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使命

遅くなりました!今日見たら評価とブクマがあってやる気倍増です!!ありがとうございます~

コルタナがパソコンに入り失踪してから一か月ほどが経った。もちろん、その一か月の間パソコンのフォルダを隅々までチェックしていたし、家のパソコンも再起動を繰り返したり、呼びかけてみたりもした。携帯にも同じように呼びかけたり、以前届いていた通知に返信してみたりもした。どれかに引っかかっていたら一か月もの間喪失感を抱えていない。最早やけくそで「コルタナ」とインターネットで検索した履歴が逆に虚しい。

 いなくなってからの時間が段々長くなっていく。一緒にいた記憶を、一緒にいない現実が侵食してくる。携帯のコルタナからの通知がまるで記憶自体のように、新しい通知に埋もれていく。俺にとってはどうでもいい通知ばかりのくせに、記憶領域を占領しようとしてくる。この「探し出さなきゃ」という気持ちを忘れずにいなきゃいけないのに、いつの間にか義務感のようなものに支配されている。いつからか「一日で探す時間は何時間」と設定するようになっている。まるで日課のように。

 生活は、コルタナと出会う前より破綻したものになってしまった。朝は全然起きられなくなった。自然と朝を迎えたくなくなっているのか、起きるたびに襲ってくる喪失感と焦燥感から逃げるように二度寝を繰り返した。一週間の半分くらい遅刻し、同僚にすら「俺を越えたな!」と言われる始末。仕事もうまく身が入らずミスの連発。上司が視察にきて難しい顔でこちらを見ながらぶつぶつ言ってるのをよく見る。

 料理はしなくなった。失踪当初は長い時間捜索していたという大義名分があったが、時間に余裕ができてもコンビニ弁当などで済ませるようになった。皿を使っていないのでキッチンは綺麗だが、燃えるごみを出す頻度は倍くらいに増えた。比例するように飲酒の頻度、量も増えた。ビール、焼酎、日本酒、ウイスキー、それなりに度数が高いものを頻繁に飲むようになった。

 忘れてはいけない、という気持ちとは裏腹に忘れないとやっていけない、という気持ちも溢れている。コルタナを思い出す行動一つ一つが苦痛になり、それを避ける内にダメ人間へと昇華した。

 いなくなったところで出会う前に戻るだけ。そう思っていた。けれども大切にすべき思い出が、出会う前には戻してくれない。セーブデータをロードしても何も起きないのに、リセットすることは許されない。

 どうすべきなのか。何をすれば正解なのか。現状は間違いなのか。コルタナというパートナーを失い、俺は混乱してしまった。情けない話だ。

 混乱しっぱなしのある日、破綻っぷりを見かねた同期が「久々に二人で飲みにいかないか」と誘ってきた。久々というのは社交辞令などではなく本当のことなので少し遠慮したくなった。だが、どうせ帰っても日課の捜索と酒に溺れるだけなので、気分転換も兼ねて行くことにした。連れてきてくれたのは会社の飲み会でも良く来る居酒屋で、俺の家からも結構近い。お互いに駆け付け一杯、ビールを頼みつまみが来る前に乾杯して飲み始める。

 「修二。最近どうしたんだよ」

 ぷはー!と気持ちよさそうな雄叫びをあげた後、予想通りの質問が飛んでくる。

 「別に、どうもしないよ」

 俺の答えも予想通りなのか、同期は苦笑いした。

 「俺よりも多い遅刻。クレームは入社してからしてなかったのに連発。頭はぼさぼさ、髭は剃ってない。同期としては異常に見えるけども?」

 生活の悪化は自分でも感じているが、口に出されるとより醜悪さがにじみ出る。指摘されてすぐの髭を擦りながら押し黙る。沈黙を押し通そうかと思ったが、その後は何も言わず見てくるだけの同期に根負けして話すことにした。

 「自分でも不思議だよ。まさかこんなに落ち込むなんて思ってなかった」

 「振られた・・・はねえな。前言ってた親友と喧嘩でもしたか?」

 さすがに鋭い。ピンポイントで言い当てられ悔しいが、隠すつもりでもなかったので仕方ない。

 「そんなとこ。もう一か月近くも声も聞いてない。どこで何してるのやら・・・」

 「捜して、仲直りすればいいだろ?」

 そう、もし同じ人間で、喧嘩別れなんてものだったなら答えは簡単だった。だが、相手はAIで本当にどこに行ったのかわからない状況だ。どう説明すべきか考えていると同期は何かを勘違いしたようだ。

 「もしかして、外国の友達で国に帰っちまったとかか!?」

 似て非なる勘違いだが、路線的には合っているのでそのまま話を合わせる。

 「そんなとこ。どこの国出身なのかも知らなくてさ、いろいろ痕跡から探し回ったんだけど疲れちゃってさ。もう意味ないのかなって」

 ため息をグラスに吐きながら酒を飲み干す。飲むようになったとはいえアルコールの独特の味にはまだ慣れず、むせてしまった。見兼ねておしぼりを渡してくれた同期が、すぐに真剣な顔になる。

 「それはさ。疲れてなんかないよ。本当に疲れてる人ってのは事情知らなくても疲れて見えるもんだ。けど、今のお前を見てる人はなんて言ってる?自堕落になった、だ。そういうことだろ?」

 図星を突かれてまたむせそうになる。

 「でも、こんなに探したのに何も見つかんなくて。途中でやめても仕方ないよ、お前だって俺がやったことを見れば違うこと言うさ」

 「いいや変わんないね。例え修二がどれだけ探したいたとしても『こんなに』なんて言える奴に頑張ったな、なんて言わねえよ」

 「それは何も知らないから・・・」

 「事情知ったらもっとドギツイこと言うぞ?」

 口喧嘩じゃ勝機がないことを理解し、押し黙る。少し重たい雰囲気を察したのか、周りの客の喧騒もこころなしか収まった気がする。

 「修二、その行為に意味はあるよ。意味のないことなんてない、よくある言葉だけどそうなんだよ。お前が親友と別れたことも、自堕落になったことも、ここで説教受ける羽目になったのも全部意味があるのさ。だから、ここからまた始めればいい。もし人から疲れて見えるほどに探しつくして見つからなくて、意味も分からなかったら・・・そん時はまた飲みに誘ってやるよ。俺と飲みに行く口実になるっていう意味をつけてやる」

 言い切ってがはは、と大声で笑った。勘違いで話し始めたにもかかわらず、そのアドバイスは的を得ており少し心にゆとりができた。

 「この飲みにそこまで価値ねえよ」

 言いながらコートを手に取り立ち上がった。

 「彼女持ちが割く時間の価値を知れ~。なんだ、もう帰るのか?」

 「説教されて酔いが醒めたんだよ。また飲む気分にもなれねえし、家で調べ物でもするわ」

 苦笑いしながら告げると、同期はきょとんとした顔をした後悟ったのかにこっと笑った。

 「それに、今日は忘れたいことなんかねえや」

 その言葉だけ居酒屋に残し、店を出ることにした。その日、家に帰った後アルコールの入っている飲み物をすべて捨てた。白ワイン以外。

書いてて思いましたが、元通りになることなんてほとんどないですよねー

喧嘩した後の仲直りとかって、元に戻るっていうか妥協とかして歪な形に変化するって感じですよね。自分大ゲンカしたことないんですが・・・(-_-;)

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