ごくごく平凡でつまらない物語を会話だけで面白くできるか?
古風で趣があり、隙間風も多そうな屋敷の前に一台の車が止まった。
「さあ おじいちゃんおばあちゃんの家に着いたよ」
運転席の父が言う。
「別に言われなくたって 見りゃわかるよ」
後部座席の弟が言う。
「いちいちつっかからないの うるさいやつ」
その隣の姉が言う。
「お義母さんたち 変わりないかしらね」
助手席の母が言う。
「変わりあるわけないじゃんか たった一週間前に来たばかりなのに」
弟は車を降りる。
他の三人も降り、連れ立って玄関に向かう。父が戸をがらがらと開ける。彼が声をかけると、家の奥から祖父と祖母が現れる。
「よく来てくれたねえ」
祖母がにっこりする。しわくちゃの顔がもっとしわくちゃになった。
「よく言うよ 去年行かなかったら ぼくの顔写真を貼り付けた藁人形を送りつけてきたくせに」
弟が姉に小声で言う。
「しかもあれ 着払いだったわよね」
姉もささやき返す。
「まあ 毎年のことだからな 年末の恒例行事ってやつさ」
父が言う。母もうなずく。
「恒例行事って つまらないものばっかりだね」
弟がぼそりと言う。
「大きくなったわねえ 二人とも」
祖母が子どもたちに言う。
「竹じゃあるまいし 一週間でそう変わるもんか」
弟が言う。
「いや 男子三日会わざれば刮目して見よ というからね おばあちゃんから見れば 全然違って見えるのかもしれないさ きっと 宇宙すべてがそうなんだ」
父が言う。
「急にどうしたの」
姉が心配そうに言う。
祖父は祖母が話している間、うろんな目つきで子どもたちを眺めていたが、弟に目を合わせるとおもむろに口を開いた。
「何じゃ お前は」
「おじいちゃん あなたの孫ですよ」
弟が丁寧に言う。
「お前みたいな不細工 わしは知らんぞ」
「そっか せっかくじいちゃんの好きな カスタードクリーム乗せ生ブリオッシュとチャツネを買ってきたのにな」
弟は手提げた箱をぶらぶらさせた。
「おう よく来てくれたな さあさあ 早く上がっておくれ」
祖父は笑顔になる。
「父さん そんなこといつまでも続けてると 本当にボケたときに気づいてもらえなくなるぞ」
父が言う。
「ねえ 足が冷たいんだけど いい加減に中に入れてもらえない?」
冷え性の姉がそう言ったので、全員がぞろぞろと居間へと向かう。
居間には全員が足を入れられるほど大きなこたつがあり、傍らのテレビでは駅伝が流れている。
「まだ年は明けてないはずだけどな」
弟が言う。
寒いさむい、と言って姉が真っ先にこたつに入った。びっくりした猫が中から飛び出し、そのまま庭へと出ていった。
「あんな猫 いたっけ?」
父が言う。
「あれは野良猫じゃ」
祖父が言う。
「ええっ きったないなあ そんなの家の中に入れちゃダメだよ」
弟がげっそりする。
「大丈夫よ 庭はいつも綺麗にしているから」
祖母が言う。
「寒い さむい」
姉が言う。
こたつの上には編みかごがあり、どっさりとみかんが入っていた。
「姉ちゃん 寒いならみかんの汁をしぼって 目の中に入れるといいんだぜ」
弟が言う。
「寒さなんてどうでもよくなるから」
姉は無視した。
「それで 今年はどんな段取りなんですか?」
母が尋ねる。
「そろそろ二階の物置き部屋を整理したいんだけど どうにも重い物が多くって大変だから 手伝ってほしいのだけれど」
祖母が言う。その目線は子どもたちに向けられている。
「え 嫌なんだけど」
弟が言う。
「バカね そんなこと言ったって無駄じゃないの 今までこの家の中で『嫌だ』って言葉が通ったことが一度でもあった?」
姉が言う。
