第一話 レン=シンシア
初投稿です。お目柔らかに読んでください......
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「グレン!いい加減、目を覚ませよぉ!」
思念伝達という能力で俺の脳内に直接語りかけてきた何かは、熱血という言葉がぴったりな感じの声だったが、どこの誰かは全く検討もつかなかった。
耳を介さないために小さな違和感を覚えたと同時に、以前にも感じたような気がしてならなかった。
(この思い出せない感覚はなんだ...なにか大事なことを俺は忘れてしまった気がする――)
初めてのようで初めてじゃない、記憶がない割に確信を持っていることがとても腑に落ちなかった。
(このまま何もしないわけにはいかない。きっと目を開けてこの目で見れば何かを思い出すはずだ。)
そんな思いで、恐る恐る目を開けたが何も見えない。俺の視界に色はなく、強いて言うなら黒一色だった。
しかしそこには、暗闇の中でも分かるほど黒い靄があり、俺が目覚めたことに気づいたのか、目を赤く光らせながらもう一度俺の名を呼んだ。
「グレン!やっと起きた!」
「お前は――誰なんだ?」
俺はとうに記憶を失ってしまった身。
その黒い靄を見たところで何かを思い出すこともなくただ単に聞き返すしかなかった。
「まさか、忘れたなんて言わないでくれよ?」
「思い出せないんだ...」
「仕方ないかぁ...二度と忘れたらダメだかんな!」
「あぁ、約束する。」
「俺はねぇ?――」
名前が聞こえることもなく黒い靄に包み込まれた俺は思わず目を瞑った。
そして再び目を開けると、俺の視界に広がった景色には黒い靄の姿はなく、真っ暗でもない――ただ単に緑一色だった。
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そこは茂みに茂った森の中。
辺り一面が緑に覆われ、俺は右も左も分からない状態に唖然としていた。
焦っていても何一つ解決することはないのだと、自分に言い聞かせ、心と体そして頭を落ち着かせるために木の根元に腰掛ける。
数分たったところで冷静になり、名前・年齢・出身地・この森に来た経緯など、色んなことに思考を凝らした。
しかし、記憶の中にあるものは、さっきの黒い靄だけで、何一つ思い出すことは出来なかった。
(あれは夢だったのか――いや、違う。俺は確かにあの黒い靄に呼ばれたんだ。)
そんなふうに曖昧な記憶を遡り、黒い靄との会話を振り返っていると、いつの間にかそう呟いていた。
「グ、レ、ン......?」
そしてその名前に納得がいき、俺は物思いに叫んだ。
「グレン=アーカディア......!」
叫び声に気づいて近づいてきた青年は、驚きと不安の表情を隠しきれないまま聞いてきた。
「あの......大丈夫ですか?」
「あぁ、すまない。少し取り乱した。」
「何かあったんですか?装備を見る限りこの国の方ではなさそうですが...」
「あぁ、実はだな...」
それから五分ほどかけて、今の状況と目覚めてから小一時間の間に思い出したことを全て話した。
「というわけなんだ。」
「取り敢えず、俺の家に来るのはどうですか?実は俺の家、宿屋なんです!」
俺は、偶然としか言えない奇跡を身に染みて感じた。
(誰かが俺のことを知っているかもしれない。そうでなくても、何かの糸口にはなるはずだ。)
そんな思いがどんどん溢れてきた。そして、その青年の好意に甘えて家まで案内してもらうことにした。
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青年の家に帰る道中、お互いに自己紹介をした。
と言っても、俺は名前しか分からないのだが......
「俺はグレン=アーカディアだ。よろしく頼む。」
「俺はレン=シンシアといいます。歳は十七です。」
(さっきから思ってはいたが、言葉は伝わるようだ。言語は同じなのか...?数字や単位も大して変わらないみたいだが...)
「両親が宿屋を営んでいて、四人暮らしです。」
「母はユイ、父はロイ、妹はリンという名です。」
「リンは十五歳ですが、魔法の知識は一流です。自慢の妹なんですよ!」
レンは内心不安げな俺の表情を見つめたたまま、家族の話を弾ませてくれた。
(ご家族もきっと優しい人たちなのだろうな。)
そうこうしているうちに森を抜け、土の道から整備されたタイルの道に変わり、数十分歩いたところで目的地にたどり着いた。
いかにも宿屋という雰囲気の佇まいに感心しつつも、何故そんな雰囲気だと分かるのか疑問を感じながら、レンの後を追って家に入った。
「ただいま。」
「おかえり、お兄ちゃん!あれ?隣の人は?」
レンが家の中へ向かってそう言うと、妹であろう少女が待っていたかのように飛び出してきてそう言った。
「あぁ、この人はグレンさん。森で迷っていたから連れてきたんだ。」
「へぇ~、私はリン。よろしくね、グレンさん♪」
「あぁ、よろしく頼む。」
レンは妹の質問にすぐさま返し、俺を紹介した。
初めて見る装備と腰に付いている鞘に収まった刀に、恐れることなく挨拶を交わしてきたリン。
俺は少し驚きながら、差し出された小さな手を優しく握って挨拶を返した。
玄関の扉を閉める前に外を見ると、地平線に近い空が赤く染っていた。
その日の夕食はシンシア家族にご馳走になった。
色とりどりの野菜、蒸した鶏肉と溶き卵のスープ。
そしてメインは肉汁溢れるハンバーグ。
若しかすると、俺のためにわざわざ用意してくれたのではないかと少し申し訳なくなりつつ、シンシア家族のご好意に甘えて美味しく頂いた。
シンシア家族にもレンと出会った時に話した黒い靄と記憶喪失の話をし、宿屋を利用する人たちの中に何か心当たりのある人がいれば、話を聞きたいという旨を伝えた。
シンシア家族は国外から来たのであろう俺を家族同然のように迎え入れ、優しく接してくれた。
宿屋を営んでいる人は接し方から上手なのかと感心するほど気持ちのいいものだった。
夕食後は風呂をいただき、三人が宿屋の仕事を片付けている間はリンの遊び相手を任され、一時間ほど遊ばせてもらった。
久しぶりに遊び相手がいたからか、リンは遊び疲れていつの間にかスヤスヤと眠っていた。
ゆっくりと起こさないようにベッドへ運び、そのことをレンの元へ伝えに向かった。
「いつの間にか眠っていたみたいだ。
ベッドに寝かせておいたが、大丈夫か?」
「はい!
