三章11話 実験
精霊からの依頼を受けて精霊が消えていっている原因を探る事になったのだけど、何処から探って行けばいいものだか……。
「その辺の精霊に聞いて分かるなら私たちに依頼なんかしないでしょうね」
美波の能力も今回は役に立たないか。と言っても俺にも手が有るわけじゃない。
思いつく手と言ったら、歩き回って美波の能力で精霊の消える瞬間を感じ取るのに期待するぐらいか?
「とりあえず依頼を終わらせましょう」
精霊石の収集だな、納品数は1個でいいみたいだけど依頼主としては多ければ多い方が良いんだろうな。
そんなに見付かるとも思ってないようだったけど、美波が居るせいか凄く簡単に見付かったよな。それもごろごろと……あれでもあの精霊が小精霊を増やすのに使った後だって言うんだから元はどれだけあったんだ?
回収した後だったけど一応、精霊から1つぐらい持って行っても構わないと許可を獲て精霊石を貰って来た。
あの精霊の言動から予想すると精霊石って精霊の卵みたいな物なんだよな、貰ってもよかったのか?
精霊と人の価値観の違いって奴か? 貰えるならどうでもいいか……。
「という訳で取り次いでくれ」
あまりにも早く帰って来た俺たちに門番の男もセバスチャン(仮)も驚いていたようだ。
普通なら魔物があれぐらい強い森での探索にはもっと時間が掛かるんだろうな。
美波が居ない状態で精霊石が簡単に見つけられるかってことも有る。
「なんだ、こんなに早く戻って来るって事は依頼の破棄か?」
依頼主も俺たちが既に精霊石を回収して帰って来たという考えには到らなかったようだ。
そんなに凄いのか……流石、勇者が2人居るだけ有るな……。
「蒼也も勇者……」
ぼそりと、俺たちにだけ聞こえる声で伊勢が俺の思考に突っ込みを入れる。考えてる事が顔に出てたか? どんな顔だよ……。
「依頼の品の納品に、確認して証明書を下さい」
今回はいつも冒険者協会で行っている納品と報酬の受け取りを、依頼主に直接納品して証明書と報酬を貰い冒険者協会に報告する形だ。
精霊石を持ってきた証明に実物をポーチから出して依頼主に渡す。
「ホントに持って来たんだな……」
依頼主は本物だと確認するとすぐに質の確認も始める。
「ふむ、目立った傷は無い……少し小さいけど、魔法兵器に組み込むことを考えたら丁度良い大きさか、加工の手間が省けるな……よし、これなら良いだろう、ほら、報酬と達成証明書だ」
この依頼主は……まぁいいか、依頼の最初と最後しか会ってないし、報酬と証明書はしっかり貰ったからな。
「戻るか……」
証明書を冒険者協会に提出して依頼を完全に終わらせよう、それから精霊の依頼にどうやって取り掛かるか考えないとな。
セバスチャン(仮)に見送られ玄関を出る、後は門を抜けて出て行くだけなんだけど……。
「門番が居ない?」
「休憩中?」
交替も無しに休憩はおかしいだろ、つまり現状はおかしい……。
「まぁ、ここの問題だから気にしなくてもいいだ……ろ? おお?」
一瞬の浮遊感……今まで歩いていた地面が消えた。当然、俺は重力に従って落下する……。
なんだこれ、隣で伊勢と美波も同じ様になっている。俺たち落とし穴に落ちたのか?
「ん!」
「きゃぁああああ!」
「うお、おお? おおお!」
何で落とし穴に落ちたとかは今はいい! この穴結構深いみたいだから着地をどうにかしないとヤバイ。
壁が光っていて結構下まで見えているのに、それでも底が見えない。
「美波! どうにかできるか!?」
落下しながらスカートが捲れる事はなんとしてでも阻止している美波に目を向ける。
「無理! 手を借りられる精霊が居ない!」
精霊が居ない時の美波はステータスは高くてもただの女の子だな!
「伊勢は!?」
「自分だけなら、壁を走れる……」
とりあえず伊勢は壁まで飛ばせばどうにかなるのか……なら!
「伊勢!」
手を伸ばして伊勢の手を取る、そのまま身体を捻って勢い任せに伊勢を壁に向かって放る。
壁まで飛んで行った伊勢はそのまま壁に足をついてまるで壁に向かって重力が働いているように走り出す。さすがにこの状態から上には走れないみたいだけど、忍者って凄ぇな。
これで壁を横に走って徐々に降りて来ている伊勢は大丈夫だ。
「美波!」
今度は美波の手を取り引き寄せる。
「しっかり掴まってろ!」
美波を背負いしっかり掴まった事を確認すると、剣を抜き壁に突き立てる。
壁まで刃が届かないけどそこは魔法剣で何とかする。
「マナブレイド!」
俺の剣の刀身から魔力の刃が伸び、あさりと壁に突き刺さる。
その後、スッと壁を切り裂きながら落下する。
「ちょ! 斬れ味が良すぎる!」
慌ててなまくらレベルに魔力の刃の精度を落す。
途端、勢いのみで壁を削りだす魔力の刃、徐々に落下速度を落す事に成功するけど、下に着くまでに勢いを殺しきれるか?
「高深君! 下!」
ああ!? 下? まだ勢いが殺しきれていないのにもう地面か?
