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第二十三話 神秘的な満月の艶会の始まり

『第二十三話 神秘的な満月の艶会の始まり』

約三千三百文字です。

 茜咲京子(あかねざききょうこ)は深呼吸をして浴衣の襟を整えていた。

(しとね)に倒れている正義は、夢の中を彷徨いながら暗闇で目を開いた。


 突然、(ふすま)が開き、大広間の明かりが差し込む。

見覚えのある大きな臀部(でんぶ)と乳房を持つセーラー服姿の女が小部屋の入り口に立っていた。

その女が仲居の沖野千景だったことに気づくまでの刹那、正義の脳は目まぐるしく回転して状況を整理している。


「お客様、紗央莉さまがお呼びでございます」


 正義は下半身に人の重さを感じながら大きく背伸びをしようとして目覚める。

桜夏美が正義の浴衣に頬を乗せて寝息を立てていた。

 正義の無意識に夏美への下心が芽生える。


 正義は、これまでのことを思い浮かべながら暗がりの部屋の中を見渡す。

京子が目の前で浴衣に着替えて帯を締めている。


 桜恵子の肌の汗を拭き終えた桜夏美は正義の上で寝ていた。

桜夏美と正義の間には感情も同情もない赤の他人のはずだった。


 ぼやけた思考の中で正義は半身を起こし目をこする。

乱れた正義の浴衣を仲居の千景が丁寧に直しながら小さな声で呟いた。


「お客様、夜はこれからですよ」


 豹変した正義の狼は鳴りを潜め千景の囁きに武者震いをする正義だった。


 千景が、桜恵子に浴衣を着せ、京子、夏美を連れて宴会の席に正義と一緒に戻る。


 目の前では、片膝を立てた紗央莉と正座の沙月が手酌で地酒を飲んでいた。


 紗央莉と沙月も早くからの酒にほろ酔い気分で、ベランダに涼みに行くという。

その言葉に桜恵子、茜咲京子、桜夏美は安堵した。




 紗央莉と沙月の性格に気づき始めた正義は、この宴会に第二幕のあることに気付いた。

紗央莉と沙月は夕陽が差し込むベランダのリクライニングベッドで軽い寝息を立て始めた。


 正義はその姿に気付き、酒を一気に飲み干し酔い潰れ作戦を考えた。

胡座(あぐら)の右膝に肘を置き、再びうたた寝の振りをしている内に眠ってしまう正義だった。


 正義がうたた寝していた頃、京子と恵子は、宿泊延長を相談してホテルのフロントに連絡を入れた。


「ーー と言うわけで天狗の間の延長をお願いします」


「分かりました。京子お嬢様」


 沙月と紗央莉は、旅行前に会社に休暇申請を出していた。

正義の分は総務の沙月が処理済みだ。

休憩申請の件を知らないのは正義だけだった。


 京子が正義の前に正座して下腹部を撫でながら言う。

「正義さん、女のここには母性本能があるのよ。

ーー 理性とは別次元になるわ」

茜咲(あかねざき)京子が言った。


 正義が微睡みの中で京子の声を聞いていた時、仲居たちが正義の御膳に精力剤を置いた。

正義の記憶は、ここで途絶える。




 翌朝、二日酔いの重い頭を動かすだけで激しい頭痛が正義を襲う。

訳の分からない正義は、紗央莉と沙月に尋ねた。


「俺、また飲み過ぎて記憶ないんですが・・・・・・大丈夫でしたか」


「狼男ね・・・・・・ 」

沙月が呟く。


 紗央莉は無言で、京子に目配せした。


「天狗の間の部屋代は正義さんの子作り代なのよ。

ーー あなたは、この街の救世主になるわ」

 京子が正義に単刀直入に言う。


「どう言う意味ですか? 」


「少子化って聞いたことあるでしょう」


「ええ、知っていますが」


「それ、俺関係ないですよ」


「それが、大有りなのね」


 京子は、正義が精子バンクに登録していたことを伝え説明を始める。


「それでね。その結果、あなたのが一万人に一人しかいない無傷の遺伝子と分かったのよ」


「でも、それ、やっぱり関係ないじゃないですか」


「正義さん、ここは東京じゃないわ。

ーー 石和田町の田舎町よ。

ーー ご自分の立場が分かってないわ」

 桜恵子が正義に警告をして紗央莉を見た。


 紗央莉と沙月の援護を期待した正義だったが無反応な二人の肩透かしに、やばいと感じ大広間の廊下に逃げ出す。




 昨日の仲居たちとは違う早番の仲居が天狗の間の見張り番をしている。

正義には、逃げ道すら残されていない。


 夜になれば吸血鬼の親戚のような吸精鬼が戻って来る。

紗央莉と沙月だけは、味方のはずと思いながら突破口を探る正義に、早番の仲居の一人が気の毒そうな表情を浮かべ正義の顔を覗いている。


 正義は、味方と勘違いして仲居の手を引いて廊下を駆けたが道が分からない。


 仲居が正義を個室に招き入れた。

 布団部屋のような真っ黒な空間は(くす)んだ(かび)臭い臭いと(けもの)臭がしている。

いくつもの女の目が正義をじっと見ていた。


 十人の仲居は正義の臭いに反応して、その場で正義を取り囲んだ。

