序文-暗殺ギルドの殲滅
定期更新という概念は存在しません。
そして主人公の名前が決まりました。
主人公格の名前って難しいですね。もっと違う名前でもよかった気がしますが、一度付けた以上はこの名前でいきたいです。
2020/05/09 最初に登場した使徒人6人の説明を追加、魔法麻痺弾が追加されたのを「昨日」から「一昨日」に変更、細かい文の修正をしました。昨日の今日で新武器を使うっていうのは、カゲノウタゲに準備期間とか機能を確認する期間が無さ過ぎるなーと思ったので。一昨日追加された武器を昨日までかけて効果を確認して、今日使ったという感じで。
Life Of Live Or Die。そこまで古くも新しくもない第二十二国家フィルダでは「生死」で通じるVRMMORPGだ。
頭文字をとったLOLODの略、ロッドを直訳して「杖」と呼ぶやつもいるが、初心者には伝わらないうえ、実際に杖がアイテムとして存在するため廃れていく。
それに、この国は他と比べると治安が悪い。物事を知らない初心者を騙してレアなアイテムを安く買い取るようなやつもいるし、大規模な暗殺ギルドもわかっているだけで3つある。小規模・中規模も入れるなら17だったか。すべての暗殺ギルドが悪というわけではないが、掲示板で「知り合いがいないなら他の国にしろ」と言われるぐらいだ。そんな国では「杖」よりも「生死」のほうが似合う。
いつか杖が似合う日が来るといいが。目の前の敵を倒し終わり、ふとそんなことを考えていた。そこにギルドメンバーのサリナから通信が来る。
「牛と魚、食べてきたよー。美味しかった~」
「そうか。なら次は山羊でも食ってこい。こっちも美味いリンゴを食い終わったとこだ」
「わかった~。じゃあ終わったら帰るね~」
「ああ。こっちは先に帰ってるぞ」
「はーい。んじゃね~」
牛は第3都市カラビナ、魚は第2都市フェロルドといった具合に、都市名を表している。敵に伝わるリスクを減らすために使っている暗号だ。牛、魚、山羊、リンゴが今回潰している中規模暗殺ギルド「アサシナ」の活動拠点、「食べ終わり」は制圧完了、「美味しい」は全員捕縛、逃亡無しになる。
サリナや俺・・・ガーランドが属しているのはギルド「サイレンス」。外では諜報活動が主体の暗殺ギルドと言われているが、実際は諜報と対人戦闘が専門の、暗殺ギルドの実態調査と殲滅を目的にしたギルドだ。
第1都市アミラの活動拠点を制圧した俺は、その場にいた仲間にも帰還を伝え、殺したギルドマスターの証、アサシナのギルドストーン、倉庫にあった森ウルフの皮30体分と真珠50個をアイテムボックスに入れてからサイレンスの本部に戻る。
本部に戻ると、中にいたフロスキーが声をかけてくる。
「おかえり。結構早かったわね」
「情報が正確だったからな。ギルドストーンも持って帰ったし、後はサリナが帰ってきたら終わりだ」
「おっけー。お疲れ様。使徒人13人いるみたいだけど、行くのかしら?」
「そうだな。証拠もギルドストーンも揃ったし、早い方がいいだろう」
「了解。連絡はこっちからしておくわ」
「わかった。行ってくる」
連絡をフロスキーに任せ、2階の転移門で「使徒人の場」へ向かう。
使徒人の場は国で二十人いる二十使徒人しか入れない空間で、使徒人同士の交流や、高難易度モンスターの討伐決定などを行う場だ。運営への連絡もここでしかできない。面倒なようだが、他のプレイヤーが些細なことで運営に連絡を取れないようにするための措置らしい。
使徒人の場へ入り、中央の間に行くと既に6人の使徒が待っていた。
双剣使いでひたすら獲物を切り裂く殲滅力で使徒人になった男、第三使徒レンザン。双剣は腰の赤い帯の両脇にある鞘に仕舞ってあるらしい。あの男が双剣を出してないとは、よほど真剣らしい。
軽くて丈夫な革装備で信頼を獲得し、現在は布装備を開発中だという女、第五使徒ヌノオリ。開発中だと聞いていたが、本人は白地に赤いバラの花柄のセーターを着ている。あの赤は・・・東に生えているバラモドキの花の色か?
