ファンタジーショートショート:勇者ガチャ
「魔王就任おめでとうございます!」
禍々しい玉座に向かって沢山のモンスター達が拍手を送っている。魔王選抜を見事突破した者に忠誠を誓っているのだ。
「うむ。これからはこの儂が、世界に混沌と恐怖を与えてやるのだ!」
意気揚々と宣言する魔王。
しかしそこへ突如光の柱が出来たかと思うと板状のあるものがゆっくりと降りてきたのである。板状の物は携帯端末のようなもので液晶の画面に『勇者ガチャ』という文字が浮かんでいた。途端にたじろぐモンスター達。
「ま、また出やがった勇者ガチャ!」
「あぁ、先代の魔王様もあれで出てきた勇者に結局倒されちまったんだ!」
「ま、またあんな強い勇者が出てくるのか・・・」
怯えるモンスター達にゆっくりと魔王は、語りかけた。
「安心しろ。儂がそもそも選ばれたのは、この引きの悪さよ!どんなクジを引いてもはずれにはずれ!結局当たりクジが1つになるまではずれを引き続ける者だ!」
その言葉に安心するモンスター達。
「そ、そうだその引きの悪さによって魔王様になられたお方だ!」
「きっと人間たちにとってはずれの勇者ばかり引いてくるに違いない!」
そうして落ち着いたモンスター達に満足すると魔王はその端末を手に取った。
「しかし、壊そうとしてもどうやっても壊れぬ。出来ることと言えば勇者ガチャのみ。一体これは何なんだろうな?」
そう言ってもそれを応えられるモンスター等居るはずもなく魔王は端末を操作し始めた。
「何々。【このガチャは勇者が居ない時にしか引けません。また勇者を倒すことで魔王Pが手に入りそれによって魔王自身やモンスター達を強化したり新たなモンスターを作り出すことができます。また勇者の強さはNRSRURとなっています。】かなるほど。」
そうして意を決して魔王はガチャを引いてみた。
「む?これは【N○○村の力自慢A】おぉこれなら弱い!」
その出てきた勇者に沸き立つモンスター達。
「おぉ!流石は魔王様!大体1回目のガチャでRを引いて苦戦を強いられるのにいきなりNとは!」
「○○村と言ったら近いじゃないかすぐ討伐隊を組織して遠征じゃぁ!」
こうして魔王の勇者ガチャの生活が始まったのだ。
「【R××王国の騎士C】討伐完了しました!」
今日もその報告に胸を撫で下ろす魔王。あれから暫くの月日が経ったものの出てくる勇者はNやRばかり順調に倒して魔王Pを貯めていたのだ。
「うむこれでまた配下の強化が行えるな。それとも新たな配下を生み出すか?己の強化に費やすか悩みどころだな」
等と考えながら眠りについた翌日の事である。
「何だこの画面は!【日頃のご愛好に感謝して特別ガチャ!SR勇者確定!】だと・・・?」
振るえる手で凝視するが、そこにはその画面しか現れない。
「なんと言うことだ!確定だって!」
「SRなんてどんな勇者が出てくるんだ!」
「先代の魔王様もSR勇者に倒されたんじゃなかったか?」
またしても怯えだすモンスター達。
「狼狽えるでない!今まで沢山の勇者を倒し我らは力を付けてきた!そう今力を合わせれば必ずやSR勇者など打ち取ることができるはずだ!」
そう鼓舞しながら魔王はガチャを引く
「【SR封印されていた勇者G】こ、こいつは先代を倒した勇者ではないか!皆の者先代魔王への弔い合戦じゃ!」
こうして士気も高くなった魔王達は一丸となって戦い、多大なる被害を出したものの勇者を倒すことに成功したのであった。
「ふははは!これでSR勇者であったも倒せることが分かった!しかも魔王Pもとてつもない量が貰えた。これで更に強化すればSR勇者も敵ではない!UR等この儂の引きからして出ることもあるまい。このまま世界を取ることができる!」
そうして意気揚々と眠りにつくのでした。
そして翌日。魔王は再びその画面に目を疑いました。
「【日頃のご愛好に感謝第二弾!UR勇者確定10連ガチャ!UR勇者出現確率大幅アップ!】だと・・・」
しかし配下のモンスター達は今度は怯えておりません。
「SR勇者を倒したんでさぁ!もうSRもURも同じようなもんだろ!」
「きっと魔王様の引きならUR1体の残り全部Nじゃないか?」
「ふはは!ちげぇねぇ!」
そう笑う配下達を目に魔王が今度は落ち着きを取り戻したのでした。
「そ、そうだな。よしではいくぞ!」
魔王はガチャを引きました。
「【UR異世界の勇者C:UR神から祝福された勇者F:UR幾つもの世界を救った勇者H・・・】10人全部URだと⁉」
そう叫ぶと魔王は卒倒しました。
「何だと!あの魔王様が!」
「逆に今までの揺り返しが今ここで来てるんじゃないのか?」
「そんなこと言ってる場合か!とんでもないものが10人も来るんだぞ!」
結局そのガチャの結果に魔王達の士気は落ちるところまで落ち、あっという間に勇者達に討伐されてしまうのでした。