返事がない。只の屍のようだ。
『返事がない。只の屍のようだ』
『反応がない。すでに骨となっているようだ』
なんて、俺が声を掛けているわけじゃない。
その死体が俺自身なのかも分からない。生前の記憶がないからだ。単に俺の魂? 霊? というべきか。天使みたいなのが上へ連れて行こうとしているのは、俺自身がすでに死んでるから。
死んだという事実だけは覚えてる。つまり、天使はあの世という場所に俺を連れて行こうとしているんだろうな。
誰かが死体の俺に話し掛け続けるのが邪魔になってるのか、天使はある一定の場所から上へ行けないでいる。
空じゃなく、上というのも周囲は何も見えない真っ暗闇。ここが何処かのかも分からない。そもそも、記憶がないんだから分かるはずもないわけで。
天使という存在も大概とは思うけど、こんな場所で死体に声を掛けてくるのは一体誰だ?
そう思ってるうちに、大きな光が上から俺に向かって落ちてきた。新たに天使の迎えが増えた……
「ぎゃあああ!! ……って、骨!?」
わけじゃなく、光は新たな天使どころか、俺に直撃。それも死体まで行き届くだけでなく、天使そのものを消し去ってしまった。
その結果……俺の魂は骨の中に入り、スケルトンになったみたいだ。痛みもあれば、声も出るようになっている。
「ようやく見つけたのに、我を無視し続けるからそうなる。それだけじゃないぞ。天使に連れて行かれようとするとは何事だ」
俺に声を掛けていた人物? 燃えるような紅色の長い髪に黒い二本の角。紅い瞳に黒のドレスを着た美しい女性。けど、紅と黒を象徴したような姿は人間とは呼べるものではなく……
「アンタは?」
彼女の言動からして、俺の事を知ってるみたいだけど……記憶がないのだから、誰なのか分からない。こんな美人を覚えていないなんて馬鹿か、俺は!!
「忘れたのか!! ……いや、それも仕方ない。幾年の年月が経ったものな。我の名前はサタリア。古の魔王と呼ばれていた存在だ」
俺がサタリアの存在を忘れていた事に一瞬だけだが、悲しい顔をしたのが印象に残った。
「じゃなくて!! 何で俺を蘇らせたんだ?? しかも、こんな骨の状態で。お前……サタリアとの関係も聞きたいし。ここが何処なのかも。俺自身の事だ……って、おげげげ……」
「一度に質問が多いぞ。一つずつ答えていくから少し待て。それにしても私だけでなく、自身の事も記憶にないみたいだな」
サタリアは魔法の電撃で俺を黙らした。お蔭で頭蓋骨以外の骨がバラバラじゃなくて、粉々だ。彼女を怒らせたら、簡単に殺されそう……といっても、すでに死んでる状態なのか?
「まずはこの場所から教えるか。ここは奈落。光の届かぬ闇の奥底。自力では元に戻る事は不可能に近い場所。お前は殺され、ここに落とされた」
俺は単に死んだわけじゃなく、殺されたのか。それだけじゃなく、こんな場所に捨てられるなんて、余程の恨みがあったのか? 相手が誰なのか分からないけど、全然怒りが沸いてこない。
それよりも自力で地上に戻れない場所なのに、わざわざ俺を助けに来てくれたサタリアに申し訳ないというか……
「あの……こんな場所まで助けに来てくれたのに、復讐のために蘇らせてくれたのなら、期待に答えられないんだけど……」
次は頭蓋骨を破壊されて本当に死ぬとまで思ったけど、そこは素直に答える事にした。ここまで来てくれた事に対する誠意だ。
「ふははは……!! 相変わらずのお人好しだな。安心しろ。お前がそういう風に思わないのは分かっておる。記憶が無くてもそうだとすれば、筋金入りのお人好しだ」
彼女は俺の言葉に笑った。そうだ……サタリアは俺の事を知ってるのなら、そう答えると分かっていたのかも。
「そうだ……サタリアは俺の事を知ってるんだった」
「全てを知ってるとまではいかないが。お前とは約束があってな。我との関係は……後々思い出して貰おうか。お前は魔物として復活したのだ。記憶がないのなら、戻るまでは名前を変えようか。……骨の魔物だから、『ポン骨』というのはどうだ? 愛らしい名前だろ?」
