俺がこんな服似合う訳が無い
「――で何で千尋がこの部屋にいるの?」
「買い物行かない?近所のショッピングモールに行こうよ」
「わ、私も行きたいです。どんな服が売ってるか気になりますし・・・」
菊谷も言っているが何故か正体不明の違和感に襲われた。口調が前聞いたのと全くと言って
良いほど変わっていた。あの『性悪キツネ』の尻尾すら見えない。髪形も全体的に
降ろしていて根暗風の雰囲気を出していた。
「ほら~地味な菊谷さんも言ってるんだから行こうよ~」
なぜか菊谷の瞳の奥が笑っていない気がする・・・。本性を知っているからか?
「分かったよ。行けばいいんだろ?」
オレがそう言うと千尋の表情が一気に明るくなった。
「ありがと~やっぱりアタシの親友だけあるよ~」
「や、やめろ抱きつくな!気色悪いだろう・・・」
オレが引き剥がすと「ちぇ~」と言い。玄関に向かった。
「ほら~二人共行くよ~」
1階から声が聞こえ菊谷と一緒に玄関に向かった。
「この服似合う?」
「似合いますよ~。後はこの上着で合わせたらばっちりですよ~」
今の状況をまとめると千尋が客で菊谷が店員の様だ。という事だ。
確かに菊谷のセンスはバッチリだ。店員が遠くで菊谷を見ていた。ここでバイトすれば
いいんじゃない?って思ってた。
「光~聴こえてる~?」
後ろから声が聞こえた。
「ん?何だ?用は済んだか?」
「そうじゃないよ~。光っていつもパーカーじゃん?だから他の服も似合うんじゃない
かな~って思ってさ~。美香も良いって言ってるし」
マズイこの状況のまま進むと俺が着せ替え人形の様になってしまう。
「あっ!オレジュース買ってくるわ。それまでくつろいでて」
オレは急ぎ足で自販機に向かった。
「木戸さんはどこに行きましたか?」
「光はジュース買いに行ったよ・・・」
「逃げられましたね・・・このフリルが似合いそうだったのに・・・」
背後でそんな会話が聞こえもういっそ家に帰ろうかなと思ってしまったがそれは流石に
良くないだろうと思いジュースを買って戻って行ったら
「お姉ちゃん達可愛いね~。お兄さん達と遊ばない?」
「欲しい物があるなら何でも言ってよ~」
千尋と菊谷がナンパに絡まれていたので
「すいません。そこの二人友達なんですけど・・・絡まないでくれますか?」
敬語で断りを入れてみた。
「何?お前は邪魔なんだよ。向こう行け!」
「では取り引きはどうですか?内容は向こうの裏路地で話しますから」
「光大丈夫?」
千尋が言ったので小声で「大丈夫」と言った。
「内容ってなんだよ!」
「簡単です。私に参ったと言わせれば勝ちです。負けはその反対です」
「ふっ・・・簡単じゃね~か」
メガネを掛けたナンパ男がそう言い。殴りかかってきた。
相手のストレートを軽く避けフックを腹に極めた。
「うっ・・・・」
バタ
メガネナンパ男がうずくまって倒れた。
「あ、ヒロタケが負けるなんて・・・こうなったら最終手段」
相手がサバイバルナイフを持って近付いてきた。
「男のくせに情けないね・・・」
相手はナイフを投げ捨て俺のフードを外した。この行為はしてはいけないのに・・・。
男がフードを外した瞬間男の体が宙に舞いそのまま地面に叩き付けられた。
『下段回し蹴り』別称はローキック。男にそれがピンポイントで当たったのだ。
二人共白目剥いて気を失っている。ジュースの入った鞄を持ち裏路地を出た。
「大丈夫でしたか?お怪我とかして無いですか?」
ショッピングモールの洋服コーナーに戻って話していた。
「そういえば千尋は?何処行ったの?」
「あぁ?千尋?向こうにいるよ」
オレといる時だけ口調が『素』になっている。
それにしてもここに戻ってきた瞬間に悪寒がするのは気のせいなのか・・・。
「あっ!光来た~。ちょっと逃げないでよ~」
予想通り過ぎて怖い・・・。とりあえずは話を聞こう・・・。
「光はフリルとか似合いそうに無いからせめてパーカーは買わない?」
「パーカー?例えばどんなの?」
千尋が見せたのはオレンジのフード付きパーカーで―ネコ耳が付いていた。
「却下。そんなの俺が似合うはず無い」
「そうですよ。木戸さんはこの赤のフード付きパーカーの方がいいですよ」
流石は菊谷。原田から好みでも聞いたのか?
「それを買うよ。お金払うから渡してくれるか?」
「はいっありがとうございます!」
赤のパーカーを買い服屋を出た。後日分かった事なのだが原田財閥が経営している
服屋であった。要するに完全にはめられたと言う事だ。
「ん?あのゲームコーナーで何か新記録を出してるゲーマーがいるみたいだよ行く?」
シューティングゲームで前回の大会優勝者の記録を軽く破った人のようだ。
「え!?それって見に行かないと駄目ですか?」
「別に良いんじゃないのか?てか千尋はもう行ったし行くか・・・」
そういうと菊谷が悲しい表情で着いてきた。そんなに行きたくない理由でも
あるのか・・・?
「すげぇあのプレイヤーもうハイスコアを出してやがるよ。あのラスボスまで
1分もかかってないぞ」
周りの客が感嘆の声をあげていた。
「うわ…やっぱりいた…マジ最悪…」
菊谷の目線はプレイヤーに向いていた。あれはパソコン部の部長『菊谷 望』じゃないか。
ゲーム研究部の製作した超鬼畜ゲーム『ハリケーン』を易々とクリアした人だ。
流石がだ。たかがゲームコーナーなんておもちゃ同然だ。
「もう帰りましょ!バカ兄のプレイなんて見ても面白くないですから千尋にもメールで
伝えたから問題無いよ」
菊谷が興奮気味で言いながら俺の手を引っ張って家に戻っていった。
「それにしても菊谷の兄貴がゲーマーだなんて意外だったな・・・しかも超強いし」
「凄くない!!あのオタクなんてずっとパソコン室にこもっていればいいのに」
菊谷が興奮気味なので落ち着かせる為にプリクラに寄ろうと言ったら
「プリ?あぁ・・・行こうよ~」
とまた興奮してしまったので落ち着かせながら100円ショップのプリに向かった。
今日は何だか疲れた一日になった。