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バトルメンター  作者: 上晢徹
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1 強襲準備

本来ならあと1ヶ月ほどで到達する辺境で、海賊狩りの手柄を挙げて帰還する計画だった。仕込みも万端だったのにこのイレギュラーだ。ここでなんらかの手柄を挙げておかないと帰還した時に軍に残れないだろう。

「艦長。」

 俺は言葉を切った。

 軍隊では上官への意見は許されない。艦長室ならともかくここはブリッジだ。俺は何ら説得の言葉を発することはできない。

「少尉、何かあれば聞こう。作戦行動に関することなら構わん」

 意見具申ということだ。

「艦長、まずは時間です。すでに3人の人質が殺害されました。4人目の殺害時間まで3時間を切っています。応援の艦隊が到着するのは15時間後です。また、おそらく艦長がご想像の通り私もニューロンネットワークコア所有者です。ニューロンネットワークコアによる計画成功確率は82%です。」

 俺は一気にたたみかけた。

「しかし100%ではない」

「応援艦隊の到着を待った場合4人目の人質の死亡確率は100%です。そして4人目の人質はジャネット・リフ・シュターゲンです」

 現帝国宰相閣下の孫娘だ。もっとも殺されたとしても宰相閣下は気にもかけまいが。

「また、私の身分について帝国はなんの公式発表を行っておりません。現時点では帝国宙軍少尉という立場でしかありません」

「戦闘詳報にニューロンネットワークコアの使用が載ることになる」

 一瞬言葉に詰まった。ニューロンネットワークコアを使用する前提での計画承認は後々の責任問題に発展しかねない。

「使える物は全て使います」

 言外に全てをもみ消すという意味を込めて言った。

 艦長は俺の目をじっと見つめた。 

「・・・一蓮托生だ。この意味はわかるな?」

 俺は頷いた。

 計画のゴーサインが出た瞬間だった。


 ブリッジを出て格納庫に向かう。

『エル。仕掛けられるか?』

『すでに終わりました。コーニギン・ベアトリスは私の制御下にあります。しかしながら、艦外強襲艦3隻は通信システムを切っていますので、私の制御下にありません』

『レーザー通信も?』

『はい』

間違いなく作戦完了まで通信管制をしいている。作戦が始まったらどんな邪魔が入ろうが、遂行まで止まらない。

 格納庫に入り、強襲揚陸艦の脇に立つ軍曹に言う。

「軍曹、強襲揚陸艦の準備は?」

「OKですぜ、兵員は例の9人でいいんですか?」

「ああ、荒事だ、第2種戦闘装備で頼む。配置は任せる。軍曹にも降りてもらう。」

 俺は格納庫脇に備え付けられたロッカーから私物の第1種戦闘装備を取り出すと身につけ始める。第2種戦闘装備が重装備なら第1種戦闘配備は白兵戦でも格闘をメインにした軽装備だ。重火器相手にはまず太刀打ちできない。しかし俺にはこれで十分だ。周りの兵員たちも第2種戦闘装備を身につけ始める。


「作戦内容を確認する。客船コーニギン・ベアトリスへの強襲は俺単独で行う。バーニアで接近してエアロックから強制進入、スペースジャック犯を制圧する。皆には強襲揚陸艦で、敵艦外強襲艦2隻に降りてこれを奪取、その武装を持って残り1隻を破壊する」

 皆、俺より年上で戦歴の上の強者だ。だが俺は強気で押す。

 

「相手は23人ですぜ。少尉一人でしかも人質を取られた状態でなんとかできるとお思いで?」

 軍曹が懐疑心丸出しで尋ねてくる。自分たちの仕事の心配などしていないところが頼もしい。


「問題ない。敵艦外強襲艦を奪取で来た時点で通信封鎖を直ちに解除してくれ。俺がアクセスして残り敵艦を排除する。通信封鎖を解除できない場合は、軍曹、敵強襲艦兵装をもって残り1隻を破壊しろ」


「命令となれば従いますが、新米少尉様に出来るとは思えねんですがねえ」

 一番右端に立つ特技兵がめんどくさそうに呟いた。

「マイク!!」

 軍曹がたしなめるが、気持ちは分かる。彼らから見れば俺は任官したて、しかも士官学校卒業して2ヶ月足らずで、実戦経験0のお客様扱いなのだから。


「マイク・サリバン特技兵。貴様テラステップステーションの闇格闘議場で大穴を当てたことがあるらしいな?」

 特技兵が目をむく。

「2年前、ブラックチョーキー対リトルアッシュ戦に12万クレジット突っ込んで145倍のリターン。たいしたもんだ」

 3年間負け知らずのチャンピオンに参加費払いで挑戦の新人。しかも新人は18歳の餓鬼だった。しかし、その18歳の餓鬼は帝国に6人しかいないバトルメンターの息子だった。チャンピオンは50秒で沈み、引退に追い込まれた。

「え、えっ。あれって賭けてたの本人と俺だけだったって・・・」

「応援ありがとよ」

 俺はにやりとした。そろそろネタ晴らしをしておくべきだな。

「ついでにお前が娼館借り切ったどんちゃん騒ぎに憲兵が目をつぶったのも、帝国税庁査察官の調査を潰したのも俺だ」

兵がざわついた。軍曹も渋い顔をしている。

「バ、バトルメンターの息子!!」

 サリバン特技兵が叫んだ。


「気に入らないかもしれないがお前らがこの艦に乗ったのは偶然じゃない。ちょっと手をまわさせて貰った。本来なら辺境での海賊退治を手伝ってもらうはずだったが、ちょっと予定変更だ。軍曹、出撃だ」


 

 

 




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