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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
一章 シルバーブル・努力の時
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一章4話 師匠との出会い

 馬車での道中は順調だった。いや、順調過ぎたと言った方がいいだろう。

 普通の日常を過ごしていてもいつ異世界に召喚されるか分からないんだ、調子のいい時ほど警戒しておいた方がいい。


「坊主! 魔物だ!」


 ほら、こんな感じだ、順調とは言っても油断はしていないから素早く剣を抜き馬車を守れる位置に着く。

 今までより少し強い魔物のようだ、冒険者たちが態とこちらに1体魔物を流す気配がない。


「それだけ厄介な魔物ってことか?」


 油断無く魔物の動向を窺っていると俺の足元に何かが刺さった。


「……矢?」


 魔物の中に武器を使っているような奴は居ない、それにこの角度は前から飛んで来た物じゃない、この角度は横から……

 足元に刺さった矢の角度から飛んで来た方向を予想してそちらを確認する。


「下手糞~、外してるじゃね~か! 馬を狙えって言っただろうが!」


 不清潔な格好の男たちが各々武器をてにこちらに近付いて来ている。

 前に居る5人は剣を、後ろの3人の内2人が槍1人が弓を持っていた。

 馬を狙って俺の足元に刺さるって、豪いノーコンだな、っとそれ所じゃない、俺は冒険者たちに襲撃された際の合図を送るが、あっちは魔物の相手で手一杯のようだ。

 てことは、こいつら俺1人が相手するのか!?


「一応、用件を聞こうか?」


 多対1は分が悪すぎる、できるだけ時間を稼がないと、戦闘は最後の手段だ。


「用件なんざ言わなくても分かるだろう」


 分かってて聞いてるんだよ、所詮時間稼ぎだ。なんであれ答えを返してくれるのは助かる、問答無用で攻撃を再開されたら1人での対処は大変だ。


「……盗賊? こんな乗合馬車より商人を狙った方が良くないか?」

「より好んでいられるほど余裕が無いんでね!」


 後ろの奴がまた弓で馬を狙っている、冒険者達の方は大体片付いたか? なら馬がやられると移動が大変になるし馬車には少し離れていてもらった方がいいかな。

 俺が送った合図で馬車が動き出した。丁度放たれた矢を避け馬車が離れて行く。


「逃がすか!」


 遅せぇよ、とりあえず人数に差が有るので俺のことを侮って無造作に近付いて来た盗賊剣持ちに、ポーチから掌一杯に取り出した硬貨をばら撒く。

 RPGに有りそうな銭投げだな、ゲームなら金が多ければ多いほど威力が上がるとか有るんだろうけど現実はそうは行かない、でもそこらの小石を集めて投げるのと同じ効果を素早く得られるわけだ、油断している相手を怯ませるには十分だ。金はもったいないが後で拾えばいい。

 怯んだ相手を斬りつけるだけの簡単な作業、訓練で何度も繰り返したように斬る斬る斬る。


「「「ぐあああああ!」」」


 耳障りな悲鳴が3っつ、剣持を3人斬りつけた所で弓持ちが俺を狙っているのに気付いた。もう一度金を投げるか? いや、斬りつけた内の1人が剣を落として無手になっている、こいつを盾にしよう。

 服の襟を引っ掴み弓持ちの射線上に盾を持って来る。ついでに盾の喉元に剣を突きつける。


「てめぇ、卑怯だぞ!」

「いや、盗賊が卑怯とか頭大丈夫か? おっと、動くな、動いたらこいつは殺す」


 煽った途端動こうとする盗賊共を直に牽制する。このまま動かないで居てくれたら魔物を倒した冒険者たちが応援に来てくれるだろう、そうすればもう楽勝だな。それまではとりあえず脅威を排除していこう。


「おい弓持ち、弓を壊せ、10秒以内だ 10・9・8・7・6・543210」


 壊さない、え? これって俺こいつを殺さなきゃいけないの? 殺したら当然人質が居なくなって……やべ、俺詰んだんじゃね?


「お、おい、弓壊さないのか? こいつ殺すよ……」


 やっべ、どうしようどうしようどうしよう。有利な筈なのに何故か劣勢になってないか?

 ちょっと待って、弓持ち、お前何弓に矢を番えてやがる! めっちゃこっち狙ってる、まじ!?


「くそ!」


 きっちりと盾を前にして矢を防ぐ、盾の頭から矢が生えて矢盾になった。人質気にせず撃ちやがった!

 頭から矢を生やしてぐったりとした盾を手放し再度矢を番える弓持ちに向かって剣を投擲する。

 まさか武器を投げて来るとは思わなかったのか、弓持ちは避ける素振りも無く、剣は弓持ちの腹に突き刺さった。

 これで残りは怪我した剣持2人と無傷の剣持2人に槍持ち2人。怪我してる2人は下がってまだ無傷の4人が前に出て来る。

 忘れ物ですよ~っと、俺は矢盾になった盾の持っていた剣を拾い再度対峙する。


「仲間を殺すかよ」

「てめぇのせいだろうが……」


 いやいや、人のせいにしないでもらおうか! 盗賊やってる方が断然悪いからな!


