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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
四章 セントコーラル・急ぎ足な帰路
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四章6話 おっさん

 今日も俺たちは魔物の乱獲だ。

 俺たちが冒険者協会で大量の素材を広げるのにも、最初のうちは周囲が騒がしかったけど、今ではすっかり馴染んでしまった。


「でも最近、街周辺の魔物の数が減ったように感じるな」


 気のせいなんかではない、俺たちが街の東西南北各地を日毎に狩り回るため、周辺の魔物の全体数が減っているんだ。


「これ以上効率が悪くなるようなら、少し遠出して大物を狙ったほうが良いかも知れないわね」


 大物ねぇ……この辺にマギナサフィアの精霊の長が居た泉の森のように魔物の強い所が有るだろうか?


「今日、帰ったら、聞いてみる?」

「そうするか、これ以上街周辺の獲物を減らすのも他の冒険者たちに悪い気がするからな……」


 街の住人には魔物の被害が減るから喜ばれているんだけど、冒険者たちにとっては死活問題だからな。


「ドラゴンでも倒す? この国にも少ないけどドラゴンは居る筈よ」


 いや、亜竜である竜豚人(ドラゴオーク)の竜豚の羽をぶった斬るので精一杯だったんだぞ。確かに、あの時よりは成長している。けど、そこに玲奈と冬子が加わったからと言ってドラゴンの相手をできるとは思えないんだけど……。


「流石にドラゴンは冗談にしても、少し強い魔物の生息地を探してみましょう」


 冒険者レベルが上がって、今までと同じような魔物を倒して納品していてもレベルが上がり難くなって来たからそのほうが良さそうだな。



「という訳で、どこか良い場所を知らないか?」


 その日の夕刻、冒険者協会に戻って魔物の素材を納品して倒した魔物の分の冒険者経験値を受け取った俺たちは受付のおっさんに尋ねる。


「経験値の高い魔物ねぇ……ならこの依頼なんてどうだ?」


 おっさんの提示した依頼は三つだ。


 ワイバーンの討伐

 ハンマースネイク討伐

 シルカの森の密猟者退治


 討伐依頼が2つと最後のは警備依頼か?

 ワイバーンって亜竜だよな? この世界ではそういう扱いの筈だ。空飛んで個体によっては火も吐く。俺らの冒険者レベルの奴に勧めて良い討伐対象ではない。

 ハンマースネイクは地中を進む蛇だ、地中の鉱物を食って尻の方に溜め込み特殊な合成鉱物を作り出す。その鉱物は丈夫で、人を襲う際は尻を振り回して飛んで来る。鎖の付いた鉄球なんかを想像すれば、その威力は推し量れるだろう、何より地中に居る事が殆んどな為、見つけるのにかなり苦労する、鉱山なんかで採掘中に見つかる事が多い魔物だ。

 最後の密猟者退治ってのは警備の仕事だな、詳しく聞くと期日はとりあえず10日で、期間中に密猟者を捕縛すれば依頼報酬上乗せ、捕まえられなくても被害が出なければ警備日数分の報酬が貰えるってことだ。

 とりあえず、ワイバーンはレベル的に無理だろ……エバーラルドの受付嬢もこのおっさんも、とりあえず亜竜の討伐依頼を勧めて来るのはなんでだ? この世界の冒険者向けの冗談か?

 残る選択肢は2つ……それか、他を当たるかだ。


「警備依頼……密猟者を捕まえれば、終わり?」

「おう、密猟者が居なくなりゃ冒険者に無駄に報酬を払う必要が無くなるからな。だが、まぁ安心しろ、捕縛報酬は10日間の警備報酬より高いからな!」


 上手く行けば短期間で良い報酬が稼げるって訳だな。


「ただ、既に1組みのパーティが警備についている。そいつらはもう15日も前から依頼を続けている。5日前に受けた報告では、密猟者は人の気配に敏感で、見張りや警備が居る場所には全く姿を現さず、僅かな時間に丁度手薄になっている場所ばかり狙われるらしい。ただ、見張りや警備の目が有る分、被害は減っているから、少し減額はされるが報酬は貰えるって話しだ」


 金的報酬に関しては有れば有るほど良いが、それ程必要としている訳ではない。

 ハンマースネイクの討伐は魔物自体を探すのが困難、密猟者は人前に姿を現した事が無い程厄介、どっちの依頼をやっても、ついでに魔物の乱獲なんて事は出来ないだろう。

 そうなると、依頼を受けないで少し遠出するだけの方が効率が良いのか? 早い段階で密猟者の捕獲ができれば報酬は美味しい物になるんだろうけど……。


「……蒼也、隠密、使う」

「警備依頼を受けましょう」


 後ろで2人がこそっと言って来る。俺がおっさんの話を聞いている間に相談してたみたいだ。確かに、玲奈の隠密なら、先日屋根の上で見かけた不審者と違い気取られる事は無いだろう。それなら密猟者がのこのこ出て来てくれるかも……。


「それじゃぁ……」


 俺たちは警備依頼を受けることにしてシルカの森の依頼主の所へ向った。


「シルカの森って所で何を密猟してるんだ?」


 なんか珍しい動物でも居るのか?