すみません。任せてしまって。」
「レンは、命が危うい俺を救ってくれたんだ。
人手が必要ならいつでも言ってくれ。」
「リンもきっと楽しかったと思いますよ。」
「それならいいのだが...」
何せ、リンは十五歳だ。
俺の歳は若く見積っても二十歳くらいだと思う。
5つも差があると、どう接すればいいかさっぱり分からないのだ。
レンに感謝されることで、この青年に救ってもらった恩をより強く身に染みて感じたのだった。
「グレンさんを部屋まで案内してくるよ。」
「そうね。頼んだわ、レン。」
隣にいた母親との会話が、何となく連携の取れた雰囲気を感じ、流石の宿屋だと感心した。
しかし、またしても何故そう感じたのかは謎だった。
レンに案内されるまま、俺が寝泊まりする部屋へと向かう途中で、客と思われる一人の老人がちょっとした一言と共に紙切れを渡して去っていった。
「そのうち役に立つじゃろうから、持っときな。」
レンと二人で顔を見合わせて、お互いに何だったのか分からない表情をして少し笑い、俺が泊まる部屋に着いたところで別れの挨拶をした。
「今日は助かったよ。ありがとう、レン。」
「いえ、お役に立ててよかったです。
また明日お話しましょう。おやすみなさい。」
「あぁ、また明日。」
そう言って部屋に入ると既に布団が敷かれていた。
思っていたより広い部屋だったので、少し寛ぎながら手荷物の中に手がかりがないか確認した。
白に赤のラインが入った上下の服に何かの団体を意味するようなエンブレムが付いている。
腰に付けていた刀の鞘も同じような色合いだった。
(俺は何かの団員で、ここに派遣されたのか?)
可能性は思いついたが確実な証拠もなく、ここに来た根本の理由が一切浮かばなかった。
他に何か、解決の鍵となるものはないか探していると、謎の老人に手渡された紙切れがあった。
取り出して広げると、それは地図らしきものだった。
(この国の地図だろうか。少し大きすぎるだろうな...)
おそらくこの世界の地図だという判断に至った。
何故それを、見知らぬ老人が俺に手渡してきたのか、それが分かればいいのだが...如何せん、記憶がない。
(それにしても変わった地形だ。特に真ん中の――)
その瞬間、俺の頭の中に黒い靄の姿が映り、プツンと途切れるように痛みが走った。
(今のは――何が起こったんだ?)
その一秒か二秒の間に起きた、何か危険な匂いのする出来事に頭を働かせるも、上手く回らない。
それはほんの一瞬だったが、黒い靄が脳裏に映ったのは明らかだった。
黒い靄は真っ暗闇の中で、空中に浮かぶようにして目を赤く光らせていた。
また、それと同時に小さな痛みが全身に走ったことにより、今も軽く痺れている。
(これは翌朝早くに相談しなければ......)
もう夜中の零時は回っており、レンたちも翌朝準備のために寝床についている。
黒い靄の相談は翌日しっかりすると決め、俺は、記念すべき記憶喪失一日目の疲れを癒すために眠りについたのだった。
どうもこんにちは。HiKAです!
第一話 レン=シンシア いかがだったでしょうか?
記憶喪失になってしまったグレン。いつになったら記憶は戻るのか!また、レンをはじめとするシンシア家族との関係、謎の老人、そして黒い靄。謎が深まるばかりですね。タイトルの『紋章』については、第二話・第三話で明らかになるはずですので、これからの進展をお楽しみに~♪
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まだ第一話で情報が少なく、面白くない部分や私の語彙が拙い部分もありますが、きっとこの先、面白くなる筈なので、気長に待ちながら読んでいただけることを願っています!
作者名の「HiKA・」の後ろにつく名前は、登場キャラのアイデアをくれた人の名前です!
毎回変わったり、なかったりしますが、気にしないでください!(笑)
※更新日時は不定期です。ご了承ください。