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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
二章 エバーラルド・冒険者の日々
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二章9話 強制依頼

 オークの死体のあった冒険者協会の前は先程とは比べ物にならない騒ぎになっていた。

 オークの死体が動き出した事もそうだが、リミュールが連れ去られる際に集中を乱し、変身魔法を解いてしまった為、目撃した人々に攫われたのがリミュールだと認識された為だ。


「ラクスト! 今直ぐにオークの後を追ってくれ!」


 オークの死体を運んで来た冒険者との話を終え、東の森のオーク調査依頼を出そうとしていた冒険者協会会長のラルフが、周辺に居る冒険者の中で最も冒険者LVの高い冒険者に呼びかける。

 

「いくらなんでも、飛んでる相手に追いつけねぇって……」


 追跡対象が、オークにしては異様な姿をしていることで尻込みしてしまったラクストと呼ばれた冒険者が追跡に行く事を渋るが、ラルフの方には交渉している余裕は無い。


「リミュール様が攫われてる! 緊急事態につき強制依頼だ!

 俺たちもすぐに他の冒険者を集めて援護に向う、先行してリミュール様を守ってくれ!」

「リミュール様が! それならそうと早く言ってくれよ!」


 自国の姫の名が出たことで、渋っていた冒険者は慌てて、オークの飛んで行った方へ駆け出した。


「よし、オークの討伐隊を募る! 今、ここに居る冒険者は進行中の依頼を一旦中断して討伐隊に加わってくれ! 中断した依頼については協会が責任を持つ、それと、誰か城にこのことを知らせに走ってくれ!」


 暫く後、ラルフに召集された冒険者の討伐隊とフリードによって指揮された兵士隊が、先行した冒険者ラクストの残した目印を辿り、オークの討伐に出発した。



_______________________________________________________________________________


 このオークって変異種だよな。あの時、冒険者ギルドの前で変異したんだ……。

 更に言うなら、死んでいなかったって事だな。

 元々でかいだけのオークだったけど今では全身が緑色で鱗も有り手足には鋭い爪、顔は豚のままだけど、こっちも緑色になって鱗に覆われている。背中の羽もありオークにドラゴンが混ざったようにしか見えない。


竜豚人(ドラゴオーク)ってところか……」

「ソウヤ……余裕そうじゃない」


 そう言うリミュールはなぜか結構辛そうだな、オークの腕が気持ち悪いか? まぁ、落ちないように俺の腕を必死で掴んでくれているからだろうけど……。俺の方もオークが羽ばたくのに合わせてぶんぶん振り回されているから余裕が有る訳じゃないぞ。この豚、リミュールのことはしっかり捕まえているけど、俺のことは完全に無視だからな、オークの腕に結構な力でしがみ付いていても気にされていないのは幸いだ。気にされてこんな上空から振り落とされたらただじゃ済まないからな。


「にしてもこいつ、心臓突かれて生きていたんだな」

「ただのオークじゃないわよ」

「変異種か……」


 もうどう見たってオークじゃないもんな。


「いえ、変異したのは私たちの目の前だったでしょう、このオークは元々普通のオークじゃなかったみたい」

「そりゃ、心臓刺されて生きてたんだから普通じゃないよな」

「そうじゃないわ、このオーク、私と同じ感じがするのよ、元々竜の血が混じってるんだと思う」


 混血のオークが変異して姿も竜っぽくなったって事か、多分能力も上がってるんだろうな。

 ドラゴン、豚相手に盛ってんじゃねぇよ……。

 もしかして亜竜以外の竜の血を引く魔物ってけっこう多いのか? 見た目が普通の魔物と変わらずに竜の血で能力補正がかかってるとか、完全に罠だな。知らずに仕掛けたらただじゃ済まない。一時とはいえ、このオークを倒した冒険者は大丈夫だったのか? 普通の個体よりでかいみたいだから警戒はしたんだろうけど、仕留めきれてなかったみたいだしな……。


「さて、どうするかな……」

「倒せないの?」


 変異前のこいつよりも一回り小さいオークなら倒したことがあるが、こいつが変異してどれだけ強くなってるか分からないから倒せるなんて言えない。しかも俺が戦うことを避けて来たドラゴンっぽくなってるし、リミュールの感覚を信じるならその血も引いている。相手の戦力は過剰に見積もっておく方が懸命だ。