「何言ってるの? シルカの森よ、シルカの実以外に何が有るのよ?」


 あ~、シルカって植物か? それがそのまま森の名前になってるんだな。


「シルカって?」


 とは言え俺はシルカ自体を知らない。


「シルカの木に生る果実で、種をまく際にポップコーンみたいに弾けるのよ、その弾けた後の状態の繊維から糸を紡いだものが良い生地になるらしいわ、私たちの世界のシルクみたいなものよ。

 まぁ、シルカは食物繊維だけど……」


 布の原材料って事か、そん辺の知識は全く無いからよく分からないな。ましてや異世界の話しだから知ってろって方が無理が有る。師匠もそういう話までは教えてくれなかったしな……多分、師匠自身も知らない知識なんだろうな。


「あ、見えてきたわね、あの森よ」


 あ~本当だ森の中にここからでも分かる位果実をつけた木がいっぱい有る。とは言え森の比較的浅い部分だけのようだ。奥は魔物が出て農園には向かないんだろうな……。


「先ずは依頼主に話を聞くか……ん?」


 この農園のシルカの木は一応俺たちの腰ぐらいの高さの柵で囲われているんだけど、あの縫い包みみたいな魔物の毛熊がその柵を乗り越えてシルカの実に手をかけていた。


「「犯人居たーーーー!!」」


 俺と冬子が思わず叫ぶ、あれ犯人だろ! 密猟者じゃなくて魔物が犯人だろ!

 一番反応が早い玲奈が小太刀を抜き毛熊を捕獲しようと飛び掛ろうとしていたが……。


「突然なんなんですか!?」


 近くの建物から出て来た女性の声によって止められた。


「いや、あれあれ!」


 結構騒いでいるのに平然とシルカの実を食べている毛熊を指して言う。


「キティベアがどうかしたんですか?」


 毛熊はキティベアと言うらしい、って、そんなことはどうでもいいんだよ、ちゃんと見ろよ、シルカの実食ってるじゃないか!


「密猟者、捕まえる(斬り殺す)?」


 再度玲奈が小太刀を抜き掛ける。


「ちょっと、何しようとしてるんですか! キティベアは密猟者じゃありませんよ!」


 女性の説明で、シルカの実はキティベアの好物で、農園の一部のシルカの実を提供する事で他の魔物から農園を守ってもらっていると言う話しだった。


「と言う事は密猟者は別の奴?」

「そうです、貴方たちも警備の依頼を受けた冒険者ね、依頼主のところに案内するわ、付いて来て」


 女性は俺たちの前に警備依頼を受けた冒険者パーティの1人だった。彼女に案内されて俺たちは建物の中で依頼主と対面する。


「お、あんちゃんたちも依頼を受けてくれたのか、助かるぜ」


 はてこの農園の主、依頼主のおっさんどっかで見たこと有るような……。


「詳しく説明させてもら……ん?」


 おっさんがじっとこっちを見て動きを止めている。


「あんちゃん、もしかしてエバーラルドでガストの冒険者証を届けてくれた冒険者か?」


 そうだ、このおっさんエバーラルドの冒険者協会に、盗賊にヘッドショットで殺された冒険者の遺品なんかを持って行った時に出て来たおっさんだ。みっともなく泣きまくっていたおっさんだ。


「あぁ、あの時の……友の骨は拾えたのか?」

「おうよ、ちゃんと故郷の地に眠らせてやる事ができた……あの時はありがとうな」


 どうやらこの農園はおっさんの両親が営んでいたらしい。おっさんの実家ってセントコーラルだったんだな……。

 おっさんが帰って来た事で、もういい歳の両親はシルカの加工の方に回り農園をおっさんに託したそうだ。


「ただいま~、相変わらず昼間はなんも無かったぜ~」

「見回り完了しました。異常無しです」

「お疲れさま、やっぱり捕らえるなら夜みたいね」


 依頼内容を詳しく説明してもらおうかと思ったところで、2人の男が建物に入って来た。見回りって言ってるし、案内してくれた女性が2人を迎えて捕らえるとか話し合ってるから、多分先に警備依頼についていた冒険者だろう。


「彼らがあんちゃんたちの前に依頼を受けてくれている冒険者だ、協力して依頼にあたって欲しい」


 依頼内容を聞き、先に依頼についていた冒険者と簡単な自己紹介をして、今の状況を尋ねる。

 概ね冒険者協会で聞いた中間報告と変わりは無い。

 それから警備の打ち合わせを行い、お互いのパーティで農園の東半分と西半分を交替で警備にあたる事に決まった。

 連携とか慣れてる方が良いだろうから、パーティ関係無く警備範囲を決めるとかじゃなくてよかった。


「捕縛報酬は捕らえた方のパーティの総取りな!」


 男の冒険者、軽そうな方が言い放つ。この采配はそれが目的か……まぁ、こっちにしても都合が良いんだが、この軽そうな方には、なんか舐められてる気がするな……。

 俺たちは皆若いし、勇者―異世界人―だなんて知らないんだから、そういう風に見られても仕方ないか。


「ああ、良いよ」


 どうせ俺たちが貰う事になるだろうからな、あっさりと提案を受け入れる。

 先に警備依頼についていた冒険者パーティには悪いが、さくっと終わらせてもらおう。


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