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僕が振り返るのと背後に立っていた人物が手に持っていた何かを振りぬこうと構えるのが同時。
身の危険を感じほとんど倒れ込むように頭を下げるのと、その人が持っていたバットを横なぎに払うのも同時だった気がする。
頭上ですごい音がした。ドアの一部と思われる欠片がぱらぱらと降り注ぐ。恐る恐る目だけ上に向けると、木製のドアの表面が一直線に削れて塗装が剥げていた。
ゴァンと何かがコンクリートに叩きつけられる音と共に地響きがした。音の方を振り返るとどうやら目の前に立っている人物がバットを地面に突き付けたらしい。蜘蛛の巣状にヒビが入っていた。
「やっと…やっと見つけた…」
凛とした声が降ってくる。僕は藤色の着物を着た人物を見上げた。
全体的に冷ややかな印象を与える色合いの着物を流し、その人は立っていた。顔立ちは整っているというより、日本人形を彷彿とさせるほど綺麗だ。とはいうものの、着物の隙間から見える逞しい腕からして男性だろう。
そうして額の脇からは、透き通るような青色をしたツノが左右2本ずつ生えている。
いきなりでは美形、としか表現できないような彼の髪は、白かった。それを頭頂で結うようにしてまとめ、長く後方になびかせている。それをうずめるように、青いネックウォーマーを巻いていた。
長いまつげから覗く、紫色の瞳。
射抜くような、その目。
また恐怖が湧き上がってきた。
そうして、奇妙な…懐かしいような感じも。
「…君は…誰?」
情けないかな、声は震えていた。目の前の彼――鬼は整った眉を少しだけ上げた。
「誰って、私はアカリですが?」