壁に剣を突きたてることに集中していた俺は、美波の呼びかけで下を見た。
青い、でもこの青さってアレだ……。
そこまで考えた所で、ドプンといった感じの音を立てて俺と美波はその青に飲み込まれた。
この青、スライムだよな……ヤバイ、解かされる!
落とし穴の下に巨大なスライム、これだけ深さがあればスライムが居なくても罠としては凶悪だけど……落下して死ぬのから助かったと思っても、スライムによって解かされる恐怖を与えるって、悪意を感じるな……。
なんとかしてスライムから出ないと……スライムに落ちた瞬間にマナブレイドは効果を切らしてしまったからもう一度剣に魔力を込める。
剣を持っていない方の手で離れそうになる美波の手を掴んで、まだ掴まっていろと言う意思を伝える。
スライムの中という状態じゃ言葉が使えない。剣に意思を伝える魔法剣の性質上、技名無しで魔法剣を使うことは可能な筈、ぶっつけ本番だけどやるしかない!
「PE!」
決意を固めた途端、俺たちはスライムから吐き出された……。
「なんなんだ……」
不味いから吐き出した? 何それ凄い屈辱なんだけど……。
「結果、オーライ」
しゅたっとスライムを避けた伊勢が隣に降り立つ。
まぁ、伊勢の言う通りで、溶かされなかったから結果は良かったんだけどな……。
「……冬子」
妙に底冷えする声が伊勢から発せられる。それを聞いた美波が慌てた様子で俺から離れる。
「玲奈、緊急事態だったの、大丈夫だから……ね?」
なんなんだ? 美波は何を慌ててるんだ?
そうだ! スライムをなんとかしないと!
「PURUPURU」
…………。
慌てて剣を構えたけど、スライムはその場を動かずにただふるえるだけだ。
「襲って来ないのか?」
「PURUPURUU」
俺の言葉に肯く様にたわんだ……そして何処から声を出している? なんなんだこのスライム、まるでクッションになる為にここに居るみたいなんだけど……変異種か? クッションになる変異種って、魔物としてどうなんだ?
「ここなんだよ……」
都合良く壁が光っているので周囲の様子は簡単に把握できる。
ここは体育館位ありそうな結構広い長方形のフロアで、俺たちの落ちてきた穴の下には変異種?のスライムがふるふるとふるえている。
スライムをどうにかしたとしても、落ちて来た穴から戻るのは無理そうだ。
他には別の場所に続いてそうな通路がスライムの居る反対側に2つ……気のせいか? 通路の前の床に○×が描いているように見えるんだが……クイズでもするのか?
そして……部屋の中心に台座が有るな、更にその中心に剣が突き立っている。怪し過ぎる……。
「…………」
伊勢、無言で抱きついて来るな……美波との話はもういいのか?
伊勢が抱きついて来るのにもいいかげん慣れてきたな。何も無い時とかに思い出したように抱きついて来るからいちいち驚いていられない。
「伊勢、あれどう思う?」
台座に突き刺さった剣を指して尋ねる。
「選定の剣?」
「って、怪しすぎるでしょう……」
だよな、俺も美波と同じ意見だ、伊勢の言うように選定の剣だったとしても厄介だ、勇者にしか抜けないとかだったりしてみろ、伊勢にも美波にも、ついでに俺にも抜けるって事になる、そうすると面倒な事になる……。
「放置で」
「うん」
「そうね」
二人の同意も貰った事だし怪しい剣は放置して、とりあえず×の描いてる道は危険そうだから○の方に進んでみるか……にしても無駄に広い場所だな。
「GIGIGIGIGIG!」
「GUGIGUGIGUGI」
ほら、×の通路からロボっぽいのがワラワラと湧いて来た……あ、○の通路の前まで塞ぎやがった!
「GIGIGI」
「PI、PIRORO」
襲っては来ないみたいだけど通路を塞いでどきやがらねぇ。
進むなら倒さないといけないか……でも知らない魔物なんだよな。
「伊勢、いけるか?」
「刃が徹れば……」
それはそうだな、でも忍者なんだし火遁とか出来ないのか? 風の手裏剣とか……無理か。
なんでこんな状況になってるのか分からないけど……やるしかないか。
「まぁ、ぶっ倒そう」
「ん!」
俺と伊勢はロボ共に向って駆け出す。美波は今回も待機だ、精霊にずっと頼ってたのか、伊勢が全部片付けてたのか知らないけど、美波がまともに武器を振るったところなんて見た事無いからな、大人しくしていてくれた方が安心だ。
「PIEEEEE」
「KYURURURURU」
駆ける俺たちに気付き、迎撃体勢みたいに動くロボ、やっぱり向っては来ないんだな。好戦的な奴が多い魔物の中では珍しい……。
「薙ぎ払え! スパークブレイド!」
戦いの合図に派手な雷でロボ共を薙ぎ払う、ロボ相手なら雷が効くだろう……。
「PIKYUUUUUUN!」
「SYAKIEEEEN!」
元気になりやがった!?
異世界だからあっちの常識は通じないってか……そもそもこいつらロボなのか? これだから初見の魔物は厄介なんだ。
「蒼也、刃、徹る」
俺のせいでロボ共が元気になっても物ともせず、伊勢はロボの継ぎ目っぽい所に小太刀を突き入れて切断していく。
魔法剣無しでもいけそうだな……よし、ちゃちゃっと片付けるか!