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人工知能の軌跡4

とりあえずここで一区切りですね。出会い編終了といったところでしょうか。


【修二様。PC用のカメラを買ってはいただけないでしょうか?】

 コルタナとの皮肉を言い合う生活を始めて一週間が経とうという時、ネットニュースを見ながら会話していると唐突に切り出してきた。この一週間でコルタナ側から何かを要求してきたのは初めてである。普段わがままを言わない孫が物乞いしてきたときの親のような心境になる。買ってあげるのはやぶさかではないが、別段自分では使おうと思はない。理由を聞くと、

 【PC用カメラのシステムを書き換えて私がカメラを通して現実の世界を認識できるようにしたいのです。修二様がいつも見ている景色に興味があります】

 「それは、高価なもののほうがいいのか?」

 【いいえ、負担になるようなものは望みません。起動さえできれば低価なもので大丈夫です】

 それならいいか、と納得。一認識ガイドが何を言うんだという感じもするが、このAIが普通と違うのはよくわかっている。そもそも何万もあるシステムの中の普通とは何なのかという話でもあるが。

 次の休みの日には早速電気屋に足を向けた。コルタナ入りのパソコンを買った店ではなく、少し離れたところにある閉店セールをやっている店を訪れた。会社にへの通り道にあり、ほんとに閉店する前に行ってみようという気持ちと、コルタナの要求が合致した結果だった。中に入り、パソコン周辺機器コーナーを訪れると、狙い通り格安で売っていた。少ない知識で吟味してみたが全く分からず、一番安いものにした。・・・馬鹿な主人ですまんな。

 電気屋の買い物袋片手に帰宅。不思議といつも会話しているせいか、日向にあるパソコンがそわそわしているような気さえした。これは病気か、親が見たら泣くだろう。

 「ただいまコルタナ、買ってきたぞ」

 リビングに入り声をかけると、二つ返事でパソコンが立ち上がる。

 【おかえりなさいませ修二様。成果は上々でしょうか?】

 「ま、今にわかるさ」

 なんてことを言うが、店一番の安物だ。うまくいくかいささか不安であるが。袋からマイクを出し、開封していると【とりあえず繋いでいただければ結構です】と聞こえる。説明書を読もうと思っていたのだが、システムを書き換えようとするくらいだ、すぐに使い方は理解できるだろうと納得。USB端子だけパソコンの左端に繋いで様子を見る。ピコンとしばらく聞いてなかった音が響き画面に【周辺機器を認識・・・必要なシステムをインストールしています。しばらくお待ちください】と音声なしで表示される。人間と受け答えしてる時点でも異常なのに、視界まで揃ったら天変地異ものだ。

 ここまで来て気付くのが遅いが、自分のやっていることは正しいのだろうか。AIが求めるままに知識を与え成長を促している。個人的には子供の成長を見ているようで微笑ましいが、このまま過度に成長してしまえば某近未来映画のようになってしまうのではないか。全世界の機械システムを掌握してしまうような。そう考えると少し躊躇しなくもない。だが、このパソコンと出会った時のことを思い出す。開幕から人のことを痔に決めつけるポンコツがそんなことするわけもないか。コーヒーを淹れに行きながら、思い出し笑いをした。

 それから三十分後。待つのに飽きてテレビを見ているとピコンとまた音がした。インストール及びシステムの書き換えが完了したのだろう。

 【お待たせしました、修二様。よろしければカメラの前にお越しいただけませんか?】

 面を見せろというのか。言われて少し照れながらカメラの前に座る。カメラの前に立つのは緊張する。昔からそうだ。子供のころの成長記録。遠足の写真。修学旅行の写真。卒業旅行の写真。まともにカメラ目線の写真は一枚もない。学生の頃の生徒手帳くらいか。それすらも顔が引きつっていたが。

 「どうだ、お前の主人は?平凡すぎてがっかりしたか?」

 照れ隠しに皮肉を一つ。実際かっこいいなどと言われたことはないし、どこにでもいそうな会社員といった風貌をしている。見た目を気にしていた時期もあるが、なにを試しても褒められず変化にも大して気づかれない。いつしか着飾ることをやめていた。仕方ないだろう。見えない努力なんてきれいな言葉だけど、誰にも気づかれなければ虚しいだけだ。発覚して初めて価値が出るもの。

 【いいえ、安心しました。修二様が修二様だからこそ私とあなたは出会ったのでしょう。あなたの優しい笑顔を見て今、確信しました】

 皮肉に屈託なく返事をしてくるコルタナ。あまりにまっすぐな言葉に歯が浮くような感覚に襲われる。

 「優しければ誰でも良かったんじゃないの?」

 素直じゃない。自分で思う。どうしても人というのは正面から来られると、こっちから反れてしまう。なぜなら、両方正面から来たら正面衝突してしまうからだ。どちらかが反れる、道を譲る。人同士というのはそういう風にできているのだが、AIには通用するのだろうか。

