表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/28

第十五話 離れている時間

 フレインボルド王子が学園に入学すると、本格的に私達の交流はグッと減った。

 学園入学と同時に夜会への参加が認められたというのも大きいだろう。顔見せも兼ねて、夜はいろんな家の夜会に参加しているようだ。週末も会えないことが多く、会えても数時間。疲れてすやすやと眠るフレイムさんの背中を撫でるだけで終わってしまうことが多い。少し前まではそれで十分満足出来ただろうに、お話も出来ず、サンドイッチを作る機会もなくなった。


 この数年、ずっとフレイムさんと一緒にいることが当たり前になっていたため、めっきり暇になってしまった。仕方ない、勉強でもするかと両親に頼んで家庭教師を付けて貰うことにした。勉強なんて嫌いだったのに、ファンタジーの世界となると別だ。歴史一つとっても魔法や魔物が絡んでくる。


 特にこの大陸は長い間ドラゴンと共に歩み続けてきた。水の国は水竜、土の国は土竜、風の国は風竜、そして私達の住む火の国は火竜と共に。アッセム国がそうであるように、他の三国も長い時を経て他の名前が付いたらしいが、今でもこれらの名称が使われることがあるようだ。またそれぞれ違う属性のドラゴンが住む四つの国だが、ドラゴンに対する見方もまるで違う。


 家庭教師によれば、500年前を境に火竜と土竜は姿を消し、水竜は神として崇め奉られ、風竜は邪神として恐れられるようになった、と。


 おそらくフレイムさんが頑なにドラゴン姿を隠しているのと同じように、火竜や土竜はドラゴンであることを隠すようになったのだろう。


 でも人に変化出来るようになった? 人がドラゴンになれるようになった? のはいつからだろうか? 


 500年前を境に~ということはその前からドラゴンは存在したのだろうし、水竜や風竜が神になるだけのきっかけも何かしらあったと思われる。なんだろう? 先生に深く聞いてみようと思ったが、彼はあくまで歴史の先生でドラゴンは専門分野外らしい。宗教学もしくは風俗のカテゴライズにあたるようだ。先生はすまなさそうに頭を下げる。


 けれど諦めきれない私は、父に頼んでいくつか本を取り寄せて貰うことにした。



「フレインボルド王子はドラゴンが好きなのか?」

「え?」


 なぜここで王子の名前が?

 父はフレインボルド王子がドラゴンになれることを知らないはずだ。どうして王子とドラゴンを関連付けたのだろう? 首を傾げれば、父は不思議そうに言葉を続けた。


「ブラシを欲しがったのも、王子との会話のネタが欲しかったからだろう?」

 ああ、なるほど。ブラシと手袋から関連付けたのか。今後、ドラゴン関係の物をねだる時に役立ちそうだと、勝手にフレインボルド王子をドラゴン好きという設定にしておく。

「そうです。なので、ドラゴンの本を何冊か……」

「分かった。どのドラゴンに関する本がいいんだ?」

「とりあえず全部」

「そうか。すぐに用意させよう」

「ありがとうございます!」


 ドラゴン本ゲットだぜ!!

 心の中でガッツポーズを決め、ささっと父の書斎を後にする。父が一体何冊取り寄せてくれるか分からないが、とりあえず本が届く前に家庭教師から出されていた宿題をこなす。



 父は約束通り、ドラゴンに関して書かれた本を何冊も用意してくれた。

 翌朝に二冊届けてくれたため、それで終わりかと思えば定期的に新たな本を棚に追加してくれるようになった。


 学術的な本から冒険小説、絵本や宗教本まで様々だ。神と崇め立てられる水竜に関するものが多く、姿を消した土竜に関しての情報は少ない。また前の二竜とは打って変わり、風竜と火竜はなぜかドラゴンよりもドラゴンの周りにいる人達を描いたものが多い。同じ竜でも住んでいる国や周りの環境によってまるで違うらしい。



 だがどの物語にもほとんどと言っていいほどに登場するキャラクターがいる。それが『竜の巫女』だ。



「ふむふむ、100年に一度、竜の巫女が現れると。タイミング的に癒やしの巫女と同じね。同一人物と見ていいかも? ドラゴン達が神になったタイミングもちょうど巫女がいる時か。それに多分今もいる。力の発現はちょうど二~三年前っていうと私とフレイムさんが会う少し前辺りか」


 癒やしの巫女とは、ヒロインがプロローグ少し前で開花させた特殊な力を持つ者の総称である。この力を手にしたため、彼女は学園に入学することになる。まさかドラゴンと関わりがあるとは思わなかった――いや、オープニングムービー的に不思議ではないか。


 どこかで四竜と関わり合いがなければあのシルエットを出す必要がない。こうして四竜について興味を持ったのはたまたまというか、私の好み的な問題ではあるが、深く掘り下げていけば死亡回避に繋がるかもしれない。


 好きなことを調べながらの方が心理的負担も少ないし!

