異世界転生 ~追放物が大好きだったので俺もやってみた~
思いつきのお話です、細かい事を気にしない人向けという事で\(^o^)/
「はっ!」
唐突に目が覚めた。周囲を見てもまだまだ暗いから夜明け前だというのが分かる… しかしこれはどういう事なのか…
俺はカザル侯爵家の正室の子であり長男だ、現在10歳になる。
そしてたった今、何か別の記憶が頭の中で蘇った感じがした。落ち着いて記憶を探ってみると…
「そうか、俺は転生者って事なんだな?」
そう、蘇った記憶を辿ると俺は日本という国で生まれ育ったはずだ、そしてサブカルチャーとして転生物が流行したのも覚えている。
なんというか… 俺はそういうモノが大好きで、ゲームにしろラノベにしろ、果ては素人が書く投稿サイトまで覗いて読んでいたのだ。
「よし、記憶が戻る前の事もちゃんと覚えている。俺は侯爵家の嫡男で跡取り候補、そして俺には母が違う弟がいる。彼の名前はハリーで9歳だ」
よしよし、記憶は破綻して無いな?
ここはセントラル王国でパシフィック侯爵家、父親は軍務大臣をしていて母親はすでに亡くなっている。後妻は存命でその息子がハリー。後妻は俺を排してハリーを跡取りにしようと色々とやらかしてきているが、なんとか回避しながら生活をしていた…と。
「ふむふむ、しかし前世というか、記憶を取り戻した今であれば、特に侯爵家の跡取りに対して魅力は感じなくなってしまったな」
よし、こうなれば義弟のハリーに跡取りを押し付けて俺は追放でもされようかな。
この世界は前世の記憶の常識で言うと、剣と魔法のファンタジー世界だ。もちろん俺にも魔力があり加護も頂いている。
我がパシフィック家は父親が軍務大臣という事もあって、戦闘系の加護が持て囃される家系だが、残念な事に俺は空間魔法の加護を頂いた。
もちろん父親も空間魔法の有用性を熟知しているので俺が後継者として見られているが、ぶっちゃけ義弟ハリーの加護は剛剣士だ。
当然の如く義母はハリーの方が跡取りとして有能だとアピールしている。
「よし、そうと決まればアレだな… ちょっとハリーと交渉でもしてみようか。アイツも俺の事無能だのなんだの言ってるし、利害が一致するから乗ってくるんじゃないかな?」
そう… たった今考えた作戦、それを実行して追放してもらおう作戦を開始しよう!
そうして作戦を煮詰めていると夜が明けた。そしていつものように家族揃っての朝食、父親は仕事のために王宮に行く、侯爵領から王都までは馬車で3時間ほどなので、一度出ていったら次の休日までは帰ってこない。そして俺は剣の訓練の時間になった。
「作戦開始だ…」
体調が悪そうにしながら、剣の訓練で一緒だったハリーと打ち合い、何度も連続で負けてやる。
「なんだなんだ兄上、調子がどうのってレベルじゃないんじゃないか?」
「いやいや、ハリーの腕が上がっているから相手をするのも大変なんだよ」
ちょいと煽ててやるのを忘れない。
そうして訓練の時間も終わり、先生が帰っていくと必然的にハリーと2人きりになる。そこで今回の作戦を提案してみた。
「ハリー、ちょっと大事な話があるんだ、付き合ってくれ」
「なんだ? 兄上から話があるなんて… 何企んでいる?」
「ああ、ちょっと企み事があってな。お前にもぜひ協力してもらいたいと思ってな」
「ほぅ、兄上が俺を頼ろうっていうのか… いいだろう」
しかしコイツは生まれつき偉そうなんだよな、とても9歳の取る態度じゃない…が、その内家族じゃなくなるだろうからどうでもいいか。
訓練場の隅へ移動し、人目が無いのを確認した。よし、んじゃあ俺のために踊ってもらおうか!