「仕方ない、有り金全部差し出すか……」

「今更遅せぇよ、それにお前を殺してから奪えば一緒だ」


 命乞いとかそう言う意味じゃないんだけどな、俺がさっきやったこと忘れたのか?

 先ほどと同じようにポーチから硬貨を取り出し、投げる、投げる、投げる。


「が! くそ! こいつまた!」


 ははは、金がゴミのようだ!

 今世界の金は硬貨オンリーだ、持ち運びとか大変だけどこのポーチのような魔法道具がある世界だから問題ないんだろう、とにかく今の俺にとっては弾が多いって事でありがたい限りだ。


「ははは、こんな硬貨(モノ)でも当たり所が悪けりゃ大怪我だぞ、しっかり防げよ!」


 とにかく金を投げまくって隙を見つけたら斬るを繰り返す。

 最初は槍持ちの1人が隙を見せたので槍を持つ両手を斬り裂いた。こいつを人質にしようかと思ったけどさっきと同じだろう、もう時間稼ぎなんて考えてる余裕は俺には無い、確実に戦闘不能にする為に頭か足か手を狙って殺りに行く。


「どうした!お前らが欲しがってる金だぞ! しっかり受け止めろ!」


 お、剣持が1人、目に硬貨を受けて悶絶している。よし、頭と手を1度に斬れた。

 槍と剣が手ごろな位置に落ちている、これも投げるか。

 HIT! 槍持ちを貫いた。残り3人、内2人は怪我人。


「なぁ、餓鬼1人に半数以下まで人数を減らされてどうだ?」


 徐々に後退して行く剣持元気君と剣持怪我人君ずに硬貨を投げ続けながら煽る、これで更に隙を見せてくれるか、怒って突っ込んで来てもそれはそれで対処し易い。あ、硬貨の当たり所が悪かったのか怪我剣持ちが一人倒れた。一応警戒して近付く前に剣を投げて刺し貫いておく、ここで最初に弓持ちに投げた俺の剣を回収完了。だいぶ馬車から離れたか? 冒険者たちはいつ魔物を倒し終わるんだろう、もう直こっちは片付くぞ。

 硬貨を投げて、追いかけて、剣や槍を回収して投げる、あっという間にもう1人の怪我剣持ちが倒れる、とうとう最後の一人になった。

 最後の剣持は俺に背を向け背中に硬貨が当たるのもかまわずダッシュで逃げ出した。


「ま、これ避けたら見逃すか……」


 丁度再回収した槍を逃げる背中に向けて投擲する。

 お、外したけど地面に突き刺さった槍に足を引掛けて剣持が転んだ、見逃す気だったけど転んだしせっかくだから止めを刺しておこう。倒れているところに駆け寄り地面に刺さっている槍を引き抜き剣持に突き刺す。


「は~、終わった」


 やっと一息つきあたりを見回す。

 どこか体に比較的重傷な怪我を負い倒れている男達、ばら撒かれた硬貨、酷い惨状? 笑える? 勝つ為とは言え滅茶苦茶やったな……馬車に戻って硬貨を回収する間待ってもらえないか聞こう、駄目だったら諦めるしかない。


「あれ?」


 あっれ~


「馬車何処だよ、あと冒険者たちも……」


 何処にもその姿は見当たらない、え~もしかして置いていかれた? さっき俺が出した合図を「俺を置いて先に行け」って勘違いした? そんな馬鹿な……

 まじか!? おいおい、どうするんだよ、馬車に乗ってれば大丈夫だと思って地図も方位磁石も持ってないぞ、こんな所に1人とか生き残れる気がしない!

 くそ! 慌てたら駄目だ落ち着け、とりあえずばら撒いた硬貨を回収しよう、全部は無理でもある程度は集めないともったいない、足りない分は盗賊から巻き上げよう。


「でさ、この近くの村ってどう行けばいいの?」


 硬貨を有る程度回収し終わってからまだ息の有る盗賊に何気なく尋ねる、俺を睨むだけで何も喋らないが傷口を剣で突き脅す。治療しないと失血で死ぬだろうけど生憎俺は盗賊に使う傷薬は持ち合わせていない。喋ろうが喋るまいが盗賊の死は決定事項だ。それで、死ぬまでの間に更なる苦しみを味わいたくない盗賊が近くの村を教えてくれた。と言ってもここから半日ぐらい歩かないといけないみたいだ。


「仕方ない、行くか……」


 覚悟を決めて歩き出そうとしたら目の前を黒い影が遮った。


「ん?」


 魔物だ、さっき冒険者たちが戦っていた魔物と同じだけど大きさが全然違う、これは……ちょっと無理かなぁ……サイズが違いすぎる、俺の3倍ぐらいあるぞ、それに物凄くご立腹のようだ、多分さっき冒険者たちが戦っていた魔物の親とかなのか?

