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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
二章 エバーラルド・冒険者の日々
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二章4話 冒険者として

 目が覚めると日が真上に来る直前だった。

 久しぶりにベッドで眠るのと、冒険者登録を終えようやく一段落着いたことで気が緩んだようだ。

 宿に居ようが城の中だろうが襲われる時は襲われる、特に何者かが進入した様子も無いので今回は問題無かったみたいだけど、今後は気をつけないとな。

 冒険者協会で受付した時に聞いておいた宿だからもう少し信用しても良いかもしれないけど、客に変な奴が居ないとも限らないからな……。

 さて、今日は冒険者として初めて依頼を受けるつもりだ。時間が遅くなったので短時間で終わるものを見繕って貰おう。


「お? お客さん、やっと起きて来たか、もう昼食だが、何か食っていくかい?」


 宿屋兼酒場の宿屋部分の二階から降りてきた俺にこの店の店主が聞いてきた。宿の部屋は一人用の個室をとりあえず10日借りているのでそのままで問題無い、まぁ、俺は田嶋に貰った愛用の剣以外の持ち物を全部ポーチ、魔法のカバン(マジックポーチ)に入れているので部屋はもぬけの殻だったりする。


「あ……お願いします」


 朝晩以外の食事は宿代に含まれて居ないが腹は程ほどに減っている、食事代もここならあまり高くないのでここで済ませてから出かけよう、昨日の晩に店主の料理が美味いのは分かってるからな。


「ちょっと待ってな」


 夜は酒場、昼は食堂、今もそれなりに食事だけの客が入っているが直に料理が出て来た。


「それじゃぁ行って来ます」

「おう、気をつけて行ってこいよ!」


 店主に部屋の鍵を預け威勢よく見送られながら宿を出た。

 さてさて、どんな依頼が有るかなぁ……。


「こんにちは」


 時間帯のせいか受付カウンターはどこも空いていた。俺は昨日冒険者登録をしてくれた受付の女性を選び話しかける、昨日新人用の依頼を見繕っておくって言ってくれてたからな。


「こんにちはソウヤさん、本日は依頼を受けにいらしたんですよね?」


 待ってましたとばかりにカウンターの上に依頼書らしき紙を何十枚と広げる、はは、多すぎるな……。


「新人用の依頼だと街中の雑用、近場での採集などが主ですね」


 いきなり魔物退治とか護衛任務は無い様だ、ある程度実力をつけてから冒険者になった者なら問題無いかもしれないけど新人は信用と経験が足りない。依頼として魔物退治を受けられるのは冒険者LVが10を越えてから、護衛任務は15らしい、で? その基準を決めたの誰だ? 高LVだと強制依頼が来る事が有るって話を聞いて冒険者LVを上げる気があまり無かったけど討伐依頼ですら10LV要るのか、修行ついでに依頼もこなせる討伐依頼が一番都合が良いんだけどな……LV10までどれくらいかかるんだろう?


「採集依頼ついでに魔物を狩るのは……今のソウヤさんのLVですと討伐依頼の報酬は発生しません、ですが倒した魔物分の経験値は受け取れます」


 それなら魔物倒しまくってとっととLV10まで上げるか……その後はもう経験値は受け取らない方向で行けばいいだろう……。


「そう言えば、聞きましたよ、ソウヤさん隷属の首輪を破壊できるんですよね?」


 隷属の首輪? 何かどこかで聞いた事有るような気がしないでもないんだけど……最近首輪に関する話って何かあったか? そう言えばシルバーブルに居た頃ペットの散歩をやったな……あのやたら元気に走る魔物、おとなしく? ペットしていて人に危害は加えていなかったけど魔物が懐くって有るんだろうか? あいつのしていた首輪が隷属の首輪か? でも俺壊してなんかいないよな……。


「首輪……壊す……ああ!」


 レーヴェン商会の母娘を助けた時か、つい最近の事じゃないか、何で忘れてるんだ俺……って事は情報源はレーベン商会の奥さんか。


「前やったときはできましたね」

「それじゃこういう依頼も受けられますね、いえ、是非お願いします」


 隷属の首輪悪用による被害者の救済 依頼者・冒険者協会エバーラルド本部


「要するに?」

「違法な手で隷属の首輪を填められた被害者たちの首輪を破壊して欲しいのです。既に首輪を填めた犯罪者は処理していますから首輪の隷属効果は機能していませんが隷属の首輪は本来着けた者にしか外す事ができませんから」


