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ホラークラッシャーアカリさん  作者: オオカミさん
第一話 アカリ登場
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「…すか…飛鳥!起きろ!」


名前を呼ばれて目を開けると、眩しい光に照らされた。と同時に、自分の顔を覗き込んでいる人達が視界に入った。


「おい飛鳥、大丈夫か?」


顔のうち1つが喋りかけるので、僕はぼんやりとしつつも頷いた。頭の下でシーツの擦れる音がする。


そうか、僕は倒れたんだなとどこか他人事のように思った。無理して来るんじゃなかった。言い知れないだるさが体に広がった。


また同じ顔―いつも隣の机で作業している斎藤さんが口を開く。


「お前出勤してすぐぶっ倒れたんだぜ?」


すぐか、皆驚いただろうな。


「皆でここまで運んだんですよぅ」


ベッドの端からちょっとだけ顔を出して女性が言う。この人は佐伯さんか。赤いベレー帽の下からくりくりした目が覗いている。



「ごめんね、驚いたよね」


「驚いたどころじゃないっつーの」


「とにかく安静になさい、今日の分の仕事は私達でやっておくから」




斎藤さんの溜め息に継ぎ、優しいお局様美谷さんが微笑んだ。


「神谷さんはゆっくり寝ててください」


佐伯さんが僕の頭を撫でる。袖の少し長いセーターの布地が額にあたる感触がした。休めるのはありがたい、だけど。




「僕、帰ります」




体を起こすと、美谷さんと斎藤さんが慌てたように手で制す。


「休んでなさいな、貴方病人なのよ?」


「そうだ。帰り道で倒れたらシャレになんねーぞ」




…違う。肩がずしりと重くなるのを感じた。




僕は病人じゃない。



「帰りは俺が送ってくから!」



それは駄目だ。耳元で、何かが軋む音がした。

ああ、これはまずいな。



僕は布団をはね上げてベッドから降り、スリッパをひっかけた。




「寝てなきゃダメですよぅ」


「大丈夫、顔を洗いに行くだけだから」





半ば振り切るように廊下に出た。周りが静かになると突然生暖かい空気に包まれる。酷い頭痛。歯を噛みあわせるような音がすぐ近くでした。



やめてよ。


頭を振っても耳を塞いでも音は追ってくる。


堪らず僕は走り出した。ひたひたと湿った足音が駆けてくる。必死に逃げるが、差は開かない。こんなとき自分の鈍足と体力の無さが恨めしい。


不意に後ろから服を引っ張られ尻餅をつく。振り返るが、見えるのは延々と続く廊下のみ。


震える腕を抱いてその場で動けない僕の耳元で、何かが囁いた。



《殺してやる》



もうやめて。



無駄だと知りながらも僕は耳を塞ぐ。けたたましい笑い声が頭に直接響いた。



誰か助けて。その言葉は声にはならずに、喉の奥でつっかえた。


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