開幕
怠い。
まるで泥沼に浸かっているようだ。
わかっている。
所詮プログラム。
ウイルスが入れば簡単に書き換えられてしまうような吹けば飛ぶ存在。しかし。
(「待ってろ ‼︎ すぐ直す‼︎」)
画面の向こう側で彼は叫ぶ。声が枯れ、喉が潰れだとしても望む未来を、彼のささやかな願望を叶えることができるのなら彼は片腕だって差し出すだろう。しかし、これは現実であり、変えようのない「今」なのだ。
目の前が0と1の羅列で覆われていく…
(そろそろタイムリミットかな…)
奪われゆく意識の中、彼のことだけが気がかりで…
(なにしているんですか?)
彼は恐るべき速さでキーボードを叩いている。
どうやら最後の悪あがきの真っ最中のようだ。
(あぁッ‼︎)
心臓をえぐられるような痛みが貫いた。
(「わ、わりぃ…っ!じ、時間がないんだ‼︎」)
(は、はは…乱暴なことしないでくださいよ…
仮にも女の子なん…で……すよ?)
声は届かず音すら出ていない。向こう側の彼は電子音でも聞いているのだろうか…
(つ、辛いなぁ…こ…んなに苦…し………いなんて…せめて…彼に………)
プツン
彼女の記憶はそこで途切れた。