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エピローグ 私達のハッピーエンド

 ニーナさんが光ルートを選んだことで、竜の加護が解けることはなく、翌日からも今までと何の変哲もない日々が過ぎていく。


 変わったことといえば、イリスさんとお友達になったことで王子の嫉妬相手が増えたことだろうか。

 彼女は呆れつつ、自然な形で婚約者になる前のような関係に戻れたことを喜んでいるようだった。


「私ね、幼なじみとの婚約が決まったの」

「おお! おめでとうございます!」

「彼、ずっと私のことを気にしてくれていて、社交界から遠ざかっている時も手紙をくれていたのよ」


 イリスさんは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら「私もずっと好きだったの」とこっそり耳打ちしてくれた。彼女の婚約者があのスタンダードなヤンデレこと王子の幼なじみだと知った時は思わず大丈夫なの? と心配してしまったが、案外温和な人だった。今まで遠巻きに見ていたのも、いきなり連絡が取れなくなった王子を心配してのことだったらしい。イリスさんに紹介された後は、顔を合わせる度に王子の近況ばかり聞いてくるようになった。イリスさんと同じ、世話焼きな人らしい。ちゃんと食べているのか? と食べ物を差し入れてこようとする辺り、彼女の上を行くかもしれない。もしかしてイリスさんの世話焼きって彼から来ているんじゃなかろうかと思うほどだ。まぁ何はともあれ、お似合いの二人であることには変わりはない。


「またイリス達と話していたそうだな」

「仲良くして頂いております」

「俺の方が仲がいい!」

「夫婦とお友達じゃ違うでしょう」

 頬をぷっくりと膨らます彼の頭を撫でながら「一番はあなたですよ」と告げれば、頬から空気は抜けた。代わりに緩くなった頬を私の手に擦りつける。


 本当に、変わったよなぁ。

 出会う前の、イリスさんと婚約者だった頃のフレインボルド王子のことを、私は知らない。

 けれどバラ園で出会ったばかりの彼はこうも甘えん坊ではなかったはず……いや、待てよ? 会って数回でお腹を見せてくれたのはデレデレだったのではないだろうか。堪能するので頭がいっぱいだったけど、特大サービスよね?


 帰りの馬車で揺られながら、割と序盤から王子は私にあまあまだったな~と気付く。本当に今さらだけど。


「あ、そうだ。アドリエンヌ、プレゼントがあるんだ」

 王子はそう告げると私から一度離れ、バッグをガサゴソと漁る。そして大きめのプレゼント袋を取り出した。

「開けても?」

「ああ」


 王子の瞳と同じ色の黄色いリボンを解く。


「コート?」

 中身はフレイムさんのうろこと全く同じ色のコートだった。ボタンに王家の紋章は入っているものの、余計な飾りはなく、ポケットは深め。手首少し上までズボッと入りそうだ。生地自体は厚手だが、重くはない。だが学園に着ていくにはやや派手すぎやしないか。お出かけ用か何かかな? 掲げながら用途に首を捻れば、王子はふっふっふ~とわざとらしい笑みを浮かべた。


「ただのコートじゃないぞ。騎竜用の特別製だ」

「もしかして、乗せてくれるんですか!?」

「乗せるのはアドリエンヌの卒業後な。だが綱は来年の進級式に、鞍は卒業式にプレゼントする予定だ」

「生殺し……」


 なにその段階式……。

 どうせなら貯めておいて一気に放出して欲しかったわ。

 まだ二年も先かと頬を膨らます。


「それまでに俺も空を飛ぶ練習をしておく」

「私の他に誰か乗せちゃダメですよ?」

「当たり前だ。俺はアドリエンヌ以外に背中を許すつもりはない」

「なら、我慢します」

「俺も楽しみだ」


 影のなくなった瞳は優しげに伸びていた。




 そして王子とニーナさんの卒業式。

 彼女は二体のドラゴンと共に挨拶に来てくれた。


「ニーナさん、あなたはこれからどうするの?」

「ゲームは無事クリア。学園も卒業できて薬師認定書も取れましたし、王子と学園から推薦状を頂いたおかげで薬の売り歩きの資格も手に入れたましたので、育ち盛りのドラゴンと、大食らいなドラゴンに食わせるためにバリバリ働きますよ! 国認定の薬師となりましたので、またお会いするかもしれません。その時はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくって、クリアしたの!? おめでとう!!」

