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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
四章 セントコーラル・急ぎ足な帰路
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四章2話 移動中

 木と木を打ち合う音が夜の街道に響き渡る。

 俺と伊勢の訓練音だ。マギナサフィアを発って街道を行く中、野営の際は俺が結界を張りこうして伊勢と訓練を続けている。一日の終わりに結構長い時間訓練しているけど余裕が有る、俺の体力もこの世界に来てからの日々で随分と上がったみたいだな……。

 俺と伊勢は軽快に互いの武器を打ち合う、伊勢が俺に合わせてくれている為、ずっと打ち合っている状態だ。おかげで二刀流にも随分と慣れて来たんじゃないだろうか? 伊勢が合わせてくれているからそんな気になっているだけか? どっちにしろ伊勢との訓練は二刀流に慣れるのに良い経験になっているのは間違いない。


「そう、や! そろ、そろ!」

「これぐらいで止めとかないと、さすがに明日がキツイか」


 結構、精神的にも肉体的にも疲労が溜まって来たし、そろそろ止めておかないと駄目か……俺、何も言われなければ際限無くやってるな……伊勢が良いタイミングで止めてくれるから有り難い。

 いつも通りに伊勢の得物も受け取りポーチにしまう。それにしてもこの棒……よく持つな、結構激しく打ち合ってるから大分ボロくなってはいるけど、でもまぁ、そろそろ新しいのを用意しないとな……。


「で、美波はまたそれか?」

「ん、冬子も頑張ってる……」


 美波はマギナサフィアを発つ前に何所からか数冊の本を入手して来た。

 子供向けの絵本や料理の本、この世界の小説等色々有ったけど、その本の中には魔法書が含まれていた。伊勢や美波は少しだがこの世界の文字の読み書きができるから、美波は絵本や料理の本でこの世界の文字を勉強して習得し、最終的には魔法を習得しようとしている。今回美波が手に入れて来た魔法書は初心者向けの簡単な魔法が記された物らしいけど、この世界の文字の読めない俺には全く理解できない物だ。


「精霊が召喚できるようになったんじゃないのか?」

「精霊召喚は魔力の消費が激しいのよ! しかもマギナサフィアの精霊たちの長よ! あんなのホイホイ使っていられないわ!」


 前に試しに一度使った時は魔力が枯渇して暫く眠ったままだったからな……でも、本を手に入れて来たのは試す前だったと思うんだけど?


「魔力消費が高いのは聞いていたから覚悟してはいたのよ、まさか気絶するとは思わなかったけどね!」


 最初から魔法を学ぶ気では居たんだな。俺と伊勢が訓練している間、暇だろうから丁度良いんじゃないか? うん、強くなる為に行動するのは悪くない、こんな世界なんだ、身を守る術は磨いておいた方が良い。そう考えると俺も魔法を習得すれば戦略が広がって良いんじゃないか? いや、あれこれ手を出し過ぎるのも考え物か……どれも中途半端になるようじゃ意味が無いからな。今はとりあえず二刀流を上手く扱えるよう集中しよう。

 後は休むだけなんだが、今日は俺が最初の見張り番だ。今使っているソードフィールドって、魔物の認識からは外れるけど、人には効かないのが厄介なんだよな。魔物にしても結界の中から攻撃したら気付かれるし……前に一度結界内から攻撃すれば一方的に倒せるんじゃないかと思って試してえらい目に遭ったんだよなぁ。一匹だけだと思っていた魔物はどんどん仲間を呼ぶし、せっかく見つけた野営場所は使えなくなるし、散々だった。


「蒼也、先に、休むね……」


 随分疲れた様子を見せる伊勢、連日訓練に付き合わせ過ぎたか? 男女の違いはこの世界では殆んど関係無い筈だ。この世界の奴は力押しが好きだからな、それだと能力値の差が大きく影響してくる。伊勢に関しては、能力値は勇者の物だし、高い能力値にだけ頼るような戦い方でもない筈だ……。まぁ精神的に疲れてるんだろうな、元の世界とは全く違う生活しているもんな……。


「美波は大丈夫なのか?」

「突然何の話?」

「いや、伊勢が疲れてるみたいだから、同じ様に慣れない生活してる美波はどうなのかと思って……」

「慣れない生活って……玲奈が疲れてるのは高深君が毎晩激しくするからでしょ?」

「そうか?」


 訓練の事なら俺が大丈夫なんだから能力値的に上の伊勢なら余裕だろ?