 逃げる、それしかない。


「GAAAAAAAAA!!」

「ッツ!!」


 くそ! 咆哮だけですくんで動けなくなった。

 駄目だ、逃げる逃げないの問題じゃない、逃げられない。


「クソが!」


 唯でやられて堪るか! とにかく足掻くぞ! 俺の剣と硬貨と一緒に回収した盗賊の使っていた剣と槍、全部魔物に向かって投げてやる。


「刺され!!」


 俺の剣、魔物の肩に浅く刺さる。

 盗賊の剣1本目、爪で弾かれた。

 盗賊の剣2本目、腕に当たるが切れ味か俺の力が足らず傷にならない。

 盗賊の剣3本目、また爪で弾かれた。


 くそ、余裕そうだな。


 盗賊の剣4本目、また弾かれる。

 けど続けて盗賊の剣5本目を投げている、俺の剣とは逆の肩に突き刺さった。


 けど駄目だ、浅い、全然威力が足りていない。

 残るは槍2本、このままやっても駄目だ、思い切って突っ込むしかない、幸い魔物はまだ油断している、サイズが違いすぎて効くか分からないけど……


「おおらあああぁ!」


 残った槍を纏めて持ち、めいいっぱい飛び上がって魔物の顎を狙う、街で絡んで来た奴のように脳を揺らせば何とかなるという微かな希望に願いを託し、今俺に出来る全力のフルスイングでかち上げる。


「GURUAAAAAA!」


 痛ッ、魔物が頑丈すぎてこっちの手が痛い、けどどうだ!?


「GAAAAAAAAA!!」


 ……駄目か、怒らせただけで終わっちまったようだ。どうしよう、もう咄嗟に打つ手が思い浮かばない。どうするか考えている間魔物は待ってくれない、剣を容易く弾いたその爪が俺に向かって振るわれる。俺は手にした槍を前に翳す事しか出来ない。


「受けるな、避けろ……」


 落ち着いた、しかし少し高めの男の声が俺の耳に届く、同時に服を引かれ後方に放り投げられる。

 思わず放り出してしまった槍が魔物の爪でへし折られる、アレで受けていたら俺も同じ運命を辿っていたな、そのまま尻餅を付き突然現れた男に警戒する魔物と、剣を油断無く構え魔物と対峙する男の背中を座り込んだまま見上げる。


「ここまで成長したか、魔王の影響は大きいみたいだな、まあ、今回は死んでくれ」


 男は剣を大上段に構える、それを見て魔物も男に襲いかかろうとするが男の方が早い。


「氷柱剣、アイシクルインパクト!」


 男が剣を振るう、剣と魔物の間に氷塊が生まれ氷は魔物に向かって氷柱をのばす。振り抜かれた剣は魔物を大きく斬りつけ、幾つもの氷柱が魔物をズタズタに突き刺す。

 これが……魔法? 魔法には詠唱が必要なはずだけどそれが無い、召喚されたクラスメイトたちの中には異界の~術士なんてのが居る、彼らは炎を操るなど現象を直接操作するので詠唱が必要ない、この男の人、それと同じ特殊能力持ちの類か?

 とにかく、魔物は完全に絶命している。


「大丈夫か? 怪我は……無さそうだな」


 剣を鞘に収め男が振り向く、未だ座り込んだままの俺の外傷を確認して立ち上がる為の手を差し伸べる。

 手を取って立ち上がり男にお礼を言う、後1人で行動するのは怖いので同行させてもらう許可を得る、この男の人確実に強い、道中1人よりは絶対に安全だ。


「へぇ、と言う事は僕が受けた盗賊退治の依頼は君が片付けてくれたのか」


 あの盗賊たち、討伐依頼が出てたのか。


「俺はハヤト、旅人として適当に旅をしている」

「俺は蒼也、今は旅人かな、隣国エバーラルドを目指してる」


 道中男と互いの事情を語り合う、当然異世界云々は言わないけど乗合馬車に乗ってからこれまでの事を話す、あわよくば他国へ同行して貰おうって意図も有る。


「しかし、ずいぶんと可笑しな戦い方をする」


 休憩中、再び回収しポーチに収めた武器を1つずつ手入れする俺にハヤトが聞いてくる、休憩までに数回戦闘があったけど、俺はそのどれもまともに戦っていない、俺の攻撃は主に投擲だ。出て来る魔物が全部冒険者たちが戦っていた奴らより強いんだから俺がまともに戦える訳が無い。


「あ~、自分の能力値を見る機会が有ってね、俺の能力は人より劣っているからまともに戦ったらまず勝てないんだよ、だから乗合馬車で戦闘は殆ど他の冒険者に任せて移動していたんだしなぁ……」

「それにしてはなかなかの動きをしていると思うがな」


 そりゃ、短い期間とは言えそれなりに鍛えたからな。


「なんなら、エバーラルドの近くまで送ろうか? 俺もやる事があるからエバーラルドまでは付き合えないけど、お前面白いし、その間少し鍛えてやろう」


 何か狙いどうりになった。

 よし、これからはハヤトの事を師匠と呼ぼう。


 師匠が依頼を受けた村に寄り依頼の報酬を受け取る、師匠は報酬の半分を盗賊を倒した俺に分けてくれた。魔物から助けてくれたから別にいいって言ったんだけど、お金は有って困るものでもないから貰っておけと言われてありがたく受け取る事にした。


 こうして、俺は少しの間師匠と旅をする事になった。

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