「これはここだけの話だ、誰にも口外しないと誓ってくれ。もちろん義母上にもだ」
「ふん、まぁいいだろう。さぁ俺の協力が必要だという話を聞かせてくれ」
「ああ、これは俺の正直な気持ちだ。実は侯爵家を継ぎたくないんだよ」
「は? この侯爵家を? 軍部に強い権力を持ち、王家にすら重宝されているパシフィック家の力が要らないっていうのか」
「そうだ、俺の希望としては、早急に父上に見放してもらい追放されたいんだ」
「…… なんだ、兄上ってマゾなのか? わざわざ侯爵家の立場を捨ててまで平民落ちがしたいって…」
「いやいや、物は考えようだぞ? それに… お前としては跡継ぎになるためには俺が邪魔でしょうがないだろ? 利害が一致すると思うんだがな」
「確かに利害は一致する、俺はこの家を継ぎたいからな」
「だからだよ、何も知らない同士で潰し合いをして何かしくじってしまうくらいなら、お互い協力していった方が、お互いの望みが叶うと思わないか?」
「むむ… 確かに俺にとってはいい話過ぎるが、はっきり言ってそんな戯言を信じる程俺は甘くないぞ?」
「もちろん信じられないならそれで構わない、ただ俺が家を出るために行動しているって事を知っていて欲しいんだ。お前は今まで通り俺の事を無能だと蔑めばいい、俺は俺で無能を装って今後色々と失敗していくから」
「ふむ… つまり事情を知っているというだけで、特に生活ややる事は変わらないって事か?」
「そうだ、毎日俺と稽古していたお前なら、俺が手抜きをして無能のふりをしていたらすぐに気づくだろ? 何も知らなければ、俺が何か良からぬことを企んでいると警戒すると思うんだ。そしてそれが切っ掛けになって何か失敗する可能性だって考えられるだろ?」
「確かに… 兄上が急に弱くなったら疑うな…」
良い感じだ、いつも俺を睨みつけているハリーの厳しい視線が消え、目から悪意を感じなくなってきている。もう一押しだな…
「だろう? だからこその協力体制なんだ、ハリーは今まで通りにしていれば良い、俺が勝手に自滅していくから。父上だって能力があって向上心のある奴の方が重宝すると思わないか?」
「うん… そうだと思う」
おっとー、なにやら口調まで変わって来たぞ? コイツ… こうして見ると結構可愛いじゃないか!
「まぁそんな訳だ、俺はこれからどんどん手抜きをしていって評判を落とそうと思う。それでお前は大っぴらにアイツがどうのとか父上に言いだすと、相手を貶めようと躍起になっていると思われる可能性があるから、「頑張っているようだけど、これ以上はついて来れないようだ」 こんな感じで父上に告げ口をしてくれ。そうすればお前の評価が下がる事も無い」
「しかし兄上、それでは俺の方が得るものが多くないか? 兄上が得をする気がしないんだけど…」
「いや、俺はこの家から出られればそれで十分だからな。まぁどうしても気になるって言うなら、追放された時、金貨の1枚でも餞別でくれればいいよ。まぁさすがに着の身着のままで放り出されることは無いと思うが、旅をするならお金はいくらあっても困らないしな」
「しかし… いや、いいだろう、その話乗らせてもらう。それがお互いのためになるなら」
「ああ、交渉成立だな、よろしく頼むよ」
俺はもしかしたら初めてかもしれない握手を義弟としたのだった。
それから数ヶ月経った。
ハリーとは逐一打ち合わせを重ね、今更だけど随分と仲良くなった気がする。ハリーも俺の意を汲んでくれて、さり気なく悪意が無いように父上に告げ口を続け、俺も剣の稽古ではかなり真面目に手抜きをする事により、剣の先生からも報告が上がるようになっていった。
そしてトドメは… 俺の加護である空間魔法が使えなくなったという嘘を吐き、ハリーを通じて義母上の耳に入れた。
それを聞いた義母上は、大喜びで父上に告げて俺を貶めるために囀ってくれた。
そして… この作戦を考えてから1年後、とうとうその時が来た。
夕食の席で父上からその話題を出されたのだ。
「バートンよ、お前の事は色々と聞いておる。儂もお前の父である以上に王国に仕える侯爵家の当主だ、我が家の名に泥を塗る事は、血縁よりも優先して排除していかなければいかん。
