五章9話 遅れて来た主人公
俺たちがシルバーブルノ城に到着した時、盛大に上がっていた炎は綺麗に消えていた。壁や屋根のあちこちから煙が上がっているけど、燃えている訳ではないみたいだ。
「とりあえず炎の発生源を確認しましょう、近付けるかしら?」
冬子に言われて素直に城のぶっ壊れた部分に近付くチンピラドラゴン……こいつ、女の言う事なら素直に聞き入れる傾向が無いか? 妻豚人の事も有るし、ただ女子供に甘いってだけだと思うけど。
「たー、由宇、白山、江ノ塚」
チンピラドラゴンの背に乗っている人の中では一番視力が良い玲奈が決壊跡に居るクラスメイトの名を上げていく。確かに、その四人だな。田嶋と白山がなんかボロボロだけど……。
『丁度屋根が吹っ飛んでやがるから直接乗り込むぞ』
「え、ちょっとそれは待っ……」
ああ、もう! 聞く耳持ちゃしない! そりゃあ、ドラゴンからしたらあの火柱も脅威度は低いのかも知れないし、飯本の結界術が有ると言っても、エバーラルドの姫リミュールだって居るんだぞ、もう少し慎重になれと……俺が言えた義理じゃないか? いや、でも一人じゃなくなってからはそれ程無茶してない筈だ。
「GYOOOOOONN!」
って、こら! 無意味に威嚇しながら降りて行くな! 飯本の結界があるけど、それでも攻撃されたら厄介だろうが! こいつ、異世界人に恨みでもあるのか!?
「なっ! ドラゴン!? この状況でんなもん出て来んのかよ! 誰のフラグだ!」
あ~田嶋の焦った声が聞こえてくる、早く誤解を解かないと本当に攻撃されてしまうぞ。
「あ~僕もこの世界に来てからドラゴンに関わった事は無いから違うよ」
下の騒ぎなんかお構い無しにチンピラドラゴンは下降を始める。
「とりあえず、こっちからの攻撃は無しで、飯本はドラゴンの下方に結界を張ってくれないか」
「私の結界は動かせないわ」
動かせない? あぁ、俺のソードフィールドみたいな感じか? その場に設置するだけで盾みたいに持ち運び、移動が出来ないっていう……。
『ハッ! 生命竜舐めんな、あんな餓鬼共の攻撃羽虫が飛んでるようなもんだ!』
「痛くは無いけど鬱陶しいって事だろ、お前鬱陶しかったらキレて攻撃するだろうが! 上に乗ってる俺たちに被害が来ても困るんだよ!」
お前、リミュールの護衛も兼ねてるんだろう、頼むから波風立てないでくれよ。
「相田関連じゃないだろうな……いや、俺たちの中でドラゴンと関わってる奴が一人居たな」
「あぁ、高深君?」
田嶋って何者だ? 事前に俺が旅して分かった事とかを知らせておいたけど、あっさり正解に辿り着いたぞ……。
「交渉は私の仕事です。お願いですから、大人しくしていてくださいね」
『わ~ってるよ、それに、あいつらの中にこっちの正体に気付いた奴が居るみたいだ……なぁ、ソウヤ?』
「あぁ、前に玲奈の能力で連絡しただろ? 田嶋がそこから俺とエバーラルドで会ったドラゴンに辿り着いた」
『ってな訳でこのまま降りっからな』
言うまでも無く降りて行ってるんだけどな……。
「田嶋~」
チンピラドラゴンの上から身を乗り出して大きく手を振る。普通なら落ちるけど、チンピラドラゴンの飛行補助の魔法が掛かっているからできる芸当だな。
「ん~誰か乗ってるな、何とか見え……あぁ、やっぱり高深だ。伊勢や美波も一緒なのか?」
『ソウヤ、とりあえず事情を説明してきやがれ』
へ?
その言葉を理解する前に俺の身体が空中に投げ出されていた。
このチンピラドラゴン、俺に掛けていた魔法を解きやがった! お前、些か俺に厳しくないか?
『大丈夫、大丈夫、怪我してもすぐ治るぁ』
怪我ならな! 打ち所が悪かったら即死だぞ即死! それだけは避けないと!
「魔法剣でいけるか? まぁ、俺には他の手は無いか……」
そこらの辺の壁はボロボロだから、前に坊ちゃんの家の地下に落とされた時に使った手は使えないよな……。
あ、ヤバイ……咄嗟に方法が思いつかないぞ、あんな地下に落とされたり上空から落ちる場面なんて想定していなかったから……。
どうする、チンピラドラゴンの話を信じるなら俺はドラゴンになるんだから羽が生えればって! そんなピンチに覚醒とかアニメじゃないんだから全然現実的じゃない! そんな手を当てにはできない、ならどうする? とりあえず頭から落ちるのだけは避けよう、で、少しでも衝撃を和らげれば……怪我はしても異常な治癒力が有るから死にはしないだろう。
兎に角、剣に魔力を込めて……。
「高深!」
「高深君!」
俺がドラゴンから落ちたのを見た田嶋と朝霧が声を上げる、江ノ塚は大丈夫だと思っているのか平然としているみたいだけど……白山は、なんかこっちを気にしている余裕が無さそうだな、あいつが一番ボロボロだし、ここで何が有ったんだろうな?
