四章7話 毛熊
「うらぁ!」
左右交互に振るった剣は容易く弾かれるが、それは予定通りだ。元々加減して振るっている為、対処もし易いだろう。
弾かれた勢いを殺さずに次に繋げ、斬撃を重ねる。それらも弾かれるのだが、同じ様にして絶え間無く連続攻撃を続ける。
「おおおおおぉ!」
「GAU! GAU! GAU!」
徐々に斬撃を加速させているが、キティベア―毛熊―はしっかりと付いて来る。キティベアは、パワータイプで且つ動きが早い……でも、今相手にしている奴は他のキティベアより早いな。
左右の剣の軌道を調整して、キティベアの正面でクロスさせるように斬り付ける。
これは弾けないみたいだな、キティベアも腕を正面でクロスさせて斬撃をガードする。
この隙に一度後退してキティベアとの距離を取る。
「GAUU……」
なかなかやるなって?
「おまえもな……」
って、ナチュラルに会話してんじゃねぇ!
いや、熊は人の言葉なんて喋ってない、なんとなく言っている内容を理解してる俺がおかしいんだ! 竜豚に見送られた時もだったけど、条件が分からないけど何を言ってるのかなんとなく分かる魔物が居る……。
その切欠は多分、チンピラドラゴンの肉を食ったことだよな……。
「GAU!」
「っと!」
考え事してる場合じゃない、俺が動き出さないからキティベアの方が先に動いた。
もこもこな見た目に反した俊敏な動きで距離を詰め、拳を振るって来る。
受け、いや! まともに受けちゃ駄目だ、あの拳は俺の剣を弾いても平気なぐらい丈夫だ。しかもキティベアにはパワーが有る、下手に受けるとガードごと吹っ飛ばされる。
俺の力だと弾き返すなんてできないから受け流すか避けるかしないと……。
ほんと、俺の素の攻撃は火力不足だ。魔法剣が無かったらちょっと強い相手とでもまともに戦えないな。
「ってぇえ……」
普段玲奈と訓練をして、その動きに慣れている俺にとってキティベアの攻撃速度でもそれ程脅威じゃない、冷静に見て剣を使って受け流す。
「こっちも行くぞ!」
キティベアの大振りの攻撃を回避する、それによって生まれた隙をつき、先程のように連続攻撃に移る。
「って! 何やってるんですか!」
「うお!」
「GAU!?」
突然の怒鳴り声に俺もキティベアも動きを止める。
声の方を見ると、俺たちよりも先に警備依頼を受けた冒険者パーティの女性が、凄い形相でこっちを睨んでいた。
「イベントで遭遇する女性は怒っても美人っ……」
「ん、理不尽……」
俺とキティベアの戦いを余所に、魔法の勉強をしていた冬子と、前に俺が譲った剣で何かしていた玲奈が唐突に訳の分からない事を言う……まぁ、俺以外には聞こえてないから良いか。
「キティベアのことは説明しましたよね! その子は悪い魔物じゃありませんよ!」
「知ってる、知ってる、訓練の相手をして貰っていただけだから! な?」
キティベアと肩を組み、女性冒険者リーナさんに仲の良さをアピールする。
「GAUU」
こら、俺に合わせてくれるのは有り難いけど、顔舐めるな。
「な……俺ら仲良いだろ?」
「そ、そうですね……すみません、私の勘違いでした」
顔中ベタベタだ。はは、リーナさんも引いてるよ……。
誤解も解けたことだし、警備を続けてもう5日も経っている現状を説明しよう。
俺たちは玲奈の隠密って姿を消す能力で早々にシルカ泥棒を捕まえる心算でいた。ところが、俺たちは犯人に尽く裏をかかれていた。
農園を東西に区切り、リーナさんのパーティと俺たちのパーティで日毎に交替で警備していたのだけど、俺たちがわざと空けた警備の穴、玲奈が隠密で潜んでいる場所には目もくれず、リーナさんたちが意図せずに空けた穴を毎回狙われているって訳だ。
流石にリーナさんたちも長時間穴を開けている訳ではないので被害は俺たちが警備に加わる前よりも少なくなっているようだが、連日シルカ泥棒の被害を受けているわけで……これで報酬を貰うのもなんか気が引ける。
「リーナさん、一度警備範囲の交替をやめませんか?」
俺たちはそれぞれ訓練を続けながらも、打開策を考えていた。
「……どういうことですか?」
こてんと可愛らしく首を傾げ聞いて来るリーナさん、俺の後ろで冬子が「うわ、あざとい……」とか、玲奈が「蒼也、騙されちゃ……駄目!」とか言ってるけど大丈夫だ、相田の周りに居る女共を見てたら美人に幻想なんて抱けなくなるから。
リーナさんの質問に関しては冬子が説明する。やっぱり、説明とかは冬子に丸投げするのが一番だな。
「今日までの5日間での予測でしかないけど、犯人は毎回リーナさんたちの方を狙うでしょ? まず、それが偶然犯人も東と西で狙う範囲を換えているのか、リーナさんたちの方が狙われてるのかどちらなのか確かめる為です……」
玲奈の隠密は異世界人―勇者―の物だ、そう簡単に見破れるものでは無い以上、警備の隙をつくなら俺たちが警備している方を狙った方がやり易い筈だ。
犯人が狙う範囲を、俺たちの警備のように毎回東側と西側交互に変えているなら、警備範囲を交代しなければ、次は俺たちの方に来る筈だ。
不自然にならない様にしている心算だが、俺たちの用意した隙を罠と見られている可能性もあるが、この世界に来てから、とりあえず疑う事も重要だと考えているので、無闇に言葉にはしないけど、リーナさんたちのパーティに犯人に情報を流している者が居る可能性も考えている。
「GAU……」
俺との訓練で喉が渇いたのか、小腹が空いたのか、キティベアがシルカの実を1つ捥いで食べだした。
「美味いのか?」
布用の植物、キティベアにとっては好物なんだろうが人にはどうなんだ?
