魔王候補はハエだった
ー2ー
「えっと……どう行くんだったかな? ちゃんとした道なんて覚えてないから」
「すまん。俺はレイみたいに壁を通り抜ける能力は持ち合わせてないから」
レイがいつも通りの道順でベルゼブがいる場所に向かうためには幽霊特有の【すり抜け】、壁を通り抜ける事で近道をしていたみたいだけど、俺にはそんな能力があるわけがなく……壁にぶつかり、地面に落ちるはめに。そのせいで顎が外れて、HPが1になる程のダメージを受けてしまった。
「全然全然。むしろ、私が悪いわけだし。迷路みたいにするのが悪いんだよ」
ベルゼブの城内部。城と言ってるけど、どうみても洞窟の中だ。装飾品どころか、窓や石畳でもない。階段ではなく、坂のような造り。岩や土の壁に松明のような炎がところどころにあるだけ。それが縦穴、横穴と迷路のようになっている。
「魔王候補でもあるわけだし、敵を迎え撃つためなんじゃないか? まぁ……この城に居続けるのはなかなか勇気がいるかもしれないけど」
「ああ……骨でも臭いを感じ取れるんだ? 私は慣れたけど、最初はキツいよね。手下でもあり、ベルゼブ様の食事でもあるからさ」
というのも、見かける魔物が腐った死体=ゾンビばかり。犬型のゾンビもいて、そいつがデビルドッグらしい。地面にも骨はなくても、腐った肉が落ちてるし、謎の液体が散らばっていたりする。換気も出来ないせいで、ベルゼブ城は腐敗臭で満ち満ちている。もしかしたら、死霊系だからこそ耐えれてる説があるかも。
「ゾンビを食べるなんて、ベルゼブはどんな奴なんだ……それに、レイ以外に幽霊を見かけないんだけど? 俺みたいなスケルトンも……デビルドッグが食べるのか……」
俺の骨を食べるぐらいだから、スケルトンがいてもデビルドッグの餌食になるだけか。けど、幽霊ならいてもおかしくないよな?
「幽霊は私だけだね。私もポン骨と同じと言えばいいのか、いつの間にかここにいたから。それ以前の記憶が曖昧なんだよ。だから……」
「だから……なんだ?」
レイは途中で会話を切った。レイも記憶が無くて、いつの間にかベルゼブ城のいる。俺みたいな感じで気になるじゃないか。
「……ベルゼブ様が案内してくれるみたい。監視役が城を巡回してるからね。それが目となり、耳となりだよ」
監視役? レイの視線の先にいるのは小さな虫……ハエという奴か? そういうのは記憶にあるんだよな。腐った物の周囲に飛んでるイメージが……気付けば、当たり前のように一匹だけじゃなく、何匹もいるぞ。その一匹が俺達を案内するような動きをしてる。
「ああ……なるほど」
あのハエがベルゼブと感覚を共有しているなら、余計な事を言えば、耳に入るという事だよな。そのせいで骨を貰えない可能性もあるわけで。
ハエに案内されてる間、レイは一言も話さないし、俺が余計な事を言わないように、両手で頭と顎を押さえて、口を開けないようにしていたぐらいだ。
「ここがベルゼブ様の玉座の間だよ」
玉座の間の前は大きな扉……はなく、カーテンのような物が掛けられていた。ハエは隙間から中に入っていく。扉だとハエが中に入る事が出来ないのが理由? まぁ、扉だとレイだけがすり抜けるはめになるから丁度良かったけど……
「下僕達が騒いでると思っちゃら、新しい魔物の出現でちゅか。レイといい、僕も運がいいでちゅね」
玉座の間。そこは迷路よりも汚く、ガラクタで溢れ返り、ハエ達が至るところで飛んでいる。その中でとびきり大きい、人間の子供ぐらいのハエが玉座に座っている。もしかして、あれが魔王候補のベルゼブか? 子供のような言動、ガラクタの王冠と杖を装備していて……俺自身が言うのもなんだけど、弱そうだぞ。
「ベルゼブ様……彼はこのままだと動く事が出来ないので、骨を与える事は無理でしょうか。そうしなければ、ベルゼブ様のために働く事も」
レイは上手い具合に説得してくれようとしてるけど、ベルゼブのために働くつもりはないんだよな。ベルゼブ自身も俺を手下だと最初から思ってるみたいな発言してるけど……
「勿論。知性のある魔物は重要でちゅからね。レイのように僕のために働くでちゅ。忠誠を誓うでちゅ」
知性がある魔物って、俺とレイが会話してるのを聞いてたのかも。ベルゼブは俺をジッと見てきて、何かを受けてるような感じはするんだけど、俺自身何も変わってないよな?
『ほら!! 挨拶……じゃなくて、嘘でも忠誠の言葉を言わないと』
レイは口を開いてないんだけど、頭の中に声が届いた感じがした。それはレイの【能力】なのかは分からないけど、俺を持ってる両手の握り具合が強くなってるから……