「分からない……とりあえず逃げる方向で考えよう」

「逃げるって言ってもどうやって? ソウヤだけなら手を離せば逃げられると思うけど……」


 俺の腕を掴むリミュールの手に力が入った事が分かる。

 ここで女の子一人残して逃げる気は無いけど、言ったリミュールが俺が逃げるんじゃないかって不安になっているみたいだ。


「ここで逃げてもこの高さじゃ助からないだろうが、大丈夫だ、見捨てたりしないから。

 どこに行くのか分からないけど、こいつの目的の場所に着いたら俺がこいつの気を引く、その間にリミュールは逃げろ、他の魔物に出くわすかも知れないけど……その場合どうしよう?」


 こいつの気を引いてリミュールを逃がせても、街まで無事に帰れるか分からないぞ。俺がこいつを撒いて追いつければいいんだけど、それまでの間どうする?


「私だって、一応魔法は使えるんだから……」


 そう言えば、あの髪を伸ばすだけの変装も魔法だったな。なら俺が追いつくまで自力で何とかしてもらうしかないか……俺が絶対に追いつけるって訳でもないんだし、最悪は自力で街まで帰ってもらわないといけない。でも、それ以外に手が無い以上はやるしかないんだよな。


「わかった、何とかこいつを撒いて追いつくまで頑張ってくれ……最悪1人で帰ることも考えておけよ」

「……分かったわ」


 納得してはいなさそうだけど、それ以外に手が無いって理解しているようだ、文句も言わずに肯いてくれる。

 そうこう話している内に、オークはどんどんドラグレッド山脈の方に進んで行く。ここのドラゴンと、この変異種のオークをぶつければ俺たちは逃げられると思うんだけど、そう上手くはいかないよな。ドラグレッド山脈はドラゴンの生息地だって言うのに、こうして空から見てても全然ドラゴンを見かけないしな。


「リミュール、地に着いたら一旦離れる、こいつの不意を衝いて羽を使えなくするからすぐに逃げろ」


 オークが山肌に開いた穴に向って下降し始めたので、そこがこいつの目的地だと予測し、リミュールと最後の打ち合わせをする。俺はまだこいつに認識されていないので、気付かれる前に隠れて不意打ちを狙う事にした。こいつの羽を使えなくするのは、逃げられる確立を上げるには良い手だと思う。


「うん……ちゃんと、助けてよね」


 確約はできないが、リミュールが逃げる時間ぐらいは稼ぐよ。街中、それも冒険者協会の目の前で起こった出来事だ、多分会長とかが動いているだろう。


「大丈夫だ、だから、ちゃんと逃げろよ……」


 穴の中に入った。

 地に着く前に装備の確認だ。突然だったが、このまま依頼をこなすつもりだったのでポーチはある、この中には傷薬や止血薬といった薬や旅に必要な道具なんかが入っている。他には多数の武器、これは盗賊から奪ったものなので質は最悪だ。魔法剣に耐えられるものなんて殆ど無い、一度の魔法剣で壊れるものが十数本、何とか連続使用に耐えられる予備の剣として使っているものが2本と言ったところか。

 田嶋に貰った愛用の剣は腰に差している。師匠に貰った、変異種の動く鎧の鎧板を縫いつけたグローブ、これは性質上魔法剣を使えないが、魔法を弾く事ができるので片方だけ填めている。もう片方の手に填めているグローブは店で買った魔法剣に一度だけ耐えられる丈夫なグローブだ。とっさに魔法剣を撃てる様に剣にもグローブにも魔力は既に込めた状態だ。

 普段依頼をこなす装備、新しい武器類は注文中なので万全とは言い難い。

 そして改めて思う、俺攻撃にばかり金かけすぎじゃないか? 注文中の品も全部武器だ、今回の相手はドラゴンの血を引いた変異種、亜竜やドラゴンと変わらないと考えた方がいいだろう。それなら攻撃を喰らったら終わりだと思うけど、即死かまだ命が有る状態かの違いは魔法で傷を治せる世界では大きいだろう。今回は師匠が居ないから助けてくれる奴なんて居ないけど……無事帰れたら防具も注文しよう。


