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To my dear father  作者: タブ﨑
chapter 2 ◇自己矛盾
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◇chapter 2-3

 箱を開けて最初に出てきた物は一対の腕だった。そして更に箱を探ると、もう一対の腕が出てきた。

 右腕が二本、左腕も二本。やはり二対だ。何かのミスかと思ったが、分けるように番号まで振られている所を見るに意図して送られた物なのだろう。


「姉さん、腕が四本ある」


 見た通りの情報をそのまま伝えるとリズウェルは脚部パーツを取り出しながらこちらの手元に目を向けた。


「……まさかナディアを四本腕にするの?」


「そんなマニアックな姿にはしねえよ、腕部の改良については前から色々と議論が絶えなくてな。とりあえず二通りの物を作ったんだ」


「どんな議論?」


 試しに二種類の右腕を持ち上げて注視してみる。外部から分かる違いは刻まれた型番だけであった。


「関節部の故障対策だ。『曲がらない』とか『伸ばせない』とか、たまにそういう事が起こるだろ」


「起こるね」


 ワルキューレの主な武器は銃と剣だ。そのどちらも扱う際には腕へ負荷がかかる。その他の部位にももちろん負荷は掛かるが、まず最初にガタが出始めるのはどの世代のボディであっても肘か手首か肩であった。


「負荷を軽減する為の案が色々出ていたから、その内の二つを作って貰ったんだ。データを集めてどちらを採用するか選ぼうってな」


「へえ」


「今回取り付けるのは"Fo-w.06"の方だ。使わない方は保管庫にでも置いておいてくれ」


「はい」


 指示を出したリズウェルが二号機『ナディア』を起動させた。

 ゆっくりと瞳を開けたナディアは四本の腕に気付くと両頬に手を添えながら恍惚とした笑みを浮かべた。


「ウフフフ…… 私、四本腕にされちゃうのかしら……」


 重めの前髪によって影を落とされた瞳を細めながら作業台へと横たわる。その一定の動作の最中でも彼女の視線は四本の腕に釘付けになっていた。


「んな訳無いだろ」


「残念…… もっと可愛くなれると思ったのに……」


「はは……」


 独特な感性と視線に気圧されながら、使わない方の腕を丁寧に包装しアタッシュケースへと収め、保管庫に置く。

 リズウェルの方へ向き直ると既に作業台の上ではナディアがスリープモードに移行していた。


「よし、準備完了だな。始めよう」


 ナディアの隣に胴体のパーツが置かれる。これを中心部として四肢や頭部を取り付けてゆくのだ。


「全体的に見るとどういう改良がされたの?」


「さっき腕を持った時に感じたと思うが全体的に軽量化を施している。今のボディと比べて20kg程度軽くなる筈だ」


 眼鏡を替えたリズウェルが胴体の細部を点検し始めた。初期不良が無いかの確認だ。今まで初期不良があった事など無いが重要な工程である。


「ナディアは四人の中で一番体重が重いんだ」


「……そうなの? そう言うイメージは無かったなあ」


 イメージだけで言うと一番軽そうな印象だったのだが。

 もしかしたら強度を重視していた事が重さの原因になっていたのかもしれない。


「重い物を動かそうとすれば当然その分エネルギーが必要になるだろ。そこで軽量化によるエネルギー効率の改善ができないだろうかって話になった訳だ」


 点検し終わった胴体を作業台に置き、次に左腕を手に取った。

 僕も右腕を取り、点検を始めた。


「今日の会議で決まったの?」


「もっと前だ」


 点検を終えた腕を胴体の隣に置き、頭部の確認に入る。


「……といっても、まだ正式にこのボディを採用すると決めた訳ではない。腕部パーツのテストと並行して、武器の反動への耐久性とかの兼ね合いを見ながら実用化できるかどうかを確かめる段階だな」


「そっか。それにしても20kg程度の軽量化か…… 大分思い切ったね。全体の重さはどんなもんなの?」


 長時間での起動だと重量による差が大きく表れそうではあるが、結局は全体の重さ次第だ。軽量化して尚も重すぎる場合は実用性を見出せるほどの結果は出にくいだろう。


「古い方のボディは63.8kg、こっちの新しいボディは42.4kgだ。計算上では若干のエネルギー削減が見込めるが、実際に動くとどうなるか……」


「え? 42って、人間に置き換えるとかなり軽めだよね?」


 立ち上がって全体を俯瞰する。

 作業台の広さと比較すると身長は大体160cm程と予想できる。身長は前のボディと大差無いようだ。


「……不健康そう」


「その印象はよく分からんが、人間の平均より若干軽いのは事実だ。だから反動の大きな兵器は扱いにくくなる。そういった所も含めて、実際の動きを見て戦闘における評価を決めて行くんだ」