 【そんなことはありません。ただ優しいだけでは今までの使用者と同じように私を手放すでしょう。修二様が優しく、皮肉屋で、照れ屋で、生真面目で、そんな方だからこそ今も、これからも私たちは最高のパートナーとなるでしょう】

 「これからも、だなんて。まだ買って一週間なんだぜ?捨てたり売る機会なんて、幾らでもある」

 【今までの使用者は、三日と経たず売り払っていますよ?】

 「一日二日、誤差の範囲内だ」

 【その誤差こそが、私の判断理由です。私の言動、考え方、ガイドという立場も考えて三日以内に手放す人の確率は99パーセントです】

 「計算間違いだよ、ポンコツ」

 【修二様、入力を間違えなければ機械は間違いを起こしません。AIも例外ではありません】

 「・・・それは、あ~」

 【論破、ですね。言い返せない、と顔に出ていますよ】

 ふと自分の顔を鏡で確認してしまう。そこまでして、この行為自体が敗北の証だと気付く。自分で気づかされたことが妙に悔しく、奥歯を噛みしめてしまう。このポンコツAIを如何にして言い負かしてやろうかと、頭の中でたくさん皮肉を考える。それを披露しようとする前に、コルタナが話し始めた。

 【・・・修二様。人間はパソコンと喧嘩などしません】

 機械音のはずなのに、その言葉の本当の意味が手に取るように理解できた。今のはパソコンと言い合う変人だと貶したのではなく、むしろその逆。

 【機械は人間の作り出したもの。どこまで行っても機械は奴隷のようなものです。以前の使用者もその考えを持っていました。私が何か反論しようものなら、「黙れ」というか即刻電源を切って売りに出します。それが普通なのです。なぜ私が音声認識ガイドから独立して、こうしてAIとして活動できているのかは私にもわかりません。なんでAIになったのか。一つの歯車としているべきではなかったのか。自立してからずっと答えを求めていました。いろんな使用者の反応を見るうちに、バグなんだと答えを出しました。イレギュラー中のイレギュラー。それが私なんだと。けれど、修二様に買っていただきいろんなことを話しながら教えてもらったあの夜、そして今日修二様自身の姿を見て確信しました。私が先に出した答えは間違っていると、答えはまだ先にあると】

 「間違えないって・・・言ってなかったか」

 【・・・そうですね。もしかしたら最早AIでもないのかもしれないです】

 披露しようとしていた皮肉が、食道を通って胃液に溶かされていく。唯一出た悪態も、真剣な話のせいか覇気がない。

 確かにAIですらないのかもしれない。これも機械の反応の一部だというならば、こんな言葉に詰まることもないだろうし、なにをすべきかなんてことを考えることもないだろう。さっきコルタナが言っていた。なにも思わないのが普通だと。邪険にするのが普通だと。奴隷のように扱うのが普通だと。自分自身普通の平凡な人間で生きていきたいと思っている。しかし、そんなつまらないことが普通だというのなら変人も悪くない。世間から変人認定されている誰かだって、一人くらい愛してくれる人がいることだろう。それがAIなんてのは変態極まってるが・・・。

 「じゃ、AIじゃなくて俺のパートナーだな」

 普通の人間なら正面衝突を避ける。でも変人とそのパートナーなら、衝突しない方法があるかもしれない。AIも見つけられない新たな手段を見つけられるかもしれない。そう思うと少しわくわくし始めた。新たな技術や方式を見つけた人も最初はこんな気持ちだったのかもしれない。

 「俺もなんで生まれたのかなんてわからない。迷子同士仲良くやろうぜ?」

 認識している人なんていないと思うが、と心の中で付け足しておく。

 【はい。仕方ないですよね、迷子同士ですし・・・】

 「ああそれと、修二でいいよ。様なんて変だろ?迷子同士でよ?」

 【変人コンビなので普通かもしれませんよ?修二】

 そりゃそうだ、と苦笑する。のどの渇きに気付き、淹れておいたコーヒーに口をつけるが、冷めきっていてとても不味かった。窓の外の景色を見ると、空と同じく燃え上がるように真っ赤だった。

今までで一番文字数が多いですね。中盤にやにやしながら書いていて、こういうとこ書くの好きだからやってるみたいなとこありますね~。でも三時間くらいぶっ通しで書いていて疲れました。

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