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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
一章 シルバーブル・努力の時
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一章5話 修行の旅路 グルメ紀行?

 師匠との旅路は寄り道が多い、馬車で10日程の道のりが徒歩である事を考慮しても延び過ぎている。


「ほらソウヤ、次はあの魔物を狩るぞ」


 突っ切るだけで済む筈の森の魔物を殲滅する勢いで進撃する俺と師匠、おかげでずいぶんと戦いに慣れて来た、最近では武器を投げる事も少なくなってきている。


「また初めて見る魔物なんだけど!」

「ブレイドボア、鼻の横の剣のように鋭い牙に気をつければ突進するだけの馬鹿だ! 頑張れ!」


 師匠はアドバイスはするし、数が多いと多少間引いてはくれるけど、基本俺の戦いに手は出さない。本当に危なくなったら助けるとは言ってくれているが、今の所そう言う状況にはなっていない。

 だが、実践の中で得た経験は確実に俺を強くしていた。


「いや~、基礎を教えるだけで結構やるようになるから教えるのが楽しいな」


 師匠は楽しそうだが俺の方は必死だ、ブレイドボアの剣牙を自前の剣で受け流し擦れ違いざまにその体を斬りつける。


「BUGYUI!」


 バランスを崩して転倒したブレイドボアに追撃を叩き込む。


「よし、晩飯の調達完了だな」


 猪肉か、最初から晩御飯にするつもりで狩らせたんだろうな。

 近くに村も無いみたいだし今日も野営だろうな、普通に森を突っ切って行っていれば今日中に次の村ぐらいには着いた筈なんだけどな。


「ほら食えよ、ブレイドボア(こいつ)の肉は焼くだけで中々美味いんだぞ、冒険者や旅人でもない限り狩ろうとは思わないけどな」


 野営、師匠が4本の剣を周囲、4方に突き刺し魔除けの結界を張る。これで魔物を警戒せずに野営ができる。人には効果が無いので見張りは必要だけど幾分安心だ。

 着火の魔法道具で火を熾し簡単に焼いただけのブレイドボアの肉は確かに美味かった。しかし、元の世界で食う肉には劣るのは仕方が無いのかもしれない。


「その内ドラゴンの肉とかも食ってみるといい、あれは凄いぞ、部位によっては寿命すら延びるからな」


 ドラゴンの肉で寿命が延びるって、そんな話が有るのによくドラゴン絶滅しないな。


「まあ、ドラゴンを狩れる奴なんてそう居ないけどな」

「師匠は食った事あるんですか?」


 この人なら有りそうだな、一緒に居る期間は短いけど師匠が強いのは最初の出会いで実感している。


「そりゃあるさ、じゃなきゃ薦められないだろ?」


 そりゃそうだ、でも俺がドラゴンの肉を食う機会なんて無いだろうな。

 この世界、魔法で電化製品なんかは再現されてるけど食用の家畜を生産する奴なんかが居ない、全く居ない訳ではないが殆どが狩猟で補われている。そのおかげで冒険者なんかが稼げるんだけどな。


「これからソウヤが向かうエバーラルドは竜の国だ、もしかしたら機会が有るかもよ?」


 無いな、ドラゴンの肉って馬鹿高い値段なんだろ? 自分で狩らない限り食う機会なんて訪れないだろ……俺はドラゴンなんかと戦う気は無いぞ。


「それじゃあ今日はここの魔物を狩ろうか」


 見張りを交替で行うも問題無く翌日、引き続き森を行く、近くの村まで後数時間歩けばいいという当たりで師匠が宣言した。

 こうなればこの辺の魔物を有る程度殲滅しないと先へ進む事は叶わない。出来れば今日中に村に着いてゆっくり休みたいので頑張ろう。


「この辺の魔物も成長してるなぁ、数も増えてるみたいだし……ソウヤそいつの尻には毒針が有るから気をつけろ」


 そうだろうね、見た目が蜂だからそうじゃないかと思ったよ……色が紫でサイズがサッカーボールぐらいあるけどな。それに数が多い、師匠がこの蜂の巣が有った大きな木に向かって剣から風の刃を撃ったからそこに居た蜂が全部襲ってきているんだ、もう適当に薙ぎ払っただけで何匹か仕留められる。


「ほら、あんまり攻撃にばっかり感けてると毒針を喰らうぞ~」


 わかってる! でも数も減らさないときついままだ。

 回避に比重を置いて少しずつ紫蜂の数を減らして行く。


「おお~、変異までしていたか……」


 だいぶ数を減らした所で一際大きい蜂が出てきた。

 頭に王冠みたいな毛が有る、もしかして女王蜂ってことか?


「気を付けろ~ソウヤ、そのでかいのは俺も初めて見る」


 女王蜂だろ、雑魚よりは強いって思っておかないと……師匠が手を出してこないって事は俺だけでも対処できるはずだ、落ち着いて対応するんだ。

 とにかくこのまま回避を優先して雑魚を片付ける、その間に女王蜂の動きを覚えて……

 うおっ! 女王蜂が毒針を飛ばして来た。

 幸い前に居た雑魚蜂に当たって俺まで届かなかったけど警戒しないと……


「森じゃなかったら油撒いて火ぃ着けてやるのに!」

「はは、奇抜な手に頼らないでも対処できるくらい強くならないとな~」


 ああ! やってやらぁ!