「これでもまだ研究の途中って訳かあ」


「そう。といってもここから先大きな変更は起こらないだろうがな」


 両脚の点検を終えたリズウェルが眼鏡を掛け替えた。

 全パーツの点検を終え、いよいよ組み立ての工程に入る。ナディアに入ってもらうのは全て組みあがった後だ。


「よし。じゃあティズ君、今回は頭部をやってみようか」


 機材を揃えるや否や、リズウェルがこちらに頭部用の工具を渡す。


「え、うん」


 今までにもこのようなパーツの組み立てや付け替えを手伝った事は有るが、頭部は初めてだ。

 厳密に言うとアイリーンが入っていたプロトタイプのボディを作る際に一度だけ組み立てた事はある。だが試験用と正式なボディでは責任の重さが違う。


「一応私も後で確認するから。まずは君の経験と知識のみを(もっ)てやってみな」


 脚の取り付けを始めたリズウェルが声だけをこちらに送る。

 確かにこれまでリズウェルと一緒に作業をしていた事によって『どうすれば良いか』は頭に入っている。


「分かった」


 立ち位置を変え、工具を手に取った。




 ──────────


 作業が終わる頃には夜になっていた。

 始めたのが正午だと考えると結構な時間机に向かっていたようだ。


「……頭部も問題無し」


 最終確認を終えたリズウェルが眼鏡を外して伸びをする。


「手直しも一切必要ない仕上がりだった。よくやったな」


「本当!? よかったあ……」


 こちらが胸を撫で下ろすと、リズウェルは再び机の方を向いて古いボディに接続ケーブルを差し込んだ。

 最後の工程、同期だ。これを終えるとナディアは新しいボディを動かせるようになる。


「これで問題が無ければ良いんだが…… っと」


 ケーブルの反対側を新しいボディに差し込みナディアがアクセスできる状態を作り出すと、胸から四肢へと走るラインが青白く光り始めた。


「お、光るんだ。結構近未来的なデザインだね」


「エルセの奴が勝手に決めたんだ。夜間の戦闘においてワームの注意を惹く狙いがあるって。こんなもん、はっきり言ってエネルギーの無駄だ。矛盾してるよな、全く」


「言い過ぎ……」


 きっぱりと語ったリズウェルがナディアを眺めようと一歩引いた瞬間、急に外からけたたましいサイレンが聞こえ始めた。


『ワームの飛来を確認。建物の中、または戦闘予定区域の外へ避難してください』


 つい最近にも聞いた合成音声が流れる。


「ワーム!」


「なんて時に来るんだ……」


 イラついた様子のリズウェルが携帯機を取り出して通話を飛ばす。詳しくは知らないが相手は防衛省の誰かだろう。


「場所は? ……なるほど。五分以内には到着できそうだな」


 何者かの声から得た情報を手際よく書き留めてゆく。

 が、突然その手が止まった。


「……八体?」


「えっ」


 思わずこちらも声を漏らしてしまった。

 同時飛来数は過去最多でも四体。聞き間違いでなければその二倍の数だ。


「ティズ君! ナディア以外の三人!」


「は、はい!」


 三人のボディにケーブルを差し込み起動させる。

 ナディアはまだ新しいボディとの同期が終わっていない。一旦終わるまでは動くことも旧ボディへ戻すことも不可能だ。

 つまり今戦えるのは三人だけ。いくらワームよりワルキューレの方が強いと言っても、この状況下では被害ゼロで片付けられるかどうか怪しい。


「エルネスタのオペレーションを頼む。クローディアとジャニスは私が担当する」


「分かった!」


 コンピューターに向かい、アプリケーションを起動してマイクを接続した。


『おやや? 今回はティズきゅんが私の担当なのねっ!』


 エルネスタの声がヘッドホンから漏れる。装着前でもはっきり聞こえる大声だ。


『よろしく。頑張ろう』


 音量を調整しながらモニターに映し出されたマップを見つめる。自宅から南西の空に八体まとめて飛来してきているようだ。


『よーし、今回も被害ゼロで切り抜けるよ! 気合入れてこっ!』


 出撃口に立ったエルネスタがこちらへと手を振る。


『……うん!』


 星空を移動する影が徐々に大きくなり始めている。奴らが着陸するまでに何体倒せるかが重要になってくるだろう。

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