「それはそうだけど たまには奇跡を期待したっていいじゃないか」
「そんなものないってことは ようく私達が一番知っているはずよ」
「それで 何を掃除すればいいの?」
弟が尋ねる。
「割れたり 壊れたりしている家電とか家具は全部捨てていいわ それ以外のものは一応分けておいて 後で私たちが分別しましょう」
祖母が説明する。
「私たち? それは誰のことじゃ」
祖父が首をかしげる。
「おじいさん あなたですよ」
祖母が言う。
「は? 嫌じゃ この後ドラマの再放送があるんだぞ 本放送のときは庭に人工衛星が落ちてきたせいでバタバタして見られなかったから 絶対見るんじゃ」
祖父がいやいやを言った。
「大会社の社長が殺された事件の犯人を調べるため医療大学に学生として潜入した刑事が一番の容疑者の妹と恋に落ちたため地方へ左遷された復讐を果たして遂げられるのかどうかといった瀬戸際なんじゃぞ」
「録画すれば?」
姉が言う。
「いや 別に録画するほど気になるわけじゃない」
祖父が言う。
「せっかくレコーダーを買ってあげたのに さっぱり使ってないじゃないか」
レコーダーのリモコンに新雪のような埃が積もっているのを見た父が言う。
「うん まあ よく考えてみれば 録画するほど見たい番組なんて全然ないしな」
祖父があっけらかんと言った。
「さあさあ そろそろ掃除を始めてちょうだいな お昼になったらご飯ですからね それまで頑張るのよ」
祖母が言う。
「ああ そうそう もしかしたら私が昔失くした麦わら帽子も見つかるかもしれないわ もし見つけてくれたら おばあちゃんがほっぺにキスをしてあげますからね」
「ばあちゃん 帽子を見つけてほしくないの?」
弟が呆れる。
一階の掃除の準備を始めた家族に別れを告げて、弟と姉は二階へと向かった。階段の傾斜がとても急で、いっそ坂にでもなってくれればいいのにと彼らは思った。
「今から一階へ降りるときのことが憂鬱だよ」
弟が言う。
「ごちゃごちゃ言ってないで 早く上がってよ」
姉が言う。
二階は冷蔵庫の中のように寒かった。物置き部屋は太陽の光が届かないぶん、外よりも寒いほどだった。
「ああ なんで私はこんなところにいるのかしら……」
姉がぼやいた。
「なんでって 大掃除の手伝いを頼まれたからでしょ もう忘れたの?」
弟が言う。
「あんたはそんなんだから 国語の成績が悪いのよ」
「悪いのは国語だけじゃないよーだ」
弟はあっかんべえをした。
「自慢と自虐の区別もつかないのね……」
姉はため息をつく。
部屋の中は物でいっぱいだった。
使えなくなったもの、いらなくなったもの、使えるけどとりあえず使わなくなったもの、使えるか使えないかわからないもの、いつか使うかもしれないもの、捨てるには忍びないもの、そうしたものがぎっしり詰め込まれていた。
「全部がらくたに見える」
弟は簡潔に所見を述べた。
「こんなにあったんじゃ 仕分け終える前に春が来ちゃうわ」
姉が言う。
「私 諦めて一階へ戻る」
「まだ部屋を見ただけじゃないか」
弟が呆れる。
「それに 戻ったってまた追い返されるだけだよ またあの階段を上り下りしたいわけ? そんなに自分の体をいじめることないじゃないか」
「自分の仕事が増えそうになると饒舌になるのね」
姉が言う。
「うん だから今度の国語のテスト 平均点以下だったら採点の手伝いをするって 先生と約束しようかと思うんだ これで成績向上ばっちりさ」
「他の教科のテストはどうするの?」
弟は青ざめた。
二人は文句を言いつつも、言われた通りにがらくたの仕分けを始めた。