槍二本を双剣のように使い1人でイビルドラゴンを倒した男、第九使徒メルザ。イビルドラゴン討伐後は使う武器をコロコロと変えているというが、今日は短刀を2本持っていた。そういえば弓やブーメランを使うところ見たことがないな。遠距離系は苦手なのか?
最大規模の商人ギルドのギルドマスターを務める男、第十三使徒リクノジョーズ。先月ハイポーションの完全自力開発に成功して売り上げが順調のはずだが、相変わらず本人は緑の革鎧に護身用の短刀1本と質素な見た目だ。
初心者向けの手ごろな武器・防具を量産させた女、第十五使徒カサイ。ここに鍛冶台も細工台も無かったと思うんだが、相変わらずやっとこ、ヤスリ、ハンマー・・・今日はピッケルも持っているな。採掘スキルでも上げ始めたのか?
材料調達から調理まで一人でこなす料理師の女、第十九使徒ギンナン。たしか半年前に、農業が盛んな第十四国家に行くと言っていたが、戻ってきていたんだな。
それぞれを観察して脳内の情報をアップデートしていると、最も数字の小さい第三使徒レンザンが声をかけてくる。戦闘力ではなく使徒になった順番で番号が振られているだけなのだが、先輩代表という事なのだろう。
「ガーランドが来たってことは、アサシナ潰せたのか?」
「総本部とギルドストーンは完了だ。あとはうちのメンバーが1か所潰せば終わりだな」
「そりゃよかった。あそこのギルドマスターの報奨金上がってたからな。初期ユーザーに面倒なクエストやらせて、クリアしたとこで殺してたらしくてな」
「日に日に被害が増えていくから調査は楽だったがな。マスターの証とギルドストーン、レンザンに渡しておくぞ」
そういって俺は、アサシナのギルドマスターが持っていたギルドマスターの証とギルドストーンをレンザンに渡す。
「皮を売ってくれている方が一昨日殺されたと言っていましたし、よかったです」
ヌノオリがほっとした様子で言う。
「その皮って森ウルフか?」
「ええ。確か群れに遭遇して30体狩れたのに、奪われて申し訳ないと言っていたのですが。・・・もしかして」
「ああ。30体分倉庫にあった。あと真珠が50個もあったからそれも持ってるが。そういう事なら皮は渡しておくぞ」
「ありがとうございます。えっと、お代は?」
「金なら狩ったやつに払ってやるといい。俺は持って帰っただけだ」
「・・わかりました。ありがとうございます」
皮を渡し終わると、リクノジョーズに話しかけられた。
「真珠はうちで買い取ります。加工してくれそうな知り合いもいますので」
「持ち主の見当はつかないのか?」
「被害報告が無いのでなんとも。もし見つかったらその方にもお支払いしますよ」
「・・・わかった。頼む」
真珠を渡して金を受け取っている間に、3人の使徒が入ってくる。第四使徒ミカエル、第十一使徒ナナチャン、第二十使徒フェスラムだ。
「メンゴーから「ダンジョン最下層にいて行けないが賛成で頼む」って伝言です」
「サイノカバヤキも海の上だから無理だけど、さんせーって言ってたー」
ミカエルとナナチャンから伝えられる。
「10人いて2人賛成・・・、始めるんですか?」
「そうだな。そろそろ始めるとすっか。集まってくれ~」
フェスラムの問いにレンザンが答え、皆が集まる。
丁度そこでメールが届く。サリナが第五都市ガイレオの拠点を制圧したらしい。ギルド拠点すべてに置かれている「拠点の証」がメールに添付されているので受け取っておく。
「んじゃ使徒会議を始める。議題は第十四使徒ガーランドからの提案「暗殺ギルドアサシナのギルド解体提案」だ。ギルド解体に必要な「ギルドマスターの証」「ギルドストーン」「拠点の証」のうち、ギルドマスターの証とギルドストーンは揃っている」
「それについてだが、残りの拠点の制圧が完了したそうだ。拠点の証が揃った」
レンザンが説明を始めたため、拠点の証が揃ったことを伝え、レンザンに渡す。
「わかった。解体に必要な材料は揃った。解体理由として、使徒人が複数回にわたって被害を受けているのを確認している。そうだな?ヌノオリ」