落下地点に誰も居ないのを確認、これならある程度威力のある魔法剣をぶっ放しても大丈夫そうだな。
「田嶋! 近寄らないでくれよ! ウィンドブレイク!」
打撃的に調整した風を放ち床に叩きつけると床が見事に崩れ落ちた。打ち出した衝撃でちょっと身体が浮いたけど、風をクッションにしようと意図していた感じとは全く違う結果になり、どうして良いか分からなくなる。
結局、少しだけ落下の勢いを弱めて瓦礫の中に足からダイブする結果になった。
本当に俺の身体は作り変えられているらしく、身体中が痛いけど骨が折れているような痛みは無い。
「た、高深~大丈夫か~?」
「あ~、大丈夫、すぐに動けるようななる……とりあえず、上のドラゴンは敵じゃないから攻撃しないでくれ~」
俺がぶち開けた穴を覗き込んで心配そうに声をかけてくれる田嶋に伝えるべき事を伝える。
『くっそ! 人間の雌! 背中で暴れるんじゃねぇ!』
ん~? なんか上でチンピラドラゴンが騒いでいるな……。誰か俺の話も聞かず攻撃したか? 白山とか全くこっち見てなかったから有りえる……。
「伊勢さん! 落ち着いて! 高深君なら大丈夫だから!」
朝霧の焦った声が聞こえてくるが……。チンピラドラゴンが騒いでいる原因って玲奈なのか?
「高深! 伊勢がやばいから悪いが上まで運ばせてもらうぞ、多少の痛みは我慢しろ!」
朝霧同様に慌てた感じの田嶋が身軽に穴の中に降りて来る。手早く俺に乗っている瓦礫を除けてくれている間に痛みの方は殆んど引いていた。治癒力が前より上がってる……これも、竜化の影響って事か。
「急ぐから、担がせてもらうぞ」
「いや、大丈夫、もう歩ける……」
普通に立ち上がった俺を見て田嶋は一瞬驚いて見せたが、すぐに納得して上に急ぐように促す。
「無事成長して帰って来たみたいだな」
「おかげさまで、周囲にも恵まれたみたいでな……」
「まぁ、普通なら、俺たちが危ない所で助けに来るのが王道なんだが」
「これでも火柱を見て急いで来たんだぞ」
「はは、それ決着の炎だから完全に遅刻だ。兎に角、今は伊勢を何とかしてくれ。あのままだとあのドラゴンが暴れかねない」
玲奈はいったい上で何をやってるんだ? まぁ、もう分かるんだが……。
『くっそ! なんで小娘の刃が俺の身体に刺さりやがる! つーか、ソウヤなら大丈夫だって言ってるだろうが!』
「大丈夫じゃなかったら助けに行ってる……大丈夫だけど、悪戯した蜥蜴にはお仕置きが必要……ね?」
『誰が蜥蜴だ! ああ! 糞! だからなんで刃が刺さるんだ!』
チンピラドラゴンの背に乗っていた皆は玲奈以外が全員降りていて、残った玲奈がチンピラドラゴンの背の上を縦横無尽に飛び回り、クナイや手裏剣を背中に突き刺していく……なんだ? どういう状況だ?
「凄いな、無意識に能力値を全開で使いこなしてる」
田嶋が小さく呟くが、先ずは状況説明を頼む。
「高深が落ちた後、あのドラゴンも叩き付けるように降りて来た。伊勢以外がドラゴンから降りた後、伊勢が暴れ出した。多分高深を落としたからだろうな」
なんか玲奈がキレ易くないか? 地球基準でさっきの紐無しバンジーなんてやったら即死レベルの高さだったのは確かだけど……。
「玲奈、なんか今まで見たことが無いぐらいの速さだな……アレを俺に止めろって言うのか?」
訓練の時は当然として、今までの戦闘時でも加減していたんだな……本気になればまだ早くなるんじゃないか?
「多分怒りでリミッターが外れてるんだろうな。でもまぁ、あの動きが追えるなら止められるだろ? 俺も万全の常態ならやっても良いんだが、今アレを止める自信は無いんだよなぁ」
俺だって怪我人なんだけど……まぁ、もう殆んど治っているけど……。
「はぁ、俺たちが来る前に何が有ったよ?」
「お互いの報告は、伊勢を止めてからだ」
まぁ、そうだな。でも、今の玲奈を物理的に止めるのって骨が折れそうだな。
「まぁ、力付くで止める必要も無いか……とりあえず、声かけてみよう……。玲奈!」
チンピラドラゴンの上を飛び回っていた玲奈がピタリと止まりゆっくりとこっちを振り向く。よかった、周りが見えてない状態じゃなく声は届くみたいだな。
『グウェ!』
なんか玲奈が凄い勢いでこっちに飛んで来たかと思ったら、チンピラドラゴンが潰されたような声を上げた。あ、玲奈が居た場所の背中の鱗が砕けている、こっちに飛んで来た時の踏み込みで砕けたのか?
