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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
四章 セントコーラル・急ぎ足な帰路
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間章四章3話 魔王軍(相田宗佑)

 馬車に乗り、数日かけて俺たちは魔王軍と交戦中の地にやって来た。

 魔王軍との戦線は、現状でお互いの戦力が拮抗している状態だ。それも、田嶋君の話では、魔王軍が全力で攻めて来れば、こちらが簡単に崩されてしまう危険な拮抗状態だ。

 いったい田嶋君はどうやってそういった情報を仕入れているのか不明だけど、油断できない状況なのは間違いない、気を引き締めて行こう。

 魔王国と接しているシルバーブルの北部はブロズ平原と呼ばれていたが、あまり人が寄り付かない事も有り荒地になっている為、今はブロズ荒野と呼ばれている。

 その荒地で築いた陣に今も散発的に襲撃してくる魔王軍の使役する魔物とシルバーブルの兵たちが戦っていた。


「交戦中みたいだね、俺たちも行こう!」


 到着早々繰り広げられていた攻防に、飯本さんを除いた、俺、明人、宇佐美さん、羽切さん、瑠璃ちゃんの5人と、騎士団の副長が飯本さんの代わりに加わり、6人パーティで参戦する。

 他の戦闘組みのメンバーはそれぞれバランスよくパーティを組んで各々参戦している。

 俺たちの参戦で今回攻めて来ていた魔物たちは、あっという間に殲滅された。

 俺たち異世界から召喚された勇者はこの世界の人たちよりも能力が高いようで、その高能力の者が大量に戦列に加わったのだから負ける要素が無い。


「すぐに無事な者で隊を再編しろ! これより我らは勇者殿たちを戦列に加え攻勢に出る!」


 騎士団長の号令で兵たちが慌しく動き出し、再編が終わると俺たちは進軍を開始した。

 ブロズ荒野を暫く進むと、俺たちの進軍に気付いた魔王軍の魔物たちが遠くに見える灰色の建物の中から迎撃に出てくる。


「あの砦を目指して進軍しているみたいだな」

「あの建物って砦なんだ? 明は目が良すぎじゃないか?」


 隣を行く明は前に有る建物がしっかり見えているみたいだ。

 砦ってことは、魔王軍の拠点の1つかな? シルバーブルが敷いている陣とは差が有りすぎるよ。劣勢の均衡状態とは聞いていたけど、よく今まで守っていたと思う。


「あの砦は元々、シルバーブルの砦だったのです。魔王軍との戦いが始まってすぐに奪われ、今日まで取り返せないままでした……でも、ソウスケ殿たちが居る今なら!」


 共に行動している副団長さんがそんな説明をしながら期待の篭った眼差しを向けてくる。団長も他の兵たちも俺たちに期待している、その期待に応えるだけの力が俺たちには有る!


「行こう! 先ずは砦を取り戻そう!」


 俺の呼びかけで兵たちの士気が上がる。

 あ……団長が満足そうに頷き進軍を宣言した。さっきの期待の眼差しはこれを望んでいたのかな?

 上がった士気のまま魔物たちを撃破して進んで行く。もう、俺にも砦がはっきり見えるくらいに近付いているけど、こっちの被害は無し、俺たち勇者が前に出て反則のような力で魔物を殲滅しているのだから当然だろう。今回は一パーティだけじゃなく戦闘組のメンバーがほぼ全員出てきているんだ。だから、前の魔物の大量発生の時のように数で押されるような事も無く進軍は順調と言って良い。


「もう少しで砦だ、けど……」


 砦の周りだけ凄い数の魔物だ。


「ここまで攻め込まれたら、適当に攻めて来ていた魔王軍も本腰で対応しなきゃならないか……。しかし、この数は大量発生した魔物の群れを思い出して嫌になるな……宗佑、どうする?」


 どうするって、あれだけの数を対応する手となると、前に魔物の群れに使ったエクセリアを使った剣技だけど、威力が有り過ぎて魔物と一緒に砦も壊してしまうだろうから使えない。


「任せて! もう、前のように宗佑さんにだけ負担をかけたりしません!」


 宇佐美さんと数人の術系の称号持ちが前に出る。皆が一斉に術を発動して攻撃すればあの魔物の数も問題にならないとは思うけど、それだと俺がやるのと変わらない威力になるんじゃないのかな?