内蔵が飛び出たブラウン管テレビはいらない、羽根が二枚失くなった扇風機もいらない、シロアリが内部で文明を築き上げたタンスもいらない、縁日で売ってそうな安っぽい光を放つブレスレットやネックレスは一応取っておく、埃をかぶった麦わら帽子は……
「えっ 麦わら帽子?」
弟は手に持った麦わら帽子を見つめた。
「ちくしょう 見つけちまった これを渡したらほっぺにキスされちゃうぞ ……この前されたときは 一週間も痕が残ったんだ」
「私たちのおばあちゃんは ひょっとしたらタコなのかもしれないわね」
姉が呑気に言った。
「そんなこと言ってる場合か ああ どうしよう…… そうだ まだこの帽子の存在は僕たちしか知らない 今のうちに麦わらをほどいてばらばらにして 庭の池にまいて鯉に食べさせよう」
「犯罪者めいた発想力ね でも あの吸盤じみた唇から逃れるためにはそれしかなさそうだわ」
姉も賛成した。
「どうだ やっとるか」
唐突に部屋の入り口に人影が現れた。
「ギャー!」
弟は手に持っている帽子をとっさにぶん投げたが、方向を誤ってその人影の頭めがけて帽子は飛んでいった。
「あ? 何じゃこれは」
祖父だった。
「ああ なんだ じいちゃんか おっかないなあ ちゃんとノックしてくれよ もう少しで孫殺しになるとこだったぞ」
弟が憤る。
「なんで自分の家の部屋の扉を開けるのにノックしなくちゃいけないんじゃ それより これはばあさんの探していた帽子じゃな よくぞ見つけてくれた あれはどこにやったと毎年のようにせっつかれていたからな 今年のお年玉ははずんでやろう でも待てよ このくらいのことで値上げすることもないわな やっぱり 今のはナシじゃ 忘れてくれ」
祖父は帽子を持ったまま去っていった。
「ああ ああ……」
弟の口は開いたまま塞がらなかった。
「まあ いいじゃないの 今見つからなくても 来年には見つかったかもしれないし」
姉が言う。
「でも いつまでも見つからなかった可能性もあっただろ?」
「それもそうね やっぱり 私たちは不運だわ」
「ああああああ」
弟は言った。
「もうそろそろお昼だから 区切りがついたら降りてくるんじゃぞ」
子どもたちの気も知らず、祖父が部屋の外から追い討ちをかけた。
「悪いことばかりじゃないわ 少なくとも この寒い部屋とはおさらばよ」
姉が前向きに言う。
「姉ちゃんのそういうところは 僕もちょっとは見習うべきかもしれないな」
弟が言う。
「ところ『は』じゃなくて『も』の間違いでしょ? あんたには身につけきれないほどの長所を私は持っているのよ」
「たとえば?」
「そう まず頭がいい」
「姉ちゃんに貸したRPG 返ってきたときファイルを見たら1つ目のダンジョンでセーブされてたけど」
「ああいう謎解きはあまり好きじゃないの」
「じゃあ なんで貸してって言ったんだよ」
「うるさいわね ただの暇つぶしのためよ」
「総プレイ時間30分じゃ あまり暇つぶしにはならなかったみたいだね」
「他にもたくさん長所はあるわ」
姉は弟の言葉を無視して言った。
「まだ具体的な長所を1つも挙げてもらってないけど」
弟が言う。
「ええと あんたよりずっと早起きだし」
「徹夜で朝を迎えるのは 早起きとは言わないんだよ」
「料理もできるわ」
「インスタントラーメンを焦がした人がよく言うよ」
「クラスじゃ みんなの中心にいるの」
「修学旅行の集合写真じゃ 端っこにいたみたいだけどね」
「世相にも詳しいわ」
「日本の地図もよくわかってないのに?」
「もう! いいわよ! 私は一階に降りる!」
「そりゃ お昼の時間だしね」
弟は肩をすくめた。
ぷんぷん怒った姉の後を追って、弟は一階へと降りた。磨かれた床の半分だけがぴかぴかしていた。
