気が付けば最弱なのだが
ー1ー
遠吠えが聴こえる。それも一匹じゃなく、無数。獲物を見つけた歓喜の叫びなのか。
「お~い……生きてる? って、それもおかしな話かな? 早く起きないと全部食べられちゃうよ」
誰かが俺の頭をツンツンしながら、物騒な事を言ってくる。サタリアの転移魔法で意識を失っていたのか、遠吠えが聴こえてきたのもあって、目を覚ます事が出来た。
「ん……って、幽霊!!」
俺を起こしたのは少女の姿をした幽霊。体が半透明で宙に浮いてる。幽霊は物理攻撃が効かず、魔法でしか倒せない面倒な相手……という記憶はあるみたいだ。
「失礼だよ。まるでお化けを見るみたいに驚いてさ。君だって骨なんだからね」
俺の言葉を気に触ったのか、幽霊の少女は頬を膨らませる。そういえば、俺はスケルトンに転生したから、魔物同士で敵じゃないのか? 彼女に敵意はなさそうだし。
「す、すまん。目覚めたばかりで、気が動転したんだよ。ここは……ん? 体が全く動かないぞ」
周囲を確認しようにも手足の感覚もなく、首を動かす事も出来ないぞ。【黄金の骨】は簡単にバラバラになる感じじゃなかったんだけど……
「ここ? 魔界にある、魔王候補ベルゼブ様の城だよ。君はここで目覚めた感じなのかな?」
魔界? サタリアと魔王云々の話をしてたから当然か。けど、魔王候補の場所に転移させるにしても、いきなり根城とかやり過ぎだろ!! 救いなのは彼女が俺を敵ではなく、生まれたばかりの魔物と思ってくれてる事だな。
「それと……残念な話なんだけど、君の骨はデビルドッグ達が咥えていったよ。高い魔力を要してたからだと思う。私もそれに気付いて様子を見に来て、そこにいたのが君だったから」
「遠吠えが聴こえたと思ったら、俺の骨を持ち帰っていったのか!! もしかして……ぐはっ!! やっぱりか」
ステータスを確認してみると
名前 ポン骨(仮)
種族 スケルトン【頭蓋骨】
パラメーター
力 1
耐久 1
速度 0
魔力 1
器用さ 1
幸運 10
【能力】
【不死】
【補骨E】
【与骨E】→【与骨D】
【状態耐性◯】
種族がスケルトン(頭蓋骨)に戻って、パラメーターも初期値に戻ってるじゃないか。手足がないから移動する事も出来ないぞ。それだけじゃなく、地味に【与骨】のランクが上がってし。デビルドッグという魔物が勝手に咥えたのも、【与骨】扱いにされるのか? 使用回数によってランクが上がるのかもイマイチ掴めないんだけど……
「あの……頭だけの姿になって、移動する事もままらないんだけど、デビルドッグ? だったか、その魔物から骨を返して貰う事は出来ないでしょうか?」
ここは幽霊の彼女に頭を下げるしかない(下げる事も出来ないけど!!)。そうじゃないと、死ぬまでこの場所に置かれる事になる……いや、【不死】で死ねないのか!! 余計に嫌だぞ。
「う~ん……無理だと思うよ。すでに食べられてるだろうし、ここにいる魔物で知性があるの魔物はベルゼブ様と私……後は一体ぐらいしかいないから。君も含めると四人だね。だから、デビルドッグを説得する事も出来ないかな」
「終わった……このまま動けずに放置されるんだ。まだデビルドッグに食べられた方が死ねるか?」
「あれは冗談だよ。弱い骨だから、取り込む必要がないから食べなかったんじゃないかな?」
「冗談なのかよ!! はぁ……別の骨でもいいから、それで何とか出来るかもしれないのに」
「……仕方ないな~、私が君をベルゼブ様の元まで運んであげるよ。そこなら骨はあるはずだし、ベルゼブ様が何とかしてくれるかも。君を見てると、何か放っておけないし……」
「えっ……それって大丈夫なのか?」
こんな状態で倒すべき相手と会うなんて危なくないか? 本当は俺が敵だと分かっていて、連れて行くつもりなんじゃ……なんて、今の俺は魔王候補が手を出す程の相手じゃないか。
「大丈夫だと思うよ。むしろ、歓迎するかも。ベルゼブ様が他の魔王候補と争うためにも、手下は増やしたいはずだし」
「そうなのか? けど、どうやって俺を運ぶ……って、大丈夫か!!」
「ええっと……死霊系っていうのかな? そのタイプなら触れる事が出来るんだよ」
そう言って、彼女は俺の頭を両手で持ち上げた。幽霊は物理攻撃が効かないから触れる事は無理と思ってたけど、同じタイプなら大丈夫らしい。
「そういえば、名前がまだだったよね。私の名前はレイ。幽霊のレイね。君の名前は? ……名前はあるの?」
「今の名前はポン骨だな。よろしく頼むな」
互いに挨拶を済ませて、俺は魔王候補ベルゼブがいる場所まで、レイに運んで貰う事になった。