もう儂が何を言いたいか理解しただろう? 当家から加護を失った者を出すわけにはいかん、お前は今後パシフィック家の名を名乗る事を禁じる。そして明日中にこの家から出ていってもらう、家からと言ったが、パシフィック領からの追放だ。いいな?」
「はい… 承知しました」
俯いてショックを受けているように演技をする…が、義母上? このしんみりした空気の中なのに顔が緩んでいますよ? それに肩を震わせて… 笑いを堪えているんでしょうけど、ある意味涙を堪えているようにも見えるからセーフか。
「バートンよ、お前の部屋にある物は、持ち運べる範囲であれば持ち出す事を許可しよう。セバスよ、バートンに領から出られる程度で路銀を用意して渡すようにしろ」
「承知しました、旦那様」
部屋の物の持ち出しを許可してくれるなんて、さすがは侯爵家の当主だな。しかし俺の空間魔法は使えなくなったっていう事になっているので、適当な鞄に詰め込むとしよう。
そんな感じで重苦しい夕食が終わり、俺は部屋の整理を始めた。父上から言われた出奔の期限は明日の昼まで、まぁそれだけ時間があれば十分だ。
とりあえずいくらもらえるかは知らないけど、領を出る程度の旅費はくれるというから無理して金目の物を持ち出す手間は省けたな。
「とりあえず着替えと剣と、俺個人が持っていた小遣いっと」
鞄に色々と詰め込み、見た目だけの支度を済ませていく。もちろん空間魔法にも色々と放り込んでいく。魔法の本とかね… 本とかは重いからさすがに鞄には入れられない。
コンコン
ノックの音がして返事をすると、ハリーが入って来た。
「兄上、本当にこれで良いのか? これだけ兄上を追放するために行動してた俺が言うのもなんだけど」
「ああ、これで良いんだ。お前のおかげで俺の望みは叶った、お前も侯爵家を継ぐための努力は怠るなよ?」
「もちろんだ、これこそ俺の望みでもあるからな。後は… これ、前に約束していた餞別だ」
ハリーが差し出してきたのは小さな革袋。どう見ても財布代わりにしている物だった。中を見ると金貨が10枚ほど入っていた。
「おいおい、金貨1枚寄こせとは言ったけど、これは多いんじゃないか?」
「実はな、夕食後に母上に話したんだ。1年前に兄上と話し合った事、お互い話し合ったうえでの今回の結果。だから母上にも餞別を出してくれって頼んだんだ」
「なるほど… まぁセバスからも明日にはもらえると思うが、これだけあれば安心して旅立てるな」
「兄上、侯爵家の事は俺に任せてくれ。兄上はこれから自分のために好きな事をやっていってくれ」
「ああ、そうさせてもらう。お前も体には気を付けるんだぞ?」
あれからすっかり棘が無くなったハリー、コイツもちゃんと努力している事だし侯爵家は多分安泰だろう。
ガッチリと握手を交わしてハリーは部屋を出ていった。俺の方も準備は終わったし、明日のために早く寝るかな。
翌朝、朝食の時間の前に旅支度を終えたので玄関へと歩き出す。
ハリーを含め、侯爵家の面々はまだ寝ているんだろう。使用人だけがせわしなく動き回っている、その中で執事のセバスが俺と目が合い、俺の前へとやってくる。
「バートン坊ちゃん、旦那様から言われていた物です、どうぞお気を付けて」
「ありがとうセバス、長いこと世話になったね。俺は大丈夫だからハリーの事、よろしく頼むね」
「もちろん承知しております、ハリー坊ちゃんも見違えるように逞しくなっておられるので大丈夫ではないかと存じます」
俺はセバスに手を挙げ、玄関の扉を開いた。
朝日が差し込み、俺の門出を祝福してるかのような良い天気。
さぁ今から俺の自由が始まる… 前世の知識を使って有意義に暮らしていってやろうじゃないか!
今日からはただのバートン、家名は無い。11歳の俺には一人旅は大変だろうけど、自由って奴を満喫するぞ!
でも、家を出る事に本気を出してたせいで、これからの事全然考えてなかった… まぁいいか、やっぱり定番の冒険者にでも登録してやるか。
それじゃあな!