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僕、神谷飛鳥はいわゆる霊媒体質だ。
いつから視えていたかは定かではないけれど、多分最近のことだったはずだ。
霊が視える人にも程度はあるが、僕は重度中の重度。視え、更に大量に引き寄せる。最悪のケースだ。
神社や御寺には勿論相談に行った。だがどちらも手の施しようの無いとのこと。気休めに貰った御守りを大事に持っているのが馬鹿らしい。
ある会社に除霊を頼もうとしたこともあるけれど、自称祓い屋の背後に明らかに厄介なものが憑いていたので止めた。
普段霊から何の影響も受けなかった人間が突然視えるようになるにはきっかけがあるそうだが、僕は誰かに恨まれるような
事をした訳でもなければ、事故を目撃したことも遭ったことも無い。丑の刻参りなんか見たこともないし、殺人なんてもっての他だ。ごく平凡に生きてきたし、
特筆することなんか無い。
そんな僕が何故こんな霊被害に遭っているのか。神様がいるなら問いただしたい。
寒さの残る道を歩いて帰路につく。結局なんとか美谷さん達を説得して、家に帰ることになったのだ。家、と言っても数年前越してきたアパートで独身暮らしだ。帰って、お風呂に入って、ビールを飲みながらテレビを見て適当に晩御飯を食べて寝る。そんな生活。
今の暮らしにさほど不満は無い。難はと言われればお酒を買うとき位だ。童顔で背が低い僕は免許証を見せて成人であることを示しても店員が信じてくれない。それが無ければむしろ快適くらい。時たまとてつもなく寂しくなる事はあるけれど、一人暮らしは気ままで楽しい。
あのアパートが事故物件でなければ特に。
僕は業者の話はちゃんと聞いたつもりだった。話に事故物件だなんて件は無かったはずだ。ただ不自然に値段が安いなぁとは思っていたが、それがまさかこんな理由だったとは。
大家さんに挨拶に行って、「ようあんな所買ったねぇお金無いんかねあそこ数年前に人が死んだ部屋だがね」と言われた際僕は冗談抜きで気絶するところだった。
業者に電話しようかとも考えたが、出来なかった。
僕は臆病なのだ。昔からそうだった。小学校ではよく「トロい」「泣き虫」といじめられ、泣かされた。教科書を破られたこともあったっけ。僕は俗に言ういじめられっ子だったのだ。
そんな僕に手を差し伸べてくれた友達なんて、今まで一人も…
―ナスカさんは優しいだけですよ―
脳裏に一瞬閃いた懐かしさを感じさせる声に驚く。同時に長めの黒髪を持つ少年らしき姿が浮かぶ。
顔はよく思い出せない。もやがかかったように見えないのだ。声の余韻ももやの中に姿を消した。
あの子は誰だろう。
思い出そうとすると、頭の奥がズキンと痺れた。