「はい。先日は森ウルフの皮、その前にもビッグスパイダーの糸が奪われています。皮を奪われた方によれば、私のところだけではなく鉄や宝石なども被害が出ているそうです」
「つまり、使徒人個人への攻撃ではなく、生産者全体への攻撃ということだな?」
「その可能性が高いだろう。糸にエメラルド、木材の他に、殺した初心者の防具を溶かした鉄を売っているという話も聞いている。盗れるものはなんでも、ということだろうな」
話が進み、知っている限りの被害をこちらからも伝えておく。
「わかった。解体理由の「悪質さ」は充分クリアしてるだろう。ギルド解体には使徒人の過半数からの同意が必要だ。既に第二使徒メンゴーと第十六使徒サイノカバヤキからは同意の連絡を受けている。同意か否か、第二十使徒から順に言ってくれ。」
レンザンが問う。
「同意します」
「同意~」
「同意よ」
「同意だ」
「同意ですね」
「どーいー!」
「同意する」
「私も同意します」
「同意です」
皆が同意していく。
「俺も同意だ。二十人中12人の同意を確認し「使徒人の過半数から同意」をクリアした。ギルドアサシナの解体要請を運営へ提出する。最後に皆、治安回復への協力に感謝する。以上で使徒会議を終了する!」
アサシナの処分が確定し、使徒会議が終了する。ヌノオリとリクノジョーズからお礼を言われてからギルドに戻り、サリナに礼を言って3階の自室でログアウトする。これで悪質なギルドが一つ減った。これで評判も少しは良くなるといいんだが。そんなことを考えながら、布団に入る。
翌日ログインすると、1階のフロスキーに呼ばれる。
「ヌノオリさんが話があるそうよ。下で待ってるから、準備できたら呼んでって」
「ヌノオリが?わかった。2階に呼んでくれるか?」
「わかったわ」
皮の件で何か進展でもあったんだろうか。準備を整えて2階に降りるとヌノオリが待っていた。
「待たせたようですまない」
「いえいえ、話したいことがありましたし、待っている間にも服を縫えますから」
どうやらただ待っていただけではないらしい。
「納得のいく布の調達ができたのか?」
「相手が魔物ですので安定供給とはいきませんけど、高品質な糸が採れたもので。赤と緑以外の染料をどうするか悩んではいますけどね」
「黄色なら北の山脈にターポが生えていると聞いたことがあるぞ。あまり多くはないらしいが、高級品ということなら問題無いんじゃないか?」
「なるほど。北ならそれほど強力なモンスターもいませんし、冒険者と相談してみます。・・・相変わらず物知りですね」
「まぁ、それが職業だからな」
そんな話をしながら椅子に座り、フロスキーが持ってきた茶を受け取ってから話を聞く。
「それで、話というのは?」
「まず、皮を奪われた方にお会いできて、お代を無事に渡すことができましたので改めてお礼をと思いまして。ありがとうございました」
「そうか、よかった。楽しくなくなってやめるやつもいるからな。そうなる前に潰せてよかったよ」
「そうですね。・・それで、もう一つの話なのですが・・・不確かな情報なので、できれば二人で話したいのですが」
「わかった。フロスキー、1階に行っててもらえるか?」
「おっけー。お代渡せてよかったわね、ヌノオリさん」
「ええ、フロスキーさんもありがとうございました」
フロスキーが退出し、二人きりになる。
「では、本題に。ガーランドさん、「カゲノウタゲ」というギルドがあるのを知っていますか?」
「・・・名前は聞いたことがあるな。そのギルドがどうかしたのか?」
「知り合いの冒険者が、カゲノウタゲに勧誘を受けたそうなんですが、内容が問題で。その冒険者はリアルの借金の話をしていたそうなんですが、「子供を連れてきたら金をやるぞ」と」
「・・・リアルの誘拐の依頼か?」
「そのようです。諜報専門ですから、何かご存じではないかと思って」