 雑魚の数が減りだいぶ余裕が生まれていた所に女王蜂が出現、女王蜂は毒針を飛ばすから数が多かった時ぐらい注意しないとヤバイ、まぁ状況は徐々に良くなっている、気を抜かずに行けば大丈夫だ。


「おら! これで雑魚の蜂は最後だ!」


 残るは女王蜂のみ、雑魚より体格が大きい分動きが鈍いな、毒針を飛ばしてくるのさえ気をつけていれば大丈夫だ。

 しかしこの女王蜂、雑魚を全部倒されても逃げないんだな……魔物だから知能が低いか、唯単に仲間を皆殺しにされて怒ってるか、変化の無い顔からは読み取れない。

 まあ、そんなの関係なく殺るんだけどな。

 女王蜂だからなのか、雑魚共のように一撃で倒せない、動きが遅いから同じように斬りつけるも雑魚よりもちょっと硬いみたいで浅くしか傷付かない。

 でも、昆虫なら関節狙えばいいよな。もしくは羽を取る。

 蜂の体の表面を滑らせるように剣を当て間接部分に差込そのまま斬り裂く。


「師匠~終わりましたよ~って居ねぇ!」


 どこ行った? 師匠の事だからそう遠く、俺が見えなくなる所へは行ってないと思うけど……

 いた! さっき師匠が風の刃で斬り倒した木、あの蜂の巣が有った木でごそごそやってる。


「師匠、何やってるんですか? もう全部倒しましたよ」

「おお、やっと倒したか、じゃあこれ食ってみろ」


 師匠が黄色いものが詰まった瓶を投げ寄こした。

 蜂の巣が有った木で採取してたとなると、蜂蜜か? 予想をつけ指にとって一口舐める。


「甘い、やっぱり蜂蜜か……」

「そうだ、この魔物の蜂蜜は魔力回復や携帯食として優秀だから幾つか持っておけ」


 師匠は自分の魔法道具の道具袋(マジックポーチ)から空き瓶を次々取り出し蜂蜜を詰めていく。

 蜂蜜入りの瓶を幾つか俺に渡し残りは道具袋に戻した。


「次は草原の白い旋風ハイスピードコッケーだ」


 森を抜けると村まではもう目と鼻の先だ、だが村に着く前にもう1狩り有るようだ。


 俺は大地を疾駆する白い鳥と並走し草原を駆ける。そいつはバッと翼を広げると急に方向転換し俺目掛けて回転しながら跳んで来た。


「なろ!」


 殆ど疾駆していたままのスピードで更に回転を加え襲って来る鋭い嘴を回避し剣を振るうが、その回転する翼は俺の剣を容易く弾く。

 蜂より早いが一度回転しだすと真っ直ぐにしかつっ込んでこないので軌道は読み易い、しかし回転すると剣による斬撃すら弾くのでカウンターで攻撃を叩き込む事は今の俺には出来そうにない。

 回転する中心、嘴のその正確な位置を突くことが出来れば回転を止められるかもしれないが、そんな技術が有るならとっくにやっている、後適当な空覚え知識で予想しているだけなので本当に出来るかどうか分からない。よって当然却下だ。


「残るは、方向転換の瞬間を狙うしかない……」


 先手を取って攻撃しても方向転換して回避される、ならこっちへつっ込んで来る直前、方向転換の為に翼を広げた瞬間を狙うしかない、その為には常にハイコッケイ(ハイスピードコッケイ)を俺の攻撃範囲内、間合いに置いた状態で並走しないといけない、それだけ近いという事は相手の攻撃がおれに届くのもそれだけ早いという事だ。

 何でこんなギリギリの戦いをしないといけないんだとは思うが、今の俺の実力ではそれ以外に方法が思い浮かばないから仕方ない。


「殺るか……」


 覚悟を決めハイコッケイを俺の間合いに置きながら並走する。

 神経を研ぎ澄ませ、その瞬間に確実に一撃を叩き込む為に剣を腰溜めに構える。

 ハイコッケイが俺に攻撃しようと翼を広げた瞬間、俺は剣を逆袈裟にハイコッケイにぶち込む。


「KOKEEEEE~」


 目が覚めるような悲鳴を残しハイコッケイは力尽きた。


「何とか出来た……残るはもう一匹……」


 夫婦だったハイコッケイの片割れがパートナーを殺された事で動き出した。


「で、やっぱり怒りMAXってか!?」


 襲い掛かったのはこっちだから仕方ないんだけどな。

 俺だって師匠がいきなりこいつらの巣に向かって剣から魔法をぶっ放さなければ余計な戦闘なんてしかったんけど、これも修行だこいつらには悪いが犠牲になってもらおう。

 先に倒した雄よりも大柄なハイコッケイは翼を広げると回転せずに俺に突っ込んで来た。

 雌は回転攻撃してこないのか?


「それなら斬れる!」


 突撃に合わせて剣を振り下ろすことであっさりとハイコッケイを両断した。

 雌は大柄だったけど回転して斬撃を防ぐ雄と比べると簡単に倒せたな。


「で、師匠はまたどこかに行ってるんだな……」


 多分ハイコッケイの巣だと思うけど、ハイコッケイって鶏のような鳥だし多分卵を探しているんだろう……もうなんとなく師匠の行動が読めて来た。


「師匠~卵は有りましたか~?」


 案の定ハイコッケイの巣を探っていた師匠は返事代わりに拳大の卵を掲げて見せた。


「さて、村まで行ってこれを調理するか」


 やっと村に向かえるようだ、良かった今日は野営せずに済みそうだ。


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