「GAU?」
食いかけのシルカの実を「食うか?」って俺のほうに差し出してくる。
「お、良いのか、んじゃ一口……」
瑞々しい見た目の果実にかぶりつく。見た目に反してパサパサしている、そして味がしない……。これがキティベアの味覚では美味く感じるのか……まぁ、俺には合わないな。
「ん、ありがと……でも、俺には合わないみたいだ。悪りぃな」
「GAUU……GAU!」
俺の感想を聞いて残念そうにしたキティベアは、いい事を思いついたと周囲を見回して手ごろな木の枝を拾って来た。魚を刺して焼くのに良さそうな枝だ。ってことは……思った通りだ。キティベアはシルカの実を拾った枝にブッ刺した。
で、焼くんだろ? 焼りんごみたいな感じで、火はどうするんだ?
「GAUA~」
って! こいつ、火を吹きやがった!?
「ちょっと待て! キティベアって火を吹けるのか!?」
「うんん、多分……む、り」
そうだよな、玲奈の言うとおり無理な筈だ。キティベアって魔物は力が強くて俊敏ってだけで特殊な事はできなかった筈……体が縫い包みのような見た目に反して丈夫なようだが、火を吹くなんて師匠も言ってなかった。
「GAUA~」
俺たちの驚愕を余所にキティベアはシルカの実を火で焼いていく。
こいつ、もしかして唯のキティベアじゃなくってキティベアの変異種か? それ以外にキティベアが火を吹ける理由が思い浮かばない。
「GAU、GAUU~」
おお、シルカの実が弾けた。これがシルカの実が熟れて種を蒔く現象か……熱しても同じ様になるんだな……。木の枝の先で弾けたから、見た目が綿菓子みたいになってる。
今回の犯人は弾けていないシルカの実を盗んでどうするのかと思ったが、こういうことなら納得がいく。
「GAUU~」
食えって? いや、見た目は綿菓子みたいだけど、これって布の原料なんだよな? この状態のシルカって食えるのか? って、押し付けようとしてくるな、分かった、食うから……。
まぁ、散々魔物の肉とか食ってるんだ、これぐらい大丈夫だろう。
「い、いただきます……」
「蒼也、わたし、も……」
お、おう、一緒に食うか……。意を決して一口食ってみる。実の状態よりも口にするのに抵抗が有るな……ん?
「わぁ……とろけ、る」
「ほんとだ、食感はすっげ―良い、相変わらず味がしないけど……蜂蜜でも付けるか?」
とろける食感のままに蜂蜜味……そりゃそうだよな、他に何もやってないんだから無味の物に蜂蜜かけたら蜂蜜の味しかしないよな。
「GAU!」
いつの間にかキティベアも蜂蜜をかけたふわふわシルカを食っていた。
「GAUU~」
お気に召したか? 俺の持つ蜂蜜の入った瓶をめっちゃ見詰めて来る……欲しいのか?
「ほら……」
与えてみたら凄い勢いで持って行った。太い手を瓶に突っ込み蜂蜜をすくいペロペロ舐める、ご満悦のようだ。
「熊に蜂蜜……しかもキティベアの人形みたいな容姿、どこかのアニメみたいな光景ね」
冬子が戻って来た。リーナさんはもうどこかへ行ったようだな、ってことは説明は終わったのか。
「どうだった?」
「納得してくれたわよ、他の2人にも言っておいてくれるって」
なら今晩が勝負だな。それで、今晩もリーナさんたちの方にシルカ泥棒が出るようなら内通者を疑いつつ、俺たちと向こうをごちゃ混ぜにして警備だな。あ、昼の見張りもあっちと一緒にやらないとな。
とりあえず今晩だな、それまでは訓練を続けるか……。
「GAUGAU♪」
キティベアは蜂蜜に夢中だ俺との訓練は続けてくれそうに無いか……。
「ん……」
玲奈?
手を差し出してくる。その手にポーチから木剣を取り出して握らせる。
「ん! やる!」
玲奈が相手をしてくれるようだ、玲奈の方も何か訓練をしていたみたいだけど今回は甘えさせてもらおう。俺も剣をしまい木剣を取り出して構える。
「んじゃ、よろしく」
「ん、勝……負!」
今度、玲奈の訓練にも付き合わないとな……。
普段から文句も言わずに付き合ってくれているから、別の形でもお礼をしたいな……。
まぁ、考えておこう。