「いきます!」

「おらぁあああ!」

「吹き飛べ~」


 宇佐美さんが氷の魔弾を撃ち出して魔物たちを氷漬けにしていく。

 他にも、周囲の岩を魔物の頭上から降らせて押しつぶしたり、高速の礫で氷漬けになった魔物を砕いていったり、風の塊をぶつけて吹飛ばしたりと、魔物の背後の砦にまで被害が出ない程度の術が魔物たちを少しずつ倒していく。

 みんな、砦への被害ぐらいは考えてやっているみたいだ。俺も不用意に高威力の技を撃たなくて良かった。


「っち、何チマチマやってやがる……一気にぶっ飛ばせばそれで終わりだろうが!」


 え? 今の声は寺坂君? そう言えば彼も術士系だけど彼の操る炎が戦場に見当たらない、今の一斉攻撃には参加していないのか?

 気になって寺坂君の姿を捜してみると少し離れた場所で術の準備をしていた。

 けど……。


「寺坂君! それは拙い!」


 寺坂君の頭上に準備されている特大の炎球は、どう見ても魔物と一緒に後ろの砦まで破壊する威力が込められているように見える。


「プロミネンスエクスプロージョン!」


 ああ! 制止も全く聞き届けられず大層な名前の術が放たれる。

 小出しした術に対しては突っ込んできていた魔物も、これだけの規模の術を目にすると流石に逃げようと慌て始める。


「慌てるな! 隆地護法陣(ガイアプロテクション)!」


 寺坂君の術が魔物たちに届く前に魔物たちの前に黄色の巨大な魔法陣が現れる。

 防御魔法!? 魔物が?

 魔法陣に添うように地面が隆起し壁となって寺坂の術を阻む。壁に当たった術は盛大に爆発して壁を破壊するけど、その後ろの砦や魔物には一切ダメージを与えていないみたいだ。

 魔法陣が出て来たって事はあれは魔法だ。この世界の魔法は術式を組んで魔法陣を思い描き、更に術のイメージを明確に持つ事で宙に現れた魔法陣を基点として行使できる。俺たちには勇者としての能力が有るから面倒な魔法を覚えている人は居ないけど、勇者が放つ高威力の術を阻む事もできるなら憶えた方が良いのかもしれないな。


「ほう、我が魔法の守りを一撃で打ち砕くとは……話には聞いていたが、これが異世界から召喚された勇者の力か……しかし、幼いな、身も心も……」


 魔物の群れが割れて、砦から大柄な人が歩み出てくる。

 人? 魔王軍に人が居るのか?


「退屈な戦場もこれで動き出すか……」


 その人の低いけれど良く通る声は遠くからでも俺たちの耳にはっきり伝わる。


「獣人……」


 副長の言う通り、俺たちの前に歩み出て来た人物は人と同じ様に二足で歩行して、言葉も繰るようだけどその身体には動物の特徴を合わせ持つていた。獅子の混じった、武人って感じの男性だ。

 シルバーブルの城下では見かけなかった獣人、魔王軍には獣人が居るのか……。

 魔王軍は魔物ばかりだって聞いていたけど、シルバーブルは獣人を人に数えていないのかな?


「お前たちは砦を引き払い以前の防衛拠点へ戻れ。勇者共は……我が少し撫でてやろう」


 くっ! 何だこのプレッシャー!?

 獅子獣人の命令で生き残った魔物たちが砦より更に後退して行く。

 残ったのは獅子獣人一人だけど、その威圧感が凄まじく、俺たちの誰も動けないで居た。


「我が名はクロト! 魔王国ゴルディリオン獣軍の将にして岩焔獅子族の長! さあ勇者よ、手合わせ願おうか!」


 獅子獣人クロトはやる気満々だ。でも、他の魔物たちを退かせたのはどうしてだろう? 俺たちと戦うなら戦力は多い方が良いんじゃないかな?


