三章12話 魔法武器
ダンボールを組み合わせたようなロボ共は、その間接部分に剣を差し込んで斬り離すことが出来た。
間接以外の装甲が硬く、そういう素材なのか魔法剣も効きにくかったのでそれ以外の方法がとれなかっただけだが……。
頭と胴体を切り離せば動かなくなるようなので伊勢と協力してロボを破壊していく。
しかし妙だ、ロボ共は俺たちが○の通路に近付こうとするのを邪魔するように集まって来るが、ロボ共から攻撃してくることはまず無い。ロボ同士で肩を組んで壁になり突っ込んで来ることが有るのが攻撃といえば攻撃だが、大体俺たちを囲む位置まで来ると止まり、俺たちを囲むだけに終わる。
どんどん倒していくが、新しいロボが×の通路から補充される。
「玲奈~高深君~、多分限が無いから一旦戻って~」
中央の突き刺さった剣の辺りで俺たちが戦うのを見守っていた美波から撤退の声がかかった。ロボ共の動きから見ても、ここで引いたからといって追撃してくる事は無いだろうが……。
「ロボットの中に変なのが混じってるのよ、2人が倒したロボットを修理しているみたい」
お、本当だ……ダンボールロボ(ダンボールじゃないけど)の中に俺たちの世界で言うナースキャップを被った奴が居る。
頭と胴体を切り離したダンボールロボを壁際まで引っ張って行き、頭と胴体をくっつけて、よく分からない光を当てている。
光の当たった所が徐々に繋がっていき、完全に修復が終わると、そいつは倒す前と同様に動き出した。
修復光線って……魔法と考えればおかしくは無いのか?
まぁいい、とにかく×の通路から追加されるだけじゃなく、倒した奴も修復されていたのか……。
「そりゃ減らない訳だ……」
もうちょい魔法剣が効けば大きいのをぶち込んで、その隙に○の通路の方に逃げられるかも知れないけど、あの通路の先がどうなってるかも分からないから迂闊な事は出来ないよな。
「さて、どうしたらいいかしら? 思った通り、あのロボットたちは私たちを○の通路の先に行かせない様にしてるだけみたいだけど」
ロボ共の動きから予想した通り、通路の前で自らのボディを使い壁を作り、俺たちに攻撃してこようとはしない。完全に守りの姿勢だな、数もかなり増えているため厄介だ。
落ちて来た穴は下に巨大スライムが居るし登れそうも無い、だから出口っぽいのはあの○×の通路しかない。
「駄目元で魔法剣撃ちまくるか?」
氷結系で動きを止めれば何とかなる気がする……いや、魔法剣の氷って外れたりすると消えるんだよな、かと言って当ててしまえばあのロボ共はレジストするだろ、どうしろと?
「攻撃力が足りない……」
伊勢の能力値でも無理か、ロボ共防御力高すぎだろう……。
伊勢は漫画とかの忍者じゃなくて実際の忍者寄りみたいだからな。
魔力が有るから隠密行動なんかは冗談みたいに相手に気付かれないし、壁走りなんかもやってのけるけど……俺でも出来るような遁術とかしか使えないんだよな、それでも伊勢の遁術は魔力で多少は補正がかかってるみたいだけどな。
「高深君、これ抜いてみない?」
もう突っ込んで力任せに行くしかないかと思ってたんだけど、美波が台座に突き刺さった剣を指してそう言ってきた。
「嫌だ、怪しすぎる」
俺たちを溶かそうとしなかったスライム、通路に近付けないように壁になるロボ、どっちも俺たちを襲っては来ない。俺のこの世界の魔物に対する印象は『好戦的』だ、という事はここのスライムもロボもどこかおかしい、なんらかの意図を持って動いているのかもしれない……。
「でも、私たちをここに落とした輩は多分この剣を使わせようとしているわよ」
そう言えばそうだ、依頼主宅の玄関先で落とし穴に落とされる、これって完全に嵌められてるよな?
「ったく、なにが目的なんだか……」
どんどん増えて限の無いロボ共が攻撃までしてきたら状況的に詰んでいる、なら俺たちをここに落とした奴の意図通りに動いてみるのも手かもしれない。
問題は美波の言う様に、本当に俺たちに剣を使わせようとしているかどうかって事だけど、これはこの状況を仕組んだ犯人に聞かないと分からないか……
「やってみるか」
まぁ、俺なら剣に変な仕掛けが有っても、魔法剣の要領で過剰に魔力を込めて剣を壊せるから大丈夫だろう。
「気をつけて……」
何か有った時の為に伊勢と美波には少し離れていてもらい、部屋の中央に突き刺さった剣に手をかける。
触ってみた感じだと、少し力を入れれば簡単に抜けそうだ。
この状態でもロボ共もスライムも動かないとなると、犯人は俺たちに剣を使わせようとしているっていう美波の予想は当たっているって事か?
「お!」
やっぱり罠じゃねぇーか! 魔法剣を使う時に剣に魔力を込めるのと似たような感覚が有る、これって剣に魔力吸われてるよな!?
