目覚めと腹痛
時間が無いを言い訳にしないよう、短めでも出せるところを出すことにしてみた。
遥か上空から降ってきた物体が、大空を飛んでいたはずの鳥にぶつかる。
自身よりも上空、それも遥か彼方から降ってきたように見える"それ"に気付く間もなくその鳥は衝撃で息絶えた。
"鳥だったもの"を巻き込んだことでバランスが崩れ、落下に最適だった姿勢が崩れ速度が落ちた。
近くには街もあったが、その物体は街の隣に広がる広大な森、その中でも比較的大きな木に向かって落ちていく。
何本もの枝を折りながら落下速度を少しずつ落としていき、あと2本折れたら地上、という太い枝の上で物体は止まった。
不思議なことに、この落下を見ていた者は発見されず、その"物体"が目を覚ますまで誰もその存在を感じ取れなかった。
辛うじて、散々な被害に遭ったその木だけは、迷惑そうに枝葉をざわつかせつつ更に大きくなるための成長を始めていた。
―――――
目が覚めた。腹が痛い。木の幹がすぐ横に見えている。
いや、そもそもなぜ木の上にいる?痛い。ついさっきまでギルドハウスにいたはずだ。確かヌノオリと変な組織の話をしていて襲撃を食らって・・・いや、今はこの激痛をなんとかしたい。
なぜこんなに・・・。待て、よく見たら枝が少しずつたわんでいる気がする。まさか枝ごと落ちるのか?これ以上の激痛は勘弁だ。
「降りる、降りるから、頼むからもう少し耐えてくれ…」
見たところ幹はそれほどざらついていないのに、ずいぶんと腹に何かが食い込む感覚がある。まるで爪でも食い込んでいるような・・・
慎重に腹にかかっている体重を減らし、枝の根本に向かって仰向けになるように姿勢を変える。
・・・気が付いたらたわんでいた枝が止まっている。根本に向かって移動したお陰で耐えているのか?
元々暗殺を仕事にしていたことで布服だったのが駄目だったらしい。手で探ってみたら大型の爪・・・この食い込ませるためにあるような先端が3本に分かれている形は、ウィングバードか?
なぜ木の枝に引っかかっている俺の腹に・・・俺はどこから枝に引っかかった?まさかウィングバードが飛んでいるほどの上空から落ちたということか?なぜそれで生きている?普通ならロストして蘇生されていると思うんだが。
・・・やばい、枝がまたたわみ始めている。とりあえず降りるための・・・最低限回復しておきたい。ここまでの怪我を治すのは専門職じゃないと難しいが、多少の回復ならいけるはずだ。腹に意識を集中する。
「【ヒール】!」
よかった。それなりの力を込めたらしっかり回復できた。これで少しは腹に力を込めても大丈夫だろう。
腹に力を込めて仰向けだった状態から上半身を持ち上げる。背中が枝に乗っている状態だったから、自然と前に向かって落ちていく。
勿論そのまま落ちるつもりはない。落ちていく地面に集中して・・・
「【エアバブル】」
空気で出来た泡を作る。勿論俺の体重ですぐに割れるが、そのまま落ちるよりは遥かに落下速度を軽減できる。
こうしてなぜか木の上で目が覚めた俺は、無事とは言えないが見事に地面に降り立つことができたのだった。
たわみかけていた枝はまるで何もなかったかのように上を向いていた。ここから見ると少し頼り気無いのだが、自力で降りるまで支えていてくれたのは事実だ。この枝には感謝しておこう。
さて、なんとか降りることができたわけだが・・・ここは完全に森の中らしい。どこを向いても木が生えている。
確かにギルドハウスで意識を落としたはずなのに、なぜ森の中に、それもウィングバードが飛んでいるほどの上空から落ちたのか。そもそもあの時ヌノオリも一緒にいたはずだが、今は見当たらない。何がどうなっているのか、把握する必要があるだろう。
・・・だが、微妙にまだ腹が痛む。
ヒールはライトヒールの上位で、基本的な回復魔法。
エアバブルは空気系統の中では中級。泡=球の形をいびつにならないように念じる必要があるため。
基本的に力を加えれば多少の抵抗はあれど割れるため、危険感知用や海中での呼吸用に使われる事が多い。
弾力のある板状の空気を作るエアマットという魔法もあるが、これは上級の部類でガーランドは習得していない。