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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
一章 シルバーブル・努力の時
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一章2話 小銭を稼ぐ

 結論、金が足りない……

 田嶋から餞別としてもらった金では他国へ行く為の馬車に乗る料金に届かない、と言う訳でどうにかして金を稼ぐ必要がある。

 普通なら持ち金で事足りたのだが、いかんせんこの国は今は戦争中だ。他国に行くには危険が多すぎるうえに、スパイなんかの可能性を疑われる為別途で通行料と言う名の賄賂が必要になったりすると教わった。

 だから……金が足りない……


「とにかくバイト的なものを探そう」


 当然だけどバイトの情報誌なんて無い、自分の足で探すことになる。

 半日ほどかけて街を回り探し出したのが以下の五つ。


 飲食店の皿洗い兼給仕

 ペット(モンスター)の散歩

 トイレ掃除

 ビラ配り

 孤児院の手伝い


 面倒だ、どれがいいかも分からないから片っ端からやっていこう。


「おら新人! 次の皿置いとくぞ!」

「そっち手が空いたら給仕のほうお願い!」


 戦場だった。城での訓練なんか全く役に立たない類の戦場、目まぐるしく回る店内で俺はひたすら働き続けた。


「GYUUUUUUUUAAAAAA」

「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 散歩させると言うより常に俺が引っ張られている状態、全く余裕は無いけど突っ込ませろ! このペットなんだ!? トカゲ? カバ? 妙に足が速くて力が強いこんなのペットにしていて大丈夫なのか!? 散歩は街の外周を一回りしてようやく終わった。


「意外と綺麗だな」


 異世界のトイレなんて汚いぼっとん式かと思っていたけどどうやら色々と魔法で処理されているみたいだ。思っていたよりも清潔に保たれていて掃除するのにさほど苦痛は感じなかった。


「おねがいしま~す」


 取って付けた様な笑顔を貼り付け俺はビラを配る、ターゲットは若い女の子やたくましい男性だ、ビラの内容は夜のお店の勧誘や兵士の募集、とにかく心を無にしてビラを配り続ける。


「しつれいします!」


 逃げた、アレは無理だ、孤児院の手伝いって言うから子供達の面倒を見るのかと思ったら違った。アレは無理、無理、思い出したくも無い、もうあそこには絶対近寄らないぞ!


 そんなこんなで俺は小銭を稼いでいく、宿代も必要になるからホント少しづずつしか貯まらないけどもう数日したら目標金額には達するだろう。だから今日も俺は仕事を探す。


「それじゃ、これは雑貨屋の店主に、こっちは酒場のマスターに配達よろしく」


 今日は、とある店で配達の仕事を頼まれた。内容の割には報酬が良い、怪しくも感じつつ引き受けてしまう。


「おお、ご苦労さん」


「いらっしゃい、っと? お客さんじゃない、ああ配達かい? ありがとう」


 危惧していたような事は起こらず何かあっさりと依頼は終わった。

 これなら今日中にもう1つぐらい仕事がこなせるかな。そう思って探してみると良さそうなのが見つかった。


 薬草採集


 街から出ることになるけど簡単な採取依頼だ、採取出来た量によって報酬が上乗せされるので上手く行けば良い稼ぎになる。早速引き受けて街の外へ採取に出かける。

 街を出てから数分の所に薬草の採取場所は有る。多分ここで合っている筈だ、予め見せてもらっていた薬草がそこかしこに群生している。


「えっと、根こそぎ採っちゃうのは駄目だったよな」


 そんな注意事項を思い出しながら言われたと通りの方法で薬草を採取し、ポーチの中に放り込んでいく。田嶋に貰ったポーチは相当な容量が有るらしく実に便利だ。

 薬草を持って依頼者の元に行くとその量に驚かれた。どうやら俺は言われたのとは違う場所で採取をして来たみたいだ。どこでこれだけの群生地を見付けたのか聞かれたが、俺は言われた通りの場所で採取してきたつもりだったので説明のしようが無かった。残念そうにする依頼主に申し訳なく思いつつも追加の報酬にホクホクな俺は軽い足取りで宿に向かった。


「おい」


 今日は結構稼げたから目標金額も目と鼻の先だ、明日もがんばろう。


「おい」


 あ~でもこの世界の魔法技術は凄いな、街並みは中世風なのに普通に魔力で動くトイレや風呂、あと電化製品みたいなのがあるんだからな、でも異世界召喚なんてものがある世界だから過去の召喚された者たちが作り出したのかもしれないな。クラスメイトの中にもそんな感じの能力を得た奴が居たはずだし……


「おいって!」


 はぁ、どうして俺だけ何にも能力が無いんだろうな、この頃のバイトだけでやたら体力は付いてきたように思えるけど……正直羨ましいよな。


「無視すんなって!」


 急に肩を掴まれたので驚いてその手を振り払う。


「え? なに?」


 触れられた肩を汚物を払うように叩きながら相手を確認すると20代ぐらいのガラの悪そうな男が激おこで俺を睨みつけていた。


「うわぁ……」


 思わず気の毒そうな表情になってしまったが、それが男を更に怒らせてしまった。


「とりあえず……何か用?」

「今日テメェが景気良く稼いだ金全部置いて行けやコラ!!」


 係わり合いになりたくないと思いつつも訊ねないとどうにもならない、仕方ないので訊ねてみたけど、この男絶対カルシュウム足りてないよな? 言っている事も無茶苦茶だし、ヤバイ薬でも決めてるのか?


