第二十一話 魔性の女たちの包囲網
第二十一話 魔性の女たちの包囲網
この話は、二千五百九十三文字です。
みかづきみらい
早乙女紗央莉は鶴巻温泉の湯船で茜咲京子からの相談を思い出していた。
マイクロバスが揺れる度に微睡みから覚めた。
「紗央莉さんでしたっけ、私、茜咲京子です。
ーー 石和田温泉に住んでいます。
ーー 良っかったら、三人でどうかしら」
「高いんじゃないですか」
「こう見えても、ホテルの娘なの。
ーー キャンセルで客室が空いているのよ。
ーー キャンセル料は徴収済みだから
ーー あなたたちの分は取らないから大丈夫よ」
「石和田温泉って遠いんでしょう?」
「紗央莉さん、新宿から約九十分よ」
「そんなに近いんですか?」
「その時、あなたたちと正義さんを一緒でお願いしたいの。
ーー ちょっと男性ホルモン不足で困っているのよ。
ーー 混浴で補充したいので・・・・・・。
ーー 二泊でも三泊でもいいわよ」
「混浴で補充か。面白い。京子さんの話に乗った」
単純な性格の紗央莉は京子の依頼に即答していた。
「だけど京子さん、理由付けが分からないが」
「そうね、商店街の福引で家族旅行なら自然ね。
ーー 乗車券三枚もホテルに福引き用の往復チケットがあるから、
ーー あとで送るわね」
「じゃあ、あとでメモを渡すから送り先教えてね」
京子は紗央莉に用件を伝えると大きな乳房を揺らしながら湯船から上がる。
紗央莉のと比較しても大きい胸だと紗央莉は自分自身の胸を見ていた。
紗央莉は、微睡みの中で石和田温泉家族旅行の依頼を思い出している。
仕組まれた企画を知らないのは織畑正義ただ一人だ。
正義は、魔性の双子姉妹と魔性の三人姉妹二組に囲まれて絶体絶命の窮地に陥っていることを知らない。
マイクロバスは、途中で“ホテル見返り桜”に寄り、三人姉妹以外のスタッフが降りる。
正義を揶揄ったマイクロミニの女が正義に手を振っている。
正義は、安堵して楽になった気分で手を振り返した。
その時、桜恵子がその女を大声で呼び付ける。
「夏美、あなたも来なさい」
夏美は、桜夏美と言って桜恵子の従姉妹にあたる。
夏美が笑顔になってマイクロバスに戻り、正義の近くに座った。
土壇場の急展開に手を振ったことを正義は後悔する。
「正義、良かったな。お友達が戻ったぞ。
ーー 今夜は女十二人と正義の混浴が見られるな」
紗央莉の言葉を聞いた夏美が正義に改めて挨拶をする。
「私、桜恵子の従姉妹の桜夏美です。
ーー 混浴、よろしくね」
「・・・・・・」
「正義、混浴で童貞喪失は無いから大丈夫だ」
「ええ、正義さんって、童貞君なの、貴重種ね。
ーー 私も処女よ。嘘よ。
ーー さあ、どっちかしら」
正義は機関銃のような下ネタの連射に眩暈を感じていた。
桜恵子が、マイクロバスの運転手に石和田温泉のスーパーマーケットに寄るようにお願いした。
桜恵子、梨恵、織恵の三人姉妹がバスを降りてスーパーマーケットに行く。
早乙女紗央莉、沙月の双子姉妹と茜咲京子、陽子、春子の三人姉妹に加え、恵子の従姉妹の桜夏美が獲物を見る目つきで正義を凝視していた。
宴会の肴に逃げられないように・・・・・・。
彼女たちからの逃亡機会はもはや期待出来ない。
四面楚歌の女の壁が正義の周囲に張り巡らせられている。
しばらくして、バスに戻って来た三姉妹は、それぞれ一升瓶を抱えている。