 正義の悲鳴に異常事態に気付いた茜咲(あかねざき)京子と桜恵子が駆けつけ、吸精鬼に変わった仲居から正義を救出した。


 正義の頭は敵味方が分からず混乱している。

正義は、吸精鬼から解放されて京子と恵子の案内で天狗の間に戻された。




 正義の中で大きな矛盾が起きていた。

逃げたのに戻され、女たちの囲いの中にいる矛盾だ。


 映画じゃあ、あるまいし変だ。

そして正義は再び眠りに落ちてしまった。

 紗央莉と沙月が混ぜた睡眠薬と媚薬の残存効果だった。


 天狗の間の大きな窓から夏の夕焼け雲が見えいる。

紗央莉と沙月はベランダのリクライニングベッドでうたた寝をしながら時間を潰していた。




 前日の出来事を二日酔いの頭で思い出そうとするが正義には何も思い出せない。

睡眠薬か麻酔が効いているように正義の記憶が混乱していた。

夜までの時間がないことを大広間の大窓から差し込む夕陽が伝えていた。


 紗央莉と沙月が大広間のベランダで大きな欠伸(あくび)と背伸びをしている。

天狗の間に吸精鬼の仲居十人が現れ正義は凍り付いた。


 正義はゾンビのようになった吸精鬼を恐れている。


 陽が落ちて、天狗の間の呼び鈴がなる。

 着替えを終えた“ホテル見返り桜“の桜三人姉妹と従姉妹(いとこ)の桜夏美の女四人が灰色の浴衣姿で現れた。

遅れて、ホテルあかね柘榴(ざくろ)茜咲(あかねざき)三人姉妹が紺色の着物姿で現れる。


 正義の二重人格に気付き始めた女たち七人は、正義を大切なおもちゃを見る目つきで眺めていた。


「あら、正義さん、昨夜は眠られたようですね」


 桜恵子が、わざとらしい口調で正義を(たしな)め上半身を正義の身体に委ね甘えた。


 恵子の柔らかく(ふく)よかな胸が着物越しに正義に伝わる。

香水の香りと恵子の体臭が入り混じり正義の鼻腔をくすぐった。


 茜咲(あかねざき)京子も恵子に競うように正義に身体を預けた。


 仲居の一人が京子に指図を仰ぎに来た。

京子は刺々(とげとげ)しい言葉を仲居に放つ。


「あなたたち、何で着物着ているのよ。

ーー 早く、湯女(ゆな)の仕事着になりなさい」


 女たち十人は、その場で着物をかなぐり捨てて湯女(ゆな)の姿になった。



 正義の前に肌も露わになった湯女(ゆな)十人が並んでいる。

京子と恵子の目的は正義の性欲を増大させて子作りを促すことだった。


 京子と恵子の出会いも予め決められていた計画だった。

正義は、温泉街に新しい子種をもたらすヒーローとして京子と恵子に選ばれただけだ。


 紗央莉と沙月は、京子と恵子から()()()()()に見合う高額の代金を受け取る約束になっていた。

出産無ければ前金のみ、出産すれば全額という取り決めだ。

それも魔性の姉妹の計画の中に織り込み済みだった。




 天狗の間、二日目の夕方、正義の前には、湯女(ゆな)十人と七人の女たちと紗央莉と沙月がいた。


 湯女(ゆな)の一人が正義の前に座り、脱がした浴衣を畳んでいる。

別の一人は、肌着を脱がして赤い(ふんどし)を正義の下半身に巻いた。


 二日目の織畑正義は、前日の様なおどおどした態度をしていない。

正義の二重人格はまだ眠っている。


 桜夏美が再び正義の前に現れた。

 夏美は白い湯浴(ゆあ)み着のまま正義の手を引き、檜造りの湯船に一緒に浸かった。


 周囲は正義と夏美の行動に違和感を覚えた。


 夏美は、正義に一目惚れしていた。

 正義も夏美に一目惚れして下心が反応した。


 紗央莉、沙月、京子、恵子は、この番狂わせに刺客を放つ。




 前夜に参加していない若い仲居を四人呼んで正義の相手をさせる。

年齢も正義より若く二十歳なり立てのぴちぴちした女たち四人だ。

四人はホテルの着物から湯女(ゆな)の姿に着替える。


 正義は若い湯女(ゆな)四人を()の当たりにしたが表情を変えない。

今の織畑正義には夏美しか見えていない。

桜夏美も正義しか見えていなかった。


 湯女(ゆな)になった二十歳の仲居四人が正義と夏美の身体(からだ)を強引に切り放した。

湯船の上では桜恵子と茜咲(あかねざき)京子が湯浴み着姿で湯女(ゆな)に指図している。


 紗央莉と沙月は、相変わらず他人の素振りをして遠くから眺めていた。


 正義の二日目の艶やかな夜が始まろうとしていた。


 天狗の間のベランダには大きな満月の灯りが差し込み、神秘的な夜を演出している。

遠くから不気味な犬の遠吠えが聞こえていた。

 『第二十三話 神秘的な満月の艶会の始まり』

約三千三百文字になりました。

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三日月未来(みかづきみらい)

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