「なんとなく、高深君の力が……まぁ良いわ、私も先に休ませてもらうわね」


 いや、何か言いかけて止めるのはどうなんだ? ちゃんと休んでもらわないといけないから追求はしないけど……。

 2人共休んだし俺は見張りの間剣の手入れをする。冒険者や師匠から教わった方法を、すっかりと慣れてしまった手つきで愛用の剣に施す。

 愛用の剣が終われば次は魔剣アンブレイクだ。この剣は魔力を込めれば刀身が強化されて、ついでに新品みたいになるから必要が無いって言えば必要無いんだが、一応な……。

 アンブレイクの手入れが終わったら、続けて予備の剣を手入れしていく。数が有るだけに、いい時間潰しになるんだよな。まぁ、武具を長く使おうと思えば手入れは必要な事なんだけど……使える手を増やす為とは言え数が多過ぎるのも問題なんだよな。

 武器の手入れをしながら見張りを続けている間、特に何も無かった。1人で旅していた頃はよく盗賊に遭遇していたんだけど、2人と一緒に行動するようになってからそれも減ったな、全くゼロって訳ではないけど伊勢たちが不自然だと思わない頻度になっている。これが普通で以前の俺が異常だったんだろうな。

 まぁ、そんな訳で、何事も無く夜は過ぎていく。

 そして、朝が来て、野営の片付けを終えると俺たちはまたセントコーラルへと向って歩き出す。


「馬車でも手に入れてから出発すればよかったかな?」


 俺たちを貫き去って行った馬車を見送ってついつい愚痴をもらす。徒歩だと訓練の代わりにはなると思うけど、体力的に進行速度に限界が有るんだよな。


「できるだけ急いだ方が良いのは確かだけど、誰が馬の世話をするのよ?」


 俺も伊勢も美波に視線を集める。


「え、私? 嫌よ、馬の世話なんてしたこと無いもの」

「俺だって嫌だしな……はぁ、魔法車をかっぱらって来れば良かった……」

「馬鹿言わないの、あの人たちとはもう話し合いで解決してるんだから、これ以上手を出すのはこっちの不利益を生むだけよ」


 だよなぁ……。

 魔法のカバン(マジックポーチ)が有る分、装備分の重さしか感じないからまだましか。


「セントコーラルに入ったらどうするんだ?」


 今後の方針を美波に訊ねる。この場合のセントコーラルは首都の事ではなく国のことだ、国境を抜けたらどうするのかという意味で聞いた。


「首都を目指すわ、セントコーラルの精霊の長が居そうな場所って、やっぱり聖地って呼ばれる所だと思うのよ。まぁ、それが合っているかどうかもセントコーラルに入ってから精霊たちに聞けば分かると思うわ」


 精霊関係は任せる、そっち方面は俺には理解できないし、美波に任せた方が確実だからな。


「魔物……」


 街道の先、魔物が街道を横切っているのを伊勢が発見する。

 熊か? 俺たちの腰ぐらいしか伸長が無く全体的に丸い、縫い包みの熊みたいな奴だ。見た目は可愛いんだが、力が強くて俊敏だ。無闇に人を襲わない珍しい魔物だが番いで居る時は邪魔者を極端に嫌い排除しようとして来るから注意だ。

 街道の先に居る毛熊は単独で、更にこっちには気付いていない。


「強化部位も無いし……俺たちがあそこに着く頃には、もうどこかに去ってるだろう」

「倒さなくて、良い?」

「だな、ぶっ殺して経験値を稼ぎたいって言うなら止めないけど……多分この先襲い掛かってくる魔物なんて嫌って言うほど居るぞ……」


 なんて言ってるけど、俺1人だったら修行だって言って殺しに行ってるんだろうな。

 まぁ、守れる保障の無い2人を危険に晒したくないから今はできるだけやらないけど……。2人と合流してからできるだけ自重するようにしている心算なんだけど、できてるかな?