京子から聞いている“ホテルあかね柘榴の天狗の間”に、持てない分の配送依頼を桜恵子が済ませた。
スーパーマーケットのスタッフが配送車に依頼品を乗せ“ホテル見返り桜”のマイクロバスの後ろを追う。
ホテル見返り桜の桜恵子の依頼は、どの依頼よりも優先された。
桜三姉妹は酒豪で二升酒を飲む噂を茜咲京子は聞いている。
宴会用に差し入れを準備したようだ。
ホテルあかね柘榴の天狗の間は、三人部屋ではなかった。
元々、大宴会対応の大座敷がある部屋だ。
檜造りの内風呂も外風呂も優に二十人くらいは大丈夫な大きさだ。
正義は、天狗の間の広さと風呂を思い出し、その不自然さに疑問を抱いている。
しかし男の好奇心と人間の煩悩の狭間を迷走するように正義は彷徨っていた。
「正義、今夜は楽しみだな。
ーー 人間にはいろんな欲があってな。
ーー 五大欲に食欲、財欲、色欲、名誉欲、睡眠欲がある。
ーー 中でも睡眠欲、食欲、色欲を三大欲求という」
「紗央莉さん、色欲ってなんですか?」
「正義、男の股間の欲求だな」
「それって、性欲ってことですか」
「それ以外に何がある。
ーー 性欲無くなれば人類は滅亡するからな。
ーー 女が腹を痛めて子作りをするのも性欲の代償だ」
「よく分からないけど、そうですね」
正義たちを乗せたマイクロバスがホテルあかね柘榴に到着した。
遅れて石和田温泉スーパーマーケットの配送車が到着する。
ホテルあかね柘榴の女性スタッフがカートを用意して受け取った。
正義、紗央莉、沙月は臙脂色の着物の仲居三人に天狗の間まで案内される。
臀部の大きな仲居の沖野千景が正義に声を掛けた。
「お客さん、私たち湯女もしているのよ。
ーー お背中も、あそこも綺麗にしてあげるからお楽しみ」
正義は、仲居の説明に顔が茹で蛸のように真っ赤になっていた。
見返り桜の四人は、京子たち三人姉妹と別室に消えている。
「京子さん、お食事とお風呂は、どっちを先にしましょうか」
「恵子さん、酔い潰れたらホルモン風呂に入れないわよ」
「そうね、じゃあ、混浴、宴会の順ね。
ーー 綺麗にしてあげないとあそこの垢が怖いからね」
「京子さん、“ホテル見返り桜の熱海店”が今度開店するのよ。
ーー みんなでどうかしら」
「恵子さんも狡い人ね。
ーー あなたに誘われて断われる人を私は知らないわ」
恵子は薄笑いを浮かべいる。
京子と恵子の天狗の間のスケジュール相談が終了した。
正義は、あの七人の女が部屋にいない不自然さに首を傾げながら、いつもの嫌な予感を感じている。
天狗の間の呼び鈴が鳴り、仲居三人が上がり口へ行く。
別の茶色の着物の仲居七人が風呂桶とタオルを持っていた。
“ホテルあかね柘榴“の三姉妹と”ホテル見返り桜“の四人が天狗の間に到着した。
仲居十人が京子の合図で、着物を脱ぎ捨て赤い襦袢に腰巻き姿になる。
襦袢と腰巻きの腰紐を素早く取り、慣れた手付きで真っ赤な湯浴みを両肩に掛け湯女の姿になった。
仲居たちは正義を取り囲み掛け声を上げ浴衣の帯を一気に引き、紺色の浴衣が大きく開け畳に落ちた。
湯女の姿になった仲居の一人が正義の浴衣を畳んでいる。
正義の赤い褌を別の仲居が用意して腰に当て股関を通す。
恥ずかしい表情の正義に対して湯女姿の仲居は無表情で仕事をこなしていた。
第二十一話 魔性の女たちの包囲網
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三日月未来