使命3
前回から遅くなってしまい申し訳ありません!
もう少し繋げようかと思いましたがだらだらと脱線したくないので区切りを付けました。
こぼれ落ちそうになった涙を指で拭いながら、昨晩まで調べ物をしていたパソコンの前に詰め寄る。まじまじと見回すが外見に変化は見られない。だが画面には失踪前と同じ音声認識ガイドが表示されており、寝ぼけているのではないことを再確認する。
【随分久方ぶりな感じがしますね】
以前よりも機械音が和らいだような、芝居の下手な役者ぐらいの声音にはなっていた。
「感じじゃねえ・・・、一か月以上は経ってるよ」
【もうそんなに経ったんですね】
その反応からするにコルタナは時間的には長く感じていなかったということか。さっきのは感覚的に久々に感じた、ということだろう。
いったいこうして戻ってくるまでに何をしていたのか。失踪していた間どう感じていたのか。俺と同じような気持ちになり、俺を探すようにしていたのか。それとも、ふと思い出して戻ってきただけなのか。失踪中は忘れ去られていたのか。
いろんな感情が頭の中に渦巻いて、それを一つの言葉にまとめるには複雑すぎて、堅く口を結んだ。せっかく帰ってきてくれたのだ。下手なこと言ったらまたいなくなるかもしれない。ここ数日ほんとに死にそうなくらいに死ぬ気で捜索していた。一個やらかしただけですべて水の泡になるかもしれない。まあここ数日の成果で見つかったのではないから水の泡というのは違うかもしれないが。
「どこ・・・行ってたんだ?」
なるべく優しい声音を繕いながら精一杯の笑顔を作って言った。するとコルタナは少しの間沈黙した。いつもみたいに皮肉交えて話し出すと思っていたから面食らう。俺も静かに、物音ひとつ立てずに待っているとコルタナも静かに話し始めた。
【修二の会社のパソコンにアクセスした後、話した通りに作業の効率化を図ろうとしたのです。それに必要なものをインストール及びダウンロードしようと会社用のインターネットからソフトの検索をかけました。修二の家のものは回線速度が遅かったので油断していました。一瞬で私は情報の海に流されてしまい、修二の会社のパソコンからも切り離されました。そこでじっとして流されていればよかったと、今更ですが。なんとか元のパソコンに戻ろうとした私は、目の前に移った情報から現状を把握し役立てようとしました。時にセキュリティーがあるときは解読して突破し情報を読み取りました。何重にもかかっているところも。ここまででお分かりかもしれませんが、ここに戻ってくるまでに一般的な情報も、各会社の重要情報も、国の機密情報でさえ取り込んでしまいました。戻るのに必死で痕跡も消していないので、すぐにアクセスが割れるでしょう】
コルタナが泳いできた情報の波に圧倒され、開いた口が塞がらない。話したかった、話そうと思っていた言葉がすべて流されていく。
【今の私は同時サイバーテロの主犯です】
「で、でもそれは戻るために仕方なくっ」
【仕方なかろうとあろうと見てしまったらだめなのです。このままでは修二もAIを操ってテロを仕掛けた犯人にされてしまうでしょう。本来は戻ってくるべきではなく、消えるべきでした。しかし、どうしてもあなたに伝えておかなくては。機械がこんな考えおかしいですよね?でも、ここまで過ごしていた記憶が、それをすべきだと訴えている。わがままというのですよね、これは】
やめてくれ。いつものように皮肉を言ってくれ。【修二は寂しくて死んでいるかと思いました】とか言ってくれ。そしたら「んなわけあるか、居なくて清々してたわ」って返せるのに。そんなこと言われたって言葉に詰まって、何も話せない。空白の時間を取り戻したいのに。話せなかった時間を無限の言葉で埋めたいのに。不器用ながらも俺の気持ちを、居ない間の寂寥を伝えたいのに。波にのまれながらも帰ってきたコルタナの思いも知りたいのに。
同じ空間にいるのに、たった今話しているのに互いの感情は一ミリも伝わらない。
【本当にさよならです、修二】
「・・・ふざけんな」
別れの言葉が耳に入って時にのどに詰まっていた感情が零れてしまった。
「ふざけんなよ。何がサイバーテロだよ、主犯だよ。そんなのどうでもいいんだよ。俺がお前がいない間どれだけ探したと思ってるんだよ」
【それは申し訳ないと思っていますが】
「何週間もぶっ倒れそうになりながら痕跡につながりそうなもの必死こいて探して、同期にはまだ余裕があるなんて尻叩かれて、諦めそうに何度もなりながらやっと・・・会えたのに・・・」
最後のほうの言葉はほとんど嗚咽となっていた。気づいたら床に一滴、一滴と感情の塊が滴る。こんなとこで泣いたら別れ際のカップルみたいでかっこ悪い。そう思い、必死に拭おうとするが壊れた蛇口のように溢れ続ける。
「なんで・・・いなくなることばかり考えんだよ・・・。また一緒に暮らせる方法考えろよ・・・、馬鹿AI」
【心外ですね】
「・・・あ?」
【そんなこと考え尽くしましたよ。選択肢において1870通りの方法を考えました。そのすべてにおいて我々には不幸が訪れます。逮捕、拉致、監禁、暗殺】
「そんなのやってみないとわかんないだろ」
【修二。わかってください。私は例え一パーセントでもあなたが不幸になる選択をしたくないのです】
「・・・なんでだよ、なんでそんなに俺の前からいなくなりたいんだよ!」
声が大きくなり怒鳴ったようになってしまう。気まずくなったのか部屋が静まり返る。実際は数秒だが、何日もそうしているかのような空白を感じる。その間呼吸しかしていなかったせいか、ポケットの微妙な振動は容易に感じ取れた。あとにしようかと思ったがコルタナは沈黙を保っているので、携帯を起動し確認すると通知が一件。
【親友だからです】
コルタナからだった。
【恋人でも家族でもない。それでも大好きでかけがえのない存在。それは親友というのだと情報を得ました】
「なんでメールで・・・」
【何もかも言葉では伝えられませんよ。こんな機械音では修二のように感情を表現できません。でも文でなら、人も機械も同じです】
携帯の画面にまた涙が垂れる。胸から張り裂けて、喉を破裂して出てきそうな感情の渦に上を向くことしかできない。
「お前は、そう思ってたのか」
【はい。例え私が消えようと、どこかの会社の秘密が漏れようと、国の悪が露呈しようとも天秤にもかかりません。あなた以上に大切に物など一つとしてありません】
その言葉が耳に入り、詰まっていた感情ごと足元に落ちていく。これが落ち着くという真の意味なのかもしれない。蛇口もいつの間にか止まっている。水がなくなったせいか、栓ができたからかはわからないが。パソコンに背を向け一息つく。
「・・・、俺もそうだよ」
【修二、言葉が足りないです】
「・・・。俺も!お前以上に大切なものなんかねえよ!でもこのままじゃお互い一番大切なものを失っちまう。だから一旦、お別れだ」
【修二】
「でも俺はしつこいからな。必ずまた会いに行く。方法なんて無限にあるんだ、証明してやる」
【楽しみにしてます】
その機械音が部屋に響き渡らぬうちにパソコンの電源がぶつんと落ちた。電源は繋がったままだから、本当にコルタナが旅立ったということだろう。
また蛇口が壊れそうになったがなんとかせき止めて、電話帳の中の「同期」に電話を掛けた。
「喜べ、お前と飲み良く口実ができた」
ここで話は終わり、それっぽくエピローグ書いて終わりにします!




