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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
三章 マギナサフィア・一人じゃない旅路
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三章1話 見送り

「ミラージュソード」


 田嶋から餞別として貰って竜豚戦までずっと使っていた剣が折れた為、レーヴェン商会で新調した剣に込めた魔力が無意味に散っていく。


「PIKYUUUU!」


 何処から声を出しているのか分からないゼリーみたいな魔物が、身体を弾ませて突進を仕掛けてくる。

 その突進は俺を正確に狙っていて、とても幻覚が作用しているようには見えなかった。まぁこのゼリー、何処に目が有るのかとか分からないんだけど、他の魔物に使った時も同じだったので間違いない。


「やっぱり、ミラージュソードが使えなくなってる……」


 予め効かない事は予想していたのでゼリーの突進に剣を合わせて両断して仕留め、数回に亘る実験結果に嘆息する。

 どうもこの剣に変えてからミラージュソードが使えなくなている、魔法剣は使用者のイメージを武器が汲み取り具現化してくれる武器頼りの技術だ。相性で武器によっては再現できないイメージもある。


「ミラージュソードの発動条件はなんだ? 新調した予備の剣でも使えなかったし……」


 前に使っていた予備の剣、竜豚戦で唯一残った武器は験しに一度ミラージュソードを使ったら限界が来て壊れた。今俺の持っている武器は、レーヴェン商会で新調した普段使う用の剣、これは田嶋から貰った愛用の剣の代わりになっているが、まだ新調したばかりなので以前ほどの魔法剣の威力が出ない。長く使って武器が馴染めば魔法剣の威力も比例して高くなる筈だが、こればっかりは時間をかけないとしょうがない。予備兼、魔法剣連発用にそこそこ良い、魔法剣にもしっかり耐えられる剣を4本、槍を2本、ソードフィールド、結界を張る用に短剣を4本、どれも鍛冶師が丁寧に仕上げた良い品だ、当然魔法剣で簡単に壊れる事も無い。

 武器とは別に防具も調達した。竜豚戦で実感したが、これまでの修練の成果か、敵の攻撃は全て避けなければ死ぬなんて状況は脱しているようだ。時には耐えることも必要になるだろう、それでも生身に攻撃を喰らうのは危険すぎる事は分かっているので、とり急ぎ防具もレーヴェン商会で調達した。

 それでも動き難くなるのは困る、よって俺の選んだ防具はブレストプレートだ何の素材か分からないが、剣で斬りつけても軽く跡が付く位だったのでそれなりに丈夫だ。

 そこに師匠から貰った反魔のグローブを片方つけて、もう片方は魔法剣に耐えられる篭手のような物を填める。片方ずつ違う物を装備するのは見た目的にどうかと思うがここは命に関わるので効率重視で行く。

 靴もそれなりに丈夫なグリーブを購入して履き変えている、前よりは全体的に重量が増したがこれぐらいなら問題無い、動きにくいなら早く慣れてしまえばいいだけだ。

 最後に外套を羽織って、これで幾分か冒険者っポイだろう。


「武器と魔法剣の相性か……ミラージュソードの条件が分からないから、最初から使えないものと考えて戦闘した方が良いな」


 はぁ、手数が減った。でも武器が良くなって攻撃力は上がってると思うからトントンか? いや、魔法剣の威力が落ちてるんだよな……あ、でもチンピラドラゴンの肉喰ってステータス上がってるからやっぱトントンか?


「まぁ、マギナサフィアに着く前に剣も馴染ませてしまえばプラスだよな」


 俺がエバーラルドの王都を旅立ち次に向っているのはマギナサフィアだ。

 リミュールがマギナサフィアもシルバーブルが持つ勇者召喚の研究をしているらしいと言っていたのとあそこには大きい図書館が有るらしいから調べ物にはもってこいだろう。

 装備品や旅に必要な物を購入したせいで相変わらずの金欠だ、何で俺は旅に出る時って余り金に余裕が無いんだろうな……まぁ、修行もかねて歩いて行くのは別に良いんだけど……もうちょっと考えてお金を貯めた方が良いか? いや、でもどうせ帰還方法が見付かったら帰る身だしな、この世界の金をセコセコ貯めても意味無いよな、なら今の安全の為に使う方が良い。よし、結論は出た、これからもこのまま行こう、金なんて最低限の生活費さえ有れば問題無い! 他は全部命を守るための装備に使って大丈夫だ!


「今倒した魔物、ゼリースライムだよな……」


 強化能力値は魔力、部位は中身を飲めば良いって話だったと記憶しているけど……倒して地面に落ちた瞬間に液化して地面に染み込んで行っちゃったぞ。

 これは倒してすぐに何か容器に入れるか、容器に入れてから仕留めないといけなさうだな。

 確か蜂蜜を入れていた瓶が2つほど空いてたよな、それを使うか。

 新に突進してきたゼリーを前の奴同様に両断してポーチから取り出した瓶で断ち斬った片方を受ける。丸々1匹だと入りきらないけど、半分ならいけるな。

 瓶の中のゼリースライムは完全に液化している、見た目だけなら唯のジュースに見えなくも無いんだけど、これスライムなんだよな……。とりあえず蓋をしてポーチの中に戻した。