「はっ! 俺らを1人で相手にする気かよ! お前らやるぞ!」


 クロトに釣られる形で白山君のパーティの江ノ塚君以外が前に出る。


「お前たちが相手か……躊躇い無く多人数でかかって来るとは、たいした勇者だな。

 問題は全く無いが……思ったよりつまらない戦いになりそうだ……」


 クロトは白山君たちの攻撃を避けたり、魔法で防いだりしながらこちらを観察する余裕が有るみたいだ。能力を存分に使って攻撃を繰り返す白山君たちを平然とあしらっている。


「くっそが! 当たりやがれ!」

「甘いな、威力はたいした物だが圧倒的に練度が足りない……正直退屈な事この上ない」


 訓練をサボっていた代償か、白山君の攻撃はクロトに掠りもしない。


「これならどうだ! アタックカース! ディフェンスカース! スピードカース!」

「む……少し動きにくいか? だがそれだけだ!」


 吉本君がクロトに妨害術をかけ動きを阻害しようとするけど、クロトはそんな物全く問題とせずに動いている。


「チッ……一久、そのまま押さえてろ! バーンフレア!」

「俺の闇で飲み込んでやるぜ!」

「ふん! 守護地装(ガイアーマー)


 速い、詠唱と言う物を必要としない俺たちの術だけど、クロトはその寺坂君や赤井君の術を高速で詠唱した魔法で土の鎧を纏い防御して見せた。

 土の鎧は2人の術を防いだ事で砕けて消えてしまったけど、最初に寺坂君の高威力の術を防いだクロトの魔法は、白山君を巻き込まないように放たれた2人の術ぐらいは軽く防げてしまう。


「隙有り!」

「そんなものは無い! 殺気も隠せぬようでは奇襲など論外だ!」


 茂木君がクロトの背後を取り短剣で切りかかるも、すぐに気付かれてその拳で吹飛ばされてしまう。

 魔物たちが退いていたおかげで茂木君への追撃は無かったのは幸いだ。でも、クロト……この人凄く強い。


「ふ~、勇者とはこの程度なのか……期待外れも良いところだな、これなら、態々待たずにさっさとシルバーブルを落としてしまえば良かったか……兵共を退かせる必要も無かったな。まぁいい、この場程度、我1人でもどうとでもなる」


 白山君たちを軽く対処しながらのクロトの詠唱が聞こえてくる。何かやるつもりだ! このままだと白山君たちが危ないんじゃないか!?


「セリア! 行くよ!」


 普段から使っている剣に憑依するようにして召喚していた聖剣エクセリアの精霊、セリアに呼びかけてクロトに向う。聖剣本体を擬似的に呼び出すこともできるけど、こうして別の剣に憑依させる形で召喚した方がセリアへの負担が少ないんだ。


「退屈な戦いも終わらせよう、地魔法技(ガイアーツ)地拳(アースブロウ)!」


 帯状の魔法陣がクロトの右腕に絡み、腕から20センチ程離れた宙に、土や岩でクロトの腕を模った5倍程の塊が生まれた。


「小童、まだまだ戦場に出るには速すぎたな、砕け散れ」

「させない!」


 クロトの腕の動きに合わせて振るわる大きな地の腕とセリアで打ち合う。

 衝撃が身体を抜け、足が数センチ大地に沈む。セリアの守りが有っても腕が痺れそうなこの威力、白山君が受けていたらクロトの言うとおり身体がバラバラになっていたかもしれない。