姉にとっては残念なことに、換気のためあちこちの窓が全開にされ、一階も二階と大して変わらない寒波に見舞われていた。
「どうして家の中なのにこんなに寒いの」
姉が文句を言った。
「これじゃ 何のためにある家なのかわからない」
「仕方ないじゃんか 換気しなくちゃ」
弟がなだめる。
「換気のために窓なんか開けなくたって この家には始終隙間風が吹き込みまくってるんだから わざわざその後押しをしてやる必要もないでしょ」
「もうしばらく怒ってれば そのうち温かくなるんじゃない」
弟が適当に言った。
「手を洗って ご飯にしましょう」
台所から顔を出した祖母が言う。
食卓には様々な大きさの皿が並び、六人が卓を囲んだ。
「ばあちゃん これ 何?」
弟が大皿に乗せられた料理を指差した。
「肉じゃがだよ」
祖母が答える。
「でも 肉が見えないよ」
「そうでしょうね 入れていないもの」
「それじゃ 肉じゃがじゃないじゃないか」
「でもじゃがいもに 玉ねぎに 人参に しらたきも入っているのよ これは肉じゃがよ」
「どうして肉じゃがっていう名前なのかを考えようよ 肉とじゃがいもが一番のキモだからでしょ 肉とじゃがいものどっちかが欠けていたら それはもう肉じゃがではないんだよ ただの なんかの煮込みだよ」
「ああ もういい わしが悪かったんじゃ 肉を買い忘れたわしのせいじゃ この世のすべての悪はわしのせいなんじゃ それで気が済むなら この老いぼれをいくらでも責めるがよかろう」
祖父が唐突に大声を出した。
「そんなことしたって僕の気は済まないよ 僕が探しているのはね 肉なんだよ」
弟が言う。
「温くて口に入るなら 何でもいいわよ」
姉は二人を無視して皿によそう。
「だいたい なんでどれもこれもじゃがいもばっかりなんだ 粉吹き芋 フライドポテト 煮っころがし コロッケ じゃがバター……」
弟がぶつぶつと言う。
「ジャーマンポテトもあるじゃない」
と、母が言う。
「そうだね でも ベーコンが入ってないよ」
弟が言い返した。
「ああ それもこれも全部 わしが悪いんじゃ 買い物のメモを忘れ じゃがいも以外に何を買えばいいのか全部わからず 仕方なくカゴいっぱいにじゃがいもを買ったんじゃ 恨むならわしを恨め この老いぼれを」
祖父は先ほどからずっと大声を出していた。
「いいじゃないか じゃがいもは嫌いじゃないって言ってただろ」
父がなだめる。
「まあね でも お腹いっぱい食べたいほど好きでもないよ」
「好き嫌いしないで 食べなさいよ」
姉が今度はフライドポテトを取りながら言う。
「一種類しかないのに 好き嫌いもクソもないよ」
「わかった わかったわ じゃあ 次にあなたたちが来た時は 全部肉づくしにしてあげるから」
祖母が言う。
「別に肉ばっかり食べたいわけじゃないよ バランスだよ 僕が極端な偏食みたいな言い方はやめてほしいな」
「一年に一回くらいは こんな昼食もいいものじゃ」
祖父が気を取り直して言う。
誰のせいだよ、という言葉をぐっと飲み込んで、しょうがなく弟も料理に手を付け始めた。
「学校は楽しいか?」
しばらくして、祖父が弟に尋ねた。
「大掃除よりは楽しいよ」
「勉強はどうだ ついて行けてるか?」
「ばっちりだよ もう日本語はだいたい喋れるね」
「友達はいるかね?」
「フレンドなら千人くらいいるよ まあ 顔も本名も知らないし 話したこともないけど……」
「来年は中学生になるんだったな 準備はどんな具合じゃ?」
「小学校と大して変わらないよ あっ でもなんかみんな同じ服を着て通学するみたいなんだ 中学生になると服の趣味が変わるのかな?」