 首輪着けたまま生活しなきゃならないって事だな、そうなるとやっぱり世間体とかも悪いよな。


「分かりました。やります、けど……それって今日可能なんですか?」

「被害者に集まって貰いますので後日という事でお願いします」


 だよな、そんな直には準備できないよな、さて今日の依頼は何にしよう、なんだかんだ言って時間も遅いし街中で済むものにしよう。


「ペットの散歩って……こっちでも有るのかよ」

「気をつけてください、冒険者に頼まないといけないようなペットですから……」


 いや、それってどんなペットだよ、魔物か良くて猛獣か? そんなのが街中にいて大丈夫なのか?

 結局怖いもの見たさも有り今日はペットの散歩を引き受ける事にした。


「KYUAAAAAAAAAA!」

「って! またこのパターンか!」


 鎖付きの首輪をしたトカゲっぽい魔物と共に街の外を全力疾走する俺、シュールだ……。

 何分続いたんだろうか? 確実にシルバーブルでやった時より長く走ってるよな、結構しんどいけどまだ余力が残っている感じだ、ここまでの旅で随分体力が付いたんだな、まぁ師匠と結構無茶してたから当然なのかもしれない。


「ほ~ら、取ってこ~い!」

「KYUUUUAAAA!」


 ペット君はだいぶ満足したようで今はゆっくりと歩いている、しかしもう少し走りたそうにしているので鎖を手放し手ごろな重さの木の枝を拾い勢い良く投げるとペット君は枝を追って駆け出した。

 お~お~、よく武器を投擲しているせいか飛距離が凄いな、80メートルぐらい飛んで行ったんじゃないか? 元の世界の俺じゃありえない位飛ぶな……。

 それに追いついて空中で咥えるペット君も大概だが、凄い尻尾振って戻って来た。


「もっとやってくれって? よし、取ってこ~い!」


 ペット君の気が済むまで付き合った。


「お疲れ様です。その様子ですと依頼は成功のようですね」


 依頼主の元にペット君を帰し依頼の達成証明をもらい冒険者協会へ戻ってきた、受けたときと同じ受付の女性に達成証明を渡し報酬と経験値を受け取る報酬はポーチに入れ経験値は冒険者証に加算されているらしい、今回の依頼だけでLVが1つ上がったが、依頼1つでLVが上がるのは最初だけらしい、当然のようにLVが上がれば上がるほどLVアップに必要な経験値は上がるようだ。


「それで、隷属の首輪の依頼の件ですが、被害者の都合が付きました。と言うより話を持って行った所、皆さん出来るだけ早くして欲しいと言う事でしたので、明日にでもお願いできますでしょうか?」


 あんな首輪を日常生活でつけていて外せない、そこに外せる話が来たら直にでもやって欲しいのは当たり前か。


「明日って言うけど俺なら今直ぐでもいいんだけどな、今日は全く使っていないから魔力は余裕がある」

「それは、結構な人数がいますので明日の朝からでお願いします。首輪の破壊に魔力が必要なのでしたら魔力回復用の薬もこちらで用意しておきますので一気にお願いします」


 俺はどっちでもいいんだけどな、明日って言うなら明日で良いか、それより魔力回復用の薬なんてあるのか? 今まで寄った薬屋でそんな物売ってなかったと思うんだけど……そう言えば前に倒した紫の蜂の蜜が魔力回復に役に立つって師匠が言ってたな。


「これと薬、どっちが回復します? これでもいいならこっち使いますよ」


 ポーチから紫蜂の蜜の入った瓶を取り出して訊ねる、まだ見た目には全く問題無い様だが、早く使っておかないと腐りそうだ。

 俺が魔力を枯渇するほど使ったのって、師匠と魔物の群に突っ込んで戦った時だけだよな、あの時は必至だったからどれだけ自分が魔力を使っていたのか把握できてない、魔法剣は少ない魔力で運用するものだから普段普段は魔力を使いきることもないし、魔力を意識してごっそり使ったのってレーヴェン商会の母娘の付けられてた隷属の首輪を破壊した時だけなんだよな、あれが何回できるのかは想像付かないけど……一度自分の魔力量を把握しておいた方がいいな、今後の生死に関わる……


「サイビーの蜜ですか、また珍しい物を持ってますね。保存状態も悪くない、これでしたらこちらの用意する薬よりも効果が有ると思われますね」

「ならこれを使うことにするから薬はいい、明日朝一で来たら良いんですか?」

「はい、よろしくお願いします」


 よし、それじゃあ今日は宿に戻って休もう、LVアップや魔物の能力強化部位で体力も上がっているけどペット君の相手は疲れた。

 宿に戻って店主の晩御飯を味わい、風呂で汗を流して眠りにつく、流石は過去に異世界から勇者を呼んでいる世界だ、魔法道具によってもとの世界の風呂と遜色無い風呂がここのような安宿にも用意されている、きっと過去の勇者が風呂文化を広めているんだろうな。湯船でしっかりと疲れが取れるのでありがたい限りだ。


 翌日はちゃんと寝坊せずに目を覚ました俺は、朝食を済ませると早速冒険者協会に向かった。


「おはようございます、ソウヤさん、待ってましたよ」


 冒険者協会に入るとこれまでと同じ受付の女性が待ち構えていた。

 今相手にしている冒険者の用件を終わらせてカウンターを離れて俺の方にやってくる。

 今日は早朝のためか依頼を受ける冒険者がそれなりに居る、そんな中俺の方を優先する受付の様子に周りのロリコン冒険者の視線が痛い……。


「既に何名か集まっているので準備が良ければ早速お願いします」


 受付のカウンターを通り越し、冒険者協会の奥の部屋に案内される、幾つか部屋は有るようだが俺が案内されたのは召喚される前に居た教室ぐらいの広さの部屋だ、10個程の長机が5個ずつ2列に並び、その机にそれそれ2つずつの椅子が並べられていてその内幾つかの椅子に首輪を填めた人たちが座っていた。


「お待たせしました。本日隷属の首輪の破壊を行ってくださる冒険者のソウヤさんです」


 そのまま部屋に入って直、ここにいる半数程の被害者からの注目を集めていた俺の紹介をしてくれる。

 何人かは俯いたままこちらを見ようともしないが、大半は期待に目を輝かせている。


「首輪を破壊する際に痛みなどは無いようですので安心してください、それでは順番にお願いします」

「ああ、よろしく」


 最初に前に出てきたのは大柄な男、身に付けている物や腰に下げている武器から冒険者じゃないかと思う。


「おう、よろしくな」


 この人、依頼中に騙されて隷属の首輪をつけられた冒険者らしい、気合で主人はぶっ殺して今は首輪に隷属の効果は無いって話してくれた。

 でも、この人首輪も全然気にしていないっぽいんだけど……とりあえず壊すか、いいんだよな?


 パリン


 隷属の首輪に設定されたリミッターを突き抜けて魔力を込める、首輪はボロい剣に魔力を込めた時と同様に砕け散るが相変わらず変な音だ。


「おお、本当に壊しやがった! スゲーじぁねぇか! これで女房や子供に顔向けできる有難な!」


 ああ、自分は気にしてないけど家族の為に外したいってタイプの人か。喜んでくれて何よりだ。


「お、お願いします!」


 次はまだ中学生ぐらいの女の子、全体的に肉付きが良くない気がするが容姿は良い。こんな子が隷属の首輪をつけられる理由なんて簡単に想像が付くからあえて聞かない。直に首輪の破壊にかかる。


 パリン


 変な音と共に砕け散る。


「あ、有難うございます!」


 うん、感謝されるのは悪くない、どんどん行こう。


「これで終わり?」


 部屋に居た被害者たちの首輪は全て破壊した。最初は俯いていた被害者の人も、首輪を破壊すると少しだけ微笑んで有難うといってくれた。この人たちに首輪を付けた犯人は既に処理されているとはいえ、最初に首輪を破壊した冒険者のように何もされなかった被害者なんてごく僅かだろう、それでも、隷属の記憶の残滓である首輪を破壊することで、少しでもか被害者の人たちが前向きに生きられる助けになるならいくらでも時間と魔力を使う価値がある。まだ居るならどんどんやるぞ。