「チッ……」


 誰かの舌打ちする声が聞こえたけど今はそれを気にしている場合じゃない。


「うおおおあぁ!」


 セリアに魔力を込めて大きな地の腕を押し返す。何とか弾き、クロトを少しだけ後退させられたけど、態と後ろに下がったって感じだった。


「少しはできる者も居るのか? なら、もう少しだけ験してやるとしよう」


 再び大きな地の腕を、今度は俺に向って振るって来た。


「セリア!」


 再度セリアに魔力を込めて迎撃しようと振りかぶった俺の前に誰かが割り込んで来た。


「ふん! ったく、護るのは俺の仕事だろうが、その剣、今の内に叩き込んでやれ!」


 俺の代わりにその人物、明人がクロトの大きな地の腕を受けることになったけど、片腕でその大きな地の腕の攻撃を受けきった明人はクロトを睨みつけたまま俺に言う。


「ああ! シャインスラッシュ!」


 明人が受け止めてくれた大きな地の腕に、セリアに込めた魔力を使って光の斬撃を叩き込んだ。

 それによってクロトがまた少し後退する。


「やればできるではないか、それではもう少し楽しませてもらおうか!」

「は~い、クロちゃん、そこまでで~す」


 再びぶつかり合おうとした俺たちの頭上から羽ばたく音と共に能天気な女の声が聞こえてくる。


「む? コトネか、邪魔するな今漸く面白くなってきた所なのだからな」

「でも~、キリちゃんが砦を放棄して帰って来いって言ってるよ~」


 クロトの注意も頭上に向いたので俺たちもクロトを警戒しながら声のするほうを確認する。


「天使?」

『違います。彼女は妖鳥獣人ですね、腕が翼になっていますよね?』


 俺の呟きにセリアが俺にだけ聞こえるように答えをくれる。

 クロトのように獣人か……鳥の獣人って、人に翼が付いたぐらいで空を飛べるものなのかな?


『ソウスケの居た世界ではどうか知りませんが、この世界の妖鳥獣人は普通に飛びますね。ドラゴンが人に協力していない今、唯一の人と協力できる空戦力と言って良いでしょう』


 でも、その空戦力が魔王側に付いているって事だよね。


「軍師殿の考えは良く分からん、この程度の者共さっさと捻りつぶしてしまえば良いだろうに……」

「でも~、キリちゃんが言ってたし~」

「ふむ、仕方ない今日はここで退くとしよう……未熟な勇者共よ、自分たちの付く者はちゃんと考えて行動するんだな!」

「は~い、じゃあ回収するよ~」


 妖鳥獣人の女の子が降下して来てクロトの首に足を回す。


「こら! もう少しまともに掴まんか!」

「でも~、手で掴んだらアタシ飛べないし~」


 ごつい具足の付いた足を首に回されて平然としているクロトが妖鳥獣人の女の子に吊れられて去って行った。

 なんだか良く分からないうちに俺たちはそれを呆然と見送ってしまった。


「あの巨体と一緒に空を飛ぶとか……妖鳥獣人ってどうなってるの?」

『そう言う者ですけど、妖鳥獣人は蹴りか上空からの投石投岩が戦術の基本ですから……』


 それで物理法則無視するのもどうかと思うんだけど、この世界じゃ俺たちの常識じゃ測れないことも多いから仕方ないのかな?


「ふ~、何とかなったけど、危なかったな~」


 そうだ、明人の言う通り、今回はクロト1人に圧倒されてしまった。負けてはいないと思いたいけど、あのまま続けても勝てていたかは怪しい所だ。いや正直に言えば負けていたと思う。


「とりあえず、動ける者は砦調査を! 罠等が残されていないか徹底的に調べろ!」


 兵士たちの方は騎士団長さんがこれからの行動を指揮してくれているから俺たちは休ませて貰おう、流石にクロトと対峙した事で精神的にも肉体的にも疲労が溜まってしまっている。

 次にいつ魔王軍が攻めて来るか分からないから早めに体を休めておいた方が良さそうだ。


『砦の調査が終わったようですね』


 外で待機していた兵たちが徐々に砦に入って行くのを確認してセリアが報せてくれる。


「本当だ、調査って案外早く終わったんだね」

『そうですね、でも、戦闘はソウスケたちに任せて殆んど何もしていなかったんですから、これぐらいは手早くやってもらわないと困ります』


 セリアは時々厳しい事を言うね……騎士団長でさえ能力値的には俺たちと数倍の開きが有るんだから、俺たちが前に出て被害を少なくするのは当然だと思うんだけど……これも驕りかな、クロトと戦った時は変に出て来られると大変だっただろうけど、他の魔物と戦っていた時は協力してくれた方がより安全なのは確かだったな、当然のように俺たちに任されていたんだからセリアの態度も納得がいくか。


『ソウスケも休んで下さい』


 そうだね、クロトとの戦いの疲れを癒して次の戦いに備えないと……。

 でも、次にクロトと遭遇した時に俺たちは勝てるんだろうか? まともにやり合えたのは最後の明人が攻撃を受け止めてすぐに俺が攻撃したあの一度のみ、それ以外は軽くいなされてしまった。

 高威力の技を当てられれば良いんだけど、クロトはそれらを防ぐ術を持っている、ただ放つだけじゃ当てられないだろうね……。

 今更だけど、もっと訓練しないといけないな。でも、急に強くなんてなれないだろうから、皆との連携を上手くいくようにしないとかな。


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