いや、そんな事はどうでもいい、俺の異常な治癒力の元になった奴だからあれ位の傷はすぐに癒えるだろう。今は玲奈をちゃんと受け止めるのを優先だ。
「蒼也! 大丈夫!?」
思った程の衝撃も無く、玲奈は俺の腕に収まる。
「大丈夫だから落ち着いてくれ……いや、落ち着いてるな」
寧ろぐったりしているんだが、大丈夫か?
「いきなりの全力戦闘だ。反動で身体が動かないだろう?」
「たー、何……これ?」
玲奈は俺の腕の中でぐったりしながら近付いて来た田嶋に自身の変調理由を尋ねるけど……なんか、凄く頬が緩んでる。一暴れして満足したか?
「人が普段使えている筋力は最大の70%ぐらいって話は聞いた事無いか? あれって肉体を傷つけない為ってのと、できるわけが無いって思い込みで制限しているって話なんだけどな。これが、俺たちの能力値にも言えるんだ」
とりあえず回復薬で動けるようになるって事だから、田嶋の説明を聞きながらポーチから出した回復薬を玲奈に飲ませる。
「俺たちの場合は地球の常識、人間にこんな動きができるわけが無いって思い込みで能力値にリミッターをかけて制限しちまってるんだ。伊勢の場合は怒りでリミッターが外れたってとこか?」
リミッターねぇ……元々能力値の低い俺には関係ないか? いや、今じゃ俺も人外の仲間入りしてるんだよな……って事は常識を捨てればもっと強くなれるのか? 流石に羽ね生えたり鱗が出たりするのは嫌なんだが……。
「まぁでも、慣らしていないとそうなる。多分術士系の能力、魔力に関係する事ならリミッターを外し易いと思うんだけどな」
まぁ、元の世界じゃ魔法なんて使えないからな、元から限界のイメージなんて無いからって事か。
『えっと……誰か背中に刺さってる武器抜いてくれねぇ?』
「却下……」
玲奈に却下された為、他の奴もチンピラドラゴンには近付かない。まぁ後で抜いてやるから、今は大人しくしていてくれ。
「もう大丈夫でしょうか? お話させてもらっても構いませんか?」
場が落ち着いたと判断したのかリミュールがこの場に居る全員に声をかけた。王族のカリスマとか言うんだろうか? その声は良く通るし聞く人を惹きつける。
「ひとり知らない奴が居ると思ったが、誰だ?」
「エバーラルドの姫だ」
田嶋が小声で訊ねて来たので俺も小声で応える。
「はあ! 助けたヒロイン仲間にするのはよくある話だけど、お前報告には姫を仲間にしたなんて書いてなかっただろ!?」
影犬で連絡した時は居なかったしな、まぁ玲奈や冬子のような仲間って訳でもないし……。
「私はリミュール・ヴェルデ・エバーグリーン、エバーラルドの第二王女です。本日はシルバーブルに対してエバーラルド、マギナサフィア、セントコーラルの三国による降伏勧告に参りました。シルバーブルの王……あの豚は何処でしょう?」
最後ちょっと本音が洩れてるぞ……わざと洩らしているんだろうけど……。
「さっきまでそこに居たよ」
江ノ塚がものすごく焼け焦げた一帯の床を指す。見た感じあの火柱の発生源って所だろうか? ん? と言う事は……。
「さっき江ノ塚が消し飛ばしたからなぁ……江ノ塚、代わりにお前が王代理な」
「え? ちょっと待ってよ、どうして僕が! そうだ! まだシルバーブルにも姫が居るじゃないか!」
あ~こいつら、殺っちゃったのか。初めて会った時の豚王の対応を見て誰かがいつかやると思ったけど、こんなメンバーでやるとはな……この面子をよく纏めたな……。
「ああ、豚姫な、多分まだ食堂で痺れてるだろうけど、なんかどこかの国と通じてるみたいだから、国を治める女王としては期待できないぞ」
魔王軍とは勇者たちが交戦中だが、王はクズで既に消されている、王女は他国と通じている、おまけに周辺の三国は同盟組んで同時に侵攻中……この国終わってるな。
「あ~これは本気で誰か代わりに王をやらないと不味いな……当然俺は嫌だけどな」
「俺だって、そんな面倒な事したくねぇよ。あ、白山は却下な不良に国任すとか豚王の二の舞いになる」
「拒否」
「精霊を殺す勇者召喚の残る国の王とか、能力的に私には無理ね……能力が違っても嫌だけど」
「飯本は?」
「なんで私が?」
誰もこんな国の王なんかになりたくないよな……。
「ってな訳で江ノ塚頼む!」
「どう言う訳! 僕だって嫌だよ!」
田嶋は江ノ塚に押し付けようとしてるのか? 俺は田嶋の方が向いてると思うんだけどな。
「えっと……私はどうすればいいんでしょう?」
リミュールが置いてきぼりだが……俺に聞くな、もう王不在で周辺三国が話しあって治めたら良いんじゃないか?




