プロローグ
「アッシュ・サマーキルズ少尉。直ちに第一ブリッジまで出頭しなさい。繰り返します。アッシュ・サマーキルズ少尉直ちに第一ブリッジまで出頭しなさい」
俺は強襲揚陸艦のパイロットシートから立ち上がると、脇に立つ軍曹に点検項目が映った端末を手渡した。
「後を頼む」
着任して1週間も経たない新米少尉を兵装も身につけた作戦開始寸前にコーエン級偵察艦の艦長が艦内一斉で呼び出すとなれば、もうこれはありえないことか途方もない事と決まっている。
『エル、ばれたか?』
『先ほど帝国本星からのレーザー通信を確認しました。内容はレベル8の暗号化がされていましたので、まず間違いないかと』
エルの声が俺の頭の中に響く。もちろん俺も声は発していない。
ブリッジのあるアッパーデッキへ向かうエレベーターに乗り込む。第1種宇宙服兵装を身につけた俺の姿を見て数人の士官がびっくりしていたが、俺の階級章を見て、先ほどの呼び出しを思い出したのか納得した顔をしている。
ブリッジに入り申告する。
「サマーキルズ少尉、出頭しました」
右手を上げ肘の角度が垂直に近い宙隊式の敬礼をした。
大佐の階級章をつけた艦長は前置きもなく言った。
エルが艦長のパーソナルデータを俺の視界に展開する。
「サマーキルズ少尉、君の父君のフルネームは?」
「アレクサンダー・サマーキルズです」
「あのアレクサンダー・サマーキルズかね?」
艦長がため息をついた。
「艦長のおっしゃるアレクサンダー・サマーキルズが「バトルメンター」ということであればその通りです」
艦長が2度目のため息をついた。
艦長のパーソナルデータから艦長が親父を知っているのは明らかだった。3回ほどその指揮下に入ったことがあるらしい。
。俺の親父は身長190の金髪碧眼。それに比べて俺は身長172の黒髪黒目の母親似だ。見た目からはまずわからないだろうし、サマーキルズなんて性も帝国辺境では珍しくない。ただバトルメンターを名乗るサマーキルズなら別だ。
「私は少々悩んでいる」
艦長は眉を吊り上げた。
「この事実が作戦終了後にわかったのなら問題ないが、今のタイミングで発覚したことが問題だ」
こちらもだ。予定では後1ヶ月は持つはずだった。思ったより帝国軍の情報部は優秀らしい。
エルの偽装工作をこうも早く見破るとは。
「この艦で、強襲課程と白兵戦課程、海兵隊訓練の全てを受けた士官は君だけだ。そして作戦発動まで2時間を切っている。しかし問題は帝国の第3皇位継承者をスペースジャックされた宇宙客船の奪還に向かわせてもいいのかという問題だ」