 竜豚の入った穴の先は開けた空間があった。そこは竜豚でも余裕で動けそうな広い空間だ。

 竜豚が地に下りきる前に俺は掴んでいた腕を離して竜豚の背後に落ち、そのまま転がって距離を取り、丁度良さそうな岩の影に隠れて辺りの様子を窺う。

 洞窟の最奥といったところだろうか、竜豚の巣なのか? 干草か藁のような物が敷いて場所が寝所、色んな動物の物と思われる骨が散乱しているのが食事場所、じゃあ、今入って来た穴の下、日の光の差す場所に有る小山と花畑は……園芸? 他には出入り口と思われる場所が一ヶ所あるが、今の竜豚ではでか過ぎて出入りすることは出来ないだろう。なら、上手く羽を使えなくすればそこから逃げられる。


「BUGO」


 竜豚はリミュールを花畑に降ろすと、周囲の花を数本摘み、束ね、リミュールに差し出す。

 なにやってるんだ? あれじゃまるでプレゼント……もっと言えばプロポーズか? 竜豚の奴リミュールに惚れたのか? プロポーズする為に態々ここまで連れて来たのか、いやいや、なに異種間で一目惚れとかしてるんだよ! 恋愛は自由かも知れないけど攫ってきたら駄目だろう。

 そう言えばこの竜豚、オークとドラゴンの混血だったな、リミュールの竜の血にでも反応したか?


「BUGO?」


 なかなか花束を受け取らないリミュールに、もう一度花束を差し出す竜豚。リミュールもこの状況じゃ受け取るしかないよな……でも、これならこのままでもリミュールは大丈夫なんじゃないか? 街に助けを呼びに行った方がいいだろうか?


「BUHYUUUUUU!」


 花束を受け取った事に気を良くした竜豚が、リミュールを押し倒してその服に手を……


「って! 結局性欲か! バーストスティンガー!」


 とっさに飛び出し、魔法剣を放って竜豚の羽を爆発させる。

 これなら効いていなくても爆風で多少は吹っ飛ばせる、その隙にリミュールを逃がす!

 竜豚は魔法剣の爆風で吹き飛びはしなかったが前に倒れ込んだ、3倍近い体格差のおかげでリミュールを押し潰す事も無くリミュールの向こう側に倒れている。


「リミュール! 早くあっちの入り口に逃げろ!」


 リミュールは多少引き千切られた服を胸元で寄せつつ立ち上がり、俺の指示通りに入り口へ向う。

 俺の横を通り過ぎたところで、竜豚が起き上がる前兆を見せたが、こっちも再度魔法剣を使う準備は完了している。完全に起き上がる前にもう一撃叩き込む!


「アイシクルインパクト!」


 竜豚の羽の上に氷塊が生まれ氷は竜豚に向かって氷柱をのばす。しかし振り抜いた剣は竜豚の背を傷つける事無く鱗に弾かれ、幾つもの氷柱が竜豚の羽を貫こうと降り注ぐが、氷柱は1つとして竜豚の羽を貫く事無く多少傷つけただけで終わった。

 まじか、これじゃさっきの魔法剣も効いてないってことなんじゃないのか?


「BUGYAAAAAA!」


 完全に立ち上がった竜豚が俺を睨みつける、その瞳には深い恨みの念が込められているように感じるが、俺の方に気が向いているなら都合が良い。


「ソウヤ!」


 竜豚が俺に気を取られている間にリミュールは入り口まで辿り着いたのだろう、後ろから心配そうな声が聞こえる。


「さっさと行け!」

「っ!」


 振り返りもせずにリミュールに言い放つ、リミュールも状況は分かっている筈だ、ここで俺の心配をしていても意味が無い、さっさと逃げて助けを呼ぶ方が余程良い。

 リミュールが行った気配を感じながら俺は竜豚と対峙する。

 最初の奇襲で羽をどうにかして、竜豚をここに閉じ込めて逃げる心算だったけど、考えが甘かった。

 竜豚の強度は思っていた以上で例え羽でも簡単に潰せそうに無い、でも、最低でも羽だけは潰しておかないと、きっとこの竜豚は俺たちを追って来る。

 リミュールが助けを呼んで来れたなら、その助けと合流できたなら対処も出来るかもしれない、でも結構長い間空を飛んでいたんだ。この場に助けが来るには時間が掛かるだろう、だから、羽だけでいい、なんとかして潰す。

 幸い、俺に対して恨みが向いていて、俺を無視してリミュールを追う様子も無い。


「来いよ豚! その羽ぶっ潰してやる!」

「BUGOOOOO!」


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