「嫌に決まってるだろ、馬鹿か? 馬鹿なんだな、可愛そうに……」


 出来るだけ侮蔑を籠めて、おもいっきり煽る。既に怒り心頭の男は簡単に挑発に乗ってきた。

 聞くに堪えない汚い言葉を発し殴りかかってくる、城で少しは訓練していたとは言え俺の能力値は一桁台だ、一発でも殴られたら簡単に負けるだろう、それでも俺はあえて男の攻撃を誘う、この世界の奴らは力押しを好む、召喚された過去の勇者に到っても同様だ、勇者はその高い能力値から、他の者であってもレベルを上げれば能力値が上がる状態では技術というものを厳かにしがちだ、だから一対一の状況なら俺にでも多少は戦える。

 殴りかかって来た力を利用して男を宙に浮かせ背中から落とす。気まぐれでAIKIDOUを齧って置いて良かったと今始めて実感した。

 しこたま背中を打ちつけ情け無い……汚い呻き声を上げた男の顎先に拳を叩き込んで終了。


「いい感じに入ったな……」


 虚弱な拳だが、脳を揺らされた男は上手く気絶してくれた。

 よし、それじゃ迷惑料の徴収と行くか。


「意外と持ってる、どうして態々恐喝なんてやってるんだろう? まあいいか、そのおかげで臨時収入が手に入ったんだから、服は顔と一緒で汚いから剥ぎ取っても売れないかな……お、短剣発見、貰って置こう」


 男の持ち金と他の目ぼしいものをポーチに入れて、ついでだから汚い服も燃やしておく。

 火は田嶋がポーチに入れてくれていたライターのような魔法道具を使った。これぐらいの魔法道具なら俺の少ない魔力でも問題無く使用可能だ。

 全裸になった男を放置して宿に戻った。この後男がどうなったかはどうでもいいことだ。


「GUUUUAAAAAA」

「わああああああああああ」


 明けて翌日、バイトを始めて何度目かになるペットの散歩、昨日の臨時収入で必要な金額は越えていたのだが、少し余裕を持っておきたかったので最後のバイトを行っていた。

 相変わらず豪快に疾走するペット君、それでもここ数日で俺に慣れてくれたのか、時折こちらを気遣う素振りを見せる、こうしていると可愛いもんだ。


「GUA、GUA」

「いや、懐いてくれるのは嬉しいけど、もう行かないといけないんだよ」


 依頼人にペット君を引き渡した際にもペット君はなかなか離れてくれなかった。


「皆さん一度一緒に散歩するとそれ以降は同じ依頼を受けてくれないんです。何度もこの子に付き合ってくれたのは貴方が初めてなんですよ」

「あ~、そうなんですか、でも俺もそろそろこの街を離れるのでもう来れないんですけどね……」

「GUAUUU……」


 そんな悲しそうにするな、機会が有ったらまた来てやるから。

 依頼主とペットに別れを済ませ街で色々と旅の準備を行う、明日はいよいよ出発だ。


「なんだい、にいさん冒険者なのかい? だったら道中の護衛を引き受けてくれるなら乗車代は割り引いたんだがね……」


 前に他国までの乗車代を教えてくれたおっちゃんがのたまった。

 ちょっと待て、割り引いた後の値段だとバイトする必要なかったじゃないか……無駄か? 俺の数日間は無駄か?


「冒険者じゃなくても護衛って出来るのか?」


 確か冒険者協会で金払って登録して居ない奴は冒険者とは呼ばれない、俺も当然登録していないので唯の旅人だ、金を稼いだりするにも何かと便利なのでいずれ登録したいとは思っているけど、登録するなら他の国だ、心配する必要は無いと思うが登録する事で豚王共に俺の居所が知られるのは避けたい。


「ちょいと、割引率は下がるが構わないか?」

「ああ、それで頼む、でも俺あんまり強くないぞ」

「まあ、にいさん以外にも護衛は居る、休憩中の見張りとかをちゃんとこなせば文句は言わねぇよ」


 そうだよな、まともな護衛無しに魔物も居てさらに戦争中の国を移動したりしないよな。

 馬車に乗り込み他の護衛の人と挨拶を交わす。見張りのローテーションなどを話し合っているうちに出発の時間となった。

 何とかこの国の王都から離れることが出来たな……豚王や豚姫はクズだったけど街の人たちは案外普通だったな、まあ一人態々資金提供してくれたクズもいたけどそれは地球でも変わらない、いろんな人が居るわけだ、豚王共のせいで印象最悪だけど変な先入観は目を曇らせる、あまり気にせず行こう。

 この先まだまだ大変だろうけど、まあ頑張って行こう。

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