「こっち、来た」

「え?」


 そのまま街道を横切ってどこかへ去っていくかと思っていた毛熊は、なぜかこちらに気付き段々と近付いてくる……。

 目の前まで来た所で手を上げて……。


「GAU」


 一瞬そのまま爪を振るってくるかと思ったけど、一声吠えた後あっさりと手を下ろした。


「お、おう」


 なんだこいつ、態々挨拶しに来たような感じなんだが……俺もその感覚に従い軽く手を上げて答える。

 すると、毛熊はやることは終わったと、街道を外れて去って行った。


「なんだったんだ?」

「ん、可愛かった」

「本当にね……」


 その本当にねは、俺か伊勢どっちに対してだ?

 まぁいい、訳の分からない事も、もう終わった事だ。こっちに不利益が有った訳でもないんだし気にしない事にしよう。


「あら、国境をこえているわね、そろそろ精霊たちに話を聞いてみようかしら?」


 言われて地図を広げる。マギナサフィアで新しく購入した魔法道具の地図で、現在地が表示される物だ。

 確かに、いつの間にか国境を越えた位置に現在地が表示されている。

 美波はよく国境を越えている事に気が付いたな……ああ、精霊が何か言ったのか。


「セントコーラルの精霊の長が居る場所、方角ぐらいしか分からないけど、首都の方に向かうので間違い無さそうね」


 方角だけでも分かるなら十分だろう、何の手がかりも無く歩き回らなくていいんだからな。

 地図を見るとこの国の首都って聖都セントコーラルとなっている。


「信仰国家か、なんか有りそうな予感がするんだけどな……」

「不吉な事言わないでよ、高深君が言うと本当になりそうよ」


 そう言われてもな、エバーラルドでもマギナサフィアでも色々有っただろ?


「蒼也の行く場所、絶対何か有る、颯太言ってた」

「田嶋が?」


 嫌な予言だな……。

 あいつは良く分からん確信を持って動いてるから当てにならん、と言っても、実際に色々有ったから当たってるんだけど……。


「セントコーラルでも、何か有る?」

「や、やろうとしてる事が事だから、何か有るのは仕方ないんじゃないかな~」


 田嶋の言うように俺の行く先だから何か起こっているって訳じゃないよな?


「ドラゴンの息子とやりあったのよね?」

「エバーラルドの姫様と、知り合ってるって……」

「盗賊にもよく襲われていたみたいだし」

「ダンジョン、単独で突っ込んだり……」


 う゛、そう言われると俺が原因の事も結構有る。


「で、でも、半分ぐらいは不可抗力だ、俺が望んだ訳じゃない」


 適当な言い訳をしてみるけど全く説得力が無いのは分かっている。


「半分も意図して事を起こしてるんだ?」

「蒼也、もう、私から離れちゃ駄目……」


 美波が飽きれた様にため息を吐き、伊勢は俺を監視する気満々。

 おかしい、どうして俺が悪いみたいな雰囲気になってるんだ?


「俺、そんなに自重して無いか?」


 俺も多少自信が付くぐらい強くはなったと思うけど、まだまだ未熟なのは分かってるから無理はしないようにしてるはずなんだけどな……。


「1人で旅に出る時点で、無茶、してる……」


 最初の最初を駄目出しされたよ……。


「田嶋君に止められなかったら、玲奈も付いて行ってたのよ」


 そうなったら伊勢に頼りっきりで今の実力は無く、師匠とも出会えていなかっただろうから魔法剣も習得できていなかったよな。田嶋、ナイス判断だ。

 伊勢の気遣いが悪いって訳じゃないけど……俺だって男だ、強くなりたいからな。


「まぁ、心配かけないように善処する」

「それしないって言ってるようなものじゃないのよ」

「やっぱり、もう、私から離れちゃ駄目……」


 はいはい、ほんとに無茶はしないって……必要に迫られない限りな。

 セントコーラルまで後半分ぐらいか、今回の旅は順調なようだ。


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