「いえ、一度にみんな集めるのは無理ですので、もう少ししたら他の被害者の方も来られますので暫く休憩して待っていてください、あ、紅茶入れますね」


 受付が用意してくれた紅茶に、せっかくなので砂糖の代わりに紫蜂の蜂蜜を入れて魔力の回復を図っておく、正直蜂蜜をそのまま舐めるのってくどく感じるんだよね、美味しいんだけど……

 ゼラチンっポイのがあったので蜂蜜グミも作ってみた。これなら戦闘中も食べやすいよな。


「でも本当に破壊できたんですね、レーヴェン商会の奥様から聞いて信じてはいましたがこれほどあっさり破壊するとは思ってませんでした」

「よく分からないけど、やってみたら偶々できただけだからな、魔力をこう……ギュってして、グワって感じにドーンとするんだ」


 擬音ばっかの説明なのはわざとだ、魔法剣の説明とか面倒なのでそういうことにしておこう。


「すみません……ここに行けって言われたんですけど」


 のんびりグミを食み、紅茶を飲んでいる内に首輪をした集団がやって来た。第二陣だ、ちなみに最初に居た奴らは首輪を外した時点でそれそれ解散している。


「お? ネコミミ?」


 で、驚いた事に今回の集団の最後の一人が猫の耳と尻尾を持った少年だった。


「えっと、獣人は……駄目ですか?」


 少年が不安そうに聞いてくるが問題無い、この世界でネコミミなんて見るのが初めてだったから驚いただけだ。大丈夫と安心させて首輪を破壊する。


「はー、人以外の種族って初めて見るな……」


 少年が去った後、再び紅茶とグミで休憩タイムだ。


「そうなのですか?」


 できればあの耳と尻尾撫でてみたかった。実際の猫とに違いを確認してみたい。


「でも無理も無いですね、彼ら獣人の故郷は魔王の勢力圏内ですから、こっちで見かけることは殆ど無くなりました。だから、心無い者に狙われてしまったのでしょうけど……」


 魔王の影響は大きいって事か、ったく、田嶋たち本当に大丈夫なんだろうな、俺とは違い勇者の力で何とかなるとは思うけど……少し心配だな。


 俺はこの後もどんどん隷属の首輪を壊していく、隷属の首輪なだけ有って碌な使われ方をしていないのだろうな、殆どの被害者が美男美女、獣人やエルフといった珍しい種族、特殊な技能持ち、彼らを無理矢理従わせる為に使われているようだ、遠慮無く破壊しよう。

 どうせ使うなら犯罪者の管理に使えばいいのにな……過去の異世界人はいったい何を思ってこんなものを作ったんだろうな?


「ソウヤさん、御疲れ様です。今の方で今日集まった被害者の方は全部ですね」


 やっと終わったか、途中昼食を挟んだり間間で紅茶やグミで魔力回復していたけど何とか持ったな、おかげで蜂蜜もグミもすっかり無くなってしまったけど……やって良かったと思う。


「またお願いしますね、ソウヤさん用の指名依頼にしておきますから」


 もう蜂蜜は無いから、今度は魔力の回復薬を用意してもらうか、人数を減らしてもらわないといけないけど、またやってもいいな、誰かの助けになるのは悪い事じゃない。


「指名依頼って何だ?」


 文字通りの意味なんだろうけど……。


「冒険者協会や依頼人から受ける冒険者の指名がされている依頼のことです。今回の隷属の首輪の破壊はソウヤさんにしかできません、当然依頼もソウヤさんにしか頼めないんですよ」

「それはそうか、ああ、また同じ依頼が有ったら受けるよ、報酬も良いみたいだしな」


 今回の依頼の報酬は新人用の物を遥かに越えている、経験値も一気に冒険者LV10まで上がった。

 纏まった報酬も手に入ったしこれなら、本来の帰還方法を探す目的に移っても大丈夫かもしれない。

 ああ、でも予備の武器も揃えたいよな、やることが多くて困る、まだまだ先は長そうだ……。

この作品では始めて感想を頂きました!

有難うございます。とても励みになります。

しかし、コミュ障気味の私からの返信は勘弁してください、すみません。


7/14 矛盾点を見つけていただき修正しました。そして再修正。

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