「あ、魔力が……」
「ん……」
どうやら俺だけじゃなく周囲の魔力も吸い取っているようだ、完全に罠だな。
幸い魔力の吸われる速度はゆっくりとしたものなのでとっとと壊してしまおう。
今回は壊すのが目的なので、限界量を確かめる為にゆっくりと魔力を込める必要は無い。一気にやって壊れた所がこの剣の限界だ。
吸い取った魔力と俺が魔法剣で込めた魔力の扱いは別なようだ。いつものおかしな音を立てて剣はあっさりと砕け散った。深く考えてなかったけど、込める魔力と吸い取った魔力が同じ扱いなら、俺の魔力全部込めても壊れなかったかもしれないんだよな……。
「なんだったの? 魔力を吸い取られる感じがしたけど……」
「やっぱり罠だったってことだろう、魔力を全部吸い切られる前に壊したけど、この後どうするかな……」
剣が単なる罠だったってことは、ロボ共を今の戦力で何とかしないといけないってことなんだよな。
「2人共……見る……」
如何したものかと考えても良い案は浮かばない、そして、伊勢に言われロボ共の方を見ると……。
「SYOBOOON……」
「OWATA……」
殆んどのロボが崩れ落ちて動かなくなっていた。残ったロボの動きも緩慢で、あれなら余裕で振り切れそうだ。
「どうなってるんだ?」
俺たちが何かしたわけじゃないよな、でも状況が良くなってる……犯人の剣を使わせるって言う目的が果たされたから先に進めってことか?
「もしかして、あのロボットたちの動力って魔力?」
そうか、さっきの剣は周囲の魔力を吸い取っていたから、ロボ共も動力になっている魔力を吸い取られて動かなくなったって所か。追加のロボも出てこないようだしこれで先には進めそうだな。
にしても、条件を満たせば先に進める状況になる、脱出ゲームとかの類に感じる。実際にここから脱出しようとはしているけど、本来そんな意図に付き合う理由なんか無い。今だって攻撃力がもっとあればロボ共を蹴散らして進めただろう。
「ん、今の内に進む」
そうだな、とりあえず○の通路を進んでみよう。
残っていたロボは無視して○の通路を暫く進むと後方で、ガコン……ゴゴゴゴゴ……という音がした。
今の音、嫌な予感しかしないが、振り返って確認すると、通って来た通路に壁が出現していた。
引き返せなくされた。こっちが正解の道かも分からない状態だっていうのに……。
「進むしかないわね」
まぁ、あの部屋に戻っても脱出できる訳じゃない、この道が正解なのを祈って進むしかないか。
通路はすぐにお終わり上への階段があった。結構上まで続いている螺旋階段だ。落ちて来た深さを考えれば上るのが億劫になってくる。
「私のステータスは魔法使い系なんだけど……」
「それ言ったら俺なんか一桁だったぞ、まぁ落ちて来た分を上る覚悟はしておいた方がいいな」
精霊使い、魔法使い系だから運動は向かないって言いたいんだろうけど、上る以外の選択肢は無い。
俺も、内心では不満を抱えているが2人にそれを漏らしても仕方が無い、今は脱出する事が優先だ。
「まぁ、ここから出たら犯人に謝罪と賠償を要求しよう、多分ここの奴が犯人だろう」
セバスチャン(仮)の独断か、あの依頼主の命令か、他の住人のやったことなのかはその理由も含めて分からないけど……。
「そう、報いは受けさせる……」
「玲奈、事故って可能性も有るんだから、最初はもうちょっと穏便にね?」
事故? 侵入者用の罠の誤作動とかか? それでも謝罪と賠償は要求すべきだろう。まぁ美波も穏便にとは言ってもその辺りを蔑ろにする気は無いみたいだから良いか。
「とりあえず、当分は精霊の依頼に集中できるように当面の生活費ぐらいは請求しましょう」
そうだな、あまり搾り取りすぎても禍根が残る、それくらいの金額ならこんなとこに住んでる奴には問題無いだろう。
「そして、四肢を捥ぐ……」
「だから玲奈、穏便にね」
伊勢、俺だってムカついてるけど、言ってる事が過激で怖いから抑えろ。
「でもまぁ、いいんじゃないか?」
「なにが!?」
こんな感じで、俺たちは階段を上り続ける……なんだろうな、罠にかけられて脱出しなきゃいけない状態だって言うのに、1人じゃないからか随分と気が楽だ。
やっぱり、普通の学生には異世界で戦うなんてこと負担にしかならないんだろうな。伊勢や美波が居ると少しだけだけどあっちの世界のノリに戻れる。
この世界での係わり合いも悪いものばかりではないけど、うん、俺はこっちのノリの方が好きだ。
程好い緊張感を残しながらも俺は1人で居る時よりもリラックスした状態で居られた。
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蒼也たちが依頼を受けた依頼主の住む邸宅地下、蒼也たちとは別の階段を上る2人の男が居た。
「坊ちゃま、急いでください、そろそろ次のフロアに到着してしまいますよ」
1人は初老の執事、蒼也たちが地下に落ちるのを見送ってすぐに今上っている階段を下り先に待つ主の元へと参上した。
蒼也たちがスライムに飲み込まれた時にはもう辿り着いていたのだから、この執事の実力相当なものだという事が分かる。
「はぁ、はぁ、俺は頭脳派なんだ、肉体労働は向いていないんだ」
もう1人は蒼也たちの受けた依頼の依頼主である男の弟、体力には自信が無いらしく、青い顔をしながら必至に階段を上っている。
「仕方ありませんね、失礼します」
このままでは間に合いそうに無いと、老執事は弟の背中と膝裏に腕を回し抱え上げて階段を上りだした。来てすぐに折り返しているとは思えない体力だ。
「しかし、魔剣士はあんな事が可能なのか?」
「そのようですね、まさかあんなにもあっさりと剣を破壊されるとは思いませんでした」
「手放せば効果は止まるんだがな……まぁいい、次はどうするか楽しみだ」