 よし、新調した武器の検証を続けよう。


「こんなもんか、全体的に斬れ味なんかが良くなってるし、素材も丈夫な物みたいだから簡単に壊れはしないだろう、魔法剣は……やっぱり威力が落ちているから馴染ませるまでは我慢だな」


 おっと、魔物だ。

 残念ながら能力値強化部位の有る魔物じゃないけど、色んな魔物と戦う経験は俺の力になる。

 マギナサフィアの王都に着くまでに、どれだけ経験を積んで強くなれるか……竜豚は硬すぎて歯が立たなかった。多分チンピラドラゴンはそれ以上だろう。

 できるだけ危険には首を突っ込まないようにしようと思ってはいるけど、巻き込まれたり、俺自身の生き方を貫く為に戦わないといけない事はこの先も有るだろう、その時に力が足りなくて死んだんじゃ意味が無い。移動中はもっと修行しよう。

 今出て来た魔物のように、街道に沿って移動する行程で出て来る魔物はそれ程強くない、攻撃も単調で正直訓練になっているのか分からない。


「よし、ここは街道を外れて適当に進もう」


 もちろん大まかな方向だけは確認しながら進む、気が付いたら逆方向に進んでたじゃ意味が無いからな。

 街道を進んでいた時よりは魔物との遭遇率が上がったが、それ程強い魔物は出てこない。

 まぁこんな所でいきなりドラゴンレベルの奴が出て来ても困るんだが……。


「そう言えば投擲用の武器も全部投げ尽くしてたんだよな……」


 1人になると思っていることをつい口に出してしまい独り言が多くなる気がする。

 まぁ、そんなことはどうでもいい、投擲武器補充の為に盗賊でも出ないかなぁ……。


「そう都合良くはいかないよな」


 盗賊の代わりに俺の前に現れたのは、狼っぽいのに毛が羊みたいな魔物だ。


「ジンギスカン……」


 強化部位は無いが、結構美味い魔物だった筈……。


「じゅるり……あっ!」


 逃げやがった!

 あの魔物、見た目はモコモコしていて羊混ざってるけど性格は狼寄りな筈なのに逃げやがった!

 追うか? いや、態々追う必要も無いか?


「BUGOOO~」


 ん? この声って……。


「BUGO!」


 聞き覚えのある羽ばたき音がして空を見上げようとした瞬間、俺の目の前に巨大な豚が降り立った。ただし、豚の色は緑でその緑の部分は丈夫な鱗だ。腹の部分だけが鱗に覆われていないがこれは多分俺のせいだ。そして、俺が斬り飛ばした筈の片羽は元通りくっついている。


「竜豚、羽もう治ったのか……」

「BUGOO!」


 もしかしてコイツが来たせいであの羊肉逃げたのか? 元は俺が腹を爆破したら瀕死になる程度のオークだったけど、変異してからのコイツは亜竜で通用する強さだからな、回復力馬鹿みたいに高いし……羊肉程度の魔物じゃ逃げたくもなるか。


「どうした? まさか付いて来るとか言わないよな? いくらなんでもお前と一緒には行けないぞ」


 コイツとは本気でぶつかり合った者同士の友情のようなものを感じているが、俺の旅に同行されるのは困る、身長にしても俺の3倍以上の奴、しかも魔物が一緒じゃ目だって仕方ない。


「BUUU~」


 あ、違うのか、見送りに来ただけ? それはすまんな。


「まぁ俺の方は大丈夫だ、そっちも元気でやれよ」

「BUGO、BUBUOO」


 また()ろうって? 馬鹿、あんな戦いもう御免だ!


「BUGOOO」


 残念そうにするな、まぁ本気で殺り合う訳じゃないなら付き合ってやっても良いから。また会う機会が有ればだけどな……。


「BUGO!」

「おう、見送りありがとう、機会が有ればまた会おうな」


 完治した羽を羽ばたかせ去って行く竜豚を見送り俺は歩みを再開する。竜豚との戦闘はきつかったし帰還方法に関する情報は無いも同然だったけど、最終的にはドラゴンの肉も喰えたしエバーラルドでの日々も悪くなかったんじゃないか?


「お、ジンギスカン発見!」


 さっき逃げたモコモコ狼を見つけた。今度は向こうも臨戦態勢だ。

 よし、今夜のおかずはジンギスカン! 野営が楽しみだ。


「ソードフィールドっと……」


 暫く街道を外れて進み、空が暗くなりだしたので野営に良い場所を探し出して新調した短剣での初めてのソードフィールドを行使する。

 よし、発動は問題無い様だ。後は片付けた時に短剣が駄目にならないか見ないとな。


「それより今はジンギスカンだ!」


 無事に狩り終えたモコモコ狼の肉をポーチから取り出した道具で焼いていく、捌いた時の感覚だと牛肉より硬い感じ? そんでそこそこ脂身が有る……ぶっちゃけ元の世界の羊肉とは違うな、まぁ食ってみたら味は良かったから満足だ。

 因みに、ゼリースライムは水だった。


 翌朝、ソードフィールドを解除しても短剣は壊れなかった。

 これで新調した武器は全部確認できたことになる、レーヴェン商会の奥さんはしっかり仕事してくれたようだ。


「よし、んじゃ、今日も張り切って行くか!」


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