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バトルメンター  作者: 上晢徹
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2 コーニギン・ウィルヘルミナ

 コーニギン・ウィルヘルミナ。


 ノースシェパード・スターライン株式会社が所有し運行する、スコーピオン星系αとスコーピオン星系βの間を航行する豪華星客船だ。

 全長800リーグ。タキオンエンジン6機とワープエンジン4機、乗員3,000名に対し乗客2,200名。ノーマルクラスは存在せず、ずべてがハイクラスとプレミアムクラスで構成されている。ハイクラスとプレミアムクラスの間は客は行き来できず、ハイクラスの乗客は2,000名、プレミアムクラスの乗客は200。ハイクラスも当然全て個室だが、プレミアムクラスは全室スイートで、売りはスペースビュー。放射能防護処理された透明アルミニウムの窓が備え付けられており、通常航行時には、船体外郭にデブリ除けの重力場を展開し、ワープ時にはシャッターが降りるようになっている。

 プール、キネマホール、宇宙風ヨットに歌劇場、さらには14箇所のレストラン。建造費は4,787億クレジット、帝国軍の宇宙空母とほぼ同じ建造費だ。航行期間は6日間、費用とはいえばプレミアムクラスで900万クレジット。新人少尉の給料が各種手当込みで29万クレジットだから、いかに法外な料金だと分かるだろう。


 武装はないが、航海ごとに必ず護衛艦が3隻。宇宙ギルド船籍の護衛艦が配備される。そして今回はそれを利用された。配備された護衛艦3隻が襲撃犯だった。どういう手管か正規の護衛艦とすり替わり、航路のど真ん中、星系軍と帝国軍の管轄境界で事に及びやがった。

 1隻が強制ドッキング、ハイクラス区画に無力化ガスを流し込んだ上で、プレミアムクラス区画に乗り込み乗客200名を人質に、船長を脅迫、ブリッジを制圧した。

 2,000名の人質を無力化ガスで昏倒させたこと、少ない人数で監視できるプレミアクラスに的を絞ったことと、かなりできるやつが作戦を立てたと思われるのが引っかかるが、もともとこういう手合いには軍人崩れが絡んでいることが多い。


 背景はよくある地方星系の独立派による帝国へのテロ。詳細は調べれば分かるだろうが、軍の命令である以上、余計なことは知らないほうがいい。それが軍隊でうまくやるコツだ。まずいことがあればエルが指摘するだろう。


「シュガー1からキング1、キング2へ。ロックに張り付いた。そちらも始めろ」

 既にエルが重力場は解除している。エアロックから侵入する。

 艦内に入り、ヘルメットと背中に背負ったバーニアとサポートパックを外す。兵装の確認をし、両手各々にアダマンタイト製のコンバットナイフを逆手に構える。


『エル、連中の配置は変わっていないか?』

『はい、ブリッジに3人、クラブフロアに15人、ペントハウススイートに5人です』

『クラブフロア、ブリッジ、ペントハウススイートの順で回る。通信の偽装を始めてくれ』

 エルにスペースジャック犯の通信の妨害とお互いの連絡の偽装を頼む。艦内のすべての制御はエルの支配下だ。制圧に失敗する要素はない。だがエルは100%とは言わなかった。

 明らかにこちらが有利だ。

 相手の目と耳はすべてこちらが潰している。そして、こちらの目と耳はたとえ電子的にまた肉体的に潰されたしても問題ない。


『敵配置示します』

 エルの声とともに俺の思考内に船内の配置図が浮かび上がり、スペースジャック犯の位置が示される。ご丁寧にバイタルサインもだ。

 俺はクラブフロアへの最短距離を進む。


『スペースジャック犯のすべての音声データと思考パターンの解析を終わりました。欺瞞工作開始します』


 クラブフロアの扉の前に立つ。奴らはカメラで監視しているつもりだろうがすでにエルが介入している為、奴らには誰も写っていない映像しか見えていない。


  クラブフロアの扉が開いた。扉右脇に立つ男の頸動脈を切り裂く、そのままこちらへ向いた左に立っていた男に向かい駆け寄ると男の首にナイフを走らす。そのまま部屋中央に立つ6人の男たちに向かう。

 男たちは銃を構える。人質は皆しゃがんでいる。しかし火線にさらすリスクは負えない。

 俺は、助走をつけるとフロア中央に密集して立つ6人の男たちに向かってジャンプする。


 狙い通り男たちは俺に向かって、上向きに発砲する、幸いなことに光学兵器だ、俺は膝を抱えるような姿勢で、アダマンタイト製のナイフを使い全てのレーザーをフロアの天井に向け反射させる。

 普通の人間ならできるはずない。しかし俺にはエルの計算処理が使える。

 もっとも実弾兵器だったら多少の誤差は生じただろうが。


『ライト・オフ』

 エルの言葉とともにフロアは一瞬にして闇に包まれる。


「この!」

 着地と同時に声のする方向へ駈け出すと声を発した男の喉を掻き切る。

 血しぶきが舞い散り、俺の顔に降りかかる。

 ゴーグルもしているが、もとより目を瞑っているので、血飛沫など関係ない。ただ、この香りが堪らなく気分を高揚させる。


「デニス、スコー・・・・」

 声を頼りに再び男の喉を掻き切る。


『せっかくのデータなので使っていただきたいのですが』

 敵の位置情報データを使わない俺に、エルの愚痴が溢れる。

 その間にも二人片付ける。

 

 後ろからの殺気に身を翻し、両手のナイフを投擲する。犯人が慌ててつけた暗視ゴーグルをナイフが貫く。


 背からやはりアダマンタイト製のククリナイフを取り出すと、犯人たちの間を駆け抜ける。同士討ちを気にしているのか発砲に躊躇し、仲間の名前を呼び合っている。なんという甘ちゃんだ。

 

 一人離れたところにいた最後の犯人が人質を盾に取る。まあ、無駄だがな。


『エル!』

 俺はククリナイフを投擲するとともにエルに指示する。

 灯りがついた瞬間、俺の投げたククリナイフが犯人の頭蓋骨に突き刺さった。


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