 父が買いそろえてくれた本で埋まった棚を眺めながら、生存ルート確保のためなら読書時間が増えても仕方ないよね~と頬を緩ませる。


「この火竜信仰っていうのが気になるのよね~。地域が王都に固まってはいるものの、水竜と同じかそれ以上の信仰が集まっている。なのになんで水竜みたいに神にはならなかったんだろう? 強すぎる信仰から逃げたかった?」


 以降も日々追加されていく本を手に取る。新しい本がなければまた同じ本を繰り返し読む。父にノートも追加要求し、大事な情報と本ごとの違い、四竜の違いを書き込んでいく。けれどどの本にも一番知りたいことは書いてなかった。


「この本にも人になれるドラゴンについての記述がない、か」

 王族と関連づけずとも、一冊くらい、それこそ創作物語であっても書かれた本があると思ったが、今のところ全敗だ。


 ドラゴンは神となったか、消えたかの二択。

 この世界には四竜の他にもドラゴンが存在するらしいが、野生化しているもしくは人間に使役されているドラゴンのどれもが四竜とは別の属性を持つか、無属性の個体らしい。父が私に与えてくれたブラシは、使役されているドラゴンに使用されているものだ。中でも最上級のものを用意してくれたようだが、王子の部屋に置かれた特注品とは少しだけ形が異なる。おそらくあれは火竜専用に作られたものなのだろう。


 それにしても姿を消したドラゴンは皆、王子と同じように人になっているのかと思ったのに、それに関する本が一冊もないというのも可笑しな話だ。


 フレイムさんのように幼体ならいざ知らず、成体になった彼らが生涯姿を見られずに済むなんてあり得るのだろうか。箝口令を敷いたところで抜け穴なんて絶対どこかに存在する。実際、私とフレイムさんとの出逢いがそうだ。あれは偶然以外の何者でもないが。それでも事実は事実。一つの事象にカウントされる。私がたまたまドラゴン好きであったため、口外することはないが……。だが王家の人間はともかくとして、ブラシなどのドラゴン用品を納品している人間は、城でドラゴンが飼われていないことを不思議に思わないものなのだろうか。それとも私が知らないだけで、一部では王家でドラゴンを飼っているらしいという話は有名なの?


「謎だわ……」

 新たなページにペン先を落とす。けれどそこからスタートして生み出される文字は一つもなかった。



「来月は忙しくて、まるまる時間がとれそうにない」

「まぁ顔見せの時期ですからね」

「すまない」

「仕方ないですよ。私だって分かっていますから」


 頭では納得しなければいけないと分かっていても、身体は存分にフレイムさん充電に励む。だって来月は忙しくて、って今のタイミングで伝えるということは今月ももう会えないかもしれないのだ。本でもドラゴン成分を吸い取っているからか、以前よりはドラゴン不足で伸びることはない。だが、ドラゴンはドラゴン。フレイムさんはフレイムさんなのだ。ぎゅうっと強めに抱きしめれば、寂しさがフレイムさんにも伝わったのか、私の肩に頭を載せて擦り寄せてくれた。

 けれど帰りの時間が近づいた頃、フレイムさんは不思議なことを言い出した。


「なぁ人型になってもいいか?」

「なぜです?」

「なんとなく」

「理由も言えないんだったらダメです」

「……そうか」


 限りある時間、フレイムさんを堪能したいという思いもある。だがそれ以上に、フレインボルド王子に休んで欲しいという思いが強い。なにせ私と一緒か一人きりの時間以外、基本的に彼は人型でいなければならないのだ。他に心を許せる相手がいるかもしれないが、それでも気を張り続けている時間の方が長いに違いない。私が戻ったら彼はまた人に戻る。昼間は授業で、夜は夜会。詰まったスケジュールの中で少しでもまとまった時間があれば、こうして空けてくれていることくらい理解している。ドラゴンの姿でいるのが楽なのであれば、私の前でくらい楽にして欲しい。


「そういえばフレイムさんって学園にお友達っていますか?」

「友人、といえるかは分からないが幼なじみが同学年に一人。そいつを抜きにしても総合科は貴族ばかりで半分以上が知り合いだな」

「幼なじみさんとは仲が良いんですか?」

「学園に入学するまでは少し疎遠になっていたが最近はまぁ……なぜそんなことを聞くんだ?」

「王家の方と私以外にも王子がドラゴンになれることを知っている方がいるのかと思いまして」

「それは……」


 言いよどむ姿に何かあるのだろうとは思う。だが核心部分に近づけるほど心を許してもらえていないって感じかな。踏み込みすぎるのも良くない、か。ここはトモちゃんの一推し、ヤンデレ幼なじみさんとフレイムさんとの距離が少し空いていることに喜ぶべきだろう。

 ただでさえ疲れている彼にこれ以上負担をかけるのは止め、さっさと話を終わらせてしまう。


「フレイムさんと一番仲良しなのが私だと嬉しいです」

「それは間違いない」

「良かった~」


 笑顔を作ってなでなですれば、フレイムさんの身体からはわかりやすいほどに力が抜けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