「わしはお前が心配じゃ」
祖父が顔を曇らせた。
「心配してくれる人がいるってのは いいもんだね」
弟は気楽に言った。
「そうそう 麦わら帽子を見つけてくれたのよね おじいちゃんから聞いたわ」
祖母の言葉で、弟も姉もじゃがいもを喉に詰まらせた。
「あ ああ それね 実は見つけたのはじいちゃんなんだよ」
「は?」
弟の言葉に祖父は箸を止めた。
「まあ そうだったの?」
祖母がびっくりする。
「そう そうなのよ だけど気恥ずかしいから 私たちが見つけたことにしたんだわ 私たち 何もしていないのにねー」
「ねー」
姉と弟は顔を見合わせて言った。祖父の顔が見るみる青ざめていく。いきさつを知らない人が見れば、救急車を呼びたくなるに違いないほどだった。
「あら…… じゃあ ご褒美はおじいちゃんにあげなくちゃいけませんね」
「んー んー」
祖父は無言で首を振り続けている。
「目を伏せなさい 食欲を失くすわよ」
姉に言われて、弟は一緒に顔を伏せた。強力な吸盤がへばりつき、ひっぺがされたような音が響いた。
「わし わしは何も わし わしは何も わしは……」
祖父が放心した様子でつぶやき続ける。
「もっとおじいちゃんはいたわってあげなくちゃ駄目じゃない」
母が子どもたちに言う。
「いや じいちゃんは喜んでるんだよ ほら 幸せでぼーっとしてる」
祖父は箸を持つのも忘れて何かを言い続けている。
「これが幸せだというのなら 私は一生不幸で構わないわ」
姉がきっぱりと言った。
「まあ おじいちゃんたら照れちゃって まるで若返ったみたいな気分よ」
祖母が嬉しそうに言う。
「父さんも もう長くないかもな」
父は遠い目をした。
「ひょっとして僕たち 間違ったことをしたのかな?」
弟が姉に囁いた。
「んなわけないでしょ 私たちもああなるところだったのよ」
「それもそうか」
一名、途中で食事を完全に中断した者がいたが、とにかくじゃがいもはあらかた片付き、午後の掃除に備えての腹ごしらえを各自済ませた。
「ほら あんたも皿の片付け手伝いなさいよ」
姉の言葉に弟はむっとする。
「あのね 僕にはちゃんとした名前があるんだから そう毎回毎回あんたあんたと呼ぶの やめてもらえないかな」
「あら そうだったわね じゃ なんて呼べばいいの?」
「えーっと……」
弟はしばらく考えていたが、やがて首を振った。
「やっぱり 今のままでいいや」
「何なのよ一体」
姉が迷惑そうに言う。
「まあ 弟は姉に面倒をかけるものだからね」
弟は気取って言う。
「それは 面倒をかける側じゃなくて かけられる側が言う言葉なんじゃないの」
「僕の国語の成績 知ってるだろ 人が不得意なことをあんまり責めるもんじゃないよ」
弟は悲しそうに言った。
やがて手がかかる掃除は始末がつき、日が暮れる頃にはすっかり片付いていた。
「おかげで今年も助かったわ どうもありがとうね」
玄関先で祖母が言った。
「いえいえ 何でもないですよ」
母が言う。
「たまには うちの大掃除も手伝ってよ」
弟が言う。
「あら あなたたちの部屋の片付けを手伝ってもいいの?」
祖母の目が光った。
「墓穴を掘るのはいいけど 自分のだけにしなさいよ 何で私まで巻き込むの」
姉が弟を小突く。
「一人じゃ寂しくって」
弟は舌を出した。
「次に会うのは年明けか? 達者でな」
祖父が言った。
「一回年明けした後か 二回年明けした後かはわからないけどね」
弟が答える。
「あっ でもお年玉があるのか それじゃあまた年明けに……」
「現金なやつね」
姉が呆れた。
父、母、姉、弟は帰っていった。帰った後にすることはもちろん決まっている。
大掃除である。