あなたに好きだと伝えたい
「ずっと前から好きでした。一週間だけでいいので、付き合ってください」
そう言って、夕日に照らされた教室の中、赤い顔でこちらに手を差し出してきたあなたのことを、まるで昨日のことかのように思い出す。
八年経った今でも鮮明に覚えている。
同じクラスの、たった一週間だけの彼氏だったあなたのことを。
正直に言って、びっくりした。
同じクラスではあったけれど、あなたとの接点なんてそれだけだったから。会話をした回数なんて両手で十分足りるくらいだと記憶している。
だから、そんなあなたが私のことを好いていてくれたなんて思いもしなかった。
――どうして私のことを好きになってくれたの?
あなたと付き合ってから、何度聞こうかと思ったことか。
けれど、うるさいやつだと思われてしまうんじゃないかと思って、結局最後まで聞けなかった。
自慢ではないが、私は当時彼氏いない歴イコール年齢で、期間限定とはいえ、あなたが人生で初めての彼氏だったのだ。
だから、私のことを好きだと言ってくれたあなたに嫌われるようなことはしたくなかったし、聞きたくなかった。
でも、今はそれを後悔している。
こんなことになるなら、恐がらずに聞いておけばよかった。
そして、私にはそれ以上に後悔していることがある。
いつまでも悔やんでいたって仕方ないということはわかっている。けれど、そうは言っても簡単に気持ちの整理をつけられるものでもないのだ。
後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。
でも……でもね。
私、あなたに怒ってることもあるんだよ。
どうして言ってくれなかったの?
どうして「引っ越すから」なんて嘘をついたの?
どうして……私に告白したの?
あなたはわかっていたんでしょう? 近い将来、自分がどうなるのかってことが。
それなのにどうして、私に「好きだ」と告白したの?
こんなことなら、あの日、あなたの告白を断っておけばよかったんじゃないかって、そう思ってしまう自分がいて、自分で自分が嫌になるんだよ。
そんなこと思いたくないのに。
「ねえ、輝二」
私、大人になっちゃったよ。
四捨五入したらもう三十になっちゃう年齢だよ。
予定の日よりだいぶ過ぎてるよ。
これ以上、あなたとの年齢に差が出ちゃうのは嫌だよ。
良い夢でも見てるのかな?
だから、目を覚ましてくれないのかな?
だったら、今すぐにでもこのガラスを壊してあなたに強烈な一撃を食らわせて、無理矢理にでも目を覚まさせてやる。
……なんて、嘘。
そんなことしないよ。出来ないよ。
目を覚ましてくれないのは寂しいけど、でも、このカプセルのおかげであなたは今も生きられているのだから。
――ああ、でも。
「早く起きてよ」
また、あなたの笑った顔を見せてほしい。
想像の中じゃなくて、あなたの口から私の名前を呼んでほしい。
その声を聴かせてほしい。
「あなたが好きです」
あの時、口に出来なかった言葉を、あなたに伝えたい。