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私と彼等の日常は、あまりにも非現実的すぎる(正位置編)

我慢の使い方(力の正位置)

作者: 死神の嫁

己の限界を知ってこそ、他者との接し方が分かる

我慢の使い方(力の正位置)


「うぅ~……!」


 この日の私は、あらゆる事に対して相当我慢していた。それが遂に限界を迎えたようで、今猛烈にむしゃくしゃしている。


「主様、どうかしたの? 私で良ければ聞くから、落ち着いたら話して欲しいな」


 そんな私を優しく宥め、背中まで摩ってくれる彼女は、何処までも寛大な心を持ち合わせているに違いない。

 彼女の名は『力』の正位置。カード番号は8で、主な意味は『忍耐力・思いやり・コントロール』など。

 『力』と聞くと筋肉質な人物であったり、権力者などを想像するが、彼女の容姿は、幼女。話し方こそ落ち着いているが、仕草などに愛らしさがある為親しみやすく話しやすい人物である。

 そんな彼女の傍らには、百獣の王ことライオンがいる。どう見ても危ない組み合わせであるが、ライオンは彼女に懐いており、最近では大きな猫に見えなくもないと思い始めている。が、やはり恐ろしいので警戒心は抜けないままだが。


「力さん、こんにちは。実はね……」


 私は今の胸の心境を全て話した。殆どが愚痴だったにも関わらず、彼女は嫌な顔一つせず聞いてくれた。傍らのライオンは猫のようにお腹を見せてゴロゴロし、恐る恐る手を伸ばして触れると気持ち良さそうに目を細めていた。


「主様、どうしてそんな気持ちになったか分かる?」

「うーん……やっぱり私がまだまだ子供だからかなぁ。こんな事くらいで我慢出来なくなっちゃうんだから、もっとしっかりしないとね」

「……やっぱり、分かってない。主様は、我慢出来る事が大人で、我慢出来ないのが子供だと思ってる。でもそれは間違い、我慢の使い方を間違ってる」

「我慢の……使い方……?」

「我慢は自分を押し潰す行為じゃない、自分の意見を振り返る時に使うものだもの。思った通りに発言するより、言い方大丈夫かなって確認してから発言したり、相手のことを思ってオブラートに包んだりするでしょう?」


 力さん曰く、我慢は自分との対話の際に使うものであって、自分の意に反することに対して使うことではないのだという。自分自身の考えを、直ぐに形にしたいと思う気持ちへのストッパーが、我慢なのだ。要するに本来の我慢とは、『 我慢心せず』を指すもの。常に慢心せず過ごすことで良い判断に繋がる、その為に行う行為を指し示す。全ては自分の為に繋がる行いで無ければ、我慢の域を超えてしまう。今回の私も自身の持つ我慢の領域の範囲外に至った為、むしゃくしゃした気持ちになってしまったのだろう。


「正しい我慢の使い方を知れば、溜め込んだりしなくて良くなるわ。本当に自分が伝えたい事を、人が分かる形で伝えて欲しいなって思う。力は使い方によって、凶器にもなるし盾にもなるけど、使い方を間違ってしまったら身を滅ぼしてしまうもの……」

「そうね……権力とかもそうだけど、持っている人の使い方次第で大幅に変わってしまうものね。威圧して従わせたり、気に入らなければ暴力を振るったり……間違った使い方をしている人が殆どなんだね」

「力は使い方に決まりがないから、難しいの。常にその人の為になることに使われたいって思ってはいるけど、人を傷つける為とか従わせる為とかに使われるのは良い気持ちにならないから……」


 彼女はそう言って悲しそうにライオンの頭を撫でた。ライオンはそんな彼女を見つめ、口を開いた。


「力を使うものは、常に責任を持ち合わせなければ成り立たない。それを世の者は見て見ぬ振りをし、私利私欲に目が眩んでいる。何と愚かしい」

「……え、ライオンさんって喋れるの?」

「話せるよ。ライオンさんは百獣の王として君臨しているけど、王って権力の塊でしょう? 王が崩れたら下のものに示しが付かなくなるし、自然界が崩れてしまう。だから常に責任を感じながら過ごしているんだって」

「そっか……お兄さんもそんな事言ってたな。上に立つ者は覚悟が必要だって。何事も慎重にいかないといけないのね」


 我慢とは、我慢心せず。自分だけが正しいと思わず、一度自身と向き合う事が重要。それが本来の我慢なのだと、彼女と一匹は切なそうに呟くのであった。

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