ポン骨……響きは愛らしいけど、何故か馬鹿にされてるような感じにもなる不思議な名前だ。生き返らせてくれた相手だから、名付け親になるのも仕方がないかな。それに約束……その言葉がストンと頭の中に入ってきた。
「そ、そうだな。骨だから『ポン骨』……どういう文字なんだ?」
「なら、まずは【ステータス】という能力を与えようか。これは自身の状態が分かる力だな。頭に思い浮かべば、目の前で文字や数字として状態が表示されるぞ。そして、気になる能力はその文字に触れれば問題ない。勿論、それは他者には見えないから安心しろ」
サタリアの言葉通り、【ステータス】を頭に浮かべると俺自身の状態が文字として表示された。
【名前】 ポン骨(仮)
【種族】 スケルトン(頭蓋骨)
【パラメーター】
HP 5
MP 5
力 1
耐久 1
速度 0
魔力 1
器用 1
幸運 10
【能力】
【不死】=HPが0になっても時間の経過で復活。その代償に能力は低下する。
【補骨E】=アイテムとして手に入れた骨を取り込む事で自身を強化・劣化させる。ランクによって取り込める力に差が生じる。
【与骨E】=敵や仲間に自身の骨を与えて、強化・劣化させる。ランク、与える骨によっては別の効果も発動する。(頭蓋骨以外の骨がある時のみ発動可能)
【状態耐性◯】=毒や麻痺、魅了、盲目、沈黙を無効化。
初見なのに言葉の意味が分かるのも、サタリアの力なのか。それにしても能力は【能力】は別として、かなり弱いような……俺自身の体が頭蓋骨しかないのが理由なのかも。速度0なのも頷けるわけで……
「お前が骨の状態なのは月日が経過したからだ。だが、魔物の進化次第では元の姿になる事も可能だろう。そして、ポン骨には魔王となって貰いたい。これがお前を魔物として蘇らせた理由だ」
「……えっ!? こんなに弱いのに魔王!! サタリアが魔王じゃないのかよ。他に強い魔物とかいるだろ?」
「我は過去の魔王だからな。あまり干渉するわけにもいかないんだ。それに……強いだけでは駄目なのは歴史が物語っている。来るべき戦いにおいて、お前が魔王……大魔王になるべきなのだ」
サタリアは俺を滅茶苦茶買ってるみたいだけど、過去の俺はそんなに凄かったのか? 蘇った以上は何かをするべきだろうし……
「それは俺がサタリアとした約束に関係があるのか?」
「そうだな……今のお前の状態は本当にポンコツに過ぎない。だから、この【黄金の骨】……かつて、魔王と呼ばれた魔物の骨をやろう。次から自身の【能力】で手に入れてくれ」
サタリアが俺に向かって手を翳すと、新たな骨の体が形成されていく。その体はサタリアの言葉通り、黄金の色をしている。これは俺の【能力】の【補骨】にあたるものなのかもしれない。その結果……
【名前】 ポン骨(仮)
【種族】 スケルトン→ゴールデンスカル
【パラメーター】
HP 100
MP 100
力 100
耐久 100
速度 100
魔力 100
器用さ 100
幸運 100
とパラメーターがオール100になってる始末。パワーアップの幅が半端ない。流石、元魔王の骨だけはある。それによって種族がスケルトンからゴールデンスカルに変化もしているし。
「おおっ!! これは凄くないか」
手足を自由に動かせるし、簡単に骨がバラバラになる事はなさそうだ。
「これで魔王候補ぐらいなら容易に倒せるだろう。それでもまずは候補の一体を倒し、権利を勝ち取るのだ。その場所まで、我が飛ばしてやろう。そこでなら【能力】の使い方も覚えるはずだ」
魔王候補? 権利? 大魔王とも口にしてたし、魔王は一人だけじゃないのか? 聞いても……
「って、サタリアの体が消えかけてるぞ!! 大丈夫なのかよ!!」
「ポン骨が移動するために、そういう風に見えるだけだ。だが、無理をしたかと言ったら嘘になるがな。お前が魔王になった時には再会出来るさ。それまでは奈落から見守らせて貰おうか」
「それは」
俺が魔王になった時、サタリアを奈落から助けるという事なのか? その疑問をぶつける前に、俺はサタリアの魔法で転移させられてしまった。
これが俺の大魔王になる面白、おかしい物語の始まりだった。