「適正価格を知らない初期ユーザーにゲーム内通貨をリアルマネーで買わせようとしているのは知っていたが、誘拐は初耳だな。金を稼ぎたいだけかと思っていたが・・・少し調べてみるよ」
ちょうどログインしているサリナに、カゲノウタゲについて無理のない範囲で調べるようメールを送る。
「ありがとうございます。あと、できれば誰か護衛、もしくは監視を雇いたいのですが」
「嫌なら答えなくてもいいが、理由はなんだ?」
「誘拐の件を断った冒険者に話を聞いたと言いましたが、その日から時々監視を受けているようなんです。知り合いに探知してもらったところ、二人」
「なるほど。誘拐の件を話されたのではないかと警戒されている可能性が高いだろうな。・・・今もいるのか?」
「いるかもしれませんが・・・私は探知スキルが無くて、すみません」
「いや、いい。【探知】」
探知スキルを使用すると、周囲の人がいる場所に赤い点が映し出される。
「周囲の人は11、動いているのは5・・・この2人は武器屋か。ギルドの前に1人、横に1人怪しいのがいるな。いや、待ってくれ。この建物・・・確か空き家だったな。2人を入れると、監視は4人か?」
「4人?前に見て貰った時は確かに2人だったんですが」
「調べたほうが良さそうだな。空き家の2人を調べさせてみる」
「お願いします」
まだサリナが近くにいるのを確認し、空き家の2人を調べるようメールを送る。
すると、フロスキーから「緊急:襲撃の兆候あり」というメールが届いた。
急いでメールを開くと、ギルド前にいる二人組が時々中を見ているらしい。
探知結果を見直してみると、ギルド横にいたはずの点がギルド前に合流している。
「どうやら横にいたやつが前と合流して乗り込もうとしてるらしい」
「襲撃、ですか?」
「だろうな。別の拠点に行ける転移門があるから、一旦避難してもらってもいいか?」
「わかりました。討伐はお願いすることになりますが・・・よろしくお願いします」
「それは専門だから構わん。隣の部屋まで移動を」
カチッ
「・・・今、何か音がしませんでしたか?」
「今のは爆発系の・・・まさか建物吹っ飛ばす気か!?【シールド】!」
ヌノオリと自分を守るためのシールドを張ると、きっちり五秒後に爆音が発生し、あの空き家に面した壁が吹き飛ぶ。
同時に空き家から何かが投げ込まれる。
「二つ何か来ます!」
「【シールド】、【マジックシ・・・」
何と何が投げ込まれたかわからなかかったため、シールドとマジックシールドを張ろうとしたが、間に合わず爆発する。
もしマジックシールドを先に張っていれば助かっただろう。だが、この時はシールドしか張れなかった。投げ込まれた魔法衝撃弾で二人が吹き飛ぶ。
壁に頭を打った瞬間にもう一つの魔法麻痺弾が爆発する。
(たしかあれは昨日追加された麻痺弾だったな・・・資金潤沢じゃないか・・・)
そう思ったところで、二人の意識が途切れた。
――サリナ視点――
ギルドマスターのガーランドさんから「カゲノウタゲ」というギルドの調査を頼まれてすぐ、緊急メンテナンスが実施された。
一昨日追加された武器の一部に、特定の条件下で現実世界の脳に影響を与える事が発覚したとか。
このゲームにしては珍しく24時間を超える長時間メンテナンスが終わって、ログインしたところでフロスキーさんからメールが来た。
ギルド本部が襲撃を受けて、3回の爆発音がした数分後にメンテナンスが始まったらしい。そして、その時2階にいたガーランドさんとヌノオリさんがまだログインしてなく、リアルで知り合いのレンザンさんが連絡を取っても反応が無いらしい。
たしかカゲノウタゲって爆弾収集家がいたな~と思い出す。フロスキーさんに爆発音を聞いた限り、使われたのは破壊弾に衝撃弾、麻痺弾。・・・麻痺弾は確か一昨日の武器追加で種類が増えたんだっけ。
・・・まさか、違うよね?
次回は気長にお待ちください。構想はありますが文章化する時間がありません。
人の特徴を書くのって難しい。服装とか容姿とか。