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ショートショート12月~3回目

ゆうやけ

作者: たかさば

 ……ずいぶん空気が冷えている。


 もう、すっかり真冬だ。

 冬は寒いけれども、夕焼けの時間が少し長く楽しめるから…嫌いじゃない。


 ほんの少し前まで、汗を拭き拭き外に出ていたはずなのに、時の流れというのは本当に…瞬く間にすぎてゆくものだ。


 夕暮れの時間も、かなり早くなった。

 晩御飯を食べ終わってから夕日を見に行っていたはずなのに、ゆっくり買い物をしていたら見逃してしまうほど…日の入りが早い。


 私はほぼほぼ毎日、夕焼けを見に行く。


 気分転換、ごほうび、目の保養、気晴らし、いやな事を忘れるため、美しさに感動するため…なんとなく理由があって、見晴らしのいい場所に赴くのだ。

 マンションの通路だったり、近所の歩道橋の上だったり、ショッピングモールの屋上だったり、日によって色んな場所を転々としている。


 どの場所で見ても…夕焼けはいつも、美しい。


 色の移り変わりが…たまらなく私を、魅了する。


 赤と青がまじりあい、お互いの色がとけあって…雲に色をのせる。

 雲一つない日も、雲が空を覆って夕日が眩しくない日も、空の色は変わる。


 夕焼けは、刹那の芸術作品。


 同じ空の色には、二度と出会えない。

 似たような空には出会えるけれども、同じ空は現れない。


 違う空だというのに、何度見ても同じように…しみじみと見入ってしまう。


 夕焼けは、きれいだ。

 いつ見ても、きれいだ。


 心なしか、乾燥した空気が暮れてゆく空をきりりと引き締めてくれているような気がする。

 冷たい空気にさらされて、夕日の熱がキンと冷えて鮮やかさを増しているような気がする。


 いつ見てもきれいだと思う、夕暮れ。


 子供の時も、きれいだと思った。

 大人になってからも、きれいだと思う。


 初めてきれいだと思ったのはいつの頃だろう。


 思い出せないけれど、私の中の記憶が…夕焼けはずっと美しかったとつぶやいている。

 忘れているけれど、私は確かに…夕焼けの美しさに何度も心をさらわれた。


 お腹を空かせて帰った日に見た夕焼けも。

 帰りたくないと思った日に見た夕焼けも。

 もうこんな時間だと思って見た夕焼けも。

 諦めた日に見た夕焼けも。

 よかったと胸をなでおろした日に見た夕焼けも。

 ちいさな幸せをかみしめた日に見た夕焼けも。


 夕焼けを見て、つまらない感情ごと連れ去ってもらった日々を…思い出す。


 夕焼けのおかげで、忘れる事ができた感情がたくさんある。

 夕焼けのおかげで、空いてしまった心の隙間を埋めることができたから、私は今…ここにいる。


 ……夕焼けを見たら、大丈夫。


 何度も夕焼けを見て、乗り越えてきた。

 何度も夕焼けを見て、前を向いてきた。


 ああ、今日も夕焼けは……綺麗だ。


 夕日を見送り、満たされた私は…もう、大丈夫。


 お腹をすかせた家族が、待っている。

 一刻も早く、家に帰らねばなるまい。


 家族のからっぽの胃袋を満たすのは、私の仕事なのだ。

 やりがいのある、大好きな大仕事なのだ。


 ……今日のメニューは、何にしようかな?


 晩ごはんを思い浮かべたら…、少し胃袋に隙間が生まれたらしい。


 くうくうと鳴るお腹を抱えながら…、私はスーパーへと急いだのだった。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] じぃ〜〜〜ん、ときました ありがとうございました〜♪
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