「はい、私のクリア条件は審判の成功と卒業でしたので。さっきやっとクリアアナウンスが流れました。アドリエンヌ様はクリアアナウンス流れました?」

「アナウンス?」

「その反応はまだなんですね……。条件を達成すると脳内アナウンスが流れるんです。そしてこの世界に残るか、ギフトの残り枠を活用して転生するかを選べるんですよ」

「ニーナさんはこの世界に残ることを選んだのね」

「彼らを放置したまま転生できませんから。家族みたいなものなので」

「そう」

「はい。では、アドリエンヌ様のクリア、お待ちしております。あなたの未来に幸あることを」

「ありがとう。ニーナさんもお幸せに」


 手を振り、彼女の旅立ちを見送る。

 それにしても私のクリア条件ってなんなんだろう?


 私が何度も記憶をリセットして戻った原因。

 毎回殺されていたのかな? だけどニーナさんは過去に私の卒業式参加を確認しているみたいだし……。



 うーん、と考え続けること二年半。

 謎が解けたのは卒業式の数ヶ月後に行った結婚式でのことだった。


 ピコーンと懐かしの電子音と共に私の前には文字が現れる。



 * * *

【クリア】 悪役令嬢 アドリエンヌ=プレジット

 達成条件:フレインボルドに人を殺させず結婚式を行わせること ※プレイヤーの生死は問わない

 リセット回数:28回

 ギフト使用:1個

 ギフト残量:5個

 * * *


 28回って、私こんなにやり直してたんだ。

 理由はあまり知りたくないけれど、この世界のフレインボルド王子が人を殺していないことにとりあえず胸をなで下ろす。


 そして一番下に、私の運命を決めた時とよく似た選択肢があった。


『このままゲームを終了し、転生を希望しますか? YES/NO』


 人生二度目の選択はきっと今回も私の運命を大きく動かすことだろう。

 けれど今回も私は迷わず画面をタップした。


「NO一択よね」

 画面が消えたのを確認してからお腹を撫でる。

 真っ赤なウェディングドレスに膨らみはないが、ここには私と王子の子どもがいる。妊娠が発覚してすぐに胎生か卵生かと真面目な顔で聞いたら、俺はドラゴンじゃないからな!? と焦った王子に肩を揺さぶられた。そもそも加護持ちの子どもが加護持ちとは限らないらしい。


 産まれて来る子どもは加護持ちか、それとも加護なしか。どちらかはこの手に抱くまで分からない。けれどどちらでも良かった。


 私にはこの子と王子を残して人生を終えることなど出来なかった。

 沢山残っているギフトとやらが使えなくなったとしても、後悔はない。


 卒業後すぐに妊娠が発覚したため騎竜はしばらくお預けとなったが、子どもが出来た後の楽しみが出来たと思えば辛くはない。


「何か言ったか?」

「いえ、何も。ただ、幸せだな~と思って」


 記憶がリセットされていたせいで、ゲームをクリアしたという実感はない。

 今後何か他の障害が出てくるかもしれない。


 それでも今が幸せだから。

 フレインボルド王子に手を伸ばせば、彼は不思議そうに目を丸くしながらも頭を差し出してくる。


「これから、ずっと一緒ですね」

「何をいまさら」

「いいじゃないですか。何度でも確認させてください」


 気持ちよさそうに細く伸びた瞳に映し出されるのはいつだって私だったから。

 心配になったらまた何度だって確認しよう。


「俺の気持ちが揺らぐことはない」

「私もです。好きですよ、フレインボルド王子」

「俺もアドリエンヌだけを愛している」

「その愛情を子どもにも注いでくださいね?」

「当たり前だ。嫁にも婿にもやらん!」

「そこは子どもの幸せを願ってくださいよ……」


 少し愛は重いが、そんなところも私の愛した王子様である。

 執着と背中合わせの彼の愛情は一生かかっても枯れることはないだろう。


(完)


最後までお付き合いいただきありがとうございました!


本作は短編から来ました!と言ってくださる方も多くて、短編から入った方にも連載から入った方にも楽しんでもらえるお話が書けていたらいいなと思います。また結末や展開が少し違うので、短編の方が好きだった……と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、どちらも好きになっていただけたら嬉しいです。


面白いと感じていただけたら、下部にある★(評価ボタン)を押していただけると嬉しいです。


ドラゴン万歳!!

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