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To my dear father  作者: タブ﨑
chapter 2 ◇自己矛盾
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◇chapter 2-2

 家へと帰る車の中、何となく外を眺める。

 ワームがいつ来るかも分からない状況でも町は多くの人で賑わっていた。


「どうした、ティズ君」


「え?」


 フロントミラー越しに僕の顔を見たリズウェルが声を出した。

 彼女からすると何か変な様子であるように見えたのだろうか。


「……なんて言えば良いんだろう」


 窓の外へ向けていた視線を前方へと戻す。


「難しい問題か?」


 リズウェルもミラーから前方へと視線を戻した。

 考えているのはアイリーンのコピー、『アイリーン・レーリー』と名付けられた彼女の事だ。


「……」


 何かが引っかかっているというよりは喪失感を感じていた。

 コピーとはいえ彼女もアイリーンである。コピー元と何の違いも無い。違うのは生み出された目的、つまりは僕のエゴだ。

 エゴによって生み出され、そしてエゴによって知らない場所へと連れて行かれた。

 二人は同じはずなのに、二人を見る僕の目は公平(おなじ)じゃなかった。


「……アイリーンの事を考えてた」


 僕は一体何をしているのだろう。

 本当は、あんな扱いを受けさせたくなかったから自我を搭載したはずなのに。

 戦争が終わった後もワルキューレが人として過ごせる未来を作りたかったはずなのに。

 そういう目的を持ちながら、無意識に僕自身が彼女を"物"扱いしていたのだ。

 彼女だけじゃない。今僕の家で眠っている方のアイリーンに対してもそうだったのだろう。


「あの子は人工とはいえ自我を持っていた。軽々しくコピーを作るべきではなかったのかもしれない。自分が研究の為だけに生み出されたコピーだと知ったら何を思うのかなって……」


「……なるほど」


 気持ちの言語化に手間取ってゆっくりと話す。

 "エルセにアイリーンを任せる"という事に関する心配はない。問題は僕自身の事だ。


「……"人として過ごせるワルキューレ"を目標としていたのに、僕自身があの子を物扱いしていたんだ」


 リズウェルに僕の目標を話すのは初めてだ。

 ミラー越しに顔を見ると、少しだけ苦い顔をしていた。


「そうか。事情を知らなかったとはいえ、コピーを作るように言った私にも責任があるな」


 そう言うとリズウェルは黙り込んでしまった。

 そのまま気まずい空気が流れ続け、気付いた頃には自宅に到着していた。

 車から降りたリズウェルがトランクを開けて何やら大きな荷物を取り出す。研究所へ行く前には無かった物だ。


「ティズ君、ちょっと手伝ってくれ」


「ああ、はいはい」


 家の鍵を開け、小走りで荷物の方へと向かう。

 小型の家具程度のサイズはある。


「……うおっと」


 結構な重さを想定して手を付けた箱は想像より更に重かった。力の入れ方を間違えると腰を痛めそうだ。


「なにこれ。何が入っているの?」


「ナディアの新しいボディだ。後で君にも見せるよ」


「へえ! そっか」


 位置関係的に進行方向と逆を向く形で荷物を持ち上げ、すり足で慎重に家の中へと荷物を運ぶ。

 そしてリビングで一旦荷物を下ろし、手を洗った。


「ラボまで運ぶ?」


「うん、さっきと同じようにそっち側を持ってほしい」


「わかった」


 先にラボの扉を開ける。

 重量もサイズも大きいためにちゃんと道を作っておかないと自宅と言えども事故を起こす可能性がある。


「……なあ、ティズ君」


「ん?」


 再び荷物を持ち上げようとした所でリズウェルがこちらに呼びかけた。


「アイリーンのコピーについての話だが」


「……うん」


「どうすれば良いのか。正直な所今の私ではその答えは見つけられない」 


 目を伏せたリズウェルが小さく首を振った。


「だが、いくつか絶対に守ってほしい事がある」


 いつになく真面目な眼差しで顔を上げた。


「『生み出してしまった』なんて思わないであげてほしい」


「『生み出してしまった』……」


 心臓が跳ねる。

 自己矛盾に気付いた瞬間、まさに思っていた事だ。


「君は目的を持ってあの子を生み出した。そしてあの子はその目的の為にこれからの時間を過ごす。理由はどうであれ、あの子も君が望んで生み出した事に変わりは無い」


 リズウェルが壁掛けの時計を見つめた。

 暦や日付までもが描いてあるデジタル時計だ。


「彼女に対して罪の意識を抱くのはどうにも出来ない。君の性格なら尚更、当然とも言える感情かもしれない。だがそれ以上に感謝をして、再会の暁には声に出して感謝を伝える事」


 力強くも優しい声で言葉を紡ぐ。


「そして、もし仮に彼女が自分自身を否定する事があっても、君は彼女の存在を肯定し続けてあげてほしい」


「……はい!」


 力強く返事をすると、リズウェルの顔に小さな笑顔が戻った。


「後は君と私がきちんと反省をする事だな」


 そう言うと、リズウェルは荷物の端を掴んだ。


「さて、作業に戻ろう。今日中に終わらせたい事があるんだ」


「……うん。僕も手伝うよ」


 先程と同じ位置に手を掛け、持ち上げる。


「当然。君にやらせるつもりだった物もいくつかあるからな」


 そう言うと、少し早歩きで荷物を運び始めた。

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