵抗する者には容赦なく恵子の足が飛んだ。恵子は時より紗央莉と沙月をちら見するが、二人は知らん顔で手酌をしていた。


 茜咲(あかねざき)京子が間に入り恵子の機嫌を調整した。


「恵子さん、まだまだ夜は長いからゆっくり飲みませんか」


「京子、何を飲むのか。吸精鬼(きゅうせいき)の仲居に正義のを吸い出させるか」

「恵子さん、そんな勿体無いことしたら、

ーー 私たちの子種が無くなってしまいますよ」


「そうね。ご馳走は、後にして飲み直すか」


 恵子は正義に一瞥(いちべつ)を送ってお猪口(ちょこ)を口に運んだ。


 桜夏美は京子の姉妹によって奥の個室の布団に寝かせられた。正義には幸い怪我もなく艶会(えんかい)を継続することになった。




 正義は恵子と京子のペットのように二人の間でお酌を受けている。紗央莉と沙月には正義は見飽きた存在でしかない。


 恵子と京子の手は容赦無く正義の股間を攻めていた。色香な獣に化した二人の極道女には手加減という言葉が通じない。二重人格な男の煩悩が魔性の女たちからの強い刺激を受けて覚醒を始めている。


 紗央莉と沙月は正義に友情に近いものが残っているだけで恋愛感情など皆無に等しい。


 桜恵子の欲求不満と子作り願望は収まらず正義の上に覆い(かぶ)さる。太腿の桜の刺青(いれずみ)が恵子の上半身が動く度に見えている。正義の両腕は恵子のはだけた浴衣の臀部を支えていた。


 仲居が正義にスッポンの精力剤を飲ませた。恵子は飽きることなく正義の上に(また)がって容赦なく攻め立てロデオの騎乗のようにバランスを取っている。




 午前零時を過ぎて子種の注入を終えた恵子は姉妹たちに好きにするように指示した。この場合の好きには、なんでもありと言う意味を正義は知らない。

 吸精鬼の仲居十人が入っていないのが正義には幸運だったが・・・・・・。夜明け前に吸精鬼の悪夢が再び正義を襲った。真っ赤になった吸精鬼の瞳が妖艶に輝いていた。


 艶会は翌日の正午まで続き、女九人は湯船と布団を往復していた。疲れた果てた者は部屋の隅の布団で仮眠している。


 最終日、三日目の古来より続く男女のゲームが終わったのは夜明け前だった。

妊娠確認出来ない魔性の姉妹たちの焦燥(しょうそう)が、紗央莉と沙月に相談を持ち掛けた。


 桜恵子と茜咲京子が東京東中野の紗央莉と沙月のマンションに行くことを紗央莉に伝えた。紗央莉と沙月が恵子の計画を了承したが織畑正義に伝えることはなかった。




 四日目の午後、正義たちの後に桜三人姉妹と従姉妹の夏美、茜咲(あかねざき)三人姉妹がついて来た。織畑正義は姉妹たちに気付いていない。


 正義は連日の徹夜で歩くのがやっとだった。周囲を見る余裕など残っていない。


 悪夢の三泊四日の温泉旅行を終えて正義は安心し切っていた。

 

「正義、どっぷり暗いな」

「紗央莉さん、そんなこと言ったって一滴も出ないくらい(しぼ)り出されたんですよ」




 紗央莉と沙月と正義が東中野のマンションに到着した時だ。正義の鼻腔を知っている女の匂いが(くす)ぐる。


「わー」

 桜恵子と茜咲京子が背後から正義を驚かせた。


「恵子さんと京子さん、夏美さんまで、なんでここに」

「紗央莉に誘われたのよ」


「私は誘ってないわ。勝手に付いて来たのよ」

 紗央莉はそう言いながら恵子と京子を一瞥(いちべつ)した。


 桜恵子と桜夏美、茜咲京子の三人が紗央莉に誘われて正義の前に一緒にいる。魔性の双子姉妹の紗央莉と沙月は旅行前と変わらない態度だ。


 正義の知らない秘密を双子姉妹は共有していた。正義の童貞は紗央莉と沙月によって登山以前に奪われていたのだ。泥酔した正義が覚えていないのも無理はない。


 正義から見れば、恵子も京子も夏美も内縁関係に近い女になった。足らないのは正義の経済力だけだ。


「紗央莉さん、沙月さんーー これから俺どうなるんですか」


「正義、男はなあ、遺伝子を残す仕事があるんだよ」


「ええええええ紗央莉さんーー 俺そんな仕事聞いていませんから」

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三日月未来(みかづきみらい)

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