五章28話 ゴルディリオン到着
俺たちが2体の主精霊によってゴーレムたちを掃討した後、俺たちの、と言うより師匠たちの前に一匹のブレイドボアが現れた。
因みに、砦や俺たちを守っていた結界は解除され、相田が飯本たちに潰されていた(抱き付かれていた)がそこはどうでも良いか……。
魔力の尽きて気絶した冬子は、魔力回復薬を数滴づつ飲ませながら伊勢が介抱している。
「BURUBURU」
やって来たブレイドボアは、魔王軍の中で魔物の部隊を統率している個体で、此度のゴーレム軍に巻き込まれないように魔物たちを戦場から避難させていたのだけど、ゴーレム軍が掃討されたのを見て様子を見に来たようだ。
「ブルト、魔物部隊は無事だったか?」
「BUUU!」
師匠がナチュラルに会話を始めるけど、こっちは突然現れたダンプカー位の大きさをしたブレイドボアに驚き攻撃しようとするクラスメイトを止めるのに要らない労力を使うことになった。
「師匠、全員無事だったって……こっちがぶっ殺した魔物の数は被害に含まないんですか?」
砦奪還戦とかで殺しまくっている筈だけど……。
「BURUUU!」
あ、異世界人との戦いに出していた魔物は魔王の魔力で生み出されたゴーレムみたいな扱いの奴等なんだな、意思も無く与えた命令に従うだけの特攻獣、ゴーレムと一緒で被害として計算しなくていいって事か……。
それって魔王軍側に師匠たち以外の人的被害が出て無いってことじゃないのか? 師匠たちも死んでないし、クロト以外は怪我の方も回復薬で無くなっているから被害って言えるのか分からないけど……。
「ソウヤ、俺たちは一旦戻らせて貰うけど……当然誰か一緒に来るよな?」
まぁ、一応降伏させたとは言え野放しにする訳にも行かないからな、監視が必要か?
師匠がここから何か企んでいるとは思えないから必要無いと思うけど、色々と話し合う必要もあるからな……。
「あ~、それ俺が行く、相田も来るよな?」
「え? 俺?」
相田を連れて行くのか? そうすると付属品……飯本たちが皆着いて来る事になるんじゃないか?
「良いから来い、大丈夫だと思うが、クロトを倒せる戦力での牽制は必要だ」
「わ、分かったよ」
その後のメンバー選出の結果、俺も師匠と言う繋がりが有るからって事で一緒に行く事になった。俺が行くってことで当然のように玲奈も一緒で、共に行動してきたメンバーという事である程度魔力が戻り目を覚ました冬子、後は……相田が行くと言う事でいつもの取り巻き連中といった所か。寺坂たちは素行に問題があるからと田嶋が反論もさせずに却下した。そして、ブルトが暴れないと分かった途端砦の奥から出て来た兵や騎士隊長やらも除外だ。
「師匠、それ教えてくれませんか?」
「それってなんだよ?」
相田たちが数日かけて侵攻した戦場を結構なハイペースで駆け回っていた俺たちは、今魔王の国の首都ゴルディリオンが目で見える位置にまで来ていた。しかし、砦を出発してここまで半日もかかっていない。
「それですよ今使っている飛行補助、いや、この場合は騎乗補助ですか?」
ゴルディリオン行きのメンバーは、負傷が完治していない為砦に残って療養しているクロト以外の魔王軍メンバーと、俺、相田、田嶋、玲奈、藤田、飯本、羽切、宇佐美、田中、それと魔力回復薬で有る程度魔力を回復させた冬子だ。合計14人があの時やって来たブレイドボアの背中に乗りゴルディリオンに向った。
大ブレイドボア、ブルトの移動速度は凄まじく、俺たちはあっという間にここまで来たんだけど、普通にブルトの背中に乗っていたら、俺たちは多分振り落とされていただろうな……。それを大丈夫なようにしたのが師匠が断続的に使っている魔法だ。一定の間隔でブルトの前に黒い魔法陣が展開され、それをブルトやブルトに乗る俺たちが通り過ぎると、ブルトの上での姿勢が驚くほど安定する。この感覚には覚えが有る、チンピラドラゴンの使っていた飛行補助魔法だ。
「騎乗用に手は加えてあるが、竜魔法だぞ……諦めろ、普通の人間には使えない」
いや、なんていうか……俺はもう普通の人間って枠じゃないんだけど……しかも竜関係で……まぁ、ゴルディリオンもどんどん近付いて来ているし今は良いか、俺が教えて欲しいのはブレスの方だし、また教えて貰う機会も有るだろう。
「俺としては、ずっとソウヤにくっついてるその子が何なのか気になるんだが……」
師匠が言う通り、いつものように俺の腰に抱きつくように玲奈がくっついている。最初はブルトから落ちないようにって言っていたけど、玲奈もチンピラドラゴンに乗った経験が有るんだから師匠の補助魔法には気が付いているだろう……つまり、くっついていたいだけだな、まぁ、悪い気はしないし構わないんだけど……。
「伊勢玲奈、蒼也の妻です。貴方は蒼也の師匠様?」
まぁ、俺が散々師匠って呼んでるから分かるよな……って妻!?
「ハヤト・ミナカミだ、ソウヤの師匠で合ってる、好きに呼んでくれ」
「ん、だったら師匠で……こっちも伊勢でも玲奈でも高深でも好きに呼んでください」
おい、また変なの混じってたぞ……。
「おいおい、このブレイドボアヤバイな、こんなのに戦場を駆け回られたら堪ったもんじゃないぞ」
玲奈に注意しようと思ったら、田嶋がなぜか興奮気味に肩を叩きながら言ってきた。
「牙だけで下手な大剣よりもでかい、斬馬刀みたいなもんなのにそんな物を2本も左右に構えてこの速度だろ? 本体も大型のダンプカー以上のでかさだし、これマジで堪ったもんじゃないぞ」
「でかさは変異種だからなんだろうな……まぁ、誰かが術で狙撃すれば倒せない事も無いと思うけど……」
「それでもだ、これが不意打ちで来たら被害ゼロじゃ済まないだろうが」
まぁ、確かにな……魔王軍も自軍に人的・魔物的被害が無いように立ち回っていたんだろうな、クロトなんかは戦いたくて出て来たみたいだけど……。こっちとしては助かったんだろうな、ブルト率いる魔物部隊がどれ程なのか分からない分怖い。
「と、そうこう言ってる間にもう着くな……やっぱ速えぇ」
「平坦な道で真っ直ぐ走る場合に限るけどな」
あ、やっぱり魔物って言っても猪なんだな。
「お! 師匠さんか? 俺は田嶋颯太、颯太と呼んでくれ」
「うん? おお、キリヤを埋めてくれた異世界人だな、よろしく」
「兄さんは楽しそうだな……こっちの問題は何も片付いていないというのに」
「まぁ、それに関しては俺がもうちょい頑張れば良いだけだから気にするな。それよりもキリヤは、異世界人たちと仲良くしろよ」
「はぁ、負けた以上は仕方ないか……分かってるよ、僕の予想を勇者たちが上回っていた。仕方ない……」
内政をする奴って大変そうだな、俺は今までただ戦って来ただけで面倒な事は冬子とか他の誰かに任せていたから結構気楽だったのかもな。
ブルトの上で互いの紹介やこれまでの話を済ませているとブルトが地面を削りながらブレーキをかけ、ずんと音を響かせながらしゃがみこんだ。俺たちの目の前にはゴルディリオンの入り口に当たる門が有り、どうやら到着したようだ。ブルトが着いたから降りろと促してくる。
「へ~、ここが魔王の街か~」
「まぁ、こんなものだろうとは思ってたけど……普通だな」
魔王の国の首都に当たるゴルディリオン、その街並みは他の国のものと然程違いがある様には思えなかった。違いと言えば、他の国では殆んど見かけなかった亜人、獣人といった者が多い点だろうか? 逆に純粋な人間は殆んど見かけないか……。それともう1つ違うのは他の街では門の近くにあった冒険者協会がここでは見当たらない事かな。
「本当だね、あの王の言い方だと、ここって完全に魔物の国なんだけどね」
「相田、豚王の言葉は全部忘れろ、もういい加減分かってるだろ?」
「うん、まぁ……ね」
多少複雑そうな相田は放って置いても大丈夫だろうか? まぁ田嶋や回りがフォローするだろうしセリアも居るから大丈夫だな……。
「とりあえず城にでも連れて行くか……」
ああ、俺もその方が良い、今の俺たちって結構回りから注目を集めているんだよな。街に入るのは面倒な手続きも無く簡単には入れたんだけど俺たちはこの街では少ない人間の容姿をしている。その上一緒に来たのがキリヤやコトネといった魔王軍の上の連中だ。師匠も一応そこに含まれるんだろうけど、俺が出会ったのが他国であるようにあまりこの街に居ないらしい。それでも知っている者は居るようで、多少注目を集める要因にはなっている。中には好奇心だけでなく人間という種族に対して恨みや憎しみの視線を向けて来ている者も居るので、正直居心地が良いとは言えない。
「まぁ、豚王のやってた事と、ここ以外の街の様子を見た感じじゃ仕方ないんじゃないか?」
俺の考えている事が分かったのか、田嶋がそう言ってまた肩を叩く。
「豚王ねぇ……あいつは本気で敵だからな、いつか殺す」
「師匠、声がマジですね……なんか有ったんですか」
ただ単に戦争吹っ掛けられたってだけじゃ説明できない迫力が師匠にはある。
「な~に、俺たちの妹が豚王直属の奴隷狩りに攫われそうになっただけだ。勿論、奴隷狩り共は街の外に出た時点で全員挽肉にしてやったけどな」
「あの時の兄さんは多分クロトでも止められなかったね、止める気も無かったけど……でも、アレがこの戦争の始まりだったね」
師匠の妹って事は……ゴルディリオンの姫だよな? リミュールの時もだったけど、豚王は各地の姫を攫って何をやろうとしていたかなんて……あ~気分が悪くなるから考えるのは止そう。
「例えこれで敗戦、停戦か? だとしてもアレだけはぶっ殺すからな」
「あ~、兄さん……言うの忘れてたけど、アレはもう死んでるよ」
最悪はこの場で俺たち全員を相手にして戦う覚悟を持って言ったであろう師匠は見る見る顔を赤く染めていく。
「お前……そこは言い忘れるなよ」
「師匠が赤面するのとか、珍しい物が見れた……」
「ソウヤ、怒るぞ」
「すんません」
今の師匠に凄まれても全然怖くないけど、さっきの奴隷狩りの結末を聞く限り本気で怒らせるとやばそうだからから、あまりかわない様にしよう。
「で、誰がやったんだ? ソウヤか?」
「いや、俺じゃないですよ、確か戦ったのは田嶋たちで、止めを刺したのは……」
「江ノ塚だな、まぁ、そっちが余計な事しなけりゃ俺がさくっと暗殺してたんだけどな。ホント余計なことしてくれたよな、倒すのにスゲェ苦労したぞ」
俺は戦ってないから分からないけど、回復力が凄くてブレイカークラスじゃないと倒せなかったみたいだしな。
「はは……アレの人としての生も終わらせてシルバーブルも壊滅させられる良い手だと思ったんだけど」
「勘弁してくれ、大体お前らの目的って戦争に勝つことじゃなかっただろ? 多分戦争に勝つだけなら何時でも出来たんじゃねぇか? それこそ、俺たちが呼ばれる前に終わらせちまえば良い話だ。
でも実際は俺たちが呼ばれるまで、いや呼ばれた後も大した戦闘はしなかった。そもそも俺たちの召喚を促したのがリリなんだよな……指示したのはそっちの眼鏡だろうけど、こんなの戦争で勝つ以外の何か目的が有るとしか思えねぇ」
あ~そうなのか、戦争の原因が豚王に有るとは思っていたけど……魔王側もなんか思惑が有るのか?
「まぁ、その辺りは城でじっくり話そうか」
「ああ